新米陰陽師の僕は、島の古狐の前にたじたじですっ!

神崎文尾

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つるつる童顔と薄らデカい妖

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「聞いておるのかっ」
「はい」
「よろしいっ!」
 きっと喋り切ったんだろう。そうなると静かになるはずだ。僕の耳には何一つ届いていないけど。とりあえずはいと言えば割合簡単に、機嫌が戻った。草履をまたぺしぺし言わせて前に行く。
 日は高く、日差しも柔らか。潮のめぐりが複雑な瀬戸内海は、波の高さに反して潮騒がうるさい。島の外周に合わせて作られた島の道路はほとんど景色が変わらない。風光明媚といえば聞こえもいいが、次第に飽きが来る。
 二〇分ほど歩いた。周りの景色は変わらない。
「飽いたか?」
 鼻歌を歌いながら前に進んでいた狐子はそう言った。実際飽きる。どこにでもある島に過ぎないじゃないか。景色は確かに素晴らしい。自然も豊富だ。だが、だから何だという話。極端に言えば、この程度の景色は瀬戸内海の島々を巡れば似通ったものをいくらでも見ることができる。
 僕の知り合い。陰陽寮で引っ張ってくれた同僚だが、彼女もここと似通った島の神職の娘とか言っていた。まさかこここではないはずだが、休みの時に聞いた故郷の話で、遠い眼をしながら話していた島の景色とよく似ている。
 そうだね、と返した。
「で、あろうな~。実に飽きる景色じゃ。何せ二〇分も歩いておるのに、いまだ人っ子ひとり会いもせん!暖かーい土地の民との交流を夢見て移住した者はこの時点で心が折れるの」
「あんた以外、この場所に人いないのか?」
「いや、おるよ。絶海とまでは行かんが不便な島じゃからの。医師、駐在はとりあえず常駐しておるよ」
「学校あるって言ってたけど、教師もいるんだろ?」
「あー、西条ってのがおるのう。若い女教師……教えるべきではなかったかの」
「いや、なんでだよ」
「なんでって……お主、女教師じゃぞ。しかも若い。大学出たてのぷりぷりじゃ。お主もつるつるの童顔じゃが、男であろう」
 表現が古い。気持ち悪い。そんな言葉を怒涛と言いたくなるが、多分そんなことをすれば、余計に喜ぶのではないだろうか。やはり男だったなとか言って。
「あー、男だよ、男。で、恋もしたいし、恋愛もしたい。それくらいは考えているよ。だけど、それはいまセクハラっていうんだぞ」
「せくはら?よう分からぬ」
 横文字を軽快に使っていた狐子はこういうときだけ身代わりが早いようだ。襦袢にまた手を突っ込んでいる。こいつ、要領がいいというより厚顔無恥といった方がよさそうだ。
「セクハラ。セクシャルハラスメントだよ。要するに性的なことに関するものは大概ダメって事。うるさいんだ今。受け取り手によって、それを感じる場所も違うしな」
「ふーむ、言いたい放題じゃな。ならばすまんのう」
「は?」
「いや、つるつる童顔など、昔は恥であったからのう。男はやはり、むんむん髭が生え、いづれ名のある武将に!果ては領主になりて、一所懸命!男子一生の夢とはそれであろう。なれば、お主、ちと目方が足りんくないかえ?」
「ん」
 すまんのう、と言いながら、顔は笑っている。どうやら、セクハラの下りは冗談として受け取られたらしい。実際のところかなり本当なのだが、人間がそこまで愚かになり果てるなど考えてはいない顔だった。男子一生の夢、か。今や死語だ。男子一生の夢となるのはマイホームと明るい家庭。領主なんていう肩書はほしくないなんてのが大半だろう。そもそも領主なんていない時代だ。それを受け継いだ田舎分限者なら今もいるだろうけど。
 髭、はやそっかな。そうすれば少しは童顔が直るかもしれない。無理か、そのために必要な男性ホルモンというものが僕にはどうにも足りていないようなのだ。
「別に構いやしませんよ」
「お主が許せる程度はそのあたりか。覚えたぞ。今度からいじくり倒してやるぞえ」
「恐ろしい。ところで僕に髭ってどうですかね」
「髭ェ?髭、髭ねえ……うむ、似合わぬなあ。どうにもつるっぱげの顔であるし。髭を伸ばせばそこだけが浮いたのっぺらぼうじゃ」
 やめておこう。
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