224 / 277
10歳〜アストレカ大陸編【戴冠式と入学試験】
刺客の正体
しおりを挟む
○○○ ???視点
正直……恐れいった。
ミスラテル様から教わった重力魔法をいとも簡単に跳ね返すとは。
元々の開発者がシャーロットであることを、ミスラテル様だけでなく、トキワやアッシュからも聞いている。私自身、この身に味わうまで、彼女の強さに対しては半信半疑だったものの……あれは紛れもなく本物だ。
1年前、俺の夢に出てきた代理神ミスラテル様の言葉が、鮮明に蘇る。神から聞いた事の顛末、私ですら信じられないものばかりだった。
『……以上が1年前に起きたハーモニック大陸での出来事です。神ガーランドの不手際により、シャーロットは齢8歳で神の領域に足を踏み入れました。現在のところ、前世の記憶を引き継いでいることもあり、心も身体も安寧を保っています。しかし、彼女が学園に入学して以降、多くの国家が動き出します。……本来、神は地上に対して、直接口を出してはいけません。ですが、シャーロット自身が【現人神】のような存在となっている以上、最低限ではありますが干渉します』
シャーロット・エルバランは、前世の記憶を引き継いでいる。彼女の享年は30歳、様々な経験を得ているため、精神も個の人間として立派なものだ。前世の記憶のおかげもあって、ハーモニック大陸に転移されても、心を壊さずにいられた。
地球の記憶を引き継いだ者に関しては、私の知り合いにもいる。
だが……
【周囲に利用され人間不信となり、心を壊した者】
【周囲から悪魔と罵られ故郷を追われた者】
前世の記憶が今世の自分に対し、必ずしも良い影響を与えるとは限らない。そういったことを踏まえると、シャーロットは上手く活用できたようだ。
彼女の場合、【環境適応】・【構造解析】・【構造編集】などで、これまでのピンチを切り抜けられている。しかし、今世において、彼女自身は大きな挫折を味わっていない。人は挫折を経験すると、未来が大きく変化する。魂が変容し、【善】から【悪】へ転換する場合もある。ミスラテル様は、そこを気にかけていた。
『シャーロットが学園に入学して以降、あなたには彼女を見守ってもらいたいの。トキワ、アッシュ、リリヤでは、まだ精神が未熟です。ランダルキアとハーモニック、2つの大陸を旅した《あなた》であれば、彼女を任せることができます』
現人神……そんな彼女が悪となれば、この世界は滅びの道を辿ってしまう。ランダルキア大陸の何処かに潜んでいる【奴等】が私よりも先に動いた場合、危なかったかもしれない。
『了解しました。私が彼女の心を守りましょう』
『ありがとう。それともう1つ、重要事項があります。今後、ガーランドが過去に犯した過ち……言い換えるとすれば……《負の遺産》……これらがシャーロット達に襲いかかってくるでしょう』
《負の遺産》、俺はミスラテル様から語られる内容を聞いて戦慄を覚えた。
1) イムノブースト事件
回復魔法【イムノブースト】、数百年前に人の手によって開発された魔法だ。神ガーランドはこの魔法を詳しく解析せず、そのまま放置したことによって、アストレカ大陸エルディア王国にて、大事件が発生する。それにより、シャーロットがハーモニック大陸へ転移することになるが、その際に渡したユニークスキル【環境適応】、急遽制作したこともあり、シャーロット自身がどんどん進化してしまい、神の領域に足を踏み入れてしまった。
2)《称号【弱者】》
【勇者】にすべき箇所を、どうやって【弱者】と誤入力するのか甚だ疑問を感じる。
3)《高位ドール族の無個性》
『創作するのが面倒だ』という阿保な理由から千年以上も放置されてきた。
4)《魔鬼族の禿げ》
先祖の鬼人族も、神に喧嘩を売るなど馬鹿としか言いようがない。だが、それ以上に神ガーランドも呆れる程のいい加減さだ。隕石の影響で、鬼人族などの旧人類は一度絶滅寸前にまで陥っている。これ自体が十分に神罰だろうに、何故か禿げの呪いを数千年以上も継続させている。継続理由は……《この種族だけ禿げるのも面白い。未来永劫続行しよう》。そして数千年放置されたこともあり、神ガーランドはシャーロットに言われるまで、呪いのことを綺麗さっぱり忘れていた。
シャーロットも神ガーランドのいい加減さに怒りをおぼえ、子供じみたお仕置きを執行したそうだが、内容を聞いた私自身も内心【よくやった!】と思ってしまった。
『今話したものについては、シャーロットが全て解決していますが、こういった綻び……《負の遺産》は世界中に点在しており、様々な場所で悪影響を及ぼしつつあります』
もしかしたら、こういった負の遺産が少しずつシステムに悪影響を及ぼし、【厄浄禍津金剛】という神の介入により、更なる負荷が掛かってしまい、先の未来が読めなくなったのではないか?
俺はこの疑問をミスラテル様にぶつけると、あの方は静かに肯定した。
『その通りです。今後、この《負の遺産》が何らかの形で、シャーロット達を襲います。私が不用意に干渉を続けると、私自身がガーランドの二の舞になりかねません。こうなった以上、負の遺産についてはシャーロット達に対処してもらいます』
【神ガーランドの残した負の遺産】(死んでいないが)
《負の遺産》の全容を聞きたいところだが、神の管理権限の影響もあって、代理であるミスラテル様では、それ以上詳しく話せないようだ。神が犯した過ちといえど、地上界で起きた出来事は地上人で対応するしかない。
『現時点において、この《負の遺産》が各大陸の国家とどう絡んでくるのか、その未来を詳細に読めません。あなたはシャーロットを見守りつつ、彼女と協力し対応してください。頼みましたよ』
ミスラテル様からは、特別なユニークスキルを1つ戴いている。これを使用する事態は避けたいところだ。
入学試験を監視した限り、既にランダルキア大陸の者が学園内に1名入り込んでいる。その者は、ユニークスキル【シェイドアダプション】を使用し周囲に溶け込んでいるため、特殊なスキルを使用しない限り、居場所に関しては誰も気づけまい。
このスキル利用者は、人や物の影の中に自由に忍び込むことができる。しかも、自らの気配や殺気を闇に溶け込ませることで、相手に気づかれることもない。かなり強力なスキルではあるが、弱点もある。
・人の影に侵入する瞬間、相手に気取られる。
対策:予め建物の影に潜み、監視対象者が同じ影に入り込んだ瞬間を見計らい、
影から影へ移動する。
・影から出る瞬間、相手に気取られる。
対策:監視対象者が建物内の影に入り込んだ瞬間を見計らい、影から影へ
移動し外界に出る。
・影に入り込んでいる間、攻撃不可。仮に攻撃を行っても、全てが闇に吸い込まれる。
対策:なし
かくいう私も、このユニークスキルを所持している。朝からシャーロットの影の中に潜んでいるが、彼女は気づく様子もなかった。ただし、一度影から出て、校舎屋上から攻撃を放った途端気づかれてしまったが。
シャーロット自身も国王陛下から言われたこともあり、構造解析スキルを使用していないため、私達の存在に気づいているが、居場所を把握していない。
まずは私の正体を彼女に明かし、事情を説明していく。
【神ガーランドの残した負の遺産】、おそらく私の目的にも絡んでくるだろう。
○○○シャーロット視点 王城入口付近
「あははははは……杖が股間にめり込んで敗北って…お前…あははははは」
現在、私・フレヤ・オーキスの3人は王城の中庭にいる。ドールマクスウェルとXXには王城上空にて、怪しい人物がいないかを偵察させている。
私達はリーラを馬車で別邸へと送り届け、その後王城へ連なる庭を歩いている時、ガロウ隊長が私達に声をかけてくれた。
オーキス以外は笑顔で試験結果を伝えたのだけど、彼だけが試験結果後の練習試合の勝敗を言い淀んでいたので、フレヤが微笑ましい笑顔となって、彼の勇姿を遠慮なく詳細に伝えてしまった。聖女代理のため、【股間】の箇所を【下半身の急所】と言い換えていたけど。
そうしたら、ガロウ隊長は爆笑したというわけだ。
「師匠…そこまで笑わなくても…僕だってあんな結果になるとは……」
ガロウ隊長はオーキスの師匠でもある。エルディア王国の騎士団は、精霊様から教わった理論を活用することで、この2年で大きく成長した。特に、ガロウ隊長は250と500の限界突破を命懸けで果たし、現在の力量はAランク中位(能力値平均446)となっている。
人間が成長限界値に達した場合、ステータス数値は上がらなくても、対人戦や対魔物戦で得た経験というものは、潜在的にどんどん蓄積していく。そのため、多くの経験を積んだ人間が限界突破した場合、それまでに得た経験が数値に加算されるのだ。
騎士団の中でも、ガロウ隊長だけが1つ抜きん出ていることもあって、現在の階級は全騎士団を指揮統制する最上位の【元帥】、この2年の活躍もあって、【伯爵】の爵位も得ている。
そんな彼に爆笑されたせいか、オーキスの顔が真っ赤となっている。彼自身、こういった反応を滅多に人前で見せないので、恥ずかしがる顔も可愛い。周囲の騎士達は私とフレヤがいるせいもあって、必死に笑いを堪えている。多分、私達がいなくなったところで、オーキスに詳しく事情を聞くだろう。
「悪い悪い、これまでの模擬戦で、そんな敗北をした奴などいなかったからな。オーキス……おまえはシャーロット様の助言を、素直に受け取らなかった。それが原因で敗北したことを理解しているか?」
ミーシャは私の助言を素直に聞き入れ、オーキスとの試合に利用した。オーキスは元々慎重な性格であるため、私の助言を聞き入れはしなかったものの、一度宿舎に戻りきちんと自分なりに納得してから、実戦に利用するつもりだった。
《その差》が、勝負の分かれ目となったのだ。
「勿論、わかっています。あの時点では、僕も完全に納得できていなかったので、シャーロット様の助言を無視した形で戦い……負けました」
悲惨な負け方だったけど、オーキスはやや恥ずかしながら正直に答えている。彼のこういった素直なところが、私も好きなんだよね。
「実戦ならば、お前は死んでいたぞ。それにしても、対戦相手のミーシャという獣人は凄いな。追い詰められても、最後まで諦めず、冷静な判断でお前に勝利したのだから。彼女は、相当な実戦経験を積んでいる。オーキスにとっては苦い敗北だろうが、良い経験になっただろ?」
勇者でもあるオーキスとほぼ互角なのだから、彼女の能力値は210くらいかな? マリルが理論を広めているとはいえ、10歳でその数値は脅威だよね。
「はい。僕にとって、彼女は良い好敵手ですよ」
オーキスやミーシャそして私達も、筆記試験でヘマをしない限り、間違いなく合格するだろう。これからの学園生活が楽しみだよね。そういえば、オーキスに絡んでいたクディチス子爵令息はどうなったのかな? まあ合格していれば、彼とも再会するだろう。国王陛下を待たせてはいけないから、私とフレヤはそろそろお暇させてもらおう。
「オーキス、ガロウ隊長、私とフレヤは国王陛下との会談がありますので、これで失礼致します」
「うん、次は3日後の合格発表の時だね」
「3人は、間違いなく合格だろう。オーキス、私がお前を鍛え直す!」
私とフレヤは2人と別れ、国王陛下がおられる執務室へと向かう。
お父様とお母様のおられるエルバラン家別邸へ戻りたいところだけど、グローバル通信機で事情を2人に説明すると状況をすぐに察してくれて、《事情はわかった。私達のことはいいから王城に行きなさい》と言ってくれた。
20歳前後のメイドさんが、私達を国王陛下の執務室へと案内してくれた。礼儀に則って部屋へ入ると、国王陛下・王妃陛下・ヘンデル教皇がソファーに座っており、既に話し合いの態勢が整っているようだ。私達は3人に挨拶を交わしてから、ヘンデル教皇の隣に座り、今日起きた出来事を話した。すると……ルルリア王妃がゆっくりと口を開く。
「ブライアン、予定と違うわよ? 攻撃対象者はシャーロットだけのはず。まさか本当に……」
予定、どういうこと?
「いや……私も聞いていない。能力判定試験では、何も起こらないはずだ」
まるで、私とヒーリア先生の練習試合での出来事を、予め知っているかのような言い方だ。
「国王陛下、詳しく聞いても宜しいでしょうか?」
「うむ。ヒーリア・リンドンとの練習試合……あれは私達が仕組んだものだ。【とある人物】が、君に興味を持っていてね。その者の願いもあって、試合中への攻撃を許可したのだ」
え、そうなの!?
というか、【とある人物】って誰?
「トキワさんやアッシュさんではないのですか?」
「違う。その者に関しては、君も間接的に知っている人物だ」
直接会ってはいないけど、言葉で聞いたことのある人物ってことかな?
《陛下、そこからは私がお話ししましょう》
え、男性の声が……私の真後ろから聞こえた!?
ここは国王陛下の執務室、私達以外誰もいないはず。
「む、そうか。君に任せよう」
あ、床にある影の中から、人がす~っと出てきた!!
ここまで接近されていたのに、この人の存在を全く感知できなかった!
本来であれば、陛下のおられる執務室に無断侵入しているのだから、刑罰の対象となる。しかし、当の国王陛下・ルルリア様・ヘンデル様は何も言わず、微塵も動揺してない。まるで、この正体不明の人物が、私の真後ろに初めからいたことを知っているかのような素振りだ!
あ、額にツノがある!
この見知らぬ男性は、魔鬼族だ!
どんな方法で、ここまで接近できたの!?
この人は何者?
短髪の黒髪、30代前半の男性、額に何か鉢巻の様なものを身につけている。トキワさん以上に、全てを見透かすかの様な鋭い目つき、凛とした佇まい、服装がトキワさんの忍装束と似ている。
私の知る人物の中で、該当するのは1人しかいない!
「まさか……あなたは、コウヤ・イチノイさんですか?」
謎の人物は、少しを目を見開く。
「トキワやミスラテル様の言った通り、賢い女の子だ。はじめまして、聖女シャーロット。私の名は【コウヤ・イチノイ】、トキワ・ミカイツは私の教え子だ」
これまで名前だけしか聞いていなかったけど、まさか本人と出会えるとは……
正直……恐れいった。
ミスラテル様から教わった重力魔法をいとも簡単に跳ね返すとは。
元々の開発者がシャーロットであることを、ミスラテル様だけでなく、トキワやアッシュからも聞いている。私自身、この身に味わうまで、彼女の強さに対しては半信半疑だったものの……あれは紛れもなく本物だ。
1年前、俺の夢に出てきた代理神ミスラテル様の言葉が、鮮明に蘇る。神から聞いた事の顛末、私ですら信じられないものばかりだった。
『……以上が1年前に起きたハーモニック大陸での出来事です。神ガーランドの不手際により、シャーロットは齢8歳で神の領域に足を踏み入れました。現在のところ、前世の記憶を引き継いでいることもあり、心も身体も安寧を保っています。しかし、彼女が学園に入学して以降、多くの国家が動き出します。……本来、神は地上に対して、直接口を出してはいけません。ですが、シャーロット自身が【現人神】のような存在となっている以上、最低限ではありますが干渉します』
シャーロット・エルバランは、前世の記憶を引き継いでいる。彼女の享年は30歳、様々な経験を得ているため、精神も個の人間として立派なものだ。前世の記憶のおかげもあって、ハーモニック大陸に転移されても、心を壊さずにいられた。
地球の記憶を引き継いだ者に関しては、私の知り合いにもいる。
だが……
【周囲に利用され人間不信となり、心を壊した者】
【周囲から悪魔と罵られ故郷を追われた者】
前世の記憶が今世の自分に対し、必ずしも良い影響を与えるとは限らない。そういったことを踏まえると、シャーロットは上手く活用できたようだ。
彼女の場合、【環境適応】・【構造解析】・【構造編集】などで、これまでのピンチを切り抜けられている。しかし、今世において、彼女自身は大きな挫折を味わっていない。人は挫折を経験すると、未来が大きく変化する。魂が変容し、【善】から【悪】へ転換する場合もある。ミスラテル様は、そこを気にかけていた。
『シャーロットが学園に入学して以降、あなたには彼女を見守ってもらいたいの。トキワ、アッシュ、リリヤでは、まだ精神が未熟です。ランダルキアとハーモニック、2つの大陸を旅した《あなた》であれば、彼女を任せることができます』
現人神……そんな彼女が悪となれば、この世界は滅びの道を辿ってしまう。ランダルキア大陸の何処かに潜んでいる【奴等】が私よりも先に動いた場合、危なかったかもしれない。
『了解しました。私が彼女の心を守りましょう』
『ありがとう。それともう1つ、重要事項があります。今後、ガーランドが過去に犯した過ち……言い換えるとすれば……《負の遺産》……これらがシャーロット達に襲いかかってくるでしょう』
《負の遺産》、俺はミスラテル様から語られる内容を聞いて戦慄を覚えた。
1) イムノブースト事件
回復魔法【イムノブースト】、数百年前に人の手によって開発された魔法だ。神ガーランドはこの魔法を詳しく解析せず、そのまま放置したことによって、アストレカ大陸エルディア王国にて、大事件が発生する。それにより、シャーロットがハーモニック大陸へ転移することになるが、その際に渡したユニークスキル【環境適応】、急遽制作したこともあり、シャーロット自身がどんどん進化してしまい、神の領域に足を踏み入れてしまった。
2)《称号【弱者】》
【勇者】にすべき箇所を、どうやって【弱者】と誤入力するのか甚だ疑問を感じる。
3)《高位ドール族の無個性》
『創作するのが面倒だ』という阿保な理由から千年以上も放置されてきた。
4)《魔鬼族の禿げ》
先祖の鬼人族も、神に喧嘩を売るなど馬鹿としか言いようがない。だが、それ以上に神ガーランドも呆れる程のいい加減さだ。隕石の影響で、鬼人族などの旧人類は一度絶滅寸前にまで陥っている。これ自体が十分に神罰だろうに、何故か禿げの呪いを数千年以上も継続させている。継続理由は……《この種族だけ禿げるのも面白い。未来永劫続行しよう》。そして数千年放置されたこともあり、神ガーランドはシャーロットに言われるまで、呪いのことを綺麗さっぱり忘れていた。
シャーロットも神ガーランドのいい加減さに怒りをおぼえ、子供じみたお仕置きを執行したそうだが、内容を聞いた私自身も内心【よくやった!】と思ってしまった。
『今話したものについては、シャーロットが全て解決していますが、こういった綻び……《負の遺産》は世界中に点在しており、様々な場所で悪影響を及ぼしつつあります』
もしかしたら、こういった負の遺産が少しずつシステムに悪影響を及ぼし、【厄浄禍津金剛】という神の介入により、更なる負荷が掛かってしまい、先の未来が読めなくなったのではないか?
俺はこの疑問をミスラテル様にぶつけると、あの方は静かに肯定した。
『その通りです。今後、この《負の遺産》が何らかの形で、シャーロット達を襲います。私が不用意に干渉を続けると、私自身がガーランドの二の舞になりかねません。こうなった以上、負の遺産についてはシャーロット達に対処してもらいます』
【神ガーランドの残した負の遺産】(死んでいないが)
《負の遺産》の全容を聞きたいところだが、神の管理権限の影響もあって、代理であるミスラテル様では、それ以上詳しく話せないようだ。神が犯した過ちといえど、地上界で起きた出来事は地上人で対応するしかない。
『現時点において、この《負の遺産》が各大陸の国家とどう絡んでくるのか、その未来を詳細に読めません。あなたはシャーロットを見守りつつ、彼女と協力し対応してください。頼みましたよ』
ミスラテル様からは、特別なユニークスキルを1つ戴いている。これを使用する事態は避けたいところだ。
入学試験を監視した限り、既にランダルキア大陸の者が学園内に1名入り込んでいる。その者は、ユニークスキル【シェイドアダプション】を使用し周囲に溶け込んでいるため、特殊なスキルを使用しない限り、居場所に関しては誰も気づけまい。
このスキル利用者は、人や物の影の中に自由に忍び込むことができる。しかも、自らの気配や殺気を闇に溶け込ませることで、相手に気づかれることもない。かなり強力なスキルではあるが、弱点もある。
・人の影に侵入する瞬間、相手に気取られる。
対策:予め建物の影に潜み、監視対象者が同じ影に入り込んだ瞬間を見計らい、
影から影へ移動する。
・影から出る瞬間、相手に気取られる。
対策:監視対象者が建物内の影に入り込んだ瞬間を見計らい、影から影へ
移動し外界に出る。
・影に入り込んでいる間、攻撃不可。仮に攻撃を行っても、全てが闇に吸い込まれる。
対策:なし
かくいう私も、このユニークスキルを所持している。朝からシャーロットの影の中に潜んでいるが、彼女は気づく様子もなかった。ただし、一度影から出て、校舎屋上から攻撃を放った途端気づかれてしまったが。
シャーロット自身も国王陛下から言われたこともあり、構造解析スキルを使用していないため、私達の存在に気づいているが、居場所を把握していない。
まずは私の正体を彼女に明かし、事情を説明していく。
【神ガーランドの残した負の遺産】、おそらく私の目的にも絡んでくるだろう。
○○○シャーロット視点 王城入口付近
「あははははは……杖が股間にめり込んで敗北って…お前…あははははは」
現在、私・フレヤ・オーキスの3人は王城の中庭にいる。ドールマクスウェルとXXには王城上空にて、怪しい人物がいないかを偵察させている。
私達はリーラを馬車で別邸へと送り届け、その後王城へ連なる庭を歩いている時、ガロウ隊長が私達に声をかけてくれた。
オーキス以外は笑顔で試験結果を伝えたのだけど、彼だけが試験結果後の練習試合の勝敗を言い淀んでいたので、フレヤが微笑ましい笑顔となって、彼の勇姿を遠慮なく詳細に伝えてしまった。聖女代理のため、【股間】の箇所を【下半身の急所】と言い換えていたけど。
そうしたら、ガロウ隊長は爆笑したというわけだ。
「師匠…そこまで笑わなくても…僕だってあんな結果になるとは……」
ガロウ隊長はオーキスの師匠でもある。エルディア王国の騎士団は、精霊様から教わった理論を活用することで、この2年で大きく成長した。特に、ガロウ隊長は250と500の限界突破を命懸けで果たし、現在の力量はAランク中位(能力値平均446)となっている。
人間が成長限界値に達した場合、ステータス数値は上がらなくても、対人戦や対魔物戦で得た経験というものは、潜在的にどんどん蓄積していく。そのため、多くの経験を積んだ人間が限界突破した場合、それまでに得た経験が数値に加算されるのだ。
騎士団の中でも、ガロウ隊長だけが1つ抜きん出ていることもあって、現在の階級は全騎士団を指揮統制する最上位の【元帥】、この2年の活躍もあって、【伯爵】の爵位も得ている。
そんな彼に爆笑されたせいか、オーキスの顔が真っ赤となっている。彼自身、こういった反応を滅多に人前で見せないので、恥ずかしがる顔も可愛い。周囲の騎士達は私とフレヤがいるせいもあって、必死に笑いを堪えている。多分、私達がいなくなったところで、オーキスに詳しく事情を聞くだろう。
「悪い悪い、これまでの模擬戦で、そんな敗北をした奴などいなかったからな。オーキス……おまえはシャーロット様の助言を、素直に受け取らなかった。それが原因で敗北したことを理解しているか?」
ミーシャは私の助言を素直に聞き入れ、オーキスとの試合に利用した。オーキスは元々慎重な性格であるため、私の助言を聞き入れはしなかったものの、一度宿舎に戻りきちんと自分なりに納得してから、実戦に利用するつもりだった。
《その差》が、勝負の分かれ目となったのだ。
「勿論、わかっています。あの時点では、僕も完全に納得できていなかったので、シャーロット様の助言を無視した形で戦い……負けました」
悲惨な負け方だったけど、オーキスはやや恥ずかしながら正直に答えている。彼のこういった素直なところが、私も好きなんだよね。
「実戦ならば、お前は死んでいたぞ。それにしても、対戦相手のミーシャという獣人は凄いな。追い詰められても、最後まで諦めず、冷静な判断でお前に勝利したのだから。彼女は、相当な実戦経験を積んでいる。オーキスにとっては苦い敗北だろうが、良い経験になっただろ?」
勇者でもあるオーキスとほぼ互角なのだから、彼女の能力値は210くらいかな? マリルが理論を広めているとはいえ、10歳でその数値は脅威だよね。
「はい。僕にとって、彼女は良い好敵手ですよ」
オーキスやミーシャそして私達も、筆記試験でヘマをしない限り、間違いなく合格するだろう。これからの学園生活が楽しみだよね。そういえば、オーキスに絡んでいたクディチス子爵令息はどうなったのかな? まあ合格していれば、彼とも再会するだろう。国王陛下を待たせてはいけないから、私とフレヤはそろそろお暇させてもらおう。
「オーキス、ガロウ隊長、私とフレヤは国王陛下との会談がありますので、これで失礼致します」
「うん、次は3日後の合格発表の時だね」
「3人は、間違いなく合格だろう。オーキス、私がお前を鍛え直す!」
私とフレヤは2人と別れ、国王陛下がおられる執務室へと向かう。
お父様とお母様のおられるエルバラン家別邸へ戻りたいところだけど、グローバル通信機で事情を2人に説明すると状況をすぐに察してくれて、《事情はわかった。私達のことはいいから王城に行きなさい》と言ってくれた。
20歳前後のメイドさんが、私達を国王陛下の執務室へと案内してくれた。礼儀に則って部屋へ入ると、国王陛下・王妃陛下・ヘンデル教皇がソファーに座っており、既に話し合いの態勢が整っているようだ。私達は3人に挨拶を交わしてから、ヘンデル教皇の隣に座り、今日起きた出来事を話した。すると……ルルリア王妃がゆっくりと口を開く。
「ブライアン、予定と違うわよ? 攻撃対象者はシャーロットだけのはず。まさか本当に……」
予定、どういうこと?
「いや……私も聞いていない。能力判定試験では、何も起こらないはずだ」
まるで、私とヒーリア先生の練習試合での出来事を、予め知っているかのような言い方だ。
「国王陛下、詳しく聞いても宜しいでしょうか?」
「うむ。ヒーリア・リンドンとの練習試合……あれは私達が仕組んだものだ。【とある人物】が、君に興味を持っていてね。その者の願いもあって、試合中への攻撃を許可したのだ」
え、そうなの!?
というか、【とある人物】って誰?
「トキワさんやアッシュさんではないのですか?」
「違う。その者に関しては、君も間接的に知っている人物だ」
直接会ってはいないけど、言葉で聞いたことのある人物ってことかな?
《陛下、そこからは私がお話ししましょう》
え、男性の声が……私の真後ろから聞こえた!?
ここは国王陛下の執務室、私達以外誰もいないはず。
「む、そうか。君に任せよう」
あ、床にある影の中から、人がす~っと出てきた!!
ここまで接近されていたのに、この人の存在を全く感知できなかった!
本来であれば、陛下のおられる執務室に無断侵入しているのだから、刑罰の対象となる。しかし、当の国王陛下・ルルリア様・ヘンデル様は何も言わず、微塵も動揺してない。まるで、この正体不明の人物が、私の真後ろに初めからいたことを知っているかのような素振りだ!
あ、額にツノがある!
この見知らぬ男性は、魔鬼族だ!
どんな方法で、ここまで接近できたの!?
この人は何者?
短髪の黒髪、30代前半の男性、額に何か鉢巻の様なものを身につけている。トキワさん以上に、全てを見透かすかの様な鋭い目つき、凛とした佇まい、服装がトキワさんの忍装束と似ている。
私の知る人物の中で、該当するのは1人しかいない!
「まさか……あなたは、コウヤ・イチノイさんですか?」
謎の人物は、少しを目を見開く。
「トキワやミスラテル様の言った通り、賢い女の子だ。はじめまして、聖女シャーロット。私の名は【コウヤ・イチノイ】、トキワ・ミカイツは私の教え子だ」
これまで名前だけしか聞いていなかったけど、まさか本人と出会えるとは……
13
あなたにおすすめの小説
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。