異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子

文字の大きさ
16 / 62
第2章 再会と出会い

08

しおりを挟む
「フェール」
図書館長室の前で声を掛けられ、フェールは振り返ると眉をひそめた。

「殿下…何の用です」
「水くさい奴だな。私も一緒に行くと言っただろう」
「殿下は仕事があるのでしょう」
「後でやれば問題ない」
つかつかと歩み寄ると、ユークはロゼの前に立った。

「やあロゼ、元気かい」
「は、はい…」
「何だ、まだ緊張しているのか」
「殿下」
フェールはロゼの顔を覗き込もうとしたユークの襟元を掴んだ。
「妹に近づかないで下さい」

「フェール。お前の過保護っぷりは耳に届いているぞ」
ユークはニヤリと口角を上げた。
「ロゼに接触したがる連中を牽制しまくっているそうだな」
「大事な妹ですから。当然です」
「とんだ兄馬鹿だな」
「何か問題でも?」

「…殿下」
こほん、と咳払いをしてオリエンスが口を開いた。
「本当に、仕事が溜まっているので…」
「それは会議を長引かせた年寄りどものせいだろう。苦言ならあいつらに言え」
そう返すとユークは館長室の扉を開いた。



「今日は大人数だな」
相変わらず本に埋もれていたランドは目線だけを上げて一同を見た。
「殿下も一緒か」
「悪いか」
「いや。ちょうどいい、面白いものを見つけた」
立ち上がると、ランドは一同が腰を下ろした中央のテーブルに一冊の本を置いた。

「これは?」
「一番新しい渡り人の記録が載っている。といっても二百年前だが」
 

「渡り人?」
本を手に取ったユークがランドを見上げた。
「何だ、殿下は知らないのか」
「…ああ、説明していない」
「何の話だ」

「———ロゼは領地で伏せていたのではなく、幼い頃に別の世界に飛ばされて、そこから最近戻ってきたんです」
訝しげなユークの視線を受けてフェールは言った。

「…は?別の世界?」
「ごく稀にそういう例があるんだ。ここから別の世界に渡った場合は調べようがないが、こちらへ渡ってきた記録はある」
「そんな話聞いた事がないぞ」
「本当に稀な出来事だからな、だが…」
ランドはユークが持つ本を指差した。
「そこにある記録は我々に関係ある事だ」

「関係あるとは」
「二百年前、一人の女性が別の世界からやってきた。当時この国は戦乱の時期で、我々五家の手でそれを終わらせようとしていた頃だ」
ランドは一同を見渡した。
「その女性は我々とは異なる魔力を持っていたらしい。そして戦後フールス家の当主の元に嫁ぎ、その当主が王になった。…詳しい記録はないが、彼女が王の選定に関わっていた事を示唆する記述があった」


「———そんな話、初耳だぞ」
ユークの言葉に同意するようにフェールとオリエンスも頷いた。
「その女性…王妃が異世界からやってきたという事は秘匿されていたらしい。これは私の先祖が書いていた個人の日記なんだ」
「我々とは異なる魔力とはどんなものなんだ?」
「それについては書かれていないが、彼女の事を〝光の乙女〟と表現している箇所がいくつかある」
ドクン、とロゼの心臓が震えた。

(光の乙女って…ゲームのタイトルと同じ?)
ルーチェの顔が頭によぎる。
確か光の乙女とは、ヒロインを指していたのではなかっただろうか。
……ルーチェ・ソレイユという人間はこの世界の生まれだけれど、中身は…


「魔力を持っているんじゃ、ロゼがいたのとはまた別の世界から来たのか」
オリエンスが言った。
「その世界の事は分からないのか」
「残念ながら記録は見つからなかった」
「つまり異なる世界はいくつかあるという事か…」

「オリエンス」
ユークはオリエンスを見た。
「お前も知っていたのか。ロゼが別の世界とやらにいた事を」
「あ…ええ。というかロゼが現れたのは我が家の庭で…」



「ほう、お前たちはそんな重大な事を私に黙っていたのか」
ユークが怪しく目を光らせた。
「…いえ、そういうつもりでは…」
「ある程度調べてから報告しようと」
「ふん。———気分が悪い」
ガタンと乱暴に音を立ててユークは立ち上がった。

「殿下」
「戻る。今日は仕事も終わりだ」
「…殿下!」
部屋から出て行くユークを慌ててオリエンスが追いかけていった。




「いつまでも子供だな」
呆れたようにため息をつくと、ランドはユークが座っていたソファへ腰を下ろした。

「王があれじゃあ苦労するな、未来の宰相殿」
「———全くだ」
フェールは深くため息をついた。
「監視する立場のオリエンスは何だかんだ甘やかすし」
「アルジェント家は相変わらずだしな」

「アルジェント…公爵家?」
首を傾げて兄を見たロゼにフェールは頷いた。
「将軍を務める家だが、兄弟仲が悪いんだ」
「兄のディランは魔力がないが、弟のヴァイスは色持ちだからな。逆だったら良かったのだが」
「…どうしてですか?」
フェールの説明を継いだランドにロゼは尋ねた。

「この国では長男が跡を継ぐのが基本だが、周囲は色持ちであり騎士団長として評価の高い弟のヴァイスに継がせたいと思っている、だがディランからすれば気に入らないんだ」
「そうなんですね…」
ロゼはゲームの最初の部分で会った、ヴァイスの紫色の瞳を思い出した。
騎士団長という肩書きを持つくらいだから強い人のはずなのだけれど…その瞳はどこか寂しそうだった。



「お前はいい方向に変わっているようで安心したよ」
ランドはフェールを見た。
「何がだ」
「心がないんじゃないかと思うくらい冷淡だったが。ロゼが戻ってきてから人間らしくなったな」
フェールとロゼは顔を見合わせた。

「…そうだな。ロゼが消えた後の世界は色のない、つまらないものだった」
「お兄様…」
「だからって人前でいちゃつくな」

———反動でロゼの負担が増えなければいいが。
ロゼを抱き寄せ頭にキスを落としたフェールに、ランドはため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる
恋愛
ミモザは結婚している。だが夫のライオスには愛人がいてミモザは見向きもされない。それなのに義理母は跡取りを待ち望んでいる。だが息子のライオスはミモザと初夜の一度っきり相手をして後は一切接触して来ない。  義理母はどうにかして跡取りをと考えとんでもないことを思いつく。  それは自分の夫クリスト。ミモザに取ったら義理父を受け入れさせることだった。  こんなの悪夢としか思えない。そんな状況で階段から落ちそうになって前世を思い出す。その時助けてくれた男が前世の夫セルカークだったなんて…  セルカークもとんでもない夫だった。ミモザはとうとうこんな悪夢に立ち向かうことにする。  短編スタートでしたが、思ったより文字数が増えそうです。もうしばらくお付き合い痛手蹴るとすごくうれしいです。最後目でよろしくお願いします。

【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
 ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。  第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。 「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。 「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。  だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。 全43話+番外編です。

『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』

ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています この物語は完結しました。 前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。 「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」 そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。 そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

処理中です...