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第4章 もう一つの魔力
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「あーもう、信じらんない」
ルーチェは大股で長い廊下を歩いていた。
乙女ゲームの世界に転生したといっても、所詮ゲームはゲーム。
実際にこの世界で生きていくには関係ないと思っていた。
けれど前世での親友であった雫と再会した事でその意識は変わった。
———もしも自分がこの世界に転生した事が、彼女の存在と関係あるならば。
自分が優先すべきはロゼだ。
彼女が望むのならば、相手が王太子であろうと…ひるんではいけない。
ユークの攻略方法は分かっているつもりだった。
それまで甘やかされ続けていた彼は我儘に振る舞う事が王子として当然と思っている所があり、そんな彼にそれは良くない事だと、良い王にはなれないと言い続ける。
そうすると…反発しつつもヒロインの言葉を受け入れ、徐々に素直になり心も開いていく。
だから…とりあえず、好感度を上げ過ぎない程度に関わろう、そう思ったのに。
「ホント、信じられない…」
ルーチェは口元を手で覆った。
「何で…何であの状況でキスされるの?!」
何が起きたのか分からなかった。
ようやく理解した時には…ユークに強く抱きすくめられ、唇を塞がれていた。
ルーチェも前世のひかりも男性との交際経験はない。
雫に言い寄る男子たちを追い払っているうちに彼らからは恋愛対象とは見られず、ひかりも興味が持てなかった。
そして恋愛よりも政略的に結婚相手が決まる貴族の下の方に生まれたルーチェにとっても縁のないものであり…これがファーストキスだった。
(どこで…間違えたんだろう)
ゲームならば、いくつかの選択肢の中からセリフを選べばいいのに。
現実は全て自分で言葉を考えなければならないから…何かおかしな事を言ってしまっただろうか。
(でもどこにも…キス…される要素なんてなかった気がするけど…)
ルーチェはまだ感触の残る唇をそっと指で押さえた。
最初は強く唇を押し付けられ痛みを感じたが…すぐにその感覚は柔らかなものになった。
甘い刺激と息苦しさに耐えきれなくなったルーチェが喘ぐように熱を帯びた息を吐くとようやくユークはその唇を離した。
「———女らしい反応もできるんだな」
ルーチェと視線を合わせ、ユークは勝ち誇ったような笑みをその口元に浮かべた。
「…最っ低!」
気づいたらパシン!と派手な音を立ててユークの頬を叩いていた。
「殿下?!」
大きな音と声に隣の部屋で控えていたオリエンスが慌てて開けた扉から、すり抜けるようにルーチェは飛び出てきたのだ。
「ああもう…ホント最低」
再び王太子に手を挙げてしまった自分も、勝手にファーストキスを奪ったユークも。
ムカムカしながら歩いていると、中庭のベンチに見覚えのある黒と白銀色の髪の男性が座っているのが見えた。
そして二人の間にある、小さな黒い頭。
「ロゼ様」
小さく呟いたつもりだったが、ルーチェの声に反応するようにロゼが顔を上げた。
「———ルーチェ…」
ロゼはベンチから立ち上がるとルーチェに向かって駆け出し、その勢いのまま抱きついてきた。
「ロゼ様?」
ロゼを抱きとめて…その身体から何か暗い〝気〟を感じるのにルーチェは気づいた。
「…ロゼ様…何かあったのですか」
「こわかったの…」
「怖い?」
———ああ、これがロゼ様の〝魔力〟か。
ロゼの身体から発せられるそれは冷たくて彼女の不安な心を表しているようだった。
「大丈夫」
ぎゅっとロゼを抱きしめたルーチェの髪が淡い光を放った。
「…何だ…?」
放たれた光が二人を包み込むのを、フェールとヴァイスは息を飲んで見つめた。
「これはこれは」
振り返るとランドが楽しそうな表情を浮かべて立っていた。
「魔力の乱れを感じて来てみたら」
「ランド…あれは何だ」
ヴァイスが口を開いた。
「あの侍女は一体…」
「彼女は二百年振りに現れた、我々とは異なる魔力を持つ娘だ」
ランドはフェールとヴァイスを見て言った。
「異なる魔力?」
「どういう事だ」
「それは…」
言いかけて、ランドは視線を廊下へと向けた。
ユークが呆然とした顔で光に包まれるルーチェとロゼを見つめていた。
その後ろのオリエンスが説明を求めるような顔でランドを見た。
光が消えた。
「ロゼ様…大丈夫ですか?」
ロゼの魔力が温かなものへと変わったのを確認してルーチェは口を開いた。
「…ええ」
ルーチェを見ると、ロゼはほっとしたような笑顔を向けた。
「ありがとう、ルーチェ」
「良かったです」
「ルーチェ」
ロゼと笑みを交わしあっていたルーチェは振り返った。
「…殿下」
ユークはルーチェの目の前に立った。
「君は一体…」
「場所を移動しようか」
ランドの声に一同はそちらを見た。
「せっかく色持ちが揃った事だし、ね」
一同を見渡してランドは言った。
ルーチェは大股で長い廊下を歩いていた。
乙女ゲームの世界に転生したといっても、所詮ゲームはゲーム。
実際にこの世界で生きていくには関係ないと思っていた。
けれど前世での親友であった雫と再会した事でその意識は変わった。
———もしも自分がこの世界に転生した事が、彼女の存在と関係あるならば。
自分が優先すべきはロゼだ。
彼女が望むのならば、相手が王太子であろうと…ひるんではいけない。
ユークの攻略方法は分かっているつもりだった。
それまで甘やかされ続けていた彼は我儘に振る舞う事が王子として当然と思っている所があり、そんな彼にそれは良くない事だと、良い王にはなれないと言い続ける。
そうすると…反発しつつもヒロインの言葉を受け入れ、徐々に素直になり心も開いていく。
だから…とりあえず、好感度を上げ過ぎない程度に関わろう、そう思ったのに。
「ホント、信じられない…」
ルーチェは口元を手で覆った。
「何で…何であの状況でキスされるの?!」
何が起きたのか分からなかった。
ようやく理解した時には…ユークに強く抱きすくめられ、唇を塞がれていた。
ルーチェも前世のひかりも男性との交際経験はない。
雫に言い寄る男子たちを追い払っているうちに彼らからは恋愛対象とは見られず、ひかりも興味が持てなかった。
そして恋愛よりも政略的に結婚相手が決まる貴族の下の方に生まれたルーチェにとっても縁のないものであり…これがファーストキスだった。
(どこで…間違えたんだろう)
ゲームならば、いくつかの選択肢の中からセリフを選べばいいのに。
現実は全て自分で言葉を考えなければならないから…何かおかしな事を言ってしまっただろうか。
(でもどこにも…キス…される要素なんてなかった気がするけど…)
ルーチェはまだ感触の残る唇をそっと指で押さえた。
最初は強く唇を押し付けられ痛みを感じたが…すぐにその感覚は柔らかなものになった。
甘い刺激と息苦しさに耐えきれなくなったルーチェが喘ぐように熱を帯びた息を吐くとようやくユークはその唇を離した。
「———女らしい反応もできるんだな」
ルーチェと視線を合わせ、ユークは勝ち誇ったような笑みをその口元に浮かべた。
「…最っ低!」
気づいたらパシン!と派手な音を立ててユークの頬を叩いていた。
「殿下?!」
大きな音と声に隣の部屋で控えていたオリエンスが慌てて開けた扉から、すり抜けるようにルーチェは飛び出てきたのだ。
「ああもう…ホント最低」
再び王太子に手を挙げてしまった自分も、勝手にファーストキスを奪ったユークも。
ムカムカしながら歩いていると、中庭のベンチに見覚えのある黒と白銀色の髪の男性が座っているのが見えた。
そして二人の間にある、小さな黒い頭。
「ロゼ様」
小さく呟いたつもりだったが、ルーチェの声に反応するようにロゼが顔を上げた。
「———ルーチェ…」
ロゼはベンチから立ち上がるとルーチェに向かって駆け出し、その勢いのまま抱きついてきた。
「ロゼ様?」
ロゼを抱きとめて…その身体から何か暗い〝気〟を感じるのにルーチェは気づいた。
「…ロゼ様…何かあったのですか」
「こわかったの…」
「怖い?」
———ああ、これがロゼ様の〝魔力〟か。
ロゼの身体から発せられるそれは冷たくて彼女の不安な心を表しているようだった。
「大丈夫」
ぎゅっとロゼを抱きしめたルーチェの髪が淡い光を放った。
「…何だ…?」
放たれた光が二人を包み込むのを、フェールとヴァイスは息を飲んで見つめた。
「これはこれは」
振り返るとランドが楽しそうな表情を浮かべて立っていた。
「魔力の乱れを感じて来てみたら」
「ランド…あれは何だ」
ヴァイスが口を開いた。
「あの侍女は一体…」
「彼女は二百年振りに現れた、我々とは異なる魔力を持つ娘だ」
ランドはフェールとヴァイスを見て言った。
「異なる魔力?」
「どういう事だ」
「それは…」
言いかけて、ランドは視線を廊下へと向けた。
ユークが呆然とした顔で光に包まれるルーチェとロゼを見つめていた。
その後ろのオリエンスが説明を求めるような顔でランドを見た。
光が消えた。
「ロゼ様…大丈夫ですか?」
ロゼの魔力が温かなものへと変わったのを確認してルーチェは口を開いた。
「…ええ」
ルーチェを見ると、ロゼはほっとしたような笑顔を向けた。
「ありがとう、ルーチェ」
「良かったです」
「ルーチェ」
ロゼと笑みを交わしあっていたルーチェは振り返った。
「…殿下」
ユークはルーチェの目の前に立った。
「君は一体…」
「場所を移動しようか」
ランドの声に一同はそちらを見た。
「せっかく色持ちが揃った事だし、ね」
一同を見渡してランドは言った。
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