33 / 62
第4章 もう一つの魔力
04
しおりを挟む
「お仕事中にありがとうございます」
ロゼは迎えに来たヴァイスと並んで廊下を歩いていた。
「なに、大した事はない」
ヴァイスは笑顔で答えた。
「少しでもロゼと一緒にいたいからな」
さっとロゼの頬が赤く染まった。
「何か分かった事はあったのか」
「はい…私の魔力の事で…」
「ヴァイス」
ランドの所での事をロゼが説明していると、背後から声が聞こえた。
振り返ったロゼの背中をぞくりと冷たいものが走り抜けた。
「久しぶりだな」
一人の男が立っていた。
「…ご無沙汰しています、兄上」
「それが噂の娘か」
自分に向けられた舐めるような視線にロゼは寒気を感じ、縋るようにヴァイスの腕を握りしめた。
ディランは顔立ちはヴァイスに似た所があるが、色彩が全く違うせいか…その目つきのせいか、兄弟には見えなかった。
「ふん、剣にしか興味がない奴かと思っていたが。公爵家の娘にいち早く手を出すだけの知恵と出世欲はあったのだな」
「…兄上」
ヴァイスはそっとロゼを抱き寄せ…手を回した背中が震えているのに気づいた。
「———急いでいるので失礼します」
ロゼを抱え込むようにしてヴァイスは兄に背を向け歩き出した。
二人の姿が見えなくなるまでディランはその場に立ち止まり、二人を見つめ続けていた。
「ロゼ…大丈夫か?」
ヴァイスはロゼを覗き込んで、その顔色が青ざめているのに気づいた。
「…少し休もうか」
人気のない中庭へと出るとロゼをベンチに座らせ、その前に膝をついた。
「どうした?」
ロゼはひどく怯えた表情をしていた。
ヴァイスを捉えた虚ろな瞳から大粒の涙が溢れた。
「ロゼ」
慌ててロゼの隣へと腰を下ろしその身体を抱きしめる。
「ロゼ…どうした」
言葉もなくただ震えながら涙を流すロゼに困惑しながらヴァイスはその背中を撫で続けた。
「…ロゼ!」
中庭へフェールが駆け込んできた。
ヴァイスから奪うようにロゼを抱きしめると、ヴァイスを睨みつける。
「何があった」
「———兄と会って少し嫌味を言われたが…何故かひどく怯えているんだ」
「ディランに?」
「…こわい…」
フェールの腕の中から弱々しい声が聞こえた。
「ロゼ?」
「あのひとの…目がこわいの」
ロゼは兄を見上げた。
「お兄様…」
「大丈夫だ」
フェールはロゼを強く抱きしめるとヴァイスを見た。
「何故ディランが王宮へ来ていた?」
「———おそらく俺とロゼの噂を聞きつけて見に来たんだろう」
ヴァイスはため息をついた。
「あの人はいつも俺の動向を気にしているから」
「こんなに怯える相手を兄弟に持つ男に大事な妹は嫁がせられないな」
ロゼの頭を撫でその頭にキスを落としながらフェールは言った。
「———俺は家には戻らないし、もうあの人も近づけさせない」
「家族の縁が切れる訳ではないだろう」
「……何故ロゼはこんなに怯えているんだ」
ロゼを見つめてヴァイスは言った。
確かに、自慢できない兄ではあるし、先刻の印象はかなり悪かったが…これほどまでに怯えるとは。
「…思い出した」
フェールは顔を上げた。
「幼い頃、何かをされた訳でもないのにロゼがひどく怯える使用人がいた。———しばらくしてその男は解雇された…仕事は真面目にやっていたが、自分の子供を虐待していたらしい」
フェールはヴァイスを見た。
「先代のフラーウム公爵によるとロゼは人が秘めている悪意のようなものに敏感らしい」
「悪意…」
「ディランの動向に気をつけろ。あいつは良くない噂も聞くからな」
「———分かった」
フェールの胸に顔を埋めたままのロゼを見つめてヴァイスは答えた。
ロゼは迎えに来たヴァイスと並んで廊下を歩いていた。
「なに、大した事はない」
ヴァイスは笑顔で答えた。
「少しでもロゼと一緒にいたいからな」
さっとロゼの頬が赤く染まった。
「何か分かった事はあったのか」
「はい…私の魔力の事で…」
「ヴァイス」
ランドの所での事をロゼが説明していると、背後から声が聞こえた。
振り返ったロゼの背中をぞくりと冷たいものが走り抜けた。
「久しぶりだな」
一人の男が立っていた。
「…ご無沙汰しています、兄上」
「それが噂の娘か」
自分に向けられた舐めるような視線にロゼは寒気を感じ、縋るようにヴァイスの腕を握りしめた。
ディランは顔立ちはヴァイスに似た所があるが、色彩が全く違うせいか…その目つきのせいか、兄弟には見えなかった。
「ふん、剣にしか興味がない奴かと思っていたが。公爵家の娘にいち早く手を出すだけの知恵と出世欲はあったのだな」
「…兄上」
ヴァイスはそっとロゼを抱き寄せ…手を回した背中が震えているのに気づいた。
「———急いでいるので失礼します」
ロゼを抱え込むようにしてヴァイスは兄に背を向け歩き出した。
二人の姿が見えなくなるまでディランはその場に立ち止まり、二人を見つめ続けていた。
「ロゼ…大丈夫か?」
ヴァイスはロゼを覗き込んで、その顔色が青ざめているのに気づいた。
「…少し休もうか」
人気のない中庭へと出るとロゼをベンチに座らせ、その前に膝をついた。
「どうした?」
ロゼはひどく怯えた表情をしていた。
ヴァイスを捉えた虚ろな瞳から大粒の涙が溢れた。
「ロゼ」
慌ててロゼの隣へと腰を下ろしその身体を抱きしめる。
「ロゼ…どうした」
言葉もなくただ震えながら涙を流すロゼに困惑しながらヴァイスはその背中を撫で続けた。
「…ロゼ!」
中庭へフェールが駆け込んできた。
ヴァイスから奪うようにロゼを抱きしめると、ヴァイスを睨みつける。
「何があった」
「———兄と会って少し嫌味を言われたが…何故かひどく怯えているんだ」
「ディランに?」
「…こわい…」
フェールの腕の中から弱々しい声が聞こえた。
「ロゼ?」
「あのひとの…目がこわいの」
ロゼは兄を見上げた。
「お兄様…」
「大丈夫だ」
フェールはロゼを強く抱きしめるとヴァイスを見た。
「何故ディランが王宮へ来ていた?」
「———おそらく俺とロゼの噂を聞きつけて見に来たんだろう」
ヴァイスはため息をついた。
「あの人はいつも俺の動向を気にしているから」
「こんなに怯える相手を兄弟に持つ男に大事な妹は嫁がせられないな」
ロゼの頭を撫でその頭にキスを落としながらフェールは言った。
「———俺は家には戻らないし、もうあの人も近づけさせない」
「家族の縁が切れる訳ではないだろう」
「……何故ロゼはこんなに怯えているんだ」
ロゼを見つめてヴァイスは言った。
確かに、自慢できない兄ではあるし、先刻の印象はかなり悪かったが…これほどまでに怯えるとは。
「…思い出した」
フェールは顔を上げた。
「幼い頃、何かをされた訳でもないのにロゼがひどく怯える使用人がいた。———しばらくしてその男は解雇された…仕事は真面目にやっていたが、自分の子供を虐待していたらしい」
フェールはヴァイスを見た。
「先代のフラーウム公爵によるとロゼは人が秘めている悪意のようなものに敏感らしい」
「悪意…」
「ディランの動向に気をつけろ。あいつは良くない噂も聞くからな」
「———分かった」
フェールの胸に顔を埋めたままのロゼを見つめてヴァイスは答えた。
82
あなたにおすすめの小説
至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます
下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。
ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。
そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。
「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。
冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。
皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。
小説家になろう、カクヨムでも連載中です。
【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。
第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。
「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。
「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。
だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。
全43話+番外編です。
この度、変態騎士の妻になりました
cyaru
恋愛
結婚間近の婚約者に大通りのカフェ婚約を破棄されてしまったエトランゼ。
そんな彼女の前に跪いて愛を乞うたのは王太子が【ド変態騎士】と呼ぶ国一番の騎士だった。
※話の都合上、少々いえ、かなり変態を感じさせる描写があります。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
【完結】教会で暮らす事になった伯爵令嬢は思いのほか長く滞在するが、幸せを掴みました。
まりぃべる
恋愛
ルクレツィア=コラユータは、伯爵家の一人娘。七歳の時に母にお使いを頼まれて王都の町はずれの教会を訪れ、そのままそこで育った。
理由は、お家騒動のための避難措置である。
八年が経ち、まもなく成人するルクレツィアは運命の岐路に立たされる。
★違う作品「手の届かない桃色の果実と言われた少女は、廃れた場所を住処とさせられました」での登場人物が出てきます。が、それを読んでいなくても分かる話となっています。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていても、違うところが多々あります。
☆現実世界にも似たような名前や地域名がありますが、全く関係ありません。
☆植物の効能など、現実世界とは近いけれども異なる場合がありますがまりぃべるの世界観ですので、そこのところご理解いただいた上で読んでいただけると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる