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第7章 月の女神と光の乙女
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「…ん…」
身体に痛みを感じてロゼは目を覚ました。
(痛い…?)
寝返りを打とうとして…手も、足も上手く動かせない事に気付く。
「え…?」
ロゼははっきりと目を覚ました。
薄暗い部屋だった。
狭く埃っぽい、小屋のような場所だ。
その片隅にある質素なベッドにロゼは横たわっていた———手足を縛られて。
(何これ…どうして…)
「あ…」
意識を失う直前の記憶が蘇った。
馬車に乗り込んできた、ディランと見知らぬ男に変な臭いのする布で口を塞がれたのだ。
(これっていわゆる…誘拐よね)
あの書状と馬車はディランの差し金だったのだろうか。
未だアルジェント家の嫡男である彼ならば…用意するのは難しくないはすだ。
———しかし…何の目的で自分を誘拐したのだろう。
「…う…」
ベッドの下から呻き声が聞こえてロゼは身体を硬らせた。
だがそれが女性の声と気付き、侍女と一緒だった事を思い出した。
「ハンナ…?」
「…おじょう…さま…?」
下で人が動く気配がする。
「これは…お嬢様…どこに…」
「上よ」
「上…?」
しばらくして下から白い帽子が現れた。
「お嬢様!お怪我は…!」
「大丈夫よ、あなたは?」
「私の事など…」
ハンナは周囲を見回した。
「ここは…」
「分からないけれど…誘拐されたみたい」
「なっ」
ロゼは窓に視線を送った。
薄いカーテンから白い日差しが差し込むのをみると、まだ夕方にはなっていないようだった。
どれくらい気を失っていたかは分からないけれど、そう時間は経っていないように思えた。
(脱出…は無理よね)
二人とも手足を縛られているのだ。
こういう時、ドラマとかで互いに縄を切ったりするけれど…ロゼにそんなスキルはない。
(水魔法…じゃ切れないし。そもそも魔法の使い方…知らないし)
それでも何か魔力による解決策を得られたかもしれない。
———こんな事なら魔力を怖がってなどいないで、父や兄に魔法の使い方を教わっておけばよかった。
今更ながら後悔していると、扉が開く音が聞こえた。
「目覚めたか」
ディランの背後には、先刻とは違う男が立っていた。
「どうだ、これがノワールの色持ちだ」
「これはこれは美しい…」
値踏みするようにロゼを見る男の視線にロゼはゾッとした。
男はディランと同じ、嫌な気配に満ちていた。
(大丈夫…嫌だけど怖くない…)
ロゼは自分に言い聞かせた。
ランドから、ディランを恐れるなと言われた。
人は多かれ少なかれ誰もが悪意を持っている。
持っているだけでは恐ろしくないのだと。
ロゼは心を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いた。
「…ディラン様…これは一体…」
「せっかくもう少しで鉱山を売り飛ばせる所で邪魔されたが、代わりに色持ちの娘を買いたいそうだ」
ディランは背後の男を見た。
これがヴァイスの言っていた、他国の武器商人だろうか。
「お嬢様を…買う…?」
ハンナが声を震わせた。
「何故そんな事を…」
「オレオール王国の五家の血は他国に取っても魅力的なのですよ」
嫌な笑みを浮かべて男が答えた。
「けれどその血は門外不出、他国と交わる事はなかった。そんな所に色持ちの娘がいるという噂が流れてきましてね、一部の王侯貴族が騒ついているんですよ。大丈夫、一番条件の良い所に渡しますから苦労はしませんよ」
———それは誰にとっての良い条件なのか。
公爵家の娘を他国に売るなど…どう考えても争いの火種になるのに。
おそらく商人の方はこれをきっかけに戦争が起きてくれればさらに儲かるという腹なのだろう。
ディランは…金が優先か、それとも…
「ディラン様…何故このような事を」
「ふん、この国の貴族どもは色持ちというだけで俺より弟の方が当主にふさわしいと騒ぐ。そんなくだらない国を捨てるのに金が必要なんだよ」
(貴族嫌いなのは兄弟お揃いなのね…)
その理由や志には天と地ほどの差があるけれど。
「そんな理由でお嬢様を…!」
ハンナはディランをきっと睨みつけた。
「侍女の分際で生意気だな」
眉をひそめたディランは、ふいにその顔をいびつに歪めた。
「本当はあいつへの腹いせにお前に手を付けたいが、商品に傷を付けたら値段が下がるからな」
ロゼを横目で見てそう言うと、ディランはハンナに向いた。
「潜伏生活が続いて溜まってんだ、楽しませてもらうぜ」
ざわり、とロゼの胸の奥に不快な感情が蠢いた。
「おいおい、お嬢様の目の前だぜ」
商人が呆れたように声をかける。
「ふん、目の前で自分の侍女が汚され絶望する顔くらい見せてもらわないとな。何せあいつが全部奪っていくんだから」
「…やめて…」
「きゃあぁ!」
布が裂ける音と同時にハンナの悲鳴が上がった。
「いやぁ!やぁ!」
「うるさい!」
バシンと派手な音を立てて頬を叩かれたハンナが床に倒れこんだ。
「痛い目に合いたくなければ大人しくしてろ」
ディランの手がハンナのスカートを捲り上げた瞬間。
ロゼの視界が真っ白に弾けた。
身体に痛みを感じてロゼは目を覚ました。
(痛い…?)
寝返りを打とうとして…手も、足も上手く動かせない事に気付く。
「え…?」
ロゼははっきりと目を覚ました。
薄暗い部屋だった。
狭く埃っぽい、小屋のような場所だ。
その片隅にある質素なベッドにロゼは横たわっていた———手足を縛られて。
(何これ…どうして…)
「あ…」
意識を失う直前の記憶が蘇った。
馬車に乗り込んできた、ディランと見知らぬ男に変な臭いのする布で口を塞がれたのだ。
(これっていわゆる…誘拐よね)
あの書状と馬車はディランの差し金だったのだろうか。
未だアルジェント家の嫡男である彼ならば…用意するのは難しくないはすだ。
———しかし…何の目的で自分を誘拐したのだろう。
「…う…」
ベッドの下から呻き声が聞こえてロゼは身体を硬らせた。
だがそれが女性の声と気付き、侍女と一緒だった事を思い出した。
「ハンナ…?」
「…おじょう…さま…?」
下で人が動く気配がする。
「これは…お嬢様…どこに…」
「上よ」
「上…?」
しばらくして下から白い帽子が現れた。
「お嬢様!お怪我は…!」
「大丈夫よ、あなたは?」
「私の事など…」
ハンナは周囲を見回した。
「ここは…」
「分からないけれど…誘拐されたみたい」
「なっ」
ロゼは窓に視線を送った。
薄いカーテンから白い日差しが差し込むのをみると、まだ夕方にはなっていないようだった。
どれくらい気を失っていたかは分からないけれど、そう時間は経っていないように思えた。
(脱出…は無理よね)
二人とも手足を縛られているのだ。
こういう時、ドラマとかで互いに縄を切ったりするけれど…ロゼにそんなスキルはない。
(水魔法…じゃ切れないし。そもそも魔法の使い方…知らないし)
それでも何か魔力による解決策を得られたかもしれない。
———こんな事なら魔力を怖がってなどいないで、父や兄に魔法の使い方を教わっておけばよかった。
今更ながら後悔していると、扉が開く音が聞こえた。
「目覚めたか」
ディランの背後には、先刻とは違う男が立っていた。
「どうだ、これがノワールの色持ちだ」
「これはこれは美しい…」
値踏みするようにロゼを見る男の視線にロゼはゾッとした。
男はディランと同じ、嫌な気配に満ちていた。
(大丈夫…嫌だけど怖くない…)
ロゼは自分に言い聞かせた。
ランドから、ディランを恐れるなと言われた。
人は多かれ少なかれ誰もが悪意を持っている。
持っているだけでは恐ろしくないのだと。
ロゼは心を落ち着かせるようにゆっくりと息を吐いた。
「…ディラン様…これは一体…」
「せっかくもう少しで鉱山を売り飛ばせる所で邪魔されたが、代わりに色持ちの娘を買いたいそうだ」
ディランは背後の男を見た。
これがヴァイスの言っていた、他国の武器商人だろうか。
「お嬢様を…買う…?」
ハンナが声を震わせた。
「何故そんな事を…」
「オレオール王国の五家の血は他国に取っても魅力的なのですよ」
嫌な笑みを浮かべて男が答えた。
「けれどその血は門外不出、他国と交わる事はなかった。そんな所に色持ちの娘がいるという噂が流れてきましてね、一部の王侯貴族が騒ついているんですよ。大丈夫、一番条件の良い所に渡しますから苦労はしませんよ」
———それは誰にとっての良い条件なのか。
公爵家の娘を他国に売るなど…どう考えても争いの火種になるのに。
おそらく商人の方はこれをきっかけに戦争が起きてくれればさらに儲かるという腹なのだろう。
ディランは…金が優先か、それとも…
「ディラン様…何故このような事を」
「ふん、この国の貴族どもは色持ちというだけで俺より弟の方が当主にふさわしいと騒ぐ。そんなくだらない国を捨てるのに金が必要なんだよ」
(貴族嫌いなのは兄弟お揃いなのね…)
その理由や志には天と地ほどの差があるけれど。
「そんな理由でお嬢様を…!」
ハンナはディランをきっと睨みつけた。
「侍女の分際で生意気だな」
眉をひそめたディランは、ふいにその顔をいびつに歪めた。
「本当はあいつへの腹いせにお前に手を付けたいが、商品に傷を付けたら値段が下がるからな」
ロゼを横目で見てそう言うと、ディランはハンナに向いた。
「潜伏生活が続いて溜まってんだ、楽しませてもらうぜ」
ざわり、とロゼの胸の奥に不快な感情が蠢いた。
「おいおい、お嬢様の目の前だぜ」
商人が呆れたように声をかける。
「ふん、目の前で自分の侍女が汚され絶望する顔くらい見せてもらわないとな。何せあいつが全部奪っていくんだから」
「…やめて…」
「きゃあぁ!」
布が裂ける音と同時にハンナの悲鳴が上がった。
「いやぁ!やぁ!」
「うるさい!」
バシンと派手な音を立てて頬を叩かれたハンナが床に倒れこんだ。
「痛い目に合いたくなければ大人しくしてろ」
ディランの手がハンナのスカートを捲り上げた瞬間。
ロゼの視界が真っ白に弾けた。
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