江ノ島の小さな人形師

sohko3

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1986年の元旦

龍のお告げ?

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 潮崎家は決して経済的に豊かとはいえないので、波雪はこの縁起物を気に入っていて毎年買っていた。

「最初に買ったのいつだったか忘れちゃったけど、オレのはもう五匹くらいいるから、今年は羽香奈のを買おうよ」

「ありがとう。大事にするね」

 そういえば、羽香奈は自分専用の財布をまだ持っていない。

 それは葉織も同じだ。

 今日もそうだが、何か支払いがある時は、ハツから小さながま口を渡されている。

 近所だからと鞄も持ってきていないので、羽香奈の銭亀はいったん、がま口に入れることにした。


 次に訪れたのは奥津宮。

 潮崎家からほんの数歩の距離感なのだから、新年のお参りといえばもちろんそこを選ぶ。

「う~ん……」

「どうかした?」

「前から気になってたんだけど……
羽香奈と一緒にここに来ると、たまに、足元に白い靄が転がってるんだ」

 今日も、羽香奈が階段を上がりきったところでふと見てみたら、彼女を付け回すように足元に白い靄が現れていた。

 気のせいか偶然と思おうとしていたが、もう何度もこんなことがあってそろそろ見過ごせなくなってきた。

 これは羽香奈の心の可能性もあるから気が咎めたが、人形にしてみてもいい? と確認すると、彼女は「どうぞどうぞ」とむしろ喜んでいる。

 葉織は遠慮しているが、羽香奈は葉織にだけは「隠したい感情」など何ひとつないから、今度は何が出来上がるのかしらと歓迎してくれる。

 いつも通りにポケットに突っ込んでいた流木を、手のひらにのせた白い靄に向かって放り投げる。

 ふたりで固唾をのんで人形に変わるまでの過程を見守る。

「え……何これ」

「龍……だよね? かわいい~」

 予想もしなかったものが完成して、葉織は愕然としてしまうが、羽香奈の呟きには高揚感が滲んでいる。

『ちゃんと見ていてあげないと、天女は遠くへ帰っちゃうんだよ?』

 白い靄は、龍の形に変わる前、葉織にそう告げた。

 ちょっと不満そうな声色に聞こえた。

 まさか、龍のお告げってこと? まさかなぁ……。

「葉織くん、この子いらないの? 
だったらわたしが預かってもいい?」

「うん……オレはなんか、いらないから。
持っててくれるっていうならどうぞ」

 羽香奈は「わぁーい」と言いながら手のひらに龍をのせ、ちょっととぼけた顔のそいつの頭を撫でている。
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