異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子

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第3章 惹かれる心

08

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すぐ目の前に紫色の瞳があった。

「そうやって喜ぶロゼは可愛いが、俺以外に夢中になっていると少し妬けるな」
「え…」
理解が追いつかずぽかんとしたロゼにくすりと笑みをもらすと、ヴァイスはそのこめかみにキスを落とした。
「…っ!」
「柔らかくていい匂いだ」
びくりと震えたロゼの首元にヴァイスは鼻先を寄せた。

(ひゃあ?!)

免疫のないロゼは心の中で悲鳴を上げた。

「どれにするか決まったか?」
「…い、いえ…」
「ロゼの手は華奢だからな」
ロゼの肩に手を回したまま、ヴァイスは片方の手でロゼの手を取り、指を撫でた。
それからロゼの身体を自分へと寄りかからせると、ヴァイスは肩に回していた手を離し指輪の箱を引き寄せた。
「指輪も華奢な形のものがいいのだろうか」
箱の中から指輪を一つ取り出すとロゼの左手の指へとはめる。

(こ…これは…)

ヴァイスに密着され、その体温が伝わってくる。
家族には抱きしめられた事があるが、騎士であるヴァイスは彼らよりも体格が良く、軽く抱きしめられているだけなのにその強さが伝わってくるようだった。

心臓の音が聞こえそうなくらいドキドキしている。
包み込まれるヴァイスの感触と匂いにクラクラしそうになる。
ヴァイスにもロゼの緊張と動悸は伝わっているはずだが、気にする事なくロゼの指に次々と指輪をはめていった。


「ああ、これがいい」
やがて一つの指輪をはめて、ヴァイスは頷いた。
「どう?ロゼ」

薬指にはめられたプラチナ色の指輪には、空の台座の左右にダイヤをあしらった唐草模様の装飾が施されていた。
豪華すぎないそのデザインはロゼの指にしっくりなじんでいた。

「素敵…」
ため息と共にロゼは呟いた。
「気に入った?」
「はい」
「良かった」
言葉と共に頭の上にキスを落とされ、ロゼの心臓が再びドキンと跳ねた。

(お兄様と…全然違う)

フェールに同じようにキスをされるときは安心感しか感じないのに。
ヴァイスに触れられると…どうしてこんなにドキドキするのだろう。

「これも捨てがたいな」
違う指輪をロゼの中指にはめながらヴァイスは言った。
ミル打ちされたアームに大きな台座をセットしたシンプルな指輪だったが、石をはめたらきっと存在感のある素敵なものに仕上がるのだろう。



「お待たせいたしました」
店主が戻ってきたのでロゼは慌ててヴァイスから離れようとした。
だがヴァイスの腕はぴくりともしないどころか、ますますロゼを深く抱きしめてきた。

「お決まりでしょうか」
そんな二人を全く気にする様子もなく、店主は二人の前に腰を下ろした。
「ああ、この二つを」
ヴァイスは指輪をはめたままのロゼの手を差し出すとロゼに視線を落とした。
「俺が決めてしまったが、他に欲しいものがあるか?」
「いえっこれで…いいです」
「失礼いたします。———お直しは必要ないようですね」
ロゼの手に最小限触れてサイズ感を確かめると、店主は指から指輪を抜いた。
「そうですね…石はこれと、これ…」
紫水晶の入った箱からいくつかの石を取り出していく。
その中から二人に石を選ばせると、店主は持ってきた別の箱を二人の前に置いた。


「こちらは天青石と呼ばれる珍しい石でございます」
箱の中には五個の石が入っていた。
透明感のある灰色がかった青い石で、どこか柔らかな印象を与えた。

「綺麗な石だ。確かにロゼの瞳の色だ」
箱を覗き込んで、ヴァイスはその中からカボションカットのものをつまみ上げた。
「これがいい」
「どのように加工なされますか」
「そうだな…スカーフを止めるブローチにしてくれ」
「かしこまりました」
頭を下げると店主は石を受け取った。

「ブローチの加工にはお時間を頂きますが、指輪の方は石を留めるだけですので本日お渡しできます。少しお待ち頂けますか」
「ああ…その石を留めるのを見せてもらえるか」
ヴァイスはロゼを見た。
「彼女は宝飾品作りに興味があるんだ」

「さようでございますか。それでは工房にご案内いたしましょう」
店主は立ち上がった。

ヴァイスも立つとロゼへ手を差し出した。
その手を取り、立ち上がったロゼの腰へそっと手を回す。
「行こうか」
「…はい…」
顔を赤くしたロゼの頭に軽くキスを落として、ヴァイスは手に力を込めた。
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