魔王を倒したので砂漠でも緑化しようかと思う【完】

流水斎

文字の大きさ
128 / 167
第十一章

『作戦方針の共有』

しおりを挟む

 魔族の島を攻略する作戦の説明に入った。
これまではその前段階の説明でしかなく、ここからが本番だ。今までは危険とか無縁の話だったので、諸侯の中には息を吞む者も居る。

俺は彼らの前に三枚で一組の作戦書を用意した。

「本作戦は主目標を魔族の島攻略作戦とします。その前段階として手前にある諸島群の制圧、イラ・カナン南部にある半島を含めた南部州の奪回、カナン河から我が国東部までの魔族駆逐。この三か所を適宜に攻略することになるでしょう」
「魔族の島自体の情報は無いのだな……」
「質問や感想は後にしろ。具体案を話せ」
 三枚の紙には魔族の島自体の情報はない。
大まかな話しか使わっておらず、誰も上陸した者がない魔境なのだから当然だ。もちろんこっそり上陸した者は居るだろうし、水棲種族はそれなりに知っていると思われる。だが、この段階で地図を手に入れると、すさまじい金額を要求されるのでそれはお願いしない。

皮肉なことに苛立ったヨセフ伯が余計な質疑を遮ってくれたのでスムーズに勧められた。

「東部からカナン河を掃除すれば、今後暫くは平和になるでしょう。とはいえイル・カナン政府の思惑に乗る形になります。バルガス家を中心とした戦力には、命を大事に、我が国を平和にするために仕方なくという態で構いません。ゴーレムは盾にされて構いませんが、接収は避けてください」
「心得た。その程度は造作も無いじゃろ。のう?」
「華やかな戦場ではありませんが仕方ないですな」
 この作戦は地味だが、オロシャの最低利益を確保するための戦いだ。
ゲリラ戦という程に苦戦するような相手ではないが、イル・カナン政府と折衝しながらの面倒な戦いになるはずだ。周囲を丁寧に掃討すれば安全で確実だが、土地の切り取りを避けるためにイル・カナン軍がせかして来ると思われた。彼らにとっては自国の領地であり、同時に併合することで漸く手に入れた対岸の土地と権益である(元は同じ大国だったイラ・カナンとも国境紛争をしていた)。絶対に手放すことはないだろう。

おそらくは可もなく不可もない、地道な戦いになるだろう。だがそれでも、国境を越えることができずに、次々にやって来る魔物の害を迎撃するよりはマシな戦いと言える。

「東部諸侯がイル・カナンの目を引き付けている間に、残りの諸侯は二派に分かれて進軍します。主力は南部からゴーレムで道を切り拓き、国境線を確保してください。沿岸部に関しては最終段階で確実に、半島部にはかなりの魔物が居ると思われますので、場合によっては船の到着を待つくらいでお願いします。周辺の住民感情にだけはご注意を」
「願ってもない。各諸侯の手勢に加え、ドルニエ騎士団の協力もある」
「左様。我らドルニエ騎士団が、ウッラール騎士団に負けぬと見せましょう」
 イラ・カナン三州は、仰向けになった髭紳士の顔に似ている。
鼻から顎にかけてが南部の形を端的に示しており、鼻が半島でその下の口髭や顎髭などが山脈というところだろうか? ここは領有できる可能性の高い場所であり、同時にポーセスに向かうラインの一つでもある。あちらへも援軍を派遣するかは別にして、上手くすれば彼らと友好関係を気付けるだろう。

ここはかなり戦闘になる可能性はあるが、陸続きである分だけ主戦力を動員できる。交代で戦えばそう疲弊することもないだろう。

「残る諸島群の制圧は少数精鋭で行います。難治の地であり魔物が次々にやって来る場所ですが、ここを制圧すれば以後の魔物の害は相当に減ります。時間を掛ければ魔族の島を偵察できますし、この段階で今回の遠征は最低限ながら目的を果たせるでしょう。以上の三作戦を終えた段階で、余力に寄って魔族の島を攻めるか、それとも是が非でも攻略せねば成らぬかを再び決議する事になる筈です」
「当然、後者だ。そこまで出かけておいて戻れるか!」
「そうだ! 我らの力を侮るなよ!」
 ここには西部諸侯を中心とした血気盛んな若者が多く向かうだろう
当たり前ながらオロシャの西から東という遠隔地に戦力を送るのは労力が大きいし、西にある諸国との関係上ガラ空きにして背中を晒すなどあり得ない。よって騎士以上の腕を持つ者を中心に送り、暇な時は互いに鍛え合って貰うくらいで丁度良いだろう。また、残った戦力が反乱を起こす可能性だが……この時代は貴族や騎士が居てこそなので、防衛戦はともかく反乱部隊を的確に動かすなどは不可能だと思われた。

西部に関しては、騎士や貴族が何処に居るかを注意すべきだろう。

「最後に判って居る範囲の魔物の能力と、こちらで用意しているマジックアイテムの数です。貴族全員に持たせるほどの数はないので、司令部が必要に合わせて一時的な貸与を行ってください。オロシャ国の貴重な装備ですので、こちらに申請なく褒賞として与えることは誰であれ厳罰に対処していただきます」
「これが魔物の……しかし初めて見るな。写しが欲しい」
「幽霊や精霊に対する魔法の武具か。欲しくなるな」
「司令部にこれだけあるのに所持出来ぬのはつらいな」
 冒険者ギルドを通して判っているデータを司令部ごとに回覧させた。
合わせて用意したマジックアイテムも併記してあり、魔法の武具は当然のことながら、呪文を放てる杖の類などを司令部ごとにそれなりの数で揃えてある。本部にはそれらに倍する数を残しているが、何処かの戦線が激化すれば、まるで足りなくなるだろう。現在の『勝てる』という認識は、魔族が軍隊として組織していないという前提なのだから。

そう、何処かの戦線に魔将が居た場合は、そこが地獄になるということでもある。

「これらの情報と作戦案は持ち帰って各自で検討を御願いします。しかし、遠征はあくまで最終段階で留守居役の魔将と出会う事を前提にしています。もし前線に現れた時は手柄首と考えるよりも、見かけられた情報を本部までお願いします。もし矢頃の長い相手だった場合、一部隊がそのばで全滅してもおかしくない相手ですので。逆に能力の行使例などの情報は高く評価します」
「無為に倒される気はないが覚えておこう。無駄死にをする気はない」
「やれることから確実に……か。面白くはないが理解する」
「千年残る功績の為には危険も必要だと思うがな」
 最後にそう締めくくると、諸侯はそれぞれの立場で受け入れる。
誰もが死にたくはないし、他人を利してまで戦いたくはないのだ。騎士を中心にした若き貴族は血気盛んな者も多いが、それらを野放しにして自分まで死にたくはないだろう。逆に言えば軍人ばかりの集団だと功績争いで部下や動力を巻き込んで暴発しかねないが、臆病なくらいの慎重さが貴族にはある。

問題は野心と名誉欲に駆られて暴走しかねないのが、外ならぬ総司令官のヨセフだという事なのだが。

「御苦労。この後はささやかだが宴を用意してある。肉に酒と愉しもうではないか。我らの勝利とオロシャの繁栄を祝ってな!!」
「「おお!!」」
 こうして作戦会議が終わり、諸侯は宴会を経て一度郷里に戻るのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...