異世界転移したと思ったら、実は乙女ゲームの住人でした

冬野月子

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第4章 もう一つの魔力

06

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「二百年前の王妃の話を覚えているか」
図書館長室に入るとランドは言った。

「二百年前?」
「今の五家の体制になった時、別の世界からやってきた女性が王妃となったんだ」
あの場にいなかったヴァイスにランドは説明した。
「王妃は我々とは異なる魔力を持っていた。それがどんなものかは分からないが…薄紅色の髪色で名前を〝ルーチェ〟と言った」

「何?」
ユークはルーチェを見た。
「それは…」
「———そういえばルーチェも異世界から来たのだったな」
フェールが言った。

「何だと?」
「知っていたのか」
「そこでロゼが彼女に世話になっていたんだ」
そう言ってフェールは隣に座るロゼの頭を撫でた。

「…それはつまり、ロゼが飛ばされた先の世界にルーチェがいたという事か?」
オリエンスが尋ねた。

「———そうですが…正確には」
ルーチェが口を開いた。
「私は…この国の人間として十八年前に転生しました」

「転生?」
「ロゼ様が向こうの世界から消えてから半年後に…突然白い光に包まれました。そして目の前に現れた人のようなものに頼まれて、何故か…過去に遡りこの世界に生まれ変わったんです」
「確認したいんだけど、その時何を言われた?」
ランドの問いに、ルーチェは視線を宙へ向けた。


「…光の乙女である私に…助けて欲しい、と」

「助ける?何を」
「…具体的には…ただ〝彼女をお願いします〟と」
そう言ってルーチェはロゼを見た。
「〝彼女〟とはロゼ様の事だと、私は思います」

「誰に言われたのだ」
ユークが尋ねた。
「女性の声という事しか分かりません。姿も分かりませんでしたし名乗らなかったので…」



「———本当の事なのか」
ヴァイスがランドを見て言った。

「現に彼女は我々と異なる魔力を持っている。彼女の力は先刻見ただろう」
「それはそうだが…別の世界から来るというのも不思議だが。彼女の話を聞く限り何者かが意図を持って過去に生まれ変わらせたという事になる。そんな事ができる者がいるとは…」
「それを言えば我々の魔力だってそうだ」
ランドは言った。

「魔力を持つ者が生まれたのは二百五十年前、戦乱が一番激しい頃だ。そして二百年前に異世界から魔力持ちの女性が現れ戦乱が終わった。これも何者かの意図によるものと考えた方が道理だろう」
「…同一人物だと?」
「おそらくはね。五家に魔力を与えたのは女神だと伝えられているだろう」

「それも不思議な話だな」
オリエンスが口を開いた。
「確かにそう聞かされているが、この国に女神信仰はない。もしもそんな力を持つ女神がいるのならば他にももっと逸話なり伝わっているはずだが」
「魔力に関して伝わっている事も書き記されている事も少なすぎるんだ」
ランドはため息をついた。
「意図的に隠されているのかも分からない。…だがおそらく魔力を必要としていたのは二百年以上前の戦乱の時期。今はもう魔法で戦う事もないからな、再び戦乱の時代に戻らない限り、廃れていくのだろう」

「———ならば、何故二百年前の王妃と同じ色と名前を持つルーチェが生まれた?」
ルーチェに視線を送りながらフェールが言った。
「何かこの国に危機でも迫っているのか」



「それに関しては…推測だが、ロゼの存在だろうな」
ランドの言葉にロゼは目を見開いた。
「ロゼには言ったけれど、これまで女性の色持ちが生まれた事はなかった」
ランドは一同を見渡した。

「何だと」
「幼い時の異常な魔力の高さといい、ロゼの存在は特殊なのだろう。そのロゼを守るためにルーチェの魔力が必要だとすれば、転生した時に言われたという言葉にも納得がいく」

「…私……」
胸に不安が広がり、自分の手を握りしめたロゼの手をフェールがそっと包み込んだ。
「ではルーチェがいればロゼの魔力は安定するのだな」
「ああ、先刻見た通りだ」
「ならばルーチェはうちに来てもらおうか」
ロゼを見てフェールは言った。
「お披露目前に少しでも不安は減らしておきたい」


「それは駄目だ」
ユークは声を上げた。
「ルーチェは私の侍女だ」
「侍女など他にもいるでしょう」
「代わりなどいないし、それにもうルーチェは私のものだ」

ユークの言葉に沈黙が生まれ…ルーチェは顔を引きつらせた。



「…殿下…」
同じように顔を引きつらせたオリエンスが口を開いた。
「まさかとは思いますが…お二人は…」
「口づけを交わした仲だ」

「ちょっと!」
思わずルーチェは立ち上がった。
「あれは殿下が勝手に…!」
「満更でもない顔をしていただろう」
「…ホント最低!!」
ルーチェは拳を握りしめたが、他の者たちがいる前で止めるだけの理性はまだ残っていた。

「殿下…流石にそれは…」
侍女であり下級とはいえ、一応ルーチェも貴族令嬢である。
未婚の令嬢に同意なく口付けるというのはいくら王太子とはいえ問題だ。

「責任なら取るぞ」
しれっとした顔でユークは行った。
「それにルーチェは王妃だった光の乙女とやらの再来なのだろう。ならば私の妃となるべきだ」

「勝手に決めつけないで下さい」
ルーチェは握りしめた拳を震わせた。
「私がここにいるのはロゼ様を守るためです!」
「ロゼロゼと、そんなにロゼがいいのか」
「当たり前です」


ユークとルーチェのやり取りをロゼはハラハラしながら見守っていた。
———昔からひかりは雫の事になると妙に意地っ張りになる所があった。
気が弱い雫がいつもひかりに隠れるように後をついていたせいか、雫を守らなければという意識が強いのだ。

「…随分と執着しているな、珍しい」
ポツリとフェールが呟いた。

「殿下の周りにはいない珍しいタイプだからかもしれないが…」
「ルーチェの方は全くその気はないようだな」
オリエンスとランドが応える。

「ロゼ?大丈夫か」
顔色の良くないロゼを見てヴァイスが声を掛けた。
「…心配で…」
「心配?」
「ルーチェには…絶対彼女に言ってはいけない言葉があるんです」
「言ってはいけない?それは…」


「大体助けるだの守るだの、女の手で何が出来るというんだ」
聞こえてきたユークの言葉にロゼは息を飲んだ。
「そういう事は男の…」
ダンッと激しい音が響いた。

「———女だから出来ないって、決めつけないで頂けますか」
握ったままのルーチェの拳がテーブルを叩きつけていた。

「そうやって女を下に見る人、大っ嫌いなんですよね」
冷え切った青い瞳がユークを見据えていた。
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