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29.フェリクスの覚悟
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「ソウタ、よく聞いて」
「あっ……フェリクス」
とても重要で、絶対に避けられない問題に気が付きひとりで悶々と考え込んでいたら、フェリクスにそっと手を握られた。ハッと気が付きフェリクスを伺うと、こいつはふわりと優しい笑みを浮かべた。
「私は、王太子の位をスウェインに譲ることにしたんだ。王位継承権もすべて手放す」
「……は? え!?」
いきなりの重大発表に思わず大きな声が出る。フェリクスが王太子もやめて、王位継承権も手放すって、王族じゃなくなるってことなんじゃ……?
「これはね、ずっと前から決めていたことなんだよ」
「……ずっと前から?」
フェリクスは、一度目の魔王討伐の旅に出る前からこのことを国王様とスウェインに話していたそうだ。その理由が、俺を好きになってしまったから。
俺を違う世界から無理やり召喚し魔王討伐を依頼して、最初はそのことについて怒りを抱かせてしまった。でもその後は、自分にできることをと黙々と魔法に打ち込み、新しい魔法を生み出していく俺を眩しいと思ったそうだ。
始めはそんな俺を尊敬という目で見ていたが、一緒に過ごす時間が増えるほど俺を手放したくないと思ったそう。
王太子である以上、男である俺を伴侶にすれば後継問題が立ち塞がる。でもフェリクスも俺以外の誰かを迎え入れるつもりは全くなく、それなら王太子を辞退しスウェインに譲った方がいいと考えた。
国王様も始めは渋ったが、フェリクスの意志は固く、賢者としての俺の能力も考えるとこの国に縛っておきたい。政治的な考えがあったものの、国王様はそれを了承した。
スウェインも王太子になることに戸惑いはあったが、兄の願いならばと王太子を引き受けることを決意。一度目の魔王討伐の旅に出る前から徐々に、王太子代理としての公務を行っていた。
一度目の魔王討伐が終わったあと、フェリクスはスウェインに仕事の引継ぎをできる限り行い、俺のいる世界へと渡ってきた。週末だけこっちに戻ってきていたとはいえ、王太子としての仕事を全くせずにいて大丈夫なのかと疑問ではあった。
そのころにはもう、スウェインはほぼ王太子として仕事をしていたんだ。
「でもフェリクスは王子様じゃなくなるんだろ? それでいいのか?」
「もちろん。臣籍に入ることになるけど、大公の位を与えられることになっているんだ」
大公、って聞き慣れない言葉だが、爵位の順とすれば王族より下位になるが公爵より上位となる地位だそうだ。
領地を与えられることもないそうで、名誉的な地位となるらしい。
「私が王族でなくなっても『勇者』ではある。それに『賢者』であるソウタを伴侶にすれば、とても強い権力を得ることと同義なんだ。王族から籍が抜けたとしても、王族に近しい権力を持つことにはなるね」
とはいえ、直接的に政治には関わらないことになるそうだ。ただどうしても困った事案、例えばまた魔王が復活したとかそういったことが起これば国のために尽力する必要があるとのこと。
それが、フェリクスが王位継承権を手放す条件でもあるそうだ。
「私はそれでいいと思っている。ソウタを迎えられるなら、王族の地位などいつでも捨てられるよ」
「ありがとうフェリクス。その気持ちがすごく嬉しい。……だけど国王様にお聞きしたいことがあります。この国は、それでいいんですか? フェリクスは優秀な王太子だったんですよね?」
フェリクスは人一倍責任感も強く、王太子として慕われていたことは知っている。そのフェリクスが王位継承権もすべて手放すことは、この国にとって本当にいいことなのか。俺のせいでそうなってしまうことに、本当に異論がないのか気になってしまう。
「その点は大丈夫だ。スウェインは第二王子として、王太子に万が一のことがあった時のために帝王学を学んでおる。スウェインとフェリクスの違いは魔力量の多さくらいだ」
「そう、なんですね」
「それに魔王討伐という偉業を成し遂げた英雄だ。条件をつけさせてはもらったが、その英雄の願いならば叶えるのもやぶさかではないのだよ」
条件というのは俺とフェリクスがこの国に残ること。
他の国へ移住をしてしまうと、他の国が俺たちの力を使って戦争を仕掛けることも考えられるんだそうだ。特に俺の力はひとりで国を落とすこともできるほどのもの。
そういったことに巻き込まれないためにも、この条件は必要なことだと話してくれた。
俺もこの力を他国の戦争のために使いたいとは思わない。これから魔法がどんどん発達していくことになっても、戦争に使ってほしくはない。
魔法をそんなことに使われるのは嫌だ。
「もちろん私も、この国がそんな愚かなことをするとなったら全力で止めるよ。安心して」
「うん。フェリクスがそう言ってくれるなら大丈夫だな」
「だからね、ソウタ。私と婚約してくれる? それから将来は伴侶になってほしい」
フェリクスが俺と一緒になるために、随分前から計画していたなんて驚いたけど、でもここまでされて嫌だとは思えない。こいつはそこまで本気で俺のことを想ってくれていたってことなんだから。
だったら答えはひとつしかないだろう。
「ああ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ソウタっ……! ありがとう!」
感動したフェリクスに苦しいほどに抱きしめられる。ここまで俺のことを想ってくれる人に出会えることはないだろう。
俺だってフェリクスのことが好きなんだ。これからも一緒にいられる約束は、俺にとっても嬉しいこと。
「ふぅ……安心しました。もしソウタ様が断ったらどうしようと、不安で不安で……」
「スウェイン、大丈夫だと言っただろう?」
「僕も大丈夫だとは思っていましたけど、もしものことがあるじゃないですか」
「お前は心配性が過ぎる。私とソウタの愛は、どんなことでも乗り越えるというのに」
スウェインも俺たちのことをずっと応援してくれていたらしく、王太子になることも早い段階から了承していたそうだ。
俺と一緒にいたいからという理由ではあったけど、フェリクスは自ら魔王討伐の旅に出ることを望んだ。確かにフェリクス以外に魔王討伐についていける人はいない。
スウェインも魔法ではフェリクスに敵うことはなく、危険なこととわかっているがフェリクスを止めることはできなかった。
二度も魔王を討伐した兄の願いを叶えられるのなら、自分が王太子となることに異論はないと笑ってくれた。
これで俺とフェリクスは婚約者ということになった。
式の予定は一年後。これからアーマンド王国は、正式に王太子の交代と俺とフェリクスの婚約を大々的に公表する。いろいろな手続きや準備に追われることになるため、かなり忙しくなるそうだ。
俺も向こうの世界に帰ることになるが、週末はこっちに戻ってくるし、できることがあれば協力するつもりだ。
恋人関係になってすぐに婚約者にまでなるとは思わなかったけど、国王様やスウェインにも認められたのは嬉しかった。
それからの俺たちは、日本と向こうの世界を行き来する生活に戻った。
そして三か月くらい経ったころ、俺は勤めている会社を辞めることにした。フェリクスの世界に移住することに決めたのだ。
同僚には結婚することと相手の家に入ることになったこと、また向こうの家業を手伝うことになったと説明した。異世界に移住するなんて言えないし、まぁ当たらずとも遠からずといったところだろう。
『もしや逆玉の輿か!?』と言われ、まぁそう言えなくもないなと思い肯定すると、羨ましい! と報復のためか髪をぐしゃぐしゃにかき回された。
寂しくなるな、と言われ、俺はこの会社ではなんだかんだ必要とされていたのかなと、ちょっとしんみりしたが嬉しかった。
移住するとはいっても、こっちの世界に戻ってこないわけじゃない。
フェリクスは、こちらもかなり気に入っているし、何より学ぶことが多いと言う。アーマンド王国の発展のためにもいろんな情報を知りたいというのもあって、行き来することは変わらなそうだ。
そしてシャノンやダグラスも俺の世界に行ってみたいと言っている。
そうなると俺の今のマンションではかなり手狭だ。そこでマンションを引き払い、一戸建てを買うことにした。資金はフェリクスが用意してくれた宝石や金塊だ。
それを少しずつ売り払い、街から少し離れた場所にあった家を購入。大々的にリフォームをして、とても広くて綺麗な家になった。
リフォームも終わり引っ越しを済ませると、ダグラスたちを招待することに。
最初はシャノンとモーリスくんカップルに来てもらった。二人共大はしゃぎして、初めてフェリクスが来た時のことを思い出して笑ってしまった。
その次はダグラス夫婦をご招待。初めてダグラスの奥さんに会ったが、とてもおっとりとした方でダグラスと非常にお似合いの奥さんだった。
二人はシャノンたちとは違い、大はしゃぎするどころか呆然と固まってしまった。何をするにもおっかなびっくりといった感じで、さすがの騎士団長も現代文明にはタジタジだった。
だが最終的には楽しんでもらえたようで、今度はみんなで日本のどこかへ団体旅行に行こうかと計画している。すごく楽しみだ。
「あっ……フェリクス」
とても重要で、絶対に避けられない問題に気が付きひとりで悶々と考え込んでいたら、フェリクスにそっと手を握られた。ハッと気が付きフェリクスを伺うと、こいつはふわりと優しい笑みを浮かべた。
「私は、王太子の位をスウェインに譲ることにしたんだ。王位継承権もすべて手放す」
「……は? え!?」
いきなりの重大発表に思わず大きな声が出る。フェリクスが王太子もやめて、王位継承権も手放すって、王族じゃなくなるってことなんじゃ……?
「これはね、ずっと前から決めていたことなんだよ」
「……ずっと前から?」
フェリクスは、一度目の魔王討伐の旅に出る前からこのことを国王様とスウェインに話していたそうだ。その理由が、俺を好きになってしまったから。
俺を違う世界から無理やり召喚し魔王討伐を依頼して、最初はそのことについて怒りを抱かせてしまった。でもその後は、自分にできることをと黙々と魔法に打ち込み、新しい魔法を生み出していく俺を眩しいと思ったそうだ。
始めはそんな俺を尊敬という目で見ていたが、一緒に過ごす時間が増えるほど俺を手放したくないと思ったそう。
王太子である以上、男である俺を伴侶にすれば後継問題が立ち塞がる。でもフェリクスも俺以外の誰かを迎え入れるつもりは全くなく、それなら王太子を辞退しスウェインに譲った方がいいと考えた。
国王様も始めは渋ったが、フェリクスの意志は固く、賢者としての俺の能力も考えるとこの国に縛っておきたい。政治的な考えがあったものの、国王様はそれを了承した。
スウェインも王太子になることに戸惑いはあったが、兄の願いならばと王太子を引き受けることを決意。一度目の魔王討伐の旅に出る前から徐々に、王太子代理としての公務を行っていた。
一度目の魔王討伐が終わったあと、フェリクスはスウェインに仕事の引継ぎをできる限り行い、俺のいる世界へと渡ってきた。週末だけこっちに戻ってきていたとはいえ、王太子としての仕事を全くせずにいて大丈夫なのかと疑問ではあった。
そのころにはもう、スウェインはほぼ王太子として仕事をしていたんだ。
「でもフェリクスは王子様じゃなくなるんだろ? それでいいのか?」
「もちろん。臣籍に入ることになるけど、大公の位を与えられることになっているんだ」
大公、って聞き慣れない言葉だが、爵位の順とすれば王族より下位になるが公爵より上位となる地位だそうだ。
領地を与えられることもないそうで、名誉的な地位となるらしい。
「私が王族でなくなっても『勇者』ではある。それに『賢者』であるソウタを伴侶にすれば、とても強い権力を得ることと同義なんだ。王族から籍が抜けたとしても、王族に近しい権力を持つことにはなるね」
とはいえ、直接的に政治には関わらないことになるそうだ。ただどうしても困った事案、例えばまた魔王が復活したとかそういったことが起これば国のために尽力する必要があるとのこと。
それが、フェリクスが王位継承権を手放す条件でもあるそうだ。
「私はそれでいいと思っている。ソウタを迎えられるなら、王族の地位などいつでも捨てられるよ」
「ありがとうフェリクス。その気持ちがすごく嬉しい。……だけど国王様にお聞きしたいことがあります。この国は、それでいいんですか? フェリクスは優秀な王太子だったんですよね?」
フェリクスは人一倍責任感も強く、王太子として慕われていたことは知っている。そのフェリクスが王位継承権もすべて手放すことは、この国にとって本当にいいことなのか。俺のせいでそうなってしまうことに、本当に異論がないのか気になってしまう。
「その点は大丈夫だ。スウェインは第二王子として、王太子に万が一のことがあった時のために帝王学を学んでおる。スウェインとフェリクスの違いは魔力量の多さくらいだ」
「そう、なんですね」
「それに魔王討伐という偉業を成し遂げた英雄だ。条件をつけさせてはもらったが、その英雄の願いならば叶えるのもやぶさかではないのだよ」
条件というのは俺とフェリクスがこの国に残ること。
他の国へ移住をしてしまうと、他の国が俺たちの力を使って戦争を仕掛けることも考えられるんだそうだ。特に俺の力はひとりで国を落とすこともできるほどのもの。
そういったことに巻き込まれないためにも、この条件は必要なことだと話してくれた。
俺もこの力を他国の戦争のために使いたいとは思わない。これから魔法がどんどん発達していくことになっても、戦争に使ってほしくはない。
魔法をそんなことに使われるのは嫌だ。
「もちろん私も、この国がそんな愚かなことをするとなったら全力で止めるよ。安心して」
「うん。フェリクスがそう言ってくれるなら大丈夫だな」
「だからね、ソウタ。私と婚約してくれる? それから将来は伴侶になってほしい」
フェリクスが俺と一緒になるために、随分前から計画していたなんて驚いたけど、でもここまでされて嫌だとは思えない。こいつはそこまで本気で俺のことを想ってくれていたってことなんだから。
だったら答えはひとつしかないだろう。
「ああ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「ソウタっ……! ありがとう!」
感動したフェリクスに苦しいほどに抱きしめられる。ここまで俺のことを想ってくれる人に出会えることはないだろう。
俺だってフェリクスのことが好きなんだ。これからも一緒にいられる約束は、俺にとっても嬉しいこと。
「ふぅ……安心しました。もしソウタ様が断ったらどうしようと、不安で不安で……」
「スウェイン、大丈夫だと言っただろう?」
「僕も大丈夫だとは思っていましたけど、もしものことがあるじゃないですか」
「お前は心配性が過ぎる。私とソウタの愛は、どんなことでも乗り越えるというのに」
スウェインも俺たちのことをずっと応援してくれていたらしく、王太子になることも早い段階から了承していたそうだ。
俺と一緒にいたいからという理由ではあったけど、フェリクスは自ら魔王討伐の旅に出ることを望んだ。確かにフェリクス以外に魔王討伐についていける人はいない。
スウェインも魔法ではフェリクスに敵うことはなく、危険なこととわかっているがフェリクスを止めることはできなかった。
二度も魔王を討伐した兄の願いを叶えられるのなら、自分が王太子となることに異論はないと笑ってくれた。
これで俺とフェリクスは婚約者ということになった。
式の予定は一年後。これからアーマンド王国は、正式に王太子の交代と俺とフェリクスの婚約を大々的に公表する。いろいろな手続きや準備に追われることになるため、かなり忙しくなるそうだ。
俺も向こうの世界に帰ることになるが、週末はこっちに戻ってくるし、できることがあれば協力するつもりだ。
恋人関係になってすぐに婚約者にまでなるとは思わなかったけど、国王様やスウェインにも認められたのは嬉しかった。
それからの俺たちは、日本と向こうの世界を行き来する生活に戻った。
そして三か月くらい経ったころ、俺は勤めている会社を辞めることにした。フェリクスの世界に移住することに決めたのだ。
同僚には結婚することと相手の家に入ることになったこと、また向こうの家業を手伝うことになったと説明した。異世界に移住するなんて言えないし、まぁ当たらずとも遠からずといったところだろう。
『もしや逆玉の輿か!?』と言われ、まぁそう言えなくもないなと思い肯定すると、羨ましい! と報復のためか髪をぐしゃぐしゃにかき回された。
寂しくなるな、と言われ、俺はこの会社ではなんだかんだ必要とされていたのかなと、ちょっとしんみりしたが嬉しかった。
移住するとはいっても、こっちの世界に戻ってこないわけじゃない。
フェリクスは、こちらもかなり気に入っているし、何より学ぶことが多いと言う。アーマンド王国の発展のためにもいろんな情報を知りたいというのもあって、行き来することは変わらなそうだ。
そしてシャノンやダグラスも俺の世界に行ってみたいと言っている。
そうなると俺の今のマンションではかなり手狭だ。そこでマンションを引き払い、一戸建てを買うことにした。資金はフェリクスが用意してくれた宝石や金塊だ。
それを少しずつ売り払い、街から少し離れた場所にあった家を購入。大々的にリフォームをして、とても広くて綺麗な家になった。
リフォームも終わり引っ越しを済ませると、ダグラスたちを招待することに。
最初はシャノンとモーリスくんカップルに来てもらった。二人共大はしゃぎして、初めてフェリクスが来た時のことを思い出して笑ってしまった。
その次はダグラス夫婦をご招待。初めてダグラスの奥さんに会ったが、とてもおっとりとした方でダグラスと非常にお似合いの奥さんだった。
二人はシャノンたちとは違い、大はしゃぎするどころか呆然と固まってしまった。何をするにもおっかなびっくりといった感じで、さすがの騎士団長も現代文明にはタジタジだった。
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