魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

文字の大きさ
86 / 167
第九章

『何の為の富国強兵か』

しおりを挟む

 食料生産を安定させて、富国強兵を目指そうということになった。
増えた食糧の一部を備蓄に回すことで高騰した穀物価格を数年維持し、出資金を回収しつつ徐々に相場を落していく。そうすることで国力を増し、蓄えた余力で新商品を開発。国家としての体力をつけていくという訳だ。

目に見えて健全な社会を築き、それを守る兵力を整える。そうなれば戦争に巻き込まれ難くなるし、巻き込まれたとしても余裕で対応できるのだから。

「師匠はヨセフ伯と同じように戦いを引き起こす気はないのですよね? ではどうして戦いの準備を促すんです?」
「一口に戦後といっても、『今』の魔王軍との戦いが終わったというだけだ」
 ゴルビーに戻る傍ら、セシリアが尋ねて来た。
昨日の会合で俺が軍編成やら物資の備蓄に対して提案を出した件についてだろう。他の人間ならいざ知らず、妾であり弟子である彼女には俺に野心がない事など百も承知なのだから、疑問に思って当然である。

ゴルビーに戻るのが早くなったと言っても、一晩で戻れるような距離ではないので丁度良い暇潰しかな。

「ということはいずれ、次の魔王軍が再び現れるのは間違いがない」
「まして各国で秩序が再編成されている最中、どこも問題を抱えたままだ」
「今後百年どころか、三十年ですら一切戦わないというのは難しいだろう」
「ならばせめてオロシャを守れるように。戦いが起きたとしても自国の為になる方向に、そして速やかに終わって、戦いが長引かないように準備すべきだと思ったのさ。多少の領地や賠償金を得ても、国が壊滅し掛け、貴族も民も困窮しているのでは意味が無い。大概の奴はそれを理解してないのが問題と言えば問題か」
 大まかな問題は、個人と国との差では無いだろうか?
個人的な視点では周囲が平和になって、これから自分が何をしようかと思った頃だという事だ。国が揺らいでいるから内乱を起こしてトップに立とう、自分にはそれが可能なのだし今の混乱した状況よりはマシに違いない。内乱を起こすような人物で比較的まともな連中でもそんなところだろう。もっと馬鹿な連中は、野心のままに、あるいは『出来そうだから』という曖昧な理由で容易く謀反を起こしてしまう。

では、国としての視点から言えばどうだろう?

「三十年……ですか? なんだか壮大ですね」
「国や行政府から見れば当たり前の事だぞ。例えばいずれゴルビーが肥沃になって、三十年の間に遊牧民たちの地域で旱魃が起こったとする。その時に連中はゴルビーを攻める可能性が高い。その前に対処するか、それとも放置して来ない可能性に賭けるのか? 個人ならどっちでも良いが、行政府は対策を立てておかないとマズイ」
 俺は五か年計画で動いているが、それでも短いスパンだ。
あくまで一つ一つの計算で五年がキリの良い単位だからだが、十年・二十年も経てば周辺の様相は様変わりする。ゴルビーの砂漠が瞬時に消える事は無いにしても、遊牧民が『攻める価値があるかもしれない』と思うには十分だろう。それこそ塩田なんか奴らの土地でも出来るだろうが、緑が増えたら奪いに来る価値が出るからな。

では、その時に備えて何をするかと言うと、防衛設備や戦力は整えるし、同時に仲良く成っておくという訳だ。

「遊牧民たちはドライだから必要に成ったらやるし、必要じゃなければやらない。その上で、こっちに凄い戦力があって血縁を含めた交流があるのと、無いのじゃ意味がまるで変わって来るだろ?」
「仲が良くて、攻めても勝てないなら……襲ってこないと思います」
 いずれ攻めてくる可能性があるのは捨てきれない。
その時に何も備えがなければ、『簡単に奪えるなら攻め取ろう。家畜どころか家族が死ぬよりは良い』と決断する事だろう。だが、こちらに防衛施設があり、十分な戦力があれば話は別だ。『勝てないから他の場所を攻めよう。無理かもしれないが、援助を引き出したり、同盟して別の国を攻めよう』と思い直す事だろう。

所詮は可能性だが、置き選る未来であると、国家や行政府はその事を忘れてはいけない。国家としての単位であれば、三十年などアッという間なのだから。

「でも……そんなに防御を固めたら、それを理由に攻めて来ませんか?」
「さっきも言ったろ? 必要なら攻めて来るさ。というかオルバとは血縁が出来るが、奴以外の氏族はどうだ? オルバの顔を立てて、マーゴットとその子供たちは生かして置くと約束するのが精々だろうな。それと、時間があれば判り易い防衛設備を作らずに済ませられる。例えば建設中の本館には当然ながらゴーレム用の魔法陣を設置するが、それだって戦争に使えるぞ。館自体も砦どころのサイズじゃないしな」
 国家単位の流れで、個人的な血縁は参考程度にしかならない。
交渉の窓口として『旱魃が起きて大変だから援助してくれ。家族だろう?』と言う事は出来るが、戦争になった時に止める程ではない。そう言う時にこっちに余力があるとは限らないし、あっても彼らを支援すると困るなら援助しない可能性もある。そして、その時になって慌てて防衛を固めるのでは遅すぎるのだ。

備えるならばもっと前から、出来れば援助できるように、そして攻めて来ても何とか出来るようにするべきなのだ。

「それに、俺なら今みたいな用水路やオアシスじゃなくて、ゴーレムに大河を作らせることも出来る。遊水池を兼ねた大河に騎馬が侵入出来ないなら、連中は戦うために砦以上の領主館で時間を掛けるしかない。だが、新街道や補給基地があればどうだ?」
「……守り切れますね。それに食料を援助しても問題なくなる?」
「そう言う事だ。そしてそれはゴルビーに限らない」
 万全の備えを相手に隠れて用意できる。ならば先んじてやっておくべきだ。
大阪城ではないが、四方を大量の水で囲んで一方のみを街道として使ってしまえば良い。そうなったらまず攻め落とされる事は無いし、援軍が即座に来るならば問題ないのだ。遊牧民から見て難攻不落になり、そして食料を援助してくれる相手だったらどうするだろう? 間違いなく攻めては来ないし、そう提案する奴が居ても偵察段階で諦めるだろう。

そして、前もって富国強兵をするならば、十分にそれは可能なのだ。

「国家ってのは広いからな。他所の領地もヤバくて、援軍が来ない可能性もあるし、食料が送れない可能性がある。だから、予めオロシャ全土を良くするんだ。舐められたら友好国でも攻めていく議論をするのが国家戦略ってもんだから、友好なだけじゃダメなんだよ。反乱の可能性もああるしな」
「理解は出来ました。でも、余裕があり過ぎるとオロシャが攻めません?」
「それはそうだな。人の欲望に限りはなく、馬鹿の短絡にも限りはない」
 富国強兵自体は良い事なのだが、それを戦争に使いたい者は必ず出る。
援軍を速やかに送る為の新街道も、生産物を増やすための環状農業構想も、どちらもが戦争に使えるものだ。貴族一人が増やした余裕が少しであったとしても、オロシャ全土であれば話は別だ。小国相手ならば滅ぼすまでやれる国家体力が生まれる可能性もあるだろう。だが、そういう勇ましい事を主張する奴に限って、同レベルの大国が攻めてくることを計算に入れないか、そこでも勝てばよいという訳だ。

そしてその計算には、勝ちきれずに賠償金や領地を奪えないことを計算に入れるべきなのが、そんな奴はまずいない。

「戦争しても勝ちきれないし、他国が援助して勝てない可能性がある。そうなったら賠償金も領土も無理で、コストに見合わないと主張するしかないな。だが、それじゃあ消極的過ぎるんで、『どうせならもう数年待とう。五年後なら……』と思わせるように、少しずつゴーレムやら他の事を改良してる感じだな」
「どうせならもっと良くなった後で。更にもう数年……と思わせる訳ですね」
 今はまだ、次々に技術革新をしておけば良いだろう。
そうすれば待ちの体勢になって、厭戦気分が台頭する可能性もある。ひとまず俺が計画できるのはそのくらいだし、馬鹿が徒党を組んで侵略を提案するのを先延ばしにする事藻一応は出来るだろう。

問題なのは今の首脳部が一新される頃なんだが……。

「その間に魔族の島を攻めるとか、滅ぼされた国を復興するって話にするくらいで精々だ。俺の手は狭いんで、次の三十年まで面倒は見切れないしな」
 子供たちに豊かな時代を用意はできるだろう。
だからその時に、戦争にならないようにするのは次の世代の責任と考えておこう。もちろん自分の子供たちや王党派の連中には意見も出来るだろうから、そこまでの責任で勘弁してもらうとしようか。

ともあれ、まずは荒野と砂漠のゴルビーを良くするところからだけどな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。 しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。 やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。 そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。 そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。 これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結済】悪役令嬢の妹様

ファンタジー
 星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。  そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。  ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。  やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。  ―――アイシアお姉様は私が守る!  最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する! ※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>  既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※小説家になろう様にも掲載させていただいています。 ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

処理中です...