魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十一章

『作戦方針の共有』

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 魔族の島を攻略する作戦の説明に入った。
これまではその前段階の説明でしかなく、ここからが本番だ。今までは危険とか無縁の話だったので、諸侯の中には息を吞む者も居る。

俺は彼らの前に三枚で一組の作戦書を用意した。

「本作戦は主目標を魔族の島攻略作戦とします。その前段階として手前にある諸島群の制圧、イラ・カナン南部にある半島を含めた南部州の奪回、カナン河から我が国東部までの魔族駆逐。この三か所を適宜に攻略することになるでしょう」
「魔族の島自体の情報は無いのだな……」
「質問や感想は後にしろ。具体案を話せ」
 三枚の紙には魔族の島自体の情報はない。
大まかな話しか使わっておらず、誰も上陸した者がない魔境なのだから当然だ。もちろんこっそり上陸した者は居るだろうし、水棲種族はそれなりに知っていると思われる。だが、この段階で地図を手に入れると、すさまじい金額を要求されるのでそれはお願いしない。

皮肉なことに苛立ったヨセフ伯が余計な質疑を遮ってくれたのでスムーズに勧められた。

「東部からカナン河を掃除すれば、今後暫くは平和になるでしょう。とはいえイル・カナン政府の思惑に乗る形になります。バルガス家を中心とした戦力には、命を大事に、我が国を平和にするために仕方なくという態で構いません。ゴーレムは盾にされて構いませんが、接収は避けてください」
「心得た。その程度は造作も無いじゃろ。のう?」
「華やかな戦場ではありませんが仕方ないですな」
 この作戦は地味だが、オロシャの最低利益を確保するための戦いだ。
ゲリラ戦という程に苦戦するような相手ではないが、イル・カナン政府と折衝しながらの面倒な戦いになるはずだ。周囲を丁寧に掃討すれば安全で確実だが、土地の切り取りを避けるためにイル・カナン軍がせかして来ると思われた。彼らにとっては自国の領地であり、同時に併合することで漸く手に入れた対岸の土地と権益である(元は同じ大国だったイラ・カナンとも国境紛争をしていた)。絶対に手放すことはないだろう。

おそらくは可もなく不可もない、地道な戦いになるだろう。だがそれでも、国境を越えることができずに、次々にやって来る魔物の害を迎撃するよりはマシな戦いと言える。

「東部諸侯がイル・カナンの目を引き付けている間に、残りの諸侯は二派に分かれて進軍します。主力は南部からゴーレムで道を切り拓き、国境線を確保してください。沿岸部に関しては最終段階で確実に、半島部にはかなりの魔物が居ると思われますので、場合によっては船の到着を待つくらいでお願いします。周辺の住民感情にだけはご注意を」
「願ってもない。各諸侯の手勢に加え、ドルニエ騎士団の協力もある」
「左様。我らドルニエ騎士団が、ウッラール騎士団に負けぬと見せましょう」
 イラ・カナン三州は、仰向けになった髭紳士の顔に似ている。
鼻から顎にかけてが南部の形を端的に示しており、鼻が半島でその下の口髭や顎髭などが山脈というところだろうか? ここは領有できる可能性の高い場所であり、同時にポーセスに向かうラインの一つでもある。あちらへも援軍を派遣するかは別にして、上手くすれば彼らと友好関係を気付けるだろう。

ここはかなり戦闘になる可能性はあるが、陸続きである分だけ主戦力を動員できる。交代で戦えばそう疲弊することもないだろう。

「残る諸島群の制圧は少数精鋭で行います。難治の地であり魔物が次々にやって来る場所ですが、ここを制圧すれば以後の魔物の害は相当に減ります。時間を掛ければ魔族の島を偵察できますし、この段階で今回の遠征は最低限ながら目的を果たせるでしょう。以上の三作戦を終えた段階で、余力に寄って魔族の島を攻めるか、それとも是が非でも攻略せねば成らぬかを再び決議する事になる筈です」
「当然、後者だ。そこまで出かけておいて戻れるか!」
「そうだ! 我らの力を侮るなよ!」
 ここには西部諸侯を中心とした血気盛んな若者が多く向かうだろう
当たり前ながらオロシャの西から東という遠隔地に戦力を送るのは労力が大きいし、西にある諸国との関係上ガラ空きにして背中を晒すなどあり得ない。よって騎士以上の腕を持つ者を中心に送り、暇な時は互いに鍛え合って貰うくらいで丁度良いだろう。また、残った戦力が反乱を起こす可能性だが……この時代は貴族や騎士が居てこそなので、防衛戦はともかく反乱部隊を的確に動かすなどは不可能だと思われた。

西部に関しては、騎士や貴族が何処に居るかを注意すべきだろう。

「最後に判って居る範囲の魔物の能力と、こちらで用意しているマジックアイテムの数です。貴族全員に持たせるほどの数はないので、司令部が必要に合わせて一時的な貸与を行ってください。オロシャ国の貴重な装備ですので、こちらに申請なく褒賞として与えることは誰であれ厳罰に対処していただきます」
「これが魔物の……しかし初めて見るな。写しが欲しい」
「幽霊や精霊に対する魔法の武具か。欲しくなるな」
「司令部にこれだけあるのに所持出来ぬのはつらいな」
 冒険者ギルドを通して判っているデータを司令部ごとに回覧させた。
合わせて用意したマジックアイテムも併記してあり、魔法の武具は当然のことながら、呪文を放てる杖の類などを司令部ごとにそれなりの数で揃えてある。本部にはそれらに倍する数を残しているが、何処かの戦線が激化すれば、まるで足りなくなるだろう。現在の『勝てる』という認識は、魔族が軍隊として組織していないという前提なのだから。

そう、何処かの戦線に魔将が居た場合は、そこが地獄になるということでもある。

「これらの情報と作戦案は持ち帰って各自で検討を御願いします。しかし、遠征はあくまで最終段階で留守居役の魔将と出会う事を前提にしています。もし前線に現れた時は手柄首と考えるよりも、見かけられた情報を本部までお願いします。もし矢頃の長い相手だった場合、一部隊がそのばで全滅してもおかしくない相手ですので。逆に能力の行使例などの情報は高く評価します」
「無為に倒される気はないが覚えておこう。無駄死にをする気はない」
「やれることから確実に……か。面白くはないが理解する」
「千年残る功績の為には危険も必要だと思うがな」
 最後にそう締めくくると、諸侯はそれぞれの立場で受け入れる。
誰もが死にたくはないし、他人を利してまで戦いたくはないのだ。騎士を中心にした若き貴族は血気盛んな者も多いが、それらを野放しにして自分まで死にたくはないだろう。逆に言えば軍人ばかりの集団だと功績争いで部下や動力を巻き込んで暴発しかねないが、臆病なくらいの慎重さが貴族にはある。

問題は野心と名誉欲に駆られて暴走しかねないのが、外ならぬ総司令官のヨセフだという事なのだが。

「御苦労。この後はささやかだが宴を用意してある。肉に酒と愉しもうではないか。我らの勝利とオロシャの繁栄を祝ってな!!」
「「おお!!」」
 こうして作戦会議が終わり、諸侯は宴会を経て一度郷里に戻るのであった。
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