魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

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第十一章

『序盤の綻び』

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 魔族の島へ遠征する作戦がようやく初動に入った。
バルガス家を中心とする東部諸侯がイル・カナン入りして、先行してキーエル家の船がバルガス河とカナン河が交わる場所へと進んでいる筈だ。南部諸侯はその間にゴーレムで道を切り拓くというか、今ごろは南部をイラ・カナンへと貫く街道を作っている筈である。

始まったばかりだから順調かというと、そんな訳でもない。

「だから累代の功績により免じてやれと申しておるのだ!」
「どなたであろうと厳罰に処していただくと申し上げたばかりですよ? 一段階ほど刑を免責したところで、罪の見せしめとして重く扱うことになります。人知れず処刑の方が名も傷つかないでしょうに」
 問題は二点、一つは俺もまだ知らない東部戦線での臨検問題。
それは発覚次第にイル・カナンへ厳重抗議することになってるからまだ良いのだが、早速にやらかした馬鹿が居る。事もあろうにマジックアイテムを倉庫から持ち出し、貴族のやることに口を出すなと騎士たちを無視して持って行こうとした馬鹿が居た。それも実用して機能を試すとか自室に飾って悦に居るのならばまだ許容範囲だ。

幾つか持ち出した中で、一つだけ売り飛ばしてもバレまいと思ったらしい。

「彼は代々王国を支えた貴族なのだぞ! それをたかが書面に記した法令一つで捌こうと言うのか! なんという傲慢!」
「諸侯の納得したルールですよ? 少なくともあの場に居た大多数は『表向きだけでも』納得している筈です。それをいきなり、しかも隠れてやるのではなく、騎士や兵卒には貴族の事に口出す資格など無いと口止めもされないのでは、どうしようもありませんね」
 はっきり言って今回やらかした奴は馬鹿の中の馬鹿である。
名門貴族の子弟であり、本人もその貴族が枠を持つ男爵位を預かる存在である。そんな身分の者が罰せられるはずがないと多寡を括っているのである。これが東部や南部に任せた地方作戦の司令部ならばまだごまかしようもあるが、諸島群へ向かうために訓練している……という理由でバカンスやってる本部だと誤魔化しようがない。

とことんまで本人が馬鹿なのか……あるいは、目の前で弁護している男などに唆された……だ。

「そのルールやらも貴様が良い様にでっちあげた物だろうが! この成り上がりめが! これだから……」
「では総司令官にお伝えしましょうか? 管理しきれなかった私の評判も落ちますが……間違いなく本人だけではなく関わった者全員が無残な死に方になると思いますよ。何しろあの方は今、新しい玩具に夢中ですから」
 これが陰謀ならば、俺の覚悟と手綱が何処までかを確認する為だろう。
新参者の伯爵が、言葉巧みに珍しい物を献上して成りあがったと思う者は多い。だからそういう奴は鉄砲玉……今回は派閥の端の方に居る馬鹿を使って試したのかもしれない。もしかしたら俺がヨセフ伯を頼る事で、俺を貶めつつヨセフ伯にすり寄る気だったのだろう。

だが、彼は総司令官として遠征軍の権威を保つ立場だし、玩具が完成したのでご満悦なのだ。

「オロシア級大戦艦か……。判った、本人だけに留めるのだな?」
「はい。他の者たちや、お家にも本家にも及ぼさせません。あくまで我々二人の間に留めておきましょう。私も告げ口をして評判を落としたくはないですからね」
 そう、とうとう最新式のゴーレム三胴船が完成したのだ。
この辺りで普通に使えるように巨大過ぎはせず、だが多数の兵員や数機のゴーレムを運べるように三胴を連ねた甲板を用意している。この形式はそもそも揺れが少なく、パっと見で海に浮かぶ城に見えるのでマッチョなヨセフ伯がお気に入りなのである。そういえばジュガス2も大きかったな……と思わなくもない。

なお、海のイル・カナンの人間と違って陸のオロシャ貴族に水車型ゴーレムの秘密に気が付く者はない(板で隠しているのもあるけど)。

「ご苦労さま。まさかこんな序盤からやってくれようなどとはね」
「戦場なら誤魔化しようもあるでしょうし、部隊が壊滅すれば壊れる物もあるでしょう。それを私的流用どころか横流しされたのでは文句の一つも言いたくなりますよ。ところでアンドリオ副団長、東部で何か問題が?」
「ああ」
 ウッラール騎士団は東部戦線の遊撃兵をやっている。
主力はバルガス家に所属する貴族たちだし、そもそもまだ戦端を開いたという程に大したことは起きていない。あくまで今までの延長でズルズルやりつつ、途中で見かけた魔物を倒したり、街道をコッソリ整えているだけなのだ。

だが、アンドリオ副団長がいくら暇だとは言え、遊撃兵として待機している筈の彼がやって来たのはいかにもおかしい。

「連中はこちらの食料を詰めた箱を接収して行ったよ。本人達曰く、『怪しげな物を持ち込むのは許さん!』だそうだ。いい気なものだね。マジックアイテムだけは止めさせたが、色々と持って行かれた」
「もしかして馬鹿……ただの嫌がらせ何でしょうけど……まだ何か?」
「ああ」
 イル・カナンの連中はカナン河を越えて北進することを警戒している。
そのままイラ・カナン北部の占領地を奪われたくないという事なのだろう。その気持ちはわかるが、それならそれで攻めて魔物くらいは退治して欲しい物である。しかし、囮なのだからマシではあるのだが、早速食料の入ったコンテナをもって行かれるとは思わなかった。

だが、先ほどと同じ流れで肯定されてしまうと続きが気が気になってしまう。

「抗議に対して向こうが使っている食料の袋で返されたよ。もちろん砂や小石で水増しされた、御用商人が納入している粗悪品だ」
「うちのコンテナは厳選しているんですがね。袋の数はもちろん合わないと?」
「ああ」
 イル・カナンでは長引く難民問題で食料が足りていない。
だから目の色を変えるのは判るのだが、対応がザル過ぎだろう。滞在分の食料を送ってよこすどころか、勝手に持って行き、それを自分たちで配分してしまうとか常識が無い。向こうの上司からすると勝手にイル・カナンの縄張りに入って来た賊に準じた扱いなのだろうし、犯罪者紛いの野蛮人はさっさと魔族を倒せと言う事なのだろう。

もちろん、食料管理に関してこちらが厳選し、向こうが適当な事など目に入っても居ないだろう。そんな所で文明度が図れるはずが無いという理由で。

「まあ……ここまでは『予定通り』ですね。最初からそうなるとは思い増しませんでしたが、ゲストはさぞやお喜びでしょう」
「どちらかと言えば親オロシャ派の演技だと思ったそうだよ」
 なお、今回の事は織り込み済みである。
ならば対策を立てておかねば嘘だし、実際に俺はその準備をすると諸侯に宣言して置いた。つまりは、諸外国から数名の貴族を呼び、オロシャ風の服を着せて帯同させているのだ。

つまりは、イル・カナンの馬鹿どもは諸外国に恥を晒しているという訳だ。

「そう言えば幸いなことに今年は豊作だそうです。必要だと思ったら炊き出しでもやってください。……できればオロシャ産と判る食料で」
「なら豆だな。だが賭けても良いが、自国の提供だと民衆に宣伝するだろう」
「だからオロシャ産なんですよ。あそこに期待するだけ無駄でしょう」
 これは陰謀ではなく、自国のアピールであり豊作貧乏対策だ。
そう言い張って前線で炊き出しをする事にした。次々に豆類を中心とした食料を供給し、塩がタップリと聞いた鍋でも煮てもらおう。例え評判が良くならずとも、オロシャのせいで食い物が無くなったと言われるよりは良い。

そんな事を思いながら、戦闘よりも先に訪れた馬鹿馬鹿しい話に胃を痛めるのだった。
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