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第6章 お披露目
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「ごちそうさまでした…」
立て続けに三杯飲むと、ようやく落ち着いたようにルーチェは息をついた。
「はあ…幸せ…」
「———そんなに好きなのか」
心から満足そうな笑みを浮かべるルーチェを見てユークは言った。
「はい…本当にありがとうございました」
ユークに礼を言うと、ルーチェはロゼを見た。
「ロゼもありがとう」
「ルーチェの口に合う味で良かったわ」
日本で飲めるコーヒーとは全く別物かもしれないし、豆は同じでも作り方は違う事もあると危惧していたが、彼女の表情を見る限り問題はないようだった。
「そうね…豆に問題はなさそうだけど、淹れ方がちょっと…」
言いかけてルーチェは慌てて口をつぐんだ。
「…いえ…美味しかったです…」
「これを分けてくれた商人に作り方も聞いたんだけど、お茶とは違うからね。慣れてないんだ」
気にする風もなくオリエンスが言った。
「今度来る時に豆と専用の道具を持ってくると言っていたよ」
「本当ですか」
「そうだな、私の妃になれば毎日飲めるぞ」
「え…」
「乗り気になったか」
思わず目を輝かせたルーチェにユークは口角を上げた。
「く…コーヒーで釣るなんてずるい…」
「本当に好きなのだな」
笑いながらそう言ってユークは立ち上がると、ルーチェに向かって手を差し出した。
「せっかく庭園に来たのだ。少し歩かないか」
「え…」
「今が一番花が多くて綺麗なんだ」
「……はい」
ずいと目の前に差し出された手にルーチェは自分の手を乗せた。
重ねられたルーチェの手を握って立ち上がらせると、ユークはその腰に手を回した。
「ちょっ…」
「しばらく散策してくる」
「どうぞ、ごゆっくり」
ユークと彼に引きずられるようにルーチェが庭園の垣根の向こうへと消えていくのを見送って、オリエンスは残った二人を振り返った。
「お茶を用意させよう。正直コフィーは私の口には合わなくてね、口直ししたいんだ」
「はい」
苦笑するオリエンスにロゼは頷いた。
「ロゼのお披露目まであと十日だね」
お茶を飲みながらオリエンスは言った。
「準備は順調かい」
「はい…多分」
「多分?」
「お披露目や社交界がどういうものかよく分からなくて…上手く振る舞えるのか不安で…」
公爵家や王家の人たちとは交流する機会があるけれど、彼らは身内のような立場だ。
それ以外の侯爵以下の貴族に自分がどう見られて、どう思われるのか。
これまで貴族社会とは離れた場所にいたロゼには想像もつかなかった。
「ロゼは今のままで充分だよ。笑顔さえ絶やさなければ」
「笑顔…」
「笑顔は盾だからね、相手に隙を与えないための」
オリエンスは指を口端に当てるとく、と持ち上げた。
「もしかしたら変な事を言われるかもしれないけど、気にせず笑顔でやり過ごしていればいいからね」
「…はい」
ロゼは神妙に頷いた。
「主役はロゼなんだから強気でいればいいよ。———ところで」
オリエンスはヴァイスを見た。
「ディランが病気で倒れたんだって?」
「……いや、違う」
「違う?」
「実際は病気ではなく行方不明だ」
ヴァイスは深くため息をついた。
「どういう事だ」
「…あいつはうちの鉱山の一つを他国に売ろうとしていたんだ」
「は?」
オリエンスは目を見開いた。
国の西部にあるアルジェント領は国内有数の鉱物の産地で、特に良質な鉄は武器の材料として欠かせないものだった。
ロゼのディランへの反応を見たフェールからの忠告を受け、ディランの動向を調べていた所、その国防にも関わる重要な鉱山を他国の武器商人に売ろうとしていた事が分かったのだ。
「まさか…謀反を…?」
「さあ、そこまで考えていたかどうか。売却は未然に防いだのだが、当人の行方が分からない。今内密に捜索している所だ」
「…そんな重要な件、何故こちらまで話が来ていないんだ?」
「———公爵家の嫡男が起こした事件だからな、極力隠匿したいと陛下の意向だ」
ヴァイスはもう一度ため息をついた。
「あいつを確保した後は、表向き病死という事にして内密に処分するそうだ」
「…なるほどね」
「全く、これだから貴族は」
「だがそれが公になればお前の一族やロゼにも傷がつくだろう」
不快な表情を見せるヴァイスにオリエンスは苦笑した。
「我々五家は国の頂点に立ち続けなければならない。仕方ない事だ」
「仕方ないで済ませる事など…」
「ディランが消えればお前が公爵家を継ぐ事になるんだ。次期公爵として理不尽な事でも受け入れろ」
幼い時からヴァイスは人一倍正義感が強く、腹の探り合いや謀略の多い貴族社会に馴染めなかった。
そんな彼が、公爵家の当主になる事になろうとは。
「———」
ヴァイスは三度深いため息をついた。
「…まったく。当主になどなったらロゼと外国に逃亡できないじゃないか」
「は?逃亡?」
「いざという時はこの国を出るつもりだったんだが…」
「待て、何だいざという時というのは」
オリエンスはヴァイスとロゼを交互に見た。
「ええと…この間我が家で色々ありまして」
ヴァイスの代わりにロゼが先日の事を説明した。
「ふうん。そのセレネという女性の話はランドから聞いたけど。そんな事もあったの」
ロゼの話を聞き終えてオリエンスは頷いた。
「難しいね、個人を取るか国を取るか。———でも、そういう事態にならないように努めるのが一番大事だと思うよ」
穏やかな眼差しをロゼに向けながらオリエンスはそう言った。
立て続けに三杯飲むと、ようやく落ち着いたようにルーチェは息をついた。
「はあ…幸せ…」
「———そんなに好きなのか」
心から満足そうな笑みを浮かべるルーチェを見てユークは言った。
「はい…本当にありがとうございました」
ユークに礼を言うと、ルーチェはロゼを見た。
「ロゼもありがとう」
「ルーチェの口に合う味で良かったわ」
日本で飲めるコーヒーとは全く別物かもしれないし、豆は同じでも作り方は違う事もあると危惧していたが、彼女の表情を見る限り問題はないようだった。
「そうね…豆に問題はなさそうだけど、淹れ方がちょっと…」
言いかけてルーチェは慌てて口をつぐんだ。
「…いえ…美味しかったです…」
「これを分けてくれた商人に作り方も聞いたんだけど、お茶とは違うからね。慣れてないんだ」
気にする風もなくオリエンスが言った。
「今度来る時に豆と専用の道具を持ってくると言っていたよ」
「本当ですか」
「そうだな、私の妃になれば毎日飲めるぞ」
「え…」
「乗り気になったか」
思わず目を輝かせたルーチェにユークは口角を上げた。
「く…コーヒーで釣るなんてずるい…」
「本当に好きなのだな」
笑いながらそう言ってユークは立ち上がると、ルーチェに向かって手を差し出した。
「せっかく庭園に来たのだ。少し歩かないか」
「え…」
「今が一番花が多くて綺麗なんだ」
「……はい」
ずいと目の前に差し出された手にルーチェは自分の手を乗せた。
重ねられたルーチェの手を握って立ち上がらせると、ユークはその腰に手を回した。
「ちょっ…」
「しばらく散策してくる」
「どうぞ、ごゆっくり」
ユークと彼に引きずられるようにルーチェが庭園の垣根の向こうへと消えていくのを見送って、オリエンスは残った二人を振り返った。
「お茶を用意させよう。正直コフィーは私の口には合わなくてね、口直ししたいんだ」
「はい」
苦笑するオリエンスにロゼは頷いた。
「ロゼのお披露目まであと十日だね」
お茶を飲みながらオリエンスは言った。
「準備は順調かい」
「はい…多分」
「多分?」
「お披露目や社交界がどういうものかよく分からなくて…上手く振る舞えるのか不安で…」
公爵家や王家の人たちとは交流する機会があるけれど、彼らは身内のような立場だ。
それ以外の侯爵以下の貴族に自分がどう見られて、どう思われるのか。
これまで貴族社会とは離れた場所にいたロゼには想像もつかなかった。
「ロゼは今のままで充分だよ。笑顔さえ絶やさなければ」
「笑顔…」
「笑顔は盾だからね、相手に隙を与えないための」
オリエンスは指を口端に当てるとく、と持ち上げた。
「もしかしたら変な事を言われるかもしれないけど、気にせず笑顔でやり過ごしていればいいからね」
「…はい」
ロゼは神妙に頷いた。
「主役はロゼなんだから強気でいればいいよ。———ところで」
オリエンスはヴァイスを見た。
「ディランが病気で倒れたんだって?」
「……いや、違う」
「違う?」
「実際は病気ではなく行方不明だ」
ヴァイスは深くため息をついた。
「どういう事だ」
「…あいつはうちの鉱山の一つを他国に売ろうとしていたんだ」
「は?」
オリエンスは目を見開いた。
国の西部にあるアルジェント領は国内有数の鉱物の産地で、特に良質な鉄は武器の材料として欠かせないものだった。
ロゼのディランへの反応を見たフェールからの忠告を受け、ディランの動向を調べていた所、その国防にも関わる重要な鉱山を他国の武器商人に売ろうとしていた事が分かったのだ。
「まさか…謀反を…?」
「さあ、そこまで考えていたかどうか。売却は未然に防いだのだが、当人の行方が分からない。今内密に捜索している所だ」
「…そんな重要な件、何故こちらまで話が来ていないんだ?」
「———公爵家の嫡男が起こした事件だからな、極力隠匿したいと陛下の意向だ」
ヴァイスはもう一度ため息をついた。
「あいつを確保した後は、表向き病死という事にして内密に処分するそうだ」
「…なるほどね」
「全く、これだから貴族は」
「だがそれが公になればお前の一族やロゼにも傷がつくだろう」
不快な表情を見せるヴァイスにオリエンスは苦笑した。
「我々五家は国の頂点に立ち続けなければならない。仕方ない事だ」
「仕方ないで済ませる事など…」
「ディランが消えればお前が公爵家を継ぐ事になるんだ。次期公爵として理不尽な事でも受け入れろ」
幼い時からヴァイスは人一倍正義感が強く、腹の探り合いや謀略の多い貴族社会に馴染めなかった。
そんな彼が、公爵家の当主になる事になろうとは。
「———」
ヴァイスは三度深いため息をついた。
「…まったく。当主になどなったらロゼと外国に逃亡できないじゃないか」
「は?逃亡?」
「いざという時はこの国を出るつもりだったんだが…」
「待て、何だいざという時というのは」
オリエンスはヴァイスとロゼを交互に見た。
「ええと…この間我が家で色々ありまして」
ヴァイスの代わりにロゼが先日の事を説明した。
「ふうん。そのセレネという女性の話はランドから聞いたけど。そんな事もあったの」
ロゼの話を聞き終えてオリエンスは頷いた。
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穏やかな眼差しをロゼに向けながらオリエンスはそう言った。
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