新米陰陽師の僕は、島の古狐の前にたじたじですっ!

神崎文尾

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田舎の孤島

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「それで」
「はい」
「この鐘和島について教えてくれないか?」
「なんじゃ、結局かっこよく決めるのはやめたのじゃな」
「まあ、この際もうどうにもならんでしょう。どうせ明日まで船もこないんだ。それならのんびりするに限るよ。何も出来ないし、そっちも僕を殺す気はないんだろ」
「当たり前じゃ小童。殺すだの滅すだの――」
「軽々に言う奴はいない、ね。分かったよ」
「なればよい」
 神社の拝殿周りは静かだ。潮騒もここまでは聞こえてこない。時折聞こえるのは鳥の鳴き声ばかりで、締め切ったとはいえ隙間の多い拝殿の中に響き渡っている。日差しも同じだ。
「のどかですねえ」
「ふむ。こうした時間はなかったのかえ?」
「陰陽寮をご存知なんだろ?」
「名前はな」
 名前だけ知っていればいい。それだけでいいんだ。その中身なんか、興味本位でも覗く物じゃない。陰陽道という、この世からは無くなりかけている様な術。それを護国のために使え。お前らはこの国の鬼となるべし――そんなことを言い聞かされて育った半生。術をとちって死んだ者は数え切れない。退治するはずの魔に消されたものだっている。そんな中、僕は生き抜いてきた。生き抜いたというか、ついていったの方が正しいかもしれない。僕にはいつでも庇護者がいた。同い年で、一族の中でも抜きんでた力を持つ少女。彼女がいなければ、僕はとっくに冥府にいる。
 狐子は空っぽになった僕の茶器を見た。
「もう一杯進ぜようか?」
「いや、いい。あったかいお茶で和んだよ。和むべきではないけど」
「そうさな。何の薬を入れられるかと?」
「勘弁してくれ……」
 頭にその可能性を入れていなかった。外していたってのもあるけど。
「ここはいい場所じゃ。瀬戸内のど真ん中。人こそ少なく、栄華もないが。それでも懐かしがって帰ってくる者も多い。都会に疲れ果ててしまうのであろ。何人か、縁もゆかりもないのに、根付こうとしておるよ。難しいじゃろうがな」
「僕も」
「うん?」
「そういうのも悪くないかと思う。だけど、異常だよ」
「異常であるか?」
「ここには何にもない。どこの田舎にすらあるパチンコ屋すらないんだ。娯楽はないといってもいい。なのに移り住むなんて考えてしまう自分がいる。不思議でしょうがないよ」
 実際そうなのだ。この島ははっきり言って死んでいる。何一つ必要だと思えるものすらない。なのに、居心地がいい。ぬるま湯というにはやや寒すぎるような温度であるはずなのに。ピーチピーチと何の鳥かは分からないが鳴き声がした。鳥ですら居心地が良さそうなのだ。
 狐子は、うむと居住まいを正す。
「なるほど、田舎である。それは間違いなかろう。だが、どうじゃ。その田舎というものが、今やとてつもない価値を持っておる。そも、田舎は悪、都会は善なるという貴賤など、儂ら妖にとっては非なるもの。妖にとっては人の多寡は問題ではない」
「それは知ってる。妖は人と人との間に蔓延る者、だろ?」
「左様。だがその隙間が多ければどうなると思う」
「どうって……」
「儂ら妖は人間にとっての黴のようなもの。いつの間にかおり、駆除せねばそのまま蔓延る。厄介なものじゃろう。だが生き残らねばならぬ」
「なんだよ。うちはクリーニング屋か」
「それに近い。役所はそんなもんじゃ」
 なんだか、嫌な例えをされたものだ。
「倒してもきりがない所も似てるな」
「仕方ない。黴る原因は不精がすべてじゃ。仕方なかろう。黴も時折悪さをする。人を苦しめるかもしれぬ。であるが、お主が毎日使っておる醤油や、口に含む酒も、黴がなければだめなのだぞ」
「上手い例えなのかな?」
「まあの」
 自画自賛されても困る。
「どうせ変わりが来るまで暇であろ?すぐさま倒せぬ今、ゆるりとしなされ」
 それが一番なのだろう。僕はうなずいた。

「となれば、用意をせねばならぬ。煎餅布団じゃが我慢してくれ。綿なぞ春先には入れぬでな」
「おいおい、宿はないのかよ」
「左様なもの、造船所が閉まってからはとんとないわ。ここは住むべきところ。見に来るところではないわ」
 そう、と告げ、僕は外に出た。山の上にあるはずの神社だが、結構広い。自動車が五六台止まれそうな広さだ。長方形に象られた平地が、長い石畳の先にあるものだから、初めて来た僕はそれなりに感動していた。今や漫画の中でも出なさそうな大きな神社だ。ぱっと見百段を軽く超える石段の下は、手水場だけしかないというのが逆に不審なくらい聖地もされている。だが、石畳は長年風雨にさらされていたのかあちこちが剥げている。石灯籠も木陰のかかるところは苔むしている。山の上だから関係ないと思ったのだが、かなり湿気がある。夏なんか地獄だろう。
 ため息が出る。
 なんだか妙なことになってしまった。一時休戦。それも自分の情けないミス。札をむき出しにすべきではなかった。島に入れば臨戦態勢。すぐに片付け、式神を飛ばして経過を飛ばして成果を持ち帰る。それが出来るはずだったのに。
「あーあ……」
 現実にはそう上手く行かなかった。
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