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1986年の元旦
龍のお告げ?
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潮崎家は決して経済的に豊かとはいえないので、波雪はこの縁起物を気に入っていて毎年買っていた。
「最初に買ったのいつだったか忘れちゃったけど、オレのはもう五匹くらいいるから、今年は羽香奈のを買おうよ」
「ありがとう。大事にするね」
そういえば、羽香奈は自分専用の財布をまだ持っていない。
それは葉織も同じだ。
今日もそうだが、何か支払いがある時は、ハツから小さながま口を渡されている。
近所だからと鞄も持ってきていないので、羽香奈の銭亀はいったん、がま口に入れることにした。
次に訪れたのは奥津宮。
潮崎家からほんの数歩の距離感なのだから、新年のお参りといえばもちろんそこを選ぶ。
「う~ん……」
「どうかした?」
「前から気になってたんだけど……
羽香奈と一緒にここに来ると、たまに、足元に白い靄が転がってるんだ」
今日も、羽香奈が階段を上がりきったところでふと見てみたら、彼女を付け回すように足元に白い靄が現れていた。
気のせいか偶然と思おうとしていたが、もう何度もこんなことがあってそろそろ見過ごせなくなってきた。
これは羽香奈の心の可能性もあるから気が咎めたが、人形にしてみてもいい? と確認すると、彼女は「どうぞどうぞ」とむしろ喜んでいる。
葉織は遠慮しているが、羽香奈は葉織にだけは「隠したい感情」など何ひとつないから、今度は何が出来上がるのかしらと歓迎してくれる。
いつも通りにポケットに突っ込んでいた流木を、手のひらにのせた白い靄に向かって放り投げる。
ふたりで固唾をのんで人形に変わるまでの過程を見守る。
「え……何これ」
「龍……だよね? かわいい~」
予想もしなかったものが完成して、葉織は愕然としてしまうが、羽香奈の呟きには高揚感が滲んでいる。
『ちゃんと見ていてあげないと、天女は遠くへ帰っちゃうんだよ?』
白い靄は、龍の形に変わる前、葉織にそう告げた。
ちょっと不満そうな声色に聞こえた。
まさか、龍のお告げってこと? まさかなぁ……。
「葉織くん、この子いらないの?
だったらわたしが預かってもいい?」
「うん……オレはなんか、いらないから。
持っててくれるっていうならどうぞ」
羽香奈は「わぁーい」と言いながら手のひらに龍をのせ、ちょっととぼけた顔のそいつの頭を撫でている。
「最初に買ったのいつだったか忘れちゃったけど、オレのはもう五匹くらいいるから、今年は羽香奈のを買おうよ」
「ありがとう。大事にするね」
そういえば、羽香奈は自分専用の財布をまだ持っていない。
それは葉織も同じだ。
今日もそうだが、何か支払いがある時は、ハツから小さながま口を渡されている。
近所だからと鞄も持ってきていないので、羽香奈の銭亀はいったん、がま口に入れることにした。
次に訪れたのは奥津宮。
潮崎家からほんの数歩の距離感なのだから、新年のお参りといえばもちろんそこを選ぶ。
「う~ん……」
「どうかした?」
「前から気になってたんだけど……
羽香奈と一緒にここに来ると、たまに、足元に白い靄が転がってるんだ」
今日も、羽香奈が階段を上がりきったところでふと見てみたら、彼女を付け回すように足元に白い靄が現れていた。
気のせいか偶然と思おうとしていたが、もう何度もこんなことがあってそろそろ見過ごせなくなってきた。
これは羽香奈の心の可能性もあるから気が咎めたが、人形にしてみてもいい? と確認すると、彼女は「どうぞどうぞ」とむしろ喜んでいる。
葉織は遠慮しているが、羽香奈は葉織にだけは「隠したい感情」など何ひとつないから、今度は何が出来上がるのかしらと歓迎してくれる。
いつも通りにポケットに突っ込んでいた流木を、手のひらにのせた白い靄に向かって放り投げる。
ふたりで固唾をのんで人形に変わるまでの過程を見守る。
「え……何これ」
「龍……だよね? かわいい~」
予想もしなかったものが完成して、葉織は愕然としてしまうが、羽香奈の呟きには高揚感が滲んでいる。
『ちゃんと見ていてあげないと、天女は遠くへ帰っちゃうんだよ?』
白い靄は、龍の形に変わる前、葉織にそう告げた。
ちょっと不満そうな声色に聞こえた。
まさか、龍のお告げってこと? まさかなぁ……。
「葉織くん、この子いらないの?
だったらわたしが預かってもいい?」
「うん……オレはなんか、いらないから。
持っててくれるっていうならどうぞ」
羽香奈は「わぁーい」と言いながら手のひらに龍をのせ、ちょっととぼけた顔のそいつの頭を撫でている。
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