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《シャーロットが帝王となった場合のifルート》第2部 8歳〜アストレカ大陸編【ガーランド法王国
間者の正体
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聖女帰還記念パーティー、緊急に開催されたものの、王都に住む多くの貴族達が、私のために出席してくれた。国王様がとある事件を起こしたものの、出席者全員が王妃様の忠告を守ったおかげもあって、被害は本人だけで済んだ。また、本日3回目のやらかしを防ぐため、私は従魔達全員に【やらかし限度回数】のことを通信で伝えておいた。今後、カムイやデッドスクリームといった従魔達が何かやらかしても、私の分として認定されてしまう。これはある意味、私の弱点となるから、呉々も気をつけるよう強く厳命しておいたけど、不安しかない。
従魔達の中でも、最もやらかし率が高いのはカムイ、次いでドール族となる。ぬいぐるみ達もいるのだけど、現在の彼らの力量はC~Dランク程ということもあって、まずやらかすことはないだろう。というかさ、私よりもガーランド様の方がダメでしょ? 良かれと思ってか、人のステータスに【やらかしまで30秒前】と表示させるとかありえないでしょ? いつか簡易神具で、ガーランド様専用お仕置きマシーンを製作してやる!! 私一人で考えてしまうと、どうしても偏ったものになる傾向があるから、フレヤにいつか相談しよう。
…………
パーティーもいよいよ終盤、そろそろ国王様が閉会を宣言する頃合いかな? さっき、フレヤから教会の進捗状況を聞いたけど、私を教会に滞在させるための準備に少し手間取っているらしく、しばらくの間はエルバラン家別邸に滞在してほしいとお願いされた。また、私が正式に教会所属となった後、聖女関係の仕事が押し寄せてくるだろうから、今のうちに友人達と話し合っておいた方がいいとも言われた。フレヤ自身が聖女代理として働いているから、相当忙しいのかもしれない。それだったら、ここにはオーキスやリーラもいるのだから、三人を家に招待してみよう。
「リーラとオーキスは、何処で泊まっているの?」
「私は、マクレン家別邸だよ。お父様もお母様も、滅多に王都には来ないんだけど、一応建ててあるの。王都で雇った人達が管理してくれてるから、いつでも綺麗にしてあるんだ。シャーロットの家から近い場所にあるって、お母様が言ってた」
ふむふむ、うちの近くか。
「オーキスは?」
王城内の何処に住んでいるのかな?
「僕は、騎士団と同じ宿舎に住んでいるんだ。毎日訓練三昧だけど、勇者として教養も身につけておくべきと言われて、最近になって貴族用の礼儀作法も習ってる。正直言って、面倒いよ。言葉遣いまで注意されているし、ストレスが溜まる」
「オーキスは勇者だもんね、そこは仕方ないよ。今後、貴族と接していく機会も増えるだろうから、今のうちに慣れておいた方がいい。私なんか、公爵令嬢兼聖女だよ。これからのことを考えると、ちょっと憂鬱な気分になる。特に、言葉遣いに関しては、お母様からよく注意される」
自由奔放に喋っていきたいところだけど、お父様やお母様のことを考えると、これまでのようにはいかないよね。リーラは別邸、オーキスは聞いていた通り宿舎か…か。
「ねえ、明日、私の別邸で遊べないかな? もっと色々話をしたいし、カムイにも会ってほしいんだけど?」
私の提案に、リーラとオーキスは喜んで賛成してくれた。その後、私はお母様から、リーラは母親でもあるマーサ様から、オーキスの方は誰にかわからないけど、許可を貰えた。フレヤにも提案したんだけど、明日も教会での仕事で忙しいらしく、丁重に断られてしまった。教会の準備が整うまで、私は別邸にて、公爵令嬢としての教育授業を、お母様から受けることになるのだけど、そればかりだと、ちょっと息苦しい。明日くらい、息抜きしてもいいよね。お母様にリーラとオーキスの件を話すと、笑顔で了承してくれた。
「皆の者、急な出来事ではあったが、聖女シャーロットの帰還パーティーに、よくぞ集まってくれた。想定外の出来事があったものの、無事パーティーを終えることができた」
あ、国王様によるパーティー閉会宣言が始まった。現在の国王様、普段の威厳が皆無となっており、【ただのくたびれたおじさん】という感じだ。服はヨレヨレ、顔には所々痣が残っている。違う意味で、皆の印象に残るパーティーとなってしまった。国王ぶっかけ事件、多分明日のうちには、多くの貴族達に伝わるんじゃないかな?
「聖女シャーロットは教会所属となるが、その教会自体がガーランド法王国を離れ、我が国の傘下となったのは、皆も知っていよう。また、各国の教会も、その国の傘下となる。つまり、聖女シャーロット・エルバランは、我がエルディア王国初の聖女となる!」
聖女に関しては、フレヤからパーティー中に、ちょこっとだけ話を聞いている。基本、教会が聖女を管理するため、これまでガーランド法王国所属となっていた。だから、聖女はある程度の知識を身につけた後、ガーランド法王国に行き、法王と謁見する必要性があった。でも、イザベルの事件により、全ての教会が国を裏切り、各国の傘下となってしまった。そのため、聖女である私は、生まれ故郷でもあるエルディア王国に所属することとなったのだ。
といっても、これまで通り、聖女の教養などに関しては、王都にある教会本部で教えられていくので、私自身はこれまでの聖女とほぼ同じ生活を辿ることになる。…ま、私が普通の聖女であればの話だけどね。
「今後、シャーロットは王都教会本部にて、生活してもらうこととなる。ただ、教会のトップでもある教皇が、ガーランド法王国から帰還していない。そのため、今後の教会のあり方が揺らいでいる。一刻も早く、教皇を帰還させ、我が国の教会を強化してもわねばならない。それまでは、ヘンデル枢機卿が教皇代理として、シャーロットに聖女としてのあり方を教えていく」
ヘンデル枢機卿には、私の事情の全てを教えているから、私も気を使うことなく話せる。これか色々な意味で、お世話になるね。肝心の枢機卿様の方を見ると、先の未来を考えているのか、些か顔色が悪い。早く慣れてほしいものだ。
「シャーロット・エルバラン自身も、ハーモニック大陸での経験を糧とし、聖女として数段階のレベルアップを果たした。今後、我が国に多大な貢献をもたらしてくれるだろう。これにて、聖女帰還パーティーを閉会とする! シャーロット」
私からも、一言御礼を言わないとね。
「皆様、今日は急ぎ開催された私の帰還パーティーに参加して頂き、ありがとうございました。道中、気をつけてお帰り下さい」
国王陛下と私の挨拶が終わり、王族の皆様が会場から出ていくと、他の出席者達も私にお別れの言葉を言ってから、続々と会場から去っていった。フレヤは、ヘンデル枢機卿と共に教会へ、リーラはマーサ様と共に別邸へ、オーキスは一人騎士団宿舎へと戻った。そして、私もカムイと合流後、お父様達と一緒に別邸へと戻った。私はお母様やカムイと一緒にお風呂を入った後、初めてのパーティーということもあって疲れていたのか、ベッドに入るとすぐに眠気に誘われた。3回目のやらかしを防げたことで、罰となるステータス封印も回避できた。今日一日、色々とあったけど、愉快な夢を見れるかもしれない。
○○○
うん? ドアのノック音? そうか、もう朝なんだ。
「シャーロット様。起きておられますか?」
「マリル、今起きたところだよ」
「ふわ~、僕も起きた…よ」
私の横で熟睡していカムイも、起きたようだ。マリルはメイドだから、朝も早い。パーティーが終わった翌日も、いつも通りなんだね。
「マリル、おはよう」「……おはよう」
カムイは、まだ寝ぼけているのかな?
「お二人共、おはようございます」
部屋の入ってきたマリルは、いつものメイド服だった。うーん、パーティー用のドレスを着たマリルを、もう一度見たいところだ。
「マリル、昨日のパーティーで、お付き合いしたいな~と思う男性は見つかった?」
マリルも、今年で20歳になる。貴族の場合、学園卒業後に結婚する場合が多々ある。だから、早い人は18歳で結婚する。それに平民であっても、早い人は20歳で結婚すると、お母様から教わった。昨日のパーティー、マリルにとって、ある意味【お見合い】になったはずだ。
「な、何を言っているんですか!? お相手の方々は、全員貴族ですよ?」
「マリルも、貴族だよ?」
「う…その…今はまだ…そういうことは…」
オタオタして、顔の赤いマリルも可愛い。
「私も無事に帰還できたことだし、今度の問題は、マリルに結婚相手を見つけることかな?」
どうしたことか、マリルがあからさまにシュンと項垂れている。昨日、お父様達に何か言われたのかな?
「……ジーク様とエルサ様にも、昨日同じことを言われました。もし、私の好きな人が貴族でも平民であっても、全力でフォローすると断言してくれました。ただ……英雄となり、男爵位の貴族となった私を、いつまでもメイドとして働かせるのは、世間の体裁が悪いとも仰られました。今後、シャーロット様も教会で生活することになりますから……私自身の転職を勧められました。その際、私の希望となる勤め先があるのなら、全力でフォローするとも言ってくれました。ただ……」
うーむ、一理ある。
マリルをずっと公爵家のメイドとして働かせていた場合、『英雄を下っ端扱いしている!』という悪評が広がっていき、エルバラン公爵家の印象が悪くなってゆく。マリルを護衛として雇うことも可能だけど、それだと聖女だけでなく、英雄も囲っているように思われるから、こちらの方法もダメだ。公爵家だけでなく、マリル自身の印象も悪くなるだろう。
だから、お父様はマリルの幸せのため、心を鬼にして転職することを勧めたんだ。
「マリルは、エルバラン公爵家でずっとメイドとして、真摯に働いてくれた。そして、あなたは私のために、【英雄】と言われるまで強くなってくれた。マリルは、エルバラン公爵家から巣立ちする時期が来たんだよ。私は、マリルに幸せになってもらいたい。そのためには、いつまでもエルバラン公爵家にいちゃダメなの。私にとって、マリルは【お姉様】のような存在なんだよ。だから、マリルと別れることは、私も悲しい。でも、マリルが幸せな道を進むのならば、私も全力で応援したい!」
「シャーロットお嬢様……」
お父様から聞いた話だけど、私が帰還するまで、マリルは転移だけでなく、様々な研究に手を出していた。その時の彼女の顔は、メイドの仕事を実施している時か、それ以上に輝いていたらしい。おそらく、マリル自身も、そんな自分の心に気づいているはずだ。だからこそ、彼女は迷っているのだ。
「マリル…焦ることはないよ。何も、今すぐ転職しろとは言ってない。あなたの迷いが吹っ切れた時、私達に話してね」
「……はい、ありがとうございます」
マリルが、満面の笑みで答えてくれた。
「まだ、自分でも決めかねているので、今はメイドとしてのお仕事を頑張ります。あ、朝食の準備が、もうすぐ整いますので、シャーロットお嬢様もお着替えしましょう」
着替えを終え、カムイ、マリルと共に1階のダイニングに行くと、お父様、お母様、お兄様が既に席に座っていた。私達も用意された席に座り、ガーランド様への感謝を伝えてから、みんなで朝食を頂く。全てを食べ終え一息ついた後、何か視線を感じたので、そちらを向くと、視線の主はお母様だった。
「シャーロット、昨日のパーティーで、気になる男の子は見つかったのかしら?」
「何!? 見つけたのか!」
「シャーロットには、まだ早い!」
お母様の何気ない一言により、一気に場が荒れた。
お父様とお兄様の目が怖いよ。
「いえ、お友達になれそうな男子はいましたが、現状好きな人はいません」
現時点では、本当にいない。ある程度親密になっているのは、オーキスとアッシュさんぐらいだ。
「あら、そうなの? シャーロットには政略結婚ではなく、恋愛結婚で幸せを掴んで欲しいわ。好きな子ができたら教えてね」
「……そうですね。気になる男子がいたら、お知らせします」
「シャーロット、婚約のこともあるから、私にも教えてくれ!(そいつの素行調査をせんとな。シャーロットを狙う以上、必ず何か裏がある!)」
「僕にも、必ず教えてほしい!(僕の可愛い妹は、誰であろうと渡さない!)」
お父様、お兄様、そこまで強調しなくてもいいのでは?
「もし婚約者ができたら、僕達従魔全員が婚約者の強さを測ってあげる。中途半端な強さしか持たない奴は、シャーロットの婚約者に相応しくないよ。ステータスの強さは絶対に弱いだろうけど、その男の精神がシャーロットに耐えられるかわからない。せめて、従魔全員の姿と強さを見て、耐えられるくらいじゃないとダメだよね!」
カムイがそう言うと、お父様もお兄様も黙ってしまい、私の強さを思い出したのか、お父様は両手で顔を覆い、何やら考え込んでしまった。
「あらあら、そうなるとシャーロットの結婚相手に相応しい男性は、最低でも従魔全員を見ても、気絶しないくらいの頑強な精神を持っていないとダメね。シャーロット、現時点でいるの?」
お母様、答えないといけませんか? ……一応、言っておこうか。
「私と近い年代で限定すれば、1人いますね。私の仲間で、魔鬼族のアッシュさんという方です。ただ、彼には既にリリヤさんという恋人がいます」
アッシュという名前を出しただけで、お父様もお兄様も、【え、いるの!?】と驚いた顔をしながら、こっちを見た。
「あら、残念。でも、そういった子供もいるのなら、エルディア王国の中にも探せばいるかもしれないわね。とりあえず、シャーロットの強さのこともあるし、迂闊に婚約者を決めない方がいいわ。……ジーク、聞いてる?」
「あ…ああ、勿論だよエルサ、聞いているとも。シャーロットは、まだ8歳だ。これから多くの人間と出会っていくのだから、シャーロットのことを真に理解してくれる者を探さないといけないな」
真に理解してくれる男の子か、候補としてはオーキスくらいしか、頭に浮かばない。まあ8歳だし、無理に考えなくてもいいよね。
○○○
朝10時頃、オーキス、リーラ、マーサ様が別邸にやって来た。マリルが知らせてくれたので、私はカムイと共に急ぎリビングに向かうと、3人はソファーに座り、お父様やお母様と楽しく話し合っていた。ラルフお兄様は、朝食後すぐに学院に向かったため、不在である。
「マーサ様、リーラ、オーキス、おはようございます」
公爵令嬢として、貴族風の挨拶をしておこう。
「シャーロット、おはよう!」
「シャーロットちゃん、おはよう。リーラも、接客の際はシャーロットちゃんの挨拶を見習わないといけないわね」
「う……はい」
リーラは、きちんとした所作で挨拶してないのね。伯爵令嬢なんだから、そこは気をつけようね。
「……あ! シャーロット、おはよう」
オーキスの返事が、何故か一拍おかれたけど、何か考え事でもしていたのかなだ?
「よし、これで全員が集まったな。オーキスとリーラには悪いが、先に片付けておくべき案件がある。マリル、誰も入ってこないよう、執事やメイド達に話しておきなさい。その後、マリルはこの部屋に入り、これから行われる話を聞くように」
「はい。それでは、一旦失礼いたします」
お父様の口調は、真剣そのものだ。このメンバーで何か重要な話をするわけか。多分、昨日の間者の件だろう。マリルは数分程で戻り、私達用の飲み物をカップに注ぎ、全員に配分してから、入口付近に佇んだ。
「このメンバーは、昨日のパーティーに参加していた者達だ。薄々、何を問われるのか、皆気づいているだろう。早速だが、本題に入る。カムイ、昨日のパーティー中、何名の間者を発見した?」
やはり、その件か。昨日のパーティー中、リーラ達とのお茶会を簡単に了承してくれたのは、この話をする上で都合が良かったのね。国王様は既に知っていると思うけど、私達はまだカムイから何も聞いていない。
「あ、言ってなかったね。3人が天井に潜んでいたよ」
3人か……あれから1名追加されたのか。
「3人か、種族を教えてくれないか?」
「2名が人間の女性で、ミルバベスタ王国のスパイだよ。マリルとシャーロットをず~っと監視してた。何も喋らないから、それ以外はわからないや」
マリルと私を監視?
「英雄と聖女……ミルバベスタが気になるのも無理はない。もしかすると……」
お父様が、そのまま黙り込んでしまった。1つの国が、【英雄】と【聖女】を有している。他国から見れば、これは脅威だよね。もしかすると、どちらかを引き入れないか画策しているのかな?
「それでカムイ、残り1人は、パーティー中に現れたあの逆さ吊りの男か?」
「そうだよ。ガーランド法王国の間者で、その男が一番強いんだ。しかも、その正体は人に化けた魔鬼族の女でもあるから、凄く驚いたよ!」
……え? 今、さらっととんでもないことを言ったよね?
「そうか、人間の男に化けた……カムイ……今、【魔鬼族の女】と言わなかったか?」
「うん、【人間の男】に化けた【魔鬼族の女】って言ったよ。そういえば、あの時、僕が『君、魔鬼族でしょ? こっちの大陸にもいるんだ』って言ったら、あの人も驚いていたな。隙だらけの状態だったから、雷で気絶させたんだ」
部屋には、静けさだけが漂っている。カムイは、魔法【真贋】を使って、相手の正体を突き止めたんだ。お父様の仕事が、1つ増えてしまった。
これは、早急に国王陛下に知らせるべき案件だ。
「カムイ、人に化けた魔鬼族をどうやって見分けたんだ?」
「え、知らないの? 無属性魔法【真贋】を使えば、相手の真のステータスを一目で見破れるんだよ? しかも、幻惑魔法【幻夢】で別人に変異しても、【真贋】の使用者だけには、真の姿を見れるんだ。識別スキルも持ってるけど、あれは善悪を判断するだけで、相手の真の姿まで見れないから不便なんだよね。だから、僕はシャーロットに教わったばかりの魔法【真贋】を使って、相手のステータスを覗いて正体を見抜けたんだ。職業欄に、間者とか密偵とか記載されていたから、一目でわかったよ。【真贋】、便利だよね~」
カムイが柔かな笑顔をお父様に向けているけど、そのお父様と他のみんなは、視線をゆ~っくりと私に向けた。全員の視線が痛い。
「えーと、この魔法に関しては……マリルに教えたっけ?」
「いいえ、初耳です」
うーん、気まずい雰囲気が流れている。
「簡単に言いますと、魔法【真贋】は【構造解析】スキルの下位互換ですね。この魔法は魔力波を理解すれば、誰にでも習得可能です。ハーモニック大陸のジストニス王国で習得したのですが、クロイス女王様から『この魔法を不用意に、他者に教えてはいけません』と忠告されましたので、私の知る限り、現在使用可能な者は、私の仲間だけです」
この説明後、私はお父様とお母様から、クロイス女王様と同じ事を言われた。こっちで新しい友達ができたとしても、無闇に教えてはいけない。
「ミルバベスタの間者は、後回しでいいだろう。先に、ガーランド法王国の間者から事情聴取を行い、目的を知ることが先決だ。カムイ、その魔鬼族の女は、どんな魔導具を身につけていた? 指輪か? ネックレスか?」
そこは、お父様も気になるよね。魔法【真贋】を扱えない人達が、相手の真の姿を見たい場合、魔導具を没収しないといけない。
「その人は、ユニークスキル【幻魔眼】を持っていて、魔力消費なしで幻惑魔法【幻夢】を発動させることができるんだ。おまけに、イメージ自体もステータス内に表示できて、ずっと固定できるから、身体に負荷がかかることなく、変異もできるよ」
【幻魔眼】か、ユニークスキルだけあって、かなり有能だ。このスキルを持っていたからこそ、間者として選ばれたのかな? そうなると、私とカムイ以外の人達がその人を見ても、まず魔鬼族と気づかないだろう。お父様もどう対処すべきか、かなり悩んでいる。
「カムイ、シャーロット、すまないが一緒に王城に来てくれ。人に化けている魔鬼族の目的が、どうも気になる。二週間近く前に現れたネクローシスドラゴン、Aランク程の魔物ならば、我々と会話することも可能なのだが、マリルや冒険者達の誰もが魔物との会話を試みたものの、話し合いに応じないというより、我々の言語を理解できていなかった」
それも、おかしな話だ。Aランクならば、どんな魔物でも、自分の棲む大陸の言語を理解しているはずだ。お父様は、間者の魔鬼族とネクローシスドラゴンとの間に、何かあると思っているのかな?
「マリル、ネクローシスドラゴンと戦った時、何かおかしなことを感じた?」
私の突然の質問に、マリルもなにやら考え込んでいる。
「あの……これは国王陛下やジーク様にもお話ししているのですが、私が無属性魔法【アポトーシス】を発動させてから、効果が出始めるまでの時間が、こちらの想定以上に短かったのです。あのドラゴンの強さは、私と同等か、少し上でした。にも関わらず、5分程経過したところで、奴の動きが少しずつ鈍くなっていき、10分程で完全に停止し、崩れ落ちたんです。こんな感覚は初めてで、何と言ったらいいのか…外側の強さはAランク、内側の強さがBランクのような感じでした」
おかしいな? 私の知ってるネクローシスドラゴンの情報と、かなり齟齬がある。
「それだけだと、なんとも言えないね。お父様、魔鬼族を取調べする際、カムイも参加させるということですか?」
「そうなる。カムイも取調室に入ってもらい、その魔鬼族と話をしてくれ。相手側も魔物となら、我々よりも気を許すかもしれない。シャーロットは、取調室の隣室から間者を構造解析してほしい。ただし、解析内容を周囲の人達に話すのは禁止だ」
「わかりました」
現在、私のユニークスキルを知っているのは、エルディア王国の中でも、極僅かだと聞いている。構造解析で得られた情報は、お父様だけに知らせればいい。リーラやオーキスと楽しく話し合いたかったけど、無理そうだね。
「はいはいはい! エルバラン公爵様、私も行きたいです!」
え!? リーラ、何を言ってるの!
「リーラ、ダメに決まってるでしょ! 遊びに行くんじゃないのよ!」
マーサ様も反対だよね。
「ふふふ、みんな何かを忘れているんじゃないかな? ユニークスキルなら、私も持っているのだ! シャーロットが編集してくれた【聖浄気】、このスキルがあれば、間者を取調べする時、誰も感情を乱さず、冷静に分析できるよ! エルバラン公爵様、絶対に迷惑をかけません。シャーロットとず~っと一緒にいます。だから、私を連れて行って下さい」
凄く真っ当な意見だ。……彼女のユニークスキル【聖浄気】と私の称号【癒しマスター】が組み合わせれば、まず感情を乱すこともないだろう。リーラの意見に、誰も言い返せないでいる。
「リーラ……必ずシャーロットと一緒に行動を共にすると誓えるか?」
「誓います!!」
今回の間者は、アストレカ大陸にいないとされる魔鬼族、正体がバレたら、応対している騎士達も魔鬼族も取り乱すだろう。取調べを成功させるには、私とリーラの力が必須となる。
「マーサ、今回の行き先は王城だ。リーラが、間者と接触することはない。構わないだろうか?」
「……はあ~わかったわ。リーラは言い出したら聞かないし、言い分も正しい。リーラ、周囲の人達の言うことを必ず聞くのよ」
「はい!」
マーサ様も観念したのか、リーラの王城行きを認めちゃったよ。
「マリル、君はシャーロットとリーラの護衛を頼む」
「お任せを!」
マリルが護衛すれば、マーサ様も安心するよね。
「オーキス、君もリーラと共に行動してくれ。シャーロットとリーラが2人同時に何かあった場合、マリルは聖女であるシャーロットを優先的に護るだろう。勇者である君がリーラを優先的に護るんだ」
「はい!」
お父様もマリルも、何かあった場合、当然リーラを優先的に護るだろうけど、私の強さをマーサ様達に話せない以上、この説明は正しい。本来ならば、8歳児のオーキスが護衛すること自体、通常ではありえない行為なんだけど、今回に限って言えば見学するだけなので、まず何も起こらない。彼にとって良い経験となるから、お父様は命令したんだ。まさか、オーキスとリーラと行動を共にする日が来るとは…驚きだ。今回の行き先は王城だし、危険度もほぼゼロだから、3人との冒険を楽しもう。
従魔達の中でも、最もやらかし率が高いのはカムイ、次いでドール族となる。ぬいぐるみ達もいるのだけど、現在の彼らの力量はC~Dランク程ということもあって、まずやらかすことはないだろう。というかさ、私よりもガーランド様の方がダメでしょ? 良かれと思ってか、人のステータスに【やらかしまで30秒前】と表示させるとかありえないでしょ? いつか簡易神具で、ガーランド様専用お仕置きマシーンを製作してやる!! 私一人で考えてしまうと、どうしても偏ったものになる傾向があるから、フレヤにいつか相談しよう。
…………
パーティーもいよいよ終盤、そろそろ国王様が閉会を宣言する頃合いかな? さっき、フレヤから教会の進捗状況を聞いたけど、私を教会に滞在させるための準備に少し手間取っているらしく、しばらくの間はエルバラン家別邸に滞在してほしいとお願いされた。また、私が正式に教会所属となった後、聖女関係の仕事が押し寄せてくるだろうから、今のうちに友人達と話し合っておいた方がいいとも言われた。フレヤ自身が聖女代理として働いているから、相当忙しいのかもしれない。それだったら、ここにはオーキスやリーラもいるのだから、三人を家に招待してみよう。
「リーラとオーキスは、何処で泊まっているの?」
「私は、マクレン家別邸だよ。お父様もお母様も、滅多に王都には来ないんだけど、一応建ててあるの。王都で雇った人達が管理してくれてるから、いつでも綺麗にしてあるんだ。シャーロットの家から近い場所にあるって、お母様が言ってた」
ふむふむ、うちの近くか。
「オーキスは?」
王城内の何処に住んでいるのかな?
「僕は、騎士団と同じ宿舎に住んでいるんだ。毎日訓練三昧だけど、勇者として教養も身につけておくべきと言われて、最近になって貴族用の礼儀作法も習ってる。正直言って、面倒いよ。言葉遣いまで注意されているし、ストレスが溜まる」
「オーキスは勇者だもんね、そこは仕方ないよ。今後、貴族と接していく機会も増えるだろうから、今のうちに慣れておいた方がいい。私なんか、公爵令嬢兼聖女だよ。これからのことを考えると、ちょっと憂鬱な気分になる。特に、言葉遣いに関しては、お母様からよく注意される」
自由奔放に喋っていきたいところだけど、お父様やお母様のことを考えると、これまでのようにはいかないよね。リーラは別邸、オーキスは聞いていた通り宿舎か…か。
「ねえ、明日、私の別邸で遊べないかな? もっと色々話をしたいし、カムイにも会ってほしいんだけど?」
私の提案に、リーラとオーキスは喜んで賛成してくれた。その後、私はお母様から、リーラは母親でもあるマーサ様から、オーキスの方は誰にかわからないけど、許可を貰えた。フレヤにも提案したんだけど、明日も教会での仕事で忙しいらしく、丁重に断られてしまった。教会の準備が整うまで、私は別邸にて、公爵令嬢としての教育授業を、お母様から受けることになるのだけど、そればかりだと、ちょっと息苦しい。明日くらい、息抜きしてもいいよね。お母様にリーラとオーキスの件を話すと、笑顔で了承してくれた。
「皆の者、急な出来事ではあったが、聖女シャーロットの帰還パーティーに、よくぞ集まってくれた。想定外の出来事があったものの、無事パーティーを終えることができた」
あ、国王様によるパーティー閉会宣言が始まった。現在の国王様、普段の威厳が皆無となっており、【ただのくたびれたおじさん】という感じだ。服はヨレヨレ、顔には所々痣が残っている。違う意味で、皆の印象に残るパーティーとなってしまった。国王ぶっかけ事件、多分明日のうちには、多くの貴族達に伝わるんじゃないかな?
「聖女シャーロットは教会所属となるが、その教会自体がガーランド法王国を離れ、我が国の傘下となったのは、皆も知っていよう。また、各国の教会も、その国の傘下となる。つまり、聖女シャーロット・エルバランは、我がエルディア王国初の聖女となる!」
聖女に関しては、フレヤからパーティー中に、ちょこっとだけ話を聞いている。基本、教会が聖女を管理するため、これまでガーランド法王国所属となっていた。だから、聖女はある程度の知識を身につけた後、ガーランド法王国に行き、法王と謁見する必要性があった。でも、イザベルの事件により、全ての教会が国を裏切り、各国の傘下となってしまった。そのため、聖女である私は、生まれ故郷でもあるエルディア王国に所属することとなったのだ。
といっても、これまで通り、聖女の教養などに関しては、王都にある教会本部で教えられていくので、私自身はこれまでの聖女とほぼ同じ生活を辿ることになる。…ま、私が普通の聖女であればの話だけどね。
「今後、シャーロットは王都教会本部にて、生活してもらうこととなる。ただ、教会のトップでもある教皇が、ガーランド法王国から帰還していない。そのため、今後の教会のあり方が揺らいでいる。一刻も早く、教皇を帰還させ、我が国の教会を強化してもわねばならない。それまでは、ヘンデル枢機卿が教皇代理として、シャーロットに聖女としてのあり方を教えていく」
ヘンデル枢機卿には、私の事情の全てを教えているから、私も気を使うことなく話せる。これか色々な意味で、お世話になるね。肝心の枢機卿様の方を見ると、先の未来を考えているのか、些か顔色が悪い。早く慣れてほしいものだ。
「シャーロット・エルバラン自身も、ハーモニック大陸での経験を糧とし、聖女として数段階のレベルアップを果たした。今後、我が国に多大な貢献をもたらしてくれるだろう。これにて、聖女帰還パーティーを閉会とする! シャーロット」
私からも、一言御礼を言わないとね。
「皆様、今日は急ぎ開催された私の帰還パーティーに参加して頂き、ありがとうございました。道中、気をつけてお帰り下さい」
国王陛下と私の挨拶が終わり、王族の皆様が会場から出ていくと、他の出席者達も私にお別れの言葉を言ってから、続々と会場から去っていった。フレヤは、ヘンデル枢機卿と共に教会へ、リーラはマーサ様と共に別邸へ、オーキスは一人騎士団宿舎へと戻った。そして、私もカムイと合流後、お父様達と一緒に別邸へと戻った。私はお母様やカムイと一緒にお風呂を入った後、初めてのパーティーということもあって疲れていたのか、ベッドに入るとすぐに眠気に誘われた。3回目のやらかしを防げたことで、罰となるステータス封印も回避できた。今日一日、色々とあったけど、愉快な夢を見れるかもしれない。
○○○
うん? ドアのノック音? そうか、もう朝なんだ。
「シャーロット様。起きておられますか?」
「マリル、今起きたところだよ」
「ふわ~、僕も起きた…よ」
私の横で熟睡していカムイも、起きたようだ。マリルはメイドだから、朝も早い。パーティーが終わった翌日も、いつも通りなんだね。
「マリル、おはよう」「……おはよう」
カムイは、まだ寝ぼけているのかな?
「お二人共、おはようございます」
部屋の入ってきたマリルは、いつものメイド服だった。うーん、パーティー用のドレスを着たマリルを、もう一度見たいところだ。
「マリル、昨日のパーティーで、お付き合いしたいな~と思う男性は見つかった?」
マリルも、今年で20歳になる。貴族の場合、学園卒業後に結婚する場合が多々ある。だから、早い人は18歳で結婚する。それに平民であっても、早い人は20歳で結婚すると、お母様から教わった。昨日のパーティー、マリルにとって、ある意味【お見合い】になったはずだ。
「な、何を言っているんですか!? お相手の方々は、全員貴族ですよ?」
「マリルも、貴族だよ?」
「う…その…今はまだ…そういうことは…」
オタオタして、顔の赤いマリルも可愛い。
「私も無事に帰還できたことだし、今度の問題は、マリルに結婚相手を見つけることかな?」
どうしたことか、マリルがあからさまにシュンと項垂れている。昨日、お父様達に何か言われたのかな?
「……ジーク様とエルサ様にも、昨日同じことを言われました。もし、私の好きな人が貴族でも平民であっても、全力でフォローすると断言してくれました。ただ……英雄となり、男爵位の貴族となった私を、いつまでもメイドとして働かせるのは、世間の体裁が悪いとも仰られました。今後、シャーロット様も教会で生活することになりますから……私自身の転職を勧められました。その際、私の希望となる勤め先があるのなら、全力でフォローするとも言ってくれました。ただ……」
うーむ、一理ある。
マリルをずっと公爵家のメイドとして働かせていた場合、『英雄を下っ端扱いしている!』という悪評が広がっていき、エルバラン公爵家の印象が悪くなってゆく。マリルを護衛として雇うことも可能だけど、それだと聖女だけでなく、英雄も囲っているように思われるから、こちらの方法もダメだ。公爵家だけでなく、マリル自身の印象も悪くなるだろう。
だから、お父様はマリルの幸せのため、心を鬼にして転職することを勧めたんだ。
「マリルは、エルバラン公爵家でずっとメイドとして、真摯に働いてくれた。そして、あなたは私のために、【英雄】と言われるまで強くなってくれた。マリルは、エルバラン公爵家から巣立ちする時期が来たんだよ。私は、マリルに幸せになってもらいたい。そのためには、いつまでもエルバラン公爵家にいちゃダメなの。私にとって、マリルは【お姉様】のような存在なんだよ。だから、マリルと別れることは、私も悲しい。でも、マリルが幸せな道を進むのならば、私も全力で応援したい!」
「シャーロットお嬢様……」
お父様から聞いた話だけど、私が帰還するまで、マリルは転移だけでなく、様々な研究に手を出していた。その時の彼女の顔は、メイドの仕事を実施している時か、それ以上に輝いていたらしい。おそらく、マリル自身も、そんな自分の心に気づいているはずだ。だからこそ、彼女は迷っているのだ。
「マリル…焦ることはないよ。何も、今すぐ転職しろとは言ってない。あなたの迷いが吹っ切れた時、私達に話してね」
「……はい、ありがとうございます」
マリルが、満面の笑みで答えてくれた。
「まだ、自分でも決めかねているので、今はメイドとしてのお仕事を頑張ります。あ、朝食の準備が、もうすぐ整いますので、シャーロットお嬢様もお着替えしましょう」
着替えを終え、カムイ、マリルと共に1階のダイニングに行くと、お父様、お母様、お兄様が既に席に座っていた。私達も用意された席に座り、ガーランド様への感謝を伝えてから、みんなで朝食を頂く。全てを食べ終え一息ついた後、何か視線を感じたので、そちらを向くと、視線の主はお母様だった。
「シャーロット、昨日のパーティーで、気になる男の子は見つかったのかしら?」
「何!? 見つけたのか!」
「シャーロットには、まだ早い!」
お母様の何気ない一言により、一気に場が荒れた。
お父様とお兄様の目が怖いよ。
「いえ、お友達になれそうな男子はいましたが、現状好きな人はいません」
現時点では、本当にいない。ある程度親密になっているのは、オーキスとアッシュさんぐらいだ。
「あら、そうなの? シャーロットには政略結婚ではなく、恋愛結婚で幸せを掴んで欲しいわ。好きな子ができたら教えてね」
「……そうですね。気になる男子がいたら、お知らせします」
「シャーロット、婚約のこともあるから、私にも教えてくれ!(そいつの素行調査をせんとな。シャーロットを狙う以上、必ず何か裏がある!)」
「僕にも、必ず教えてほしい!(僕の可愛い妹は、誰であろうと渡さない!)」
お父様、お兄様、そこまで強調しなくてもいいのでは?
「もし婚約者ができたら、僕達従魔全員が婚約者の強さを測ってあげる。中途半端な強さしか持たない奴は、シャーロットの婚約者に相応しくないよ。ステータスの強さは絶対に弱いだろうけど、その男の精神がシャーロットに耐えられるかわからない。せめて、従魔全員の姿と強さを見て、耐えられるくらいじゃないとダメだよね!」
カムイがそう言うと、お父様もお兄様も黙ってしまい、私の強さを思い出したのか、お父様は両手で顔を覆い、何やら考え込んでしまった。
「あらあら、そうなるとシャーロットの結婚相手に相応しい男性は、最低でも従魔全員を見ても、気絶しないくらいの頑強な精神を持っていないとダメね。シャーロット、現時点でいるの?」
お母様、答えないといけませんか? ……一応、言っておこうか。
「私と近い年代で限定すれば、1人いますね。私の仲間で、魔鬼族のアッシュさんという方です。ただ、彼には既にリリヤさんという恋人がいます」
アッシュという名前を出しただけで、お父様もお兄様も、【え、いるの!?】と驚いた顔をしながら、こっちを見た。
「あら、残念。でも、そういった子供もいるのなら、エルディア王国の中にも探せばいるかもしれないわね。とりあえず、シャーロットの強さのこともあるし、迂闊に婚約者を決めない方がいいわ。……ジーク、聞いてる?」
「あ…ああ、勿論だよエルサ、聞いているとも。シャーロットは、まだ8歳だ。これから多くの人間と出会っていくのだから、シャーロットのことを真に理解してくれる者を探さないといけないな」
真に理解してくれる男の子か、候補としてはオーキスくらいしか、頭に浮かばない。まあ8歳だし、無理に考えなくてもいいよね。
○○○
朝10時頃、オーキス、リーラ、マーサ様が別邸にやって来た。マリルが知らせてくれたので、私はカムイと共に急ぎリビングに向かうと、3人はソファーに座り、お父様やお母様と楽しく話し合っていた。ラルフお兄様は、朝食後すぐに学院に向かったため、不在である。
「マーサ様、リーラ、オーキス、おはようございます」
公爵令嬢として、貴族風の挨拶をしておこう。
「シャーロット、おはよう!」
「シャーロットちゃん、おはよう。リーラも、接客の際はシャーロットちゃんの挨拶を見習わないといけないわね」
「う……はい」
リーラは、きちんとした所作で挨拶してないのね。伯爵令嬢なんだから、そこは気をつけようね。
「……あ! シャーロット、おはよう」
オーキスの返事が、何故か一拍おかれたけど、何か考え事でもしていたのかなだ?
「よし、これで全員が集まったな。オーキスとリーラには悪いが、先に片付けておくべき案件がある。マリル、誰も入ってこないよう、執事やメイド達に話しておきなさい。その後、マリルはこの部屋に入り、これから行われる話を聞くように」
「はい。それでは、一旦失礼いたします」
お父様の口調は、真剣そのものだ。このメンバーで何か重要な話をするわけか。多分、昨日の間者の件だろう。マリルは数分程で戻り、私達用の飲み物をカップに注ぎ、全員に配分してから、入口付近に佇んだ。
「このメンバーは、昨日のパーティーに参加していた者達だ。薄々、何を問われるのか、皆気づいているだろう。早速だが、本題に入る。カムイ、昨日のパーティー中、何名の間者を発見した?」
やはり、その件か。昨日のパーティー中、リーラ達とのお茶会を簡単に了承してくれたのは、この話をする上で都合が良かったのね。国王様は既に知っていると思うけど、私達はまだカムイから何も聞いていない。
「あ、言ってなかったね。3人が天井に潜んでいたよ」
3人か……あれから1名追加されたのか。
「3人か、種族を教えてくれないか?」
「2名が人間の女性で、ミルバベスタ王国のスパイだよ。マリルとシャーロットをず~っと監視してた。何も喋らないから、それ以外はわからないや」
マリルと私を監視?
「英雄と聖女……ミルバベスタが気になるのも無理はない。もしかすると……」
お父様が、そのまま黙り込んでしまった。1つの国が、【英雄】と【聖女】を有している。他国から見れば、これは脅威だよね。もしかすると、どちらかを引き入れないか画策しているのかな?
「それでカムイ、残り1人は、パーティー中に現れたあの逆さ吊りの男か?」
「そうだよ。ガーランド法王国の間者で、その男が一番強いんだ。しかも、その正体は人に化けた魔鬼族の女でもあるから、凄く驚いたよ!」
……え? 今、さらっととんでもないことを言ったよね?
「そうか、人間の男に化けた……カムイ……今、【魔鬼族の女】と言わなかったか?」
「うん、【人間の男】に化けた【魔鬼族の女】って言ったよ。そういえば、あの時、僕が『君、魔鬼族でしょ? こっちの大陸にもいるんだ』って言ったら、あの人も驚いていたな。隙だらけの状態だったから、雷で気絶させたんだ」
部屋には、静けさだけが漂っている。カムイは、魔法【真贋】を使って、相手の正体を突き止めたんだ。お父様の仕事が、1つ増えてしまった。
これは、早急に国王陛下に知らせるべき案件だ。
「カムイ、人に化けた魔鬼族をどうやって見分けたんだ?」
「え、知らないの? 無属性魔法【真贋】を使えば、相手の真のステータスを一目で見破れるんだよ? しかも、幻惑魔法【幻夢】で別人に変異しても、【真贋】の使用者だけには、真の姿を見れるんだ。識別スキルも持ってるけど、あれは善悪を判断するだけで、相手の真の姿まで見れないから不便なんだよね。だから、僕はシャーロットに教わったばかりの魔法【真贋】を使って、相手のステータスを覗いて正体を見抜けたんだ。職業欄に、間者とか密偵とか記載されていたから、一目でわかったよ。【真贋】、便利だよね~」
カムイが柔かな笑顔をお父様に向けているけど、そのお父様と他のみんなは、視線をゆ~っくりと私に向けた。全員の視線が痛い。
「えーと、この魔法に関しては……マリルに教えたっけ?」
「いいえ、初耳です」
うーん、気まずい雰囲気が流れている。
「簡単に言いますと、魔法【真贋】は【構造解析】スキルの下位互換ですね。この魔法は魔力波を理解すれば、誰にでも習得可能です。ハーモニック大陸のジストニス王国で習得したのですが、クロイス女王様から『この魔法を不用意に、他者に教えてはいけません』と忠告されましたので、私の知る限り、現在使用可能な者は、私の仲間だけです」
この説明後、私はお父様とお母様から、クロイス女王様と同じ事を言われた。こっちで新しい友達ができたとしても、無闇に教えてはいけない。
「ミルバベスタの間者は、後回しでいいだろう。先に、ガーランド法王国の間者から事情聴取を行い、目的を知ることが先決だ。カムイ、その魔鬼族の女は、どんな魔導具を身につけていた? 指輪か? ネックレスか?」
そこは、お父様も気になるよね。魔法【真贋】を扱えない人達が、相手の真の姿を見たい場合、魔導具を没収しないといけない。
「その人は、ユニークスキル【幻魔眼】を持っていて、魔力消費なしで幻惑魔法【幻夢】を発動させることができるんだ。おまけに、イメージ自体もステータス内に表示できて、ずっと固定できるから、身体に負荷がかかることなく、変異もできるよ」
【幻魔眼】か、ユニークスキルだけあって、かなり有能だ。このスキルを持っていたからこそ、間者として選ばれたのかな? そうなると、私とカムイ以外の人達がその人を見ても、まず魔鬼族と気づかないだろう。お父様もどう対処すべきか、かなり悩んでいる。
「カムイ、シャーロット、すまないが一緒に王城に来てくれ。人に化けている魔鬼族の目的が、どうも気になる。二週間近く前に現れたネクローシスドラゴン、Aランク程の魔物ならば、我々と会話することも可能なのだが、マリルや冒険者達の誰もが魔物との会話を試みたものの、話し合いに応じないというより、我々の言語を理解できていなかった」
それも、おかしな話だ。Aランクならば、どんな魔物でも、自分の棲む大陸の言語を理解しているはずだ。お父様は、間者の魔鬼族とネクローシスドラゴンとの間に、何かあると思っているのかな?
「マリル、ネクローシスドラゴンと戦った時、何かおかしなことを感じた?」
私の突然の質問に、マリルもなにやら考え込んでいる。
「あの……これは国王陛下やジーク様にもお話ししているのですが、私が無属性魔法【アポトーシス】を発動させてから、効果が出始めるまでの時間が、こちらの想定以上に短かったのです。あのドラゴンの強さは、私と同等か、少し上でした。にも関わらず、5分程経過したところで、奴の動きが少しずつ鈍くなっていき、10分程で完全に停止し、崩れ落ちたんです。こんな感覚は初めてで、何と言ったらいいのか…外側の強さはAランク、内側の強さがBランクのような感じでした」
おかしいな? 私の知ってるネクローシスドラゴンの情報と、かなり齟齬がある。
「それだけだと、なんとも言えないね。お父様、魔鬼族を取調べする際、カムイも参加させるということですか?」
「そうなる。カムイも取調室に入ってもらい、その魔鬼族と話をしてくれ。相手側も魔物となら、我々よりも気を許すかもしれない。シャーロットは、取調室の隣室から間者を構造解析してほしい。ただし、解析内容を周囲の人達に話すのは禁止だ」
「わかりました」
現在、私のユニークスキルを知っているのは、エルディア王国の中でも、極僅かだと聞いている。構造解析で得られた情報は、お父様だけに知らせればいい。リーラやオーキスと楽しく話し合いたかったけど、無理そうだね。
「はいはいはい! エルバラン公爵様、私も行きたいです!」
え!? リーラ、何を言ってるの!
「リーラ、ダメに決まってるでしょ! 遊びに行くんじゃないのよ!」
マーサ様も反対だよね。
「ふふふ、みんな何かを忘れているんじゃないかな? ユニークスキルなら、私も持っているのだ! シャーロットが編集してくれた【聖浄気】、このスキルがあれば、間者を取調べする時、誰も感情を乱さず、冷静に分析できるよ! エルバラン公爵様、絶対に迷惑をかけません。シャーロットとず~っと一緒にいます。だから、私を連れて行って下さい」
凄く真っ当な意見だ。……彼女のユニークスキル【聖浄気】と私の称号【癒しマスター】が組み合わせれば、まず感情を乱すこともないだろう。リーラの意見に、誰も言い返せないでいる。
「リーラ……必ずシャーロットと一緒に行動を共にすると誓えるか?」
「誓います!!」
今回の間者は、アストレカ大陸にいないとされる魔鬼族、正体がバレたら、応対している騎士達も魔鬼族も取り乱すだろう。取調べを成功させるには、私とリーラの力が必須となる。
「マーサ、今回の行き先は王城だ。リーラが、間者と接触することはない。構わないだろうか?」
「……はあ~わかったわ。リーラは言い出したら聞かないし、言い分も正しい。リーラ、周囲の人達の言うことを必ず聞くのよ」
「はい!」
マーサ様も観念したのか、リーラの王城行きを認めちゃったよ。
「マリル、君はシャーロットとリーラの護衛を頼む」
「お任せを!」
マリルが護衛すれば、マーサ様も安心するよね。
「オーキス、君もリーラと共に行動してくれ。シャーロットとリーラが2人同時に何かあった場合、マリルは聖女であるシャーロットを優先的に護るだろう。勇者である君がリーラを優先的に護るんだ」
「はい!」
お父様もマリルも、何かあった場合、当然リーラを優先的に護るだろうけど、私の強さをマーサ様達に話せない以上、この説明は正しい。本来ならば、8歳児のオーキスが護衛すること自体、通常ではありえない行為なんだけど、今回に限って言えば見学するだけなので、まず何も起こらない。彼にとって良い経験となるから、お父様は命令したんだ。まさか、オーキスとリーラと行動を共にする日が来るとは…驚きだ。今回の行き先は王城だし、危険度もほぼゼロだから、3人との冒険を楽しもう。
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