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第1章 帰郷
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〝それ〟が視界に入った瞬間、オリエンス・アズールは思わず息を飲んだ。
水に濡れて輝く黒々とした長い髪。
生気のない白い肌に、硬く閉ざされた瞳を守るように縁取る黒くて長い睫毛。
色彩のない中で目を惹きつける、紅い唇。
「おい…!」
慌てて池のほとりに倒れている少女に駆け寄ると、その濡れた上体を抱き起こした。
手のひらを額に当て、鼻の前へと滑らせる。
———生きているか。
体温は低めだが落ち着いた呼吸の気配にほっとする。
「しかし…この子は…」
何者だ?
ここはアズール家の屋敷内にある池だ。
まず警備の厳しい屋敷内に見知らぬ者が倒れている事がおかしいし、それにこの奇妙な服装は何なのだろう。
顔立ちや飾りのない薄手の上衣が濡れて貼りついたせいで分かってしまう胸の膨らみ、肩を隠す程度の短い袖から出た細い腕から女性だと分かるが、緩い形のズボンをはいている。
裸足に履いている靴も見たことのない形だ。
そして何よりも、この黒髪。
それにこの顔は———
「…ぅ」
少女が苦しげにその眉をひそめると小さく呻いてオリエンスは我に返った。
…そうだ、まずこの濡れた身体をどうにかしなければ。
少女の身体を抱き上げるとオリエンスは立ち上がった。
最初に視界に入ったのは、周囲に垂れ下がる白いレースだった。
たっぷりとドレープが入った、その隙間からは見たことのない壁や机、チェストといった家具が見える。
そのどれもが豪華で高級品だと一目で分かった。
「…ここは…」
ゆっくりと雫は身体を起こした。
さらりとした衣擦れの気配に胸元に視線を落とすと、シルクのように滑らかな、リボン飾りのついたネグリジェらしき服を着ていた。
とても広い部屋に広いベッド、豪華な家具。
…まるで映画で見るような王侯貴族の屋敷のようだ。
「ここは…一体…」
どこなのだろう?
どうしてこんな所で寝ているのだろう?
———確か自分は、大学から帰る途中で…
直前の記憶を思い出そうとしていると、そっと部屋の扉が開いた。
「お目覚めになられましたか」
メイド服を着た二人の女性が入ってきた。
その内の一人が失礼いたします、と言って雫の額に手を当てた。
「熱は下がられたようですね」
「熱…?」
「夜になって熱を出されたので心配いたしましたが、顔色も悪くないようですね。今お茶をご用意いたします」
女性の言葉に、もう一人がすっと部屋を出て行った。
「あの…ここは…」
「アズール家の屋敷です」
「アズール…?」
聞き覚えのある名前だが思い出せず、雫は首を傾げた。
「お嬢様は屋敷内の池のほとりで倒れておられたのですよ」
「池?」
状況がさっぱり分からず、眉をひそめてますます首を傾げる雫の様子を観察するように見つめていた女性は、もう一人がワゴンを押しながら戻ってきたのをみてベッドから離れると、何か耳打ちして部屋から出て行った。
入れてもらったお茶はローズティーのような香りで美味しかった。
飲む度に身体中に香りと温かさが染み渡っていく。
一緒に持ってきてくれた果物も瑞々しくて美味しく、一口食べると自分が空腹だった事を思い出した。
———さっきの言い方だと一晩中寝ていたようだったけれど、今は何時なのだろう。
…そもそも、ここはどこなのだろう。
〝アズール〟と言っていたけれど…この部屋といい、メイドらしき人達の顔立ちといい…
日本じゃない?と思い、すぐに雫は心の中で首を振った。
だって自分は大学から帰る途中だったのだ。
東京の、自宅の最寄り駅を降りて歩いていて…突然目の前が真っ白になったと思ったら、知らないベッドの上で…
近所にこんな立派な部屋のあるお屋敷なんてあっただろうか。
それにあの時倒れたにしても…池のほとりとは?
考えても全く分からず、けれどしっかりと果物を完食してお代わりのお茶を注いでもらっていると、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。
さっきの女性が戻ってきたのかと顔を向けた雫は、入ってきた人物を見て目を見開いた。
水に濡れて輝く黒々とした長い髪。
生気のない白い肌に、硬く閉ざされた瞳を守るように縁取る黒くて長い睫毛。
色彩のない中で目を惹きつける、紅い唇。
「おい…!」
慌てて池のほとりに倒れている少女に駆け寄ると、その濡れた上体を抱き起こした。
手のひらを額に当て、鼻の前へと滑らせる。
———生きているか。
体温は低めだが落ち着いた呼吸の気配にほっとする。
「しかし…この子は…」
何者だ?
ここはアズール家の屋敷内にある池だ。
まず警備の厳しい屋敷内に見知らぬ者が倒れている事がおかしいし、それにこの奇妙な服装は何なのだろう。
顔立ちや飾りのない薄手の上衣が濡れて貼りついたせいで分かってしまう胸の膨らみ、肩を隠す程度の短い袖から出た細い腕から女性だと分かるが、緩い形のズボンをはいている。
裸足に履いている靴も見たことのない形だ。
そして何よりも、この黒髪。
それにこの顔は———
「…ぅ」
少女が苦しげにその眉をひそめると小さく呻いてオリエンスは我に返った。
…そうだ、まずこの濡れた身体をどうにかしなければ。
少女の身体を抱き上げるとオリエンスは立ち上がった。
最初に視界に入ったのは、周囲に垂れ下がる白いレースだった。
たっぷりとドレープが入った、その隙間からは見たことのない壁や机、チェストといった家具が見える。
そのどれもが豪華で高級品だと一目で分かった。
「…ここは…」
ゆっくりと雫は身体を起こした。
さらりとした衣擦れの気配に胸元に視線を落とすと、シルクのように滑らかな、リボン飾りのついたネグリジェらしき服を着ていた。
とても広い部屋に広いベッド、豪華な家具。
…まるで映画で見るような王侯貴族の屋敷のようだ。
「ここは…一体…」
どこなのだろう?
どうしてこんな所で寝ているのだろう?
———確か自分は、大学から帰る途中で…
直前の記憶を思い出そうとしていると、そっと部屋の扉が開いた。
「お目覚めになられましたか」
メイド服を着た二人の女性が入ってきた。
その内の一人が失礼いたします、と言って雫の額に手を当てた。
「熱は下がられたようですね」
「熱…?」
「夜になって熱を出されたので心配いたしましたが、顔色も悪くないようですね。今お茶をご用意いたします」
女性の言葉に、もう一人がすっと部屋を出て行った。
「あの…ここは…」
「アズール家の屋敷です」
「アズール…?」
聞き覚えのある名前だが思い出せず、雫は首を傾げた。
「お嬢様は屋敷内の池のほとりで倒れておられたのですよ」
「池?」
状況がさっぱり分からず、眉をひそめてますます首を傾げる雫の様子を観察するように見つめていた女性は、もう一人がワゴンを押しながら戻ってきたのをみてベッドから離れると、何か耳打ちして部屋から出て行った。
入れてもらったお茶はローズティーのような香りで美味しかった。
飲む度に身体中に香りと温かさが染み渡っていく。
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近所にこんな立派な部屋のあるお屋敷なんてあっただろうか。
それにあの時倒れたにしても…池のほとりとは?
考えても全く分からず、けれどしっかりと果物を完食してお代わりのお茶を注いでもらっていると、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。
さっきの女性が戻ってきたのかと顔を向けた雫は、入ってきた人物を見て目を見開いた。
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