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空の中で暮らす
相模湾
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「葉織くん、何をしてるの?」
ひと通り、家の中を見せてもらった後で庭へ出させてもらった羽香奈は、そこに葉織がいるのを見つけた。
屋外用の小さな鉄製の丸テーブルの上にガスコンロを置いて、金物の銀色の鍋に湯を沸かしているところだった。
ちょうど沸騰したばかりで準備が整ったところでもあり、葉織はそこに、先刻砂浜で拾い集めていた小さな流木をひとつずつ投げ入れていく。
「流木って拾ってきたそのまんま使っちゃダメなんだ。
こうやってお湯でアク抜きして、真水に二日くらい浸けて、よく乾かして……。
それでやっと使えるようになる」
アク抜きするにしても重曹を使えばもっと楽だし、そもそも拾った流木ではなく木材を買ってきた方が手っ取り早い。しかし……。
「いくら必要なことでも、毎回お金がかかるってなると続けられないから……
なるべくタダでなんとかなるもの、使わせてもらうしかないんだよね」
自分の体だけではなく、それに伴う労力まで。
あんまりにも葉織の負担が大きすぎる気がして、羽香奈は何と言ってあげたらいいのかわからなかった。
葉織のことが気になって、せっかく庭に出たというのに何も見ていなかったことを思い出す。
庭はそれほど広くはなく、物干し台と葉織の使っているテーブルと物置が置かれているだけですでに手狭だ。
転落防止の柵も一応ついてはいるが山二つの展望台のような立派な作りではなく、あくまで家庭用レベルのところどころ腐って朽ちた木の柵でしかない。
危ないからあんまり崖の淵まで近付いちゃダメだよ、と葉織が注意してくれる。
「葉織くんって、生まれた時……
赤ちゃんの頃からこの家で暮らしていたの?」
「そうらしいよ。
さすがに赤ちゃんの頃のこと覚えてないけど」
「すごいなぁ~……」
眼前に広がる湘南の海。
日本一の富士山ですら、ここから眺めると小さく見えて、浮かんでいる船みたいだ。
正面には藤沢市、向かって右側に鎌倉市、同じく左に茅ヶ崎市が見える。
街並みの向こう側にも広い世界がどこまでも続いていること。
湾曲した相模湾のラインから、世界が丸い……球の形をしていることが強く実感できる眺めだ。
毎日毎日、こんな景色を見て暮らしている人達がいるなんて、羽香奈は知らなかった。
カチカチに固まった灰色の地面に足を着けて、四角い建物に遮られた小さな空を見上げて。
誰からも求められなくて、「生きている」ってなんてつまらないんだろうってことばかり考えてきた。
「まるで、空の中に住んでいるみたい。
わたし、こんな風景が同じ日本にあるなんて知らなかった」
「羽香奈だって、オレの知らない場所を知ってるじゃないか」
「知らないよ、ぜーんぜん。
だって、今日までの私はきっと、生きてすらいなかったから……」
ひと通り、家の中を見せてもらった後で庭へ出させてもらった羽香奈は、そこに葉織がいるのを見つけた。
屋外用の小さな鉄製の丸テーブルの上にガスコンロを置いて、金物の銀色の鍋に湯を沸かしているところだった。
ちょうど沸騰したばかりで準備が整ったところでもあり、葉織はそこに、先刻砂浜で拾い集めていた小さな流木をひとつずつ投げ入れていく。
「流木って拾ってきたそのまんま使っちゃダメなんだ。
こうやってお湯でアク抜きして、真水に二日くらい浸けて、よく乾かして……。
それでやっと使えるようになる」
アク抜きするにしても重曹を使えばもっと楽だし、そもそも拾った流木ではなく木材を買ってきた方が手っ取り早い。しかし……。
「いくら必要なことでも、毎回お金がかかるってなると続けられないから……
なるべくタダでなんとかなるもの、使わせてもらうしかないんだよね」
自分の体だけではなく、それに伴う労力まで。
あんまりにも葉織の負担が大きすぎる気がして、羽香奈は何と言ってあげたらいいのかわからなかった。
葉織のことが気になって、せっかく庭に出たというのに何も見ていなかったことを思い出す。
庭はそれほど広くはなく、物干し台と葉織の使っているテーブルと物置が置かれているだけですでに手狭だ。
転落防止の柵も一応ついてはいるが山二つの展望台のような立派な作りではなく、あくまで家庭用レベルのところどころ腐って朽ちた木の柵でしかない。
危ないからあんまり崖の淵まで近付いちゃダメだよ、と葉織が注意してくれる。
「葉織くんって、生まれた時……
赤ちゃんの頃からこの家で暮らしていたの?」
「そうらしいよ。
さすがに赤ちゃんの頃のこと覚えてないけど」
「すごいなぁ~……」
眼前に広がる湘南の海。
日本一の富士山ですら、ここから眺めると小さく見えて、浮かんでいる船みたいだ。
正面には藤沢市、向かって右側に鎌倉市、同じく左に茅ヶ崎市が見える。
街並みの向こう側にも広い世界がどこまでも続いていること。
湾曲した相模湾のラインから、世界が丸い……球の形をしていることが強く実感できる眺めだ。
毎日毎日、こんな景色を見て暮らしている人達がいるなんて、羽香奈は知らなかった。
カチカチに固まった灰色の地面に足を着けて、四角い建物に遮られた小さな空を見上げて。
誰からも求められなくて、「生きている」ってなんてつまらないんだろうってことばかり考えてきた。
「まるで、空の中に住んでいるみたい。
わたし、こんな風景が同じ日本にあるなんて知らなかった」
「羽香奈だって、オレの知らない場所を知ってるじゃないか」
「知らないよ、ぜーんぜん。
だって、今日までの私はきっと、生きてすらいなかったから……」
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