江ノ島の小さな人形師

sohko3

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空の中で暮らす

おさがりの服

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 この年代の老夫婦には珍しいように思うが、半蔵とハツは仏壇を用意しない方針らしく、葉織の希望もあって遺影も遺骨もしばらくここに置くことにしたのだと説明を受ける。

 とりあえず、羽香奈は遺影に向かって手を合わせた。

 ほんの少ししか会ったことも話したこともないけれど、彼女の優しい言葉がけや気遣い、頭を撫でてくれた手の温かさなどが今でも思い出せる。


「この部屋は葉織の母親と、羽香奈ちゃんの……

いや、私達の娘ふたりが子供の頃に使っていた部屋でねぇ。

葉織が生まれてからは二段ベッドの下の段で波雪が、上で葉織が寝てるんだよ。

ありあわせのもんで悪いんだけど、今日から下の段で寝てもらえんかね?」

「はい、ありがとうございます」

 ハツは羽香奈の母親の名前を出さずに、濁した。

 その気遣いもありがたく受け取る。

「お下がりばっかしで悪いんだけども、娘達の服が残してあってね。
下着は新しく買ってあげるけど、これを着てもらえんかね」

「そんな、悪いなんて。助かります」

 羽香奈は最低限の交通費をポケットに入れてきただけの身一つで生家を追い出された。

 服だって、今着ているものしか持っていない。

「いつ使うんだろうって思ってたけど、一応、残しておいて良かったんかね……

本当、姉妹揃って子供に迷惑をかけてしまって、あんた達には申し訳ないって思っているんだよ」

 葉織も羽香奈も、「実の親にすら紹介できない相手」との間に授かった子供だった。

 波雪の方は、「事情があって紹介できないし一緒になれない相手だけど、確かに愛し合った人との子供だ」と主張し、葉織に目いっぱいの愛情をかけて育ててきた。

 一方、羽香奈の父親は不貞の間柄で、母親は彼女を産んだことそのものを悔やみ、「人生の汚点」呼ばわりをして虐げてきた……。

 自分にとっても最低な親ではあったが、実の両親からしても絶縁せざるを得ないような娘であった。

 その事情も波雪を介してすでに聞いている羽香奈は、寂しそうなハツの顔にやりきれない思いを抱いていた。

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