江ノ島の小さな人形師

sohko3

文字の大きさ
44 / 98
墓の中へ

お焚き上げ

しおりを挟む
 その後、羽香奈は葉織に頼まれて、半蔵に「今年のお焚き上げは自分達ふたりだけでしたい」と伝えに行った。

 まだ泣きはらした顔で祖父母の前に出られないというので、羽香奈ひとりで。

「これからは、葉織くんとわたしだけでどんなことも出来るって、おじいちゃん達に見せて安心させてあげたいって……
そう、葉織くんが」

 葉織に頼まれた言葉をそのまま伝えると、半蔵は重苦しくひと息ついた。

 ハツは何の話かわかっていないようで、にこにこと、あさっての方を見ている。

 半蔵はいつにもまして険しい表情だし、毎年一緒にしてきたことから外されるのが嫌なのかなと羽香奈は不安だったが、それは見当違いだったとすぐに知る。

 おもむろに床に膝を着いた半蔵は、老人にしては背も高いので、羽香奈と同じ目線の高さになる。

 がっしりと痛い程に強く、彼女の肩を掴む。

 その指先は小さく震えていた。

「羽香奈……
わしらの家に来てくれて、ありがとう。
これからも、葉織のことを……頼んだよ」

「……は、い」

 葉織にとっては母を、祖父母にとっては娘を、それぞれ手放した日だった。

 悲しみの中にいるのは彼らも同じだった。

 そして、羽香奈は感じていた。

 先ほど葉織が言ってくれたのは正しかったと。

 おじいちゃん、おばあちゃんとお別れする時は、わたしもきっと泣いちゃうだろうから……。


 葉織の気持ちが落ち着くのを待って、ふたりは自宅の庭へ出た。

 羽香奈は木屑の入った木箱を、葉織は波雪の木屑が入った小皿をそれぞれ手に持って。

 太陽がちょうど西の海上に浮かぶ山並みの影へ沈みゆくところだった。

 空と海の境目は灼熱のように強い金色を放ち、闇をはらんだ空色は徐々に紫を深めていって、その炎を鎮めていく。

 一年間に渡って、亡くなったかもしれない方々の人形の残骸を受け止めた寝床なのだからと、毎年木箱ごと燃やしているという。

 延焼しないよう一斗缶の中に納める。

 準備が整って、波雪の木屑をどうするつもりなのか、最終確認する。


「最後にオレと羽香奈を会わせてくれて、それがたぶん、お母さんのこの世で最後の仕事だったんだ。

だからもう、ゆっくり休ませてあげなきゃ……」

 寂しそうだけれど、確かに自分の意思で、葉織は木箱の中へ波雪の名残を納めた。

 一度は激しく燃え上がり、徐々に燃え尽きていく木材は、先ほどの夕暮れの空に似ていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

処理中です...