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第2章 再会と出会い

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「王妃が光の乙女…」
ロゼから話を聞いてルーチェは呟いた。

「ゲームと関係がある気がするんだけど…」
言葉を区切るとロゼは傍に立つルーチェを見上げた。
「———そもそも、光の乙女って何なのかしら」
雫はまだ二人しか攻略していなかったが、ゲームの中でその言葉は出てきたけれど説明はなかったように思う。

「タイトルになるくらいだから何か意味があるはずよね」
「そうね…」
「ひかりは全員攻略したのでしょう?」
「したけど…そういえばタイトルの意味がよく分からないってネットで話題になってたわ」
「そうなの?」
「雫はそういうの調べたりしないものね」
昔を思い出すようにルーチェは視線を上へと上げた。

「…ゲームの中でヒロインの事を光の乙女って呼ぶ場面はあったけど。それは攻略対象にとって光みたいな存在だからだとか、いやもっと深い意味があるんだとか、色々意見があったわ」
「そうなんだ…じゃあ分からないのね」
「———」
口を開きかけて…ルーチェはすぐにそれを閉ざした。


「…ロゼ様。私の事…ランド様に言いました?」
「いいえ」
ロゼはルーチェと視線を合わせた。
「ルーチェは転生だし…ゲームの事も説明しないとならなくなったら困るから。…この世界に生きている人たちに、ここがゲームの世界かもしれないなんて言えないもの」
「そうね…」
「ルーチェをこの世界に連れてきた白いひとというのも不思議よね…」


「…ところでロゼ様」
ルーチェは姿勢を正した。
「今そんな事を考えていていいのですか?」
「———だって…」
「そろそろお迎えが来る頃ですよ」
「…やっぱり急に具合が悪くなった事に」
「したら今度はフェール様たちが大騒ぎしますよ」

「……どうして」
ロゼは手をぎゅっと握りしめた。
「私が王妃様とのお茶会なんて…」

先日のユークに続いて、今度は王妃からお茶会の招待状が届いた。
王妃と親交のある母親と二人でとの事なのだが、ロゼは負担を考慮して途中から参加という形になっている。
今日はフェールも父の宰相も仕事が外せないというのでルーチェと二人、迎えが来るのを控え室で待っているのだ。

「王妃様って…ゲームにはほとんど出てきませんでしたけど。どういう方なのでしょう」
「お母様の話では優しい方らしいけれど…」
それでも王妃といえばこの国の頂点に立つ女性だ。
社交界経験のないロゼが緊張せずにいられるはずがない。

「ルーチェは王妃様にお会いした事はあるの?」
「…デビュタントの時に挨拶したくらいです」
「デビュタント…そういうのあるのね」
「上位貴族の御令嬢は各家でお披露目をしますけれど、うちのような下位貴族はお金もお披露目できる場所もないからまとめてするんです」
「何歳の時?」
「十五歳、三年前ですね。白いドレスを着て…」
その時、扉をノックする音が聞こえた。

「失礼する」
入ってきた人物を見てロゼは目を見開いた。


白銀色の髪に、金の飾緒や肩章などを付けた白い騎士服を纏った青年だった。
紫色の瞳がしばらくロゼを見つめると、ふっと細められた。

「本当にフェールによく似ているな」
青年はロゼの前までくると膝をついた。
「私はヴァイス・アルジェント。今日はロゼ嬢の護衛を任されている」
真っ直ぐにロゼを見つめてヴァイスは言った。




(これは…想定していなかったわ…)

前を歩くロゼとヴァイスを、観察するようにルーチェは見つめていた。

雫は人見知りが激しく、初対面、特に男性相手だと目を合わせることすら難しい。
そのロゼが時折ヴァイスと視線を合わせながら楽しそうに何か会話をしているのだ。

これまでのロゼの話から、ヴァイスとはこれが初対面の筈だった。
けれど初めて会う相手とは思えないくらい、ロゼの表情は自然だった。
対するヴァイスも、ロゼに向ける眼差しは穏やかで優しさに満ちている。
———ゲームでの彼はフェールと同様に家族の事で闇を抱えており、また女嫌いで心を開かせるのが大変だった。
五人の攻略対象の内一番攻略が難しいキャラで、ロゼに見せている顔をヒロインに向けさせるまで、どれだけの苦労をしただろう。

男性が苦手だった親友に、心を許せる相手が出来る事は喜ばしい。
あの二人ならば家柄も問題はない。
———けれど。

(なんで…よりによってヴァイス様なの)

この世界に転生する直前に読んでいたファンブックの事がルーチェの頭によぎった。
あの本にはゲームでは描かれなかった、それぞれのキャラのもう一つのルートが書かれていた。
そしてそのルートに…ヒロインが〝光の乙女〟である理由があるのだ。
そうして、そこでヴァイスは———


(でもあのルートはゲームには採用されなかったものだから…関係ないのかもしれない。でも…)

ヴァイスが何かをロゼに言った。
次の瞬間、ロゼの白い頬がさっと赤く染まった。

ああ、どうか———この不安が杞憂であって欲しい。
親友の嬉しそうな顔を見つめながらルーチェは祈るように願った。
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