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10歳〜アストレカ大陸編【旅芸人と負の遺産】
ミーシャの過去《前編》
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ミーシャが喫茶店で暴れた?
……その言葉が私の心に響く。
事件現場は学園から程近いところにある喫茶店。
彼女は4名のクラスメイトと共に店を訪れ、和気藹々と世間話をしながらケーキを食べていた。ところが、ある1人の男性が店内に入ってくることで、事態が急変する。ミーシャが突然怒りの形相となり、その男性に対して『死ね、両親の仇!』と叫びながら短剣で斬りかかる強行に走ったのだ。
店内は一時騒然としたものの、男性がミーシャと何らかの会話をしながら彼女の猛攻を難なく回避していき、最後首に手刀をあて彼女の意識を一撃で刈り取ることで、その場はすぐに落ち着いた。
時間にして、約5分程の出来事である。
ただ、店内がその5分でかなり荒れてしまったのだけど、なんと被害者の男性が壊れた食器類や無駄となった食材を弁償してくれたのだ。しかも、騒がせたお詫びとして、店内にいた客の食事費用も全て払うという太っ腹。
「襲われた後の男性の立ち回りが見事ですね。著名な冒険者の方ですか?」
オーキスとほぼ同じ力を持つミーシャの意識を一撃で刈り取るということは、【旅芸人兼冒険者】かな?
「本人は、《ただの【旅芸人】です》と言ったそうだが、少なくともBランク以上の強さを有しているだろう。2週間後に控える春蘭祭の事も考え、周囲に好印象を与えるための止む無えない行為だと騎士に語っていた」
旅芸人にとっては、その迷惑料はかなりの損害のはず。まあ、それだけの強さばあれば、金銭的な面で心配はいらないだろう。そもそも店の弁償代に関しては、本来店に大迷惑をかけたミーシャが行うべきものだ。
「男性が【不問にする】と言ってくれたことで、ミーシャに前科はつかない。ただ、反省の意味を込めて、治安部隊の騎士は彼女を治安ギルドへと連行し、事情聴取後地下の留置所で1日過ごさせることになった」
王都の治安を一手に引き受ける治安ギルド、日本でいう警察だね。このギルドに所属する騎士達が優秀な成績を収めると、王城の騎士団へと抜擢され、エリート街道へと進めることもできる。
10歳のミーシャを、このギルド地下の留置場へ入れる行為自体がおかしい。そうなった経緯を聞くと、私は渋々ながら納得した。そして、残りは学園長室で話すこととなり、ここでの話し合いが終了することとなった。
「コウヤ先生、教えていただきありがとうございます」
この空間内には、オーキスもフレヤもいない。2人にも知ってもらわないといけない案件だから、学園に戻り次第3人で先生のところへ行こう。
ミーシャは、どういうわけか私やオーキスといった強者との戦いを望んでいる。入学式の翌日、いきなり模擬戦を申し込まれた時は驚いたけど、彼女の目が真剣だったこともあり、私は承諾した。模擬戦中、彼女は私を翻弄させようと足技【縮地】スキルを最大限に発揮させ、本気で挑んできたこともあり、私は敬意を込めて【急所寸止め攻撃】を実行し力量差を見せつけた。あれ以降、オーキスと毎日訓練に励んでいる。
事件の目撃者には、ミーシャのクラスメイトもいる。おそらく、学園全体へ広がるのも時間の問題だろう。明日以降、彼女も動きにくくなるだろうから、私・フレヤ・オーキスでフォローしていこう。
……翌朝9時
私達が朝食を食べている中、クディッチス家に1本の連絡が入った。大型通信機の相手は学園長らしく、通信内容は【至急シャーロット・フレヤ・オーキスの3人を学園に帰還させること】。
当主でもあるダナンザ様自身も詳細な内容を聞いていないため、フレヤとオーキスも学園で何が起きたのかを把握していない。
私達3人は急いで帰り支度を整え、クディッチス家の馬車に乗りこんだ。
「シャーロット様、娘を治療していただき、ありがとうございます」
クディッチス家当主が深々と頭を下げた。
私への感謝の念が、それだけで伝わってくる。
「シャーロット様、治療後もネルマの悩みを聞いていただき、誠にありがとうございます。私達は、もう少しであの子の大事な個性を奪うところでした。子爵令嬢としての教育を再開させますが、ネルマと相談しながらゆっくりと進めていきたいと思います」
ロザレーヌ様、淑女教育も良いですが、何事も程々に。
「オーキス、君に相談してよかった。シャーロット様、フレヤ様、妹を助けて頂いてありがとうございます!」
アーバンは学園外だからか、私達に対して終始敬語で話している。実直なのは良いことだけど、もう友人同士なんだから、公式行事以外での敬語は不要だ。週明けにでも、教室で話しておこう。
「シャーロット様、朝起きたら、【ライフドレイン】も取得していました! しかも、ガーランド様からお詫びのメッセージがステータス欄に届いていたんです! 【ライフドレイン】と【遠隔手動射撃】、完璧に使いこなせるよう頑張ります! 子爵令嬢の私と、本来の私も使い分けれるよう努力していきます!」
そういえば、ガーランド様が離脱中であることを、国民達には一切知らせていない。
神託を使って全国家に教えることも可能だけど、様々な憶測を立てられる危険性もある。だから、個人のステータス情報に《神の名前》を記載する機会が発生した場合、真実を知る者に対しては【ミスラテル様】、知らない者に対しては【ガーランド様】の名前を使用している。
今回、ミスマッチスキル所持者全員に対し、ミスラテル様はガーランド様の名前を借りて、お詫びメールを送ったのだろう。
ネルマは、明るく快活な女の子だ。
この子なら、すぐに《使い分け》にも慣れるでしょう。
「それではクディッチス家の皆さん、私達はこれで失礼致します」
私が別れの言葉を発すると、馬車が動き始めた。
○○○
私は馬車内にて、昨晩教えられたミスマッチスキルの情報をオーキスとフレヤに話した。
「今日の朝、ステータス更新の音が鳴ったから確認すると、ミスラテル様からもその件で御礼のメッセージが届いていたんだ。しかも、僕の勇者としてのレベルが2から3に上がり、【上級勇者】になっていた」
ミスラテル様、オーキスの勇者レベルを1つ上げてくれたんだ。
「あと1つ上がれば、500の能力限界を突破できる。出来れば今回のような偶然ではなく、【静読深思】や【修羅】のような自分の実力で限界突破を果たしたい」
オーキスは、実力で突破したい事に拘るよね。そちらの方が勇者としての伸び率も高いのだけど、あまり無理はしないでほしい。
「オーキス、運も実力のうちだから喜ぶべきよ。ところでシャーロット、ミスラテル様とお話したのなら電話の件の内容も知っているの?」
「僕も、そこを知りたい」
フレヤもオーキスも、この内容を聞いたら驚くだろう。
私は自分の知る限りのミーシャの情報を2人に話す。
「嘘だろ! あのミーシャが店で暴れて騎士団に拘束!?」
3人いや同年代の中でも、オーキスがミーシャのことを1番深く理解している。そんな彼でも、彼女がそんな凶行に陥るとは信じられないだろう。
「真実だよ。私自身も、その情報を聞いて驚いたもの」
「シャーロット、ミーシャの罪は【不問】にされたのよね? なのに、治安ギルド地下にある留置場へ入れられたの? 学園の指導室とかではなく?」
フレヤが疑問に思うのも無理ないよ。ミーシャは私達と同じ10歳、そんな子供を凶悪犯罪者の棲む留置場に入れること自体がおかしい。
「その情報も真実。ミーシャは【両親の仇】と叫び、男性に殺意を持って戦いを挑んだ。本人に直接聞いていないからわからないけど、男性はミーシャのことを知らないと言っていたの」
「まさか……人違い?」
私はフレヤの質問に静かに頷く。
「ミーシャはオーキスと同じくらい強い。だからこそ、キョウラク先生やコウヤ先生、治安ギルドの騎士達は危険視したの。【両親の仇となる人物】を憎む気持ちもわかる。でも、人違いで誰かを殺してしまったら、双方が不幸にり、新たな【憎悪】が発生してしまう。今回のような事件を二度と起こさないためにも、犯罪者になった者の末路をミーシャにわかってもらうため、1日だけ牢獄に入れたの。私達が急遽呼び戻される理由も、ミーシャ繋がりだと思う」
事件から1日経過しているけど、ミーシャは解放されたのかな?
○○○
私達が学園に到着すると、コウヤ先生が正門入口付近にいてくれた。何故、正門で佇んでいたのか気になったので尋ねてみると、《学園長室へ行くまでの間にミーシャの件を詳しく説明した》という形にしたかったようだ。
学園に到着した時点で、私とフレヤはカムイとムックの護衛任務を解き、2体に御礼を言ってから現在の居場所へ戻ってもらった。そして、コウヤ先生と共に学園長室へと向かう。
学園長室の部屋内には、学園長とキョウラク先生、そしてミーシャもいた。
よかった…釈放されていたんだ。
でも、シンプルな半袖ブラウスと半ズボンという普段着のままでいるということは、釈放されて間もないのかな。
部屋中央奥にある大きな机の後方に座っている学園長、その手前にある2つのソファー、間にデーブルが置かれており、右側にミーシャとキョウラク先生が座っている。コウヤ先生はキョウラク先生の隣へ、私達3人は左側のソファーに座った。
落ち着いたところで、学園長が口を開く。
「シャーロット、フレヤ、問題は解決しましたか?」
学園長の顔色を見ると、少し疲労の色が見える。65~70歳くらいの男性でもあるから、昨日の件でかなり体力を消耗したのだろう。もともと体力の限界で昨年度引退表明したけど、国内から招聘されてくる人物の旧勤め先にて、何か予定外のことが起きたらしく、学園への赴任時期が夏休み明けの9月からとなってしまった。そのため、引退も延期されたと入学式で言っていたよね。
「はい、解決しました。ところで、何故私達は呼び戻されたのでしょうか?」
「昨日の事件に関しては、コウヤ先生から聞いていると思います。我々も治安ギルドからある程度の事情を聞いていますが、ミーシャ本人からも聞きたいと思い、ここへ呼んだのです。すると、彼女自身がシャーロット・フレヤ・オーキスにも事情を打ち明けたいと言ったので、急遽戻ってもらいました」
普通なら、友達でもある私達には、自分の過去を知ってほしくないと思うはず。何か、相当な事情があるのだろう。
「ミーシャ、皆が揃いました。あなたは、どうして旅芸人の男性を殺そうとしたのですか?」
重苦しい雰囲気が周囲に漂う中、ミーシャがゆっくりと口を開く。
「私の村を滅ぼした魔物だと思い、カッとなって彼を襲いました」
え、両親の仇って魔物なの!?
「ミーシャ、村を滅ぼしたのは魔物でしょう? どうして、人間族の彼を襲っちゃったのかな?」
全員が驚く中、キョウラク先生が続きを促す。
「臭いがした。あいつは、私の目の前で父と母を殺した。だから、今でもハッキリと姿も臭いも覚えている。その臭いがあの人にこびりついていたから……」
獣人の種族特性の1つとして、嗅覚による感知能力は人間よりもかなり高い。ミーシャは猫型獣人だから、10倍程高いはずだ。
「襲ったと?」
キョウラク先生の言葉に、ミーシャが頷く。
「村を滅ぼした魔物はデュラハン、兜や鎧を外した姿は人間そのもの。奴には擬態能力もあるし、幻惑魔法も使える。だから、何らかの方法で顔も変装可能」
デュラハン、別名【首なし騎士】。
ゴースト族の上位に位置しており、強さはB~Sランクと幅広い。
そんな凶悪な魔物が、魔物専用スキル【擬態】をもっているのか。
このスキルは自分の魔力・気配・姿を周囲の景色と同化させることで、自分自身の存在を他者に認識されにくくなる。スキルレベルが高い程、相手の認識率を低下させていく。効果だけでいえば、私の【光学迷彩】と似ている。ただ、1日における擬態時間には制限があって、スキルレベルに依存していたはず。確か最長は10分だったかな?
ミーシャにとって、かなり厄介な相手だ。
「それで旅芸人の男性は、変装したデュラハンだったのかい?」
ミーシャが悔しげな顔となり、首を横に降る。
「違った。あの人は、普通の人間だった。昨日の夕方、旅芸人さんは牢屋に収監されている私の目の前にやって来た。その時の私は冷静さを取り戻していたから、【識別】スキルの力もあって、人違いだとすぐに気づき彼に謝罪した」
なるほどね、そんな事情が絡んでいたのか。喫茶店で出会った際、頭に血が上り、【識別】スキルを使わず、その男性を襲ってしまったのね。
でも、どうして旅芸人さんからデュラハンの臭いがしたのだろうか?
……その言葉が私の心に響く。
事件現場は学園から程近いところにある喫茶店。
彼女は4名のクラスメイトと共に店を訪れ、和気藹々と世間話をしながらケーキを食べていた。ところが、ある1人の男性が店内に入ってくることで、事態が急変する。ミーシャが突然怒りの形相となり、その男性に対して『死ね、両親の仇!』と叫びながら短剣で斬りかかる強行に走ったのだ。
店内は一時騒然としたものの、男性がミーシャと何らかの会話をしながら彼女の猛攻を難なく回避していき、最後首に手刀をあて彼女の意識を一撃で刈り取ることで、その場はすぐに落ち着いた。
時間にして、約5分程の出来事である。
ただ、店内がその5分でかなり荒れてしまったのだけど、なんと被害者の男性が壊れた食器類や無駄となった食材を弁償してくれたのだ。しかも、騒がせたお詫びとして、店内にいた客の食事費用も全て払うという太っ腹。
「襲われた後の男性の立ち回りが見事ですね。著名な冒険者の方ですか?」
オーキスとほぼ同じ力を持つミーシャの意識を一撃で刈り取るということは、【旅芸人兼冒険者】かな?
「本人は、《ただの【旅芸人】です》と言ったそうだが、少なくともBランク以上の強さを有しているだろう。2週間後に控える春蘭祭の事も考え、周囲に好印象を与えるための止む無えない行為だと騎士に語っていた」
旅芸人にとっては、その迷惑料はかなりの損害のはず。まあ、それだけの強さばあれば、金銭的な面で心配はいらないだろう。そもそも店の弁償代に関しては、本来店に大迷惑をかけたミーシャが行うべきものだ。
「男性が【不問にする】と言ってくれたことで、ミーシャに前科はつかない。ただ、反省の意味を込めて、治安部隊の騎士は彼女を治安ギルドへと連行し、事情聴取後地下の留置所で1日過ごさせることになった」
王都の治安を一手に引き受ける治安ギルド、日本でいう警察だね。このギルドに所属する騎士達が優秀な成績を収めると、王城の騎士団へと抜擢され、エリート街道へと進めることもできる。
10歳のミーシャを、このギルド地下の留置場へ入れる行為自体がおかしい。そうなった経緯を聞くと、私は渋々ながら納得した。そして、残りは学園長室で話すこととなり、ここでの話し合いが終了することとなった。
「コウヤ先生、教えていただきありがとうございます」
この空間内には、オーキスもフレヤもいない。2人にも知ってもらわないといけない案件だから、学園に戻り次第3人で先生のところへ行こう。
ミーシャは、どういうわけか私やオーキスといった強者との戦いを望んでいる。入学式の翌日、いきなり模擬戦を申し込まれた時は驚いたけど、彼女の目が真剣だったこともあり、私は承諾した。模擬戦中、彼女は私を翻弄させようと足技【縮地】スキルを最大限に発揮させ、本気で挑んできたこともあり、私は敬意を込めて【急所寸止め攻撃】を実行し力量差を見せつけた。あれ以降、オーキスと毎日訓練に励んでいる。
事件の目撃者には、ミーシャのクラスメイトもいる。おそらく、学園全体へ広がるのも時間の問題だろう。明日以降、彼女も動きにくくなるだろうから、私・フレヤ・オーキスでフォローしていこう。
……翌朝9時
私達が朝食を食べている中、クディッチス家に1本の連絡が入った。大型通信機の相手は学園長らしく、通信内容は【至急シャーロット・フレヤ・オーキスの3人を学園に帰還させること】。
当主でもあるダナンザ様自身も詳細な内容を聞いていないため、フレヤとオーキスも学園で何が起きたのかを把握していない。
私達3人は急いで帰り支度を整え、クディッチス家の馬車に乗りこんだ。
「シャーロット様、娘を治療していただき、ありがとうございます」
クディッチス家当主が深々と頭を下げた。
私への感謝の念が、それだけで伝わってくる。
「シャーロット様、治療後もネルマの悩みを聞いていただき、誠にありがとうございます。私達は、もう少しであの子の大事な個性を奪うところでした。子爵令嬢としての教育を再開させますが、ネルマと相談しながらゆっくりと進めていきたいと思います」
ロザレーヌ様、淑女教育も良いですが、何事も程々に。
「オーキス、君に相談してよかった。シャーロット様、フレヤ様、妹を助けて頂いてありがとうございます!」
アーバンは学園外だからか、私達に対して終始敬語で話している。実直なのは良いことだけど、もう友人同士なんだから、公式行事以外での敬語は不要だ。週明けにでも、教室で話しておこう。
「シャーロット様、朝起きたら、【ライフドレイン】も取得していました! しかも、ガーランド様からお詫びのメッセージがステータス欄に届いていたんです! 【ライフドレイン】と【遠隔手動射撃】、完璧に使いこなせるよう頑張ります! 子爵令嬢の私と、本来の私も使い分けれるよう努力していきます!」
そういえば、ガーランド様が離脱中であることを、国民達には一切知らせていない。
神託を使って全国家に教えることも可能だけど、様々な憶測を立てられる危険性もある。だから、個人のステータス情報に《神の名前》を記載する機会が発生した場合、真実を知る者に対しては【ミスラテル様】、知らない者に対しては【ガーランド様】の名前を使用している。
今回、ミスマッチスキル所持者全員に対し、ミスラテル様はガーランド様の名前を借りて、お詫びメールを送ったのだろう。
ネルマは、明るく快活な女の子だ。
この子なら、すぐに《使い分け》にも慣れるでしょう。
「それではクディッチス家の皆さん、私達はこれで失礼致します」
私が別れの言葉を発すると、馬車が動き始めた。
○○○
私は馬車内にて、昨晩教えられたミスマッチスキルの情報をオーキスとフレヤに話した。
「今日の朝、ステータス更新の音が鳴ったから確認すると、ミスラテル様からもその件で御礼のメッセージが届いていたんだ。しかも、僕の勇者としてのレベルが2から3に上がり、【上級勇者】になっていた」
ミスラテル様、オーキスの勇者レベルを1つ上げてくれたんだ。
「あと1つ上がれば、500の能力限界を突破できる。出来れば今回のような偶然ではなく、【静読深思】や【修羅】のような自分の実力で限界突破を果たしたい」
オーキスは、実力で突破したい事に拘るよね。そちらの方が勇者としての伸び率も高いのだけど、あまり無理はしないでほしい。
「オーキス、運も実力のうちだから喜ぶべきよ。ところでシャーロット、ミスラテル様とお話したのなら電話の件の内容も知っているの?」
「僕も、そこを知りたい」
フレヤもオーキスも、この内容を聞いたら驚くだろう。
私は自分の知る限りのミーシャの情報を2人に話す。
「嘘だろ! あのミーシャが店で暴れて騎士団に拘束!?」
3人いや同年代の中でも、オーキスがミーシャのことを1番深く理解している。そんな彼でも、彼女がそんな凶行に陥るとは信じられないだろう。
「真実だよ。私自身も、その情報を聞いて驚いたもの」
「シャーロット、ミーシャの罪は【不問】にされたのよね? なのに、治安ギルド地下にある留置場へ入れられたの? 学園の指導室とかではなく?」
フレヤが疑問に思うのも無理ないよ。ミーシャは私達と同じ10歳、そんな子供を凶悪犯罪者の棲む留置場に入れること自体がおかしい。
「その情報も真実。ミーシャは【両親の仇】と叫び、男性に殺意を持って戦いを挑んだ。本人に直接聞いていないからわからないけど、男性はミーシャのことを知らないと言っていたの」
「まさか……人違い?」
私はフレヤの質問に静かに頷く。
「ミーシャはオーキスと同じくらい強い。だからこそ、キョウラク先生やコウヤ先生、治安ギルドの騎士達は危険視したの。【両親の仇となる人物】を憎む気持ちもわかる。でも、人違いで誰かを殺してしまったら、双方が不幸にり、新たな【憎悪】が発生してしまう。今回のような事件を二度と起こさないためにも、犯罪者になった者の末路をミーシャにわかってもらうため、1日だけ牢獄に入れたの。私達が急遽呼び戻される理由も、ミーシャ繋がりだと思う」
事件から1日経過しているけど、ミーシャは解放されたのかな?
○○○
私達が学園に到着すると、コウヤ先生が正門入口付近にいてくれた。何故、正門で佇んでいたのか気になったので尋ねてみると、《学園長室へ行くまでの間にミーシャの件を詳しく説明した》という形にしたかったようだ。
学園に到着した時点で、私とフレヤはカムイとムックの護衛任務を解き、2体に御礼を言ってから現在の居場所へ戻ってもらった。そして、コウヤ先生と共に学園長室へと向かう。
学園長室の部屋内には、学園長とキョウラク先生、そしてミーシャもいた。
よかった…釈放されていたんだ。
でも、シンプルな半袖ブラウスと半ズボンという普段着のままでいるということは、釈放されて間もないのかな。
部屋中央奥にある大きな机の後方に座っている学園長、その手前にある2つのソファー、間にデーブルが置かれており、右側にミーシャとキョウラク先生が座っている。コウヤ先生はキョウラク先生の隣へ、私達3人は左側のソファーに座った。
落ち着いたところで、学園長が口を開く。
「シャーロット、フレヤ、問題は解決しましたか?」
学園長の顔色を見ると、少し疲労の色が見える。65~70歳くらいの男性でもあるから、昨日の件でかなり体力を消耗したのだろう。もともと体力の限界で昨年度引退表明したけど、国内から招聘されてくる人物の旧勤め先にて、何か予定外のことが起きたらしく、学園への赴任時期が夏休み明けの9月からとなってしまった。そのため、引退も延期されたと入学式で言っていたよね。
「はい、解決しました。ところで、何故私達は呼び戻されたのでしょうか?」
「昨日の事件に関しては、コウヤ先生から聞いていると思います。我々も治安ギルドからある程度の事情を聞いていますが、ミーシャ本人からも聞きたいと思い、ここへ呼んだのです。すると、彼女自身がシャーロット・フレヤ・オーキスにも事情を打ち明けたいと言ったので、急遽戻ってもらいました」
普通なら、友達でもある私達には、自分の過去を知ってほしくないと思うはず。何か、相当な事情があるのだろう。
「ミーシャ、皆が揃いました。あなたは、どうして旅芸人の男性を殺そうとしたのですか?」
重苦しい雰囲気が周囲に漂う中、ミーシャがゆっくりと口を開く。
「私の村を滅ぼした魔物だと思い、カッとなって彼を襲いました」
え、両親の仇って魔物なの!?
「ミーシャ、村を滅ぼしたのは魔物でしょう? どうして、人間族の彼を襲っちゃったのかな?」
全員が驚く中、キョウラク先生が続きを促す。
「臭いがした。あいつは、私の目の前で父と母を殺した。だから、今でもハッキリと姿も臭いも覚えている。その臭いがあの人にこびりついていたから……」
獣人の種族特性の1つとして、嗅覚による感知能力は人間よりもかなり高い。ミーシャは猫型獣人だから、10倍程高いはずだ。
「襲ったと?」
キョウラク先生の言葉に、ミーシャが頷く。
「村を滅ぼした魔物はデュラハン、兜や鎧を外した姿は人間そのもの。奴には擬態能力もあるし、幻惑魔法も使える。だから、何らかの方法で顔も変装可能」
デュラハン、別名【首なし騎士】。
ゴースト族の上位に位置しており、強さはB~Sランクと幅広い。
そんな凶悪な魔物が、魔物専用スキル【擬態】をもっているのか。
このスキルは自分の魔力・気配・姿を周囲の景色と同化させることで、自分自身の存在を他者に認識されにくくなる。スキルレベルが高い程、相手の認識率を低下させていく。効果だけでいえば、私の【光学迷彩】と似ている。ただ、1日における擬態時間には制限があって、スキルレベルに依存していたはず。確か最長は10分だったかな?
ミーシャにとって、かなり厄介な相手だ。
「それで旅芸人の男性は、変装したデュラハンだったのかい?」
ミーシャが悔しげな顔となり、首を横に降る。
「違った。あの人は、普通の人間だった。昨日の夕方、旅芸人さんは牢屋に収監されている私の目の前にやって来た。その時の私は冷静さを取り戻していたから、【識別】スキルの力もあって、人違いだとすぐに気づき彼に謝罪した」
なるほどね、そんな事情が絡んでいたのか。喫茶店で出会った際、頭に血が上り、【識別】スキルを使わず、その男性を襲ってしまったのね。
でも、どうして旅芸人さんからデュラハンの臭いがしたのだろうか?
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