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10歳〜アストレカ大陸編【旅芸人と負の遺産】
事件の真相
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○○○ シャーロット視点
現在、私とフレヤは自室にて、とある資料を黙読している。
あれから3日経過したものの、デュラハン捜索部隊では何の成果も得られていない。オトギさんから言われた通り、私とフレヤもこの捜索に一切関わっておらず、通常の学園生活を送っている。ただ、今後のミーシャの学生生活が気掛かりであったため、私達はお節介かもと思ったけど、《聖女》と《聖女代理》という立場を使って、昨日の放課後1年生全員を体育館へ強制召集させた。
クラスメイトが間近で目撃した以上、暴走事件の情報はその日のうちに噂となって周囲に伝達される。噂というものは尾ひれがつくことで、どんどん肥大化していく。それが定着してしまうと、全くのデタラメな内容であっても、世間的には真実となってしまう。実際、事件から2日経過しただけで、噂は全学年に広まっており、ミーシャ自身も明らかに避けられ始めていたのだ。
予め先生方やミーシャから許可を貰った後、私とフレヤは体育館にて、《暴走事件》と《彼女の過去》を赤裸々に話した。聖女である私達が真剣に話していることもあり、貴族も平民もその内容を信じ、ミーシャの境遇に共感した。
彼女を蔑む者は皆無となったのだけど、事件時のミーシャの行動は褒められるものではない。だから、多くのクラスメイト達がミーシャに注意し、二度と起こさないよう多様な意見交換が体育館内にて行われた。皆が自分のためにここまで親身になってくれるとは思わなかったのか、ミーシャ自身も途中から我慢できず号泣しながら御礼を言い、クラスメイト達との親睦を深めていった。
友人の少なかったミーシャにとって、この出来事が転機となる。
彼女の持つノーマルスキル【精神耐性】が、Lv2からLv5へと跳ね上がったのだ。これは、彼女の心自体が強くなった証でもある。皆との絆を深めたことで、今後あのような暴走行為も抑えられるだろう。
【その一方で、私はミーシャに察知されないよう、裏で暗躍を重ねる】
ガーランド法王国の元法王とグローバル通信機で話し合い、こちらの現状を説明してからミーシャの故郷で何が起きたのかを問い詰めたのだ。ここまでの情報を整理した限り、不自然な点が多すぎるからね。被害が村の周辺一帯まで及んでいる以上、何かを国ぐるみで隠蔽しているはずだ。
元法王も私からの事情を聞いたことで、こちらの深刻さをすぐに理解し、真実を話してくれた。彼が語った真実、それは衝撃的なものだった。内容があまりにも濃すぎるので、私としても当時の資料をコピーして、こっちに添付してほしいことを訴えると、今日の午後になって、全ての資料がグローバル通信機を通して送られてきた。
私は自分の仲間達全員にグローバル通信機を渡した後、大きく改良を施している。
1) 通信機のバッテリー容量に関しては、所持者のMPとなるよう設定変更した。
2) カメラの取付
3) マナーモード
4) メールの送受信(添付ファイル付)
資料などの小さい荷物や画像などを通信機内のアプリ魔法で圧縮して、転送させることが可能。通信機の届くエリア内であれば、何処にでも配達可能。
5) グループ通話
通常であれば、転移魔法は魔力を莫大に消費する。この問題点を解決してくれたのが、トキワさんだ。1年前、彼は転移魔法を習得したものの、消費魔力量が大きすぎて使用不可だった。大陸間を自分の力で行き来したかった彼は、転移魔法のシステムを調査し、【愛着度】に目をつけた。
通常であれば、座標となる【場所】を指定すると、愛着度が表示される。この部分を【場所】ではなく、【人】に設定変更可能であることを発見したのだ。
この知らせをトキワさんから聞いた時、私も心底驚いたよ。私の場合、仲間達全員の愛着度が100%であるため、魔力消費量も0で転移可能となったのだ。トキワさんも、愛着度100%の知り合いに関しては両大陸にいたので、現在では頻繁に行き来している。
ただ、設定が【人】なのでピンポイントに転移すると、その人が死んでしまう。そこでミスラテル様と相談することで、人を座標として魔法を使用した場合に限り、ステータス内で転移場所を指定してくるよう設定変更してもらった。この程度の変更であれば、代理のミスラテル様の力でも容易だったので助かった。
グローバル通信機は周囲の魔素を利用しているだけであって、基本私の統制下で動いている。つまり、私がシステムを一から再設計すれば、通信機経由の転移魔法(物限定)も仲間内で実行可能なはずだ。トキワさんのおかげで、私の頭もより柔軟になり、ファイルをアプリ魔法【圧縮】で限りなく小さくさせることで、消費魔力を3前後に大きく軽減させることに成功した。
グループ通話で通信機所持者全員に教えると、皆が喜んでくれたよ。
現在、この方法で【私・フレヤ・コウヤさん・国王陛下】へ転送されてきた資料を読んでいるのだけど、私の想定した以上の出来事がミーシャの故郷周辺で起きていた。
「シャーロット……これって大陸を震撼させる程の重大事件よね?」
「そうだね。当時のガーランド法王国法王は総力をあげて、真実を隠蔽し虚偽の事件をでっち上げ、国全体にその情報を拡散させた」
「真実を隠蔽しなければ、アストレカ大陸にいる全ての獣人が殺されていたかもしれないから?」
私はフレヤの言葉に頷く。
【狂獣病】
動物の中でも、獣毛に覆われた《獣》だけに感染すると言われているウイルス性伝染病。この病に罹患すると、空腹感・幻惑・理性崩壊・体内魔力の狂乱といった様々な症状を引き起こす。しかも、接触感染と飛沫感染(唾液や血液といった体液)を引き起こすため、危険度大の第1種危険伝染病指定されている。
症状としては……
第1段階 空腹感(小) → 回復魔法で完治可能
第2段階 空腹感(中)、理性低下(小)、体内魔力の乱れ(小)
→ 回復魔法で完治可能
第3段階 空腹感(大)、理性低下(中)、幻惑(小)、体内魔力の狂乱(大)
→ 完治不可
第4段階 上記全ての症状に加え、幻惑(大)、理性完全崩壊(個人差あり)
→ 完治不可
末期の第4段階に陥ると、理性が完全崩壊することで、空腹のため周囲にあるもの全てを食料とみなし、手当たり次第に食べていく。そして、最後に遠吠えをあげ絶命する。体内魔力が掻き乱されているため、イムノブーストやヒール系の魔法やエリクサーも一切効かない。仮に特効薬があったとしても、患者の殆どが狂乱しているため、服用させるのも不可能だろう。
この凶悪な病が、ミーシャの故郷周辺一帯に発生し規模を拡大させていったのだ。これまで狂獣病は【獣限定】の病として認定されていたが、ウイルスが何らかの要因で突然変異した。ウイルスの性質が大きく変化したことで、獣人にも感染するようになってしまい、病気を発症蔓延させる事態となる。
法王が状況を把握した時、既に300人以上の発狂者が出現し、街や村々では大混乱に陥っていた。接触感染と飛沫感染で広がる以上、最悪国全土に拡大する危険性もある。もし《狂獣病による獣人の狂乱》が他国にも知られてしまったら、大陸中の獣人が差別され、最悪全て抹消される危険性も出てくる。しかも、獣人だけでなく、全ての人種に感染する可能性もある。
まだ、この段階では2つの街と2つの村で騒ぎとなっているものの、それ以上広まっていない。ただし、1つの判断ミスが命取りとなるため、法王は速やかにその周囲一帯を封鎖し、情報を規制した。そして、末期症状に陥った患者全員を秘密裏に抹殺する決断をとる。
この上層部からの指令に対し、街や村々の騎士や冒険者達も《やむを得ない》と判断し、指令が速やかに実行された。この狂獣病騒動は法王の迅速な対応により収束したものの、周辺一帯は血の海と化し、すぐに臭いを消せる状態ではなかった。
しかも、飛沫感染を引き起こす以上、再度感染者が増える危険性もあるため、関わった人々への治療、街や村の浄化に専念する必要性もあり、周辺に無関係の人々を近づけさせるわけにはいかない。そのため、一連の騒動の原因を【凶悪デュラハン】とすることで全国民を納得させ、全ての浄化作業が終了するまで規制を敷いたのだ。
そして、資料を更に読み進めていくと……
《事件当時、狂獣病の治療方法は限定されており、第3段階以降完治は不可能だったものの、ある1人の少女が我々獣人族に明るい未来を齎した。少女の名は【ミーシャ・マードック】、ヒュデル村唯一の生き残りである》
「「ええ!?」」
私もフレヤも、つい大声をだしてしまう。
《彼女だけが、何故か狂獣病に感染していなかったのだ。そして、彼女を救出してくれたオトギ・ミツルマからの情報により、当時ミーシャは何らかの病気に罹患していたという。我々はこの情報を基に研究を進めた結果、《狂獣病》は他の病原性となる細菌やウイルスと共在すると、その機能を著しく低下させ、最終的には死滅することが判明した。しかも、どの段階でも起こり、末期症状の患者さえも完治したのだ》
狂獣病ウイルスは、他の細菌やウイルスに弱いのか。つまり、この病気の治療薬は、【病原性の低い細菌やウイルス】ということになる。
《ミーシャ・マードックは、我々獣人の救世主である。故に、今後そちらの学園で必要とされる彼女の必要経費は、元ガーランド法王国法王が支払うこととなっている。ただし、この情報はミーシャ本人も知らず、また公に公表できないため内密にしてほしい》
ミーシャが獣人の救世主か。
この内容を見たら納得だよ。
でも、本人は一切知らないのか。
「シャーロット、オトギさんの名前が出てきたね。あのね…実は…」
……なるほど。
フレヤは、オトギさんの秘密を偶然知ってしまったのか。
「オトギさんが、ミーシャの両親や村人達を殺した。でも、あの時点では治療法が確立されていない。彼女のことを第一に考えて犯してしまった行為なんだよ」
「それじゃあ、ミーシャが見た光景、あれって僅かに理性を残していた両親が、オトギさんにミーシャを託したということかな?」
「フレヤの答えが正解だと思う。でも、これは世間に公表できないよ。ミーシャには、全容を教えてあげたいけど」
彼女は、デュラハンに固執している。
この件を教えてあげれば、オトギさんを恨むことはないと思う。
「シャーロット、謎はまだ残っているわ。オトギさんって何者なの? ミーシャの見た光景も真実なのだから、彼は頭と身体を分離していたことになる。そんなスキルって存在したかな?」
そこだね。
資料によると、研究者達は事件終息直後に、オトギさんからも事情聴取している。彼からデュラハンの話を聞いたことで、法王は事件の元凶を【デュラハン】と世間に公表した。そして、被害地域一帯を狂獣病の研究拠点とするため、《1体だけ逃走した》という設定にしておいたんだ。この処置ならば、外部からの冒険者も被害地域一帯へ迂闊に来ないからね。
オトギさん自身も、ミーシャのことを第一に考えている。
ミーシャがあの光景を目撃している以上、彼女は【犯人はデュラハンだ】と強く思い込んでいる。幸い、情報がかなり拡散された後に、ミーシャが目覚めた。彼女自身が皆に事情を説明することで、周囲の人達も状況を理解し、彼女の力となってくれた。
全て、オトギさんがそうなるよう仕組んだのだろう。
彼は、奇妙なスキルを持っているだけの善人かもしれない。
「私は、そんな分離スキルを知らない。オトギさんだけが持つ【ユニークスキル】だと思う。そして、彼の言った《誰も死なない》という言葉から推理すると、デュラハンと戦ったという証言自体が虚偽かな?」
「それなら辻褄が合うわね」
オトギさんも、事件を公にしないよう言われているはずだ。でも、ミーシャと再会したことで、咄嗟にあの虚偽の発言をしたのだろう。トイレの中で、罪悪感を漏らすのもわかる。
「とりあえず、オトギさんと話し合わないとね。彼から語られる内容が、この資料と一致するのか確認したい」
まさか、ここまでの事件だったとは。
国家ぐるみで隠蔽するのもわかるよ。
近日中にオトギさんと話し合い、もし彼が信用できない人物であれば、申し訳ないけど構造解析させてもらおう。
現在、私とフレヤは自室にて、とある資料を黙読している。
あれから3日経過したものの、デュラハン捜索部隊では何の成果も得られていない。オトギさんから言われた通り、私とフレヤもこの捜索に一切関わっておらず、通常の学園生活を送っている。ただ、今後のミーシャの学生生活が気掛かりであったため、私達はお節介かもと思ったけど、《聖女》と《聖女代理》という立場を使って、昨日の放課後1年生全員を体育館へ強制召集させた。
クラスメイトが間近で目撃した以上、暴走事件の情報はその日のうちに噂となって周囲に伝達される。噂というものは尾ひれがつくことで、どんどん肥大化していく。それが定着してしまうと、全くのデタラメな内容であっても、世間的には真実となってしまう。実際、事件から2日経過しただけで、噂は全学年に広まっており、ミーシャ自身も明らかに避けられ始めていたのだ。
予め先生方やミーシャから許可を貰った後、私とフレヤは体育館にて、《暴走事件》と《彼女の過去》を赤裸々に話した。聖女である私達が真剣に話していることもあり、貴族も平民もその内容を信じ、ミーシャの境遇に共感した。
彼女を蔑む者は皆無となったのだけど、事件時のミーシャの行動は褒められるものではない。だから、多くのクラスメイト達がミーシャに注意し、二度と起こさないよう多様な意見交換が体育館内にて行われた。皆が自分のためにここまで親身になってくれるとは思わなかったのか、ミーシャ自身も途中から我慢できず号泣しながら御礼を言い、クラスメイト達との親睦を深めていった。
友人の少なかったミーシャにとって、この出来事が転機となる。
彼女の持つノーマルスキル【精神耐性】が、Lv2からLv5へと跳ね上がったのだ。これは、彼女の心自体が強くなった証でもある。皆との絆を深めたことで、今後あのような暴走行為も抑えられるだろう。
【その一方で、私はミーシャに察知されないよう、裏で暗躍を重ねる】
ガーランド法王国の元法王とグローバル通信機で話し合い、こちらの現状を説明してからミーシャの故郷で何が起きたのかを問い詰めたのだ。ここまでの情報を整理した限り、不自然な点が多すぎるからね。被害が村の周辺一帯まで及んでいる以上、何かを国ぐるみで隠蔽しているはずだ。
元法王も私からの事情を聞いたことで、こちらの深刻さをすぐに理解し、真実を話してくれた。彼が語った真実、それは衝撃的なものだった。内容があまりにも濃すぎるので、私としても当時の資料をコピーして、こっちに添付してほしいことを訴えると、今日の午後になって、全ての資料がグローバル通信機を通して送られてきた。
私は自分の仲間達全員にグローバル通信機を渡した後、大きく改良を施している。
1) 通信機のバッテリー容量に関しては、所持者のMPとなるよう設定変更した。
2) カメラの取付
3) マナーモード
4) メールの送受信(添付ファイル付)
資料などの小さい荷物や画像などを通信機内のアプリ魔法で圧縮して、転送させることが可能。通信機の届くエリア内であれば、何処にでも配達可能。
5) グループ通話
通常であれば、転移魔法は魔力を莫大に消費する。この問題点を解決してくれたのが、トキワさんだ。1年前、彼は転移魔法を習得したものの、消費魔力量が大きすぎて使用不可だった。大陸間を自分の力で行き来したかった彼は、転移魔法のシステムを調査し、【愛着度】に目をつけた。
通常であれば、座標となる【場所】を指定すると、愛着度が表示される。この部分を【場所】ではなく、【人】に設定変更可能であることを発見したのだ。
この知らせをトキワさんから聞いた時、私も心底驚いたよ。私の場合、仲間達全員の愛着度が100%であるため、魔力消費量も0で転移可能となったのだ。トキワさんも、愛着度100%の知り合いに関しては両大陸にいたので、現在では頻繁に行き来している。
ただ、設定が【人】なのでピンポイントに転移すると、その人が死んでしまう。そこでミスラテル様と相談することで、人を座標として魔法を使用した場合に限り、ステータス内で転移場所を指定してくるよう設定変更してもらった。この程度の変更であれば、代理のミスラテル様の力でも容易だったので助かった。
グローバル通信機は周囲の魔素を利用しているだけであって、基本私の統制下で動いている。つまり、私がシステムを一から再設計すれば、通信機経由の転移魔法(物限定)も仲間内で実行可能なはずだ。トキワさんのおかげで、私の頭もより柔軟になり、ファイルをアプリ魔法【圧縮】で限りなく小さくさせることで、消費魔力を3前後に大きく軽減させることに成功した。
グループ通話で通信機所持者全員に教えると、皆が喜んでくれたよ。
現在、この方法で【私・フレヤ・コウヤさん・国王陛下】へ転送されてきた資料を読んでいるのだけど、私の想定した以上の出来事がミーシャの故郷周辺で起きていた。
「シャーロット……これって大陸を震撼させる程の重大事件よね?」
「そうだね。当時のガーランド法王国法王は総力をあげて、真実を隠蔽し虚偽の事件をでっち上げ、国全体にその情報を拡散させた」
「真実を隠蔽しなければ、アストレカ大陸にいる全ての獣人が殺されていたかもしれないから?」
私はフレヤの言葉に頷く。
【狂獣病】
動物の中でも、獣毛に覆われた《獣》だけに感染すると言われているウイルス性伝染病。この病に罹患すると、空腹感・幻惑・理性崩壊・体内魔力の狂乱といった様々な症状を引き起こす。しかも、接触感染と飛沫感染(唾液や血液といった体液)を引き起こすため、危険度大の第1種危険伝染病指定されている。
症状としては……
第1段階 空腹感(小) → 回復魔法で完治可能
第2段階 空腹感(中)、理性低下(小)、体内魔力の乱れ(小)
→ 回復魔法で完治可能
第3段階 空腹感(大)、理性低下(中)、幻惑(小)、体内魔力の狂乱(大)
→ 完治不可
第4段階 上記全ての症状に加え、幻惑(大)、理性完全崩壊(個人差あり)
→ 完治不可
末期の第4段階に陥ると、理性が完全崩壊することで、空腹のため周囲にあるもの全てを食料とみなし、手当たり次第に食べていく。そして、最後に遠吠えをあげ絶命する。体内魔力が掻き乱されているため、イムノブーストやヒール系の魔法やエリクサーも一切効かない。仮に特効薬があったとしても、患者の殆どが狂乱しているため、服用させるのも不可能だろう。
この凶悪な病が、ミーシャの故郷周辺一帯に発生し規模を拡大させていったのだ。これまで狂獣病は【獣限定】の病として認定されていたが、ウイルスが何らかの要因で突然変異した。ウイルスの性質が大きく変化したことで、獣人にも感染するようになってしまい、病気を発症蔓延させる事態となる。
法王が状況を把握した時、既に300人以上の発狂者が出現し、街や村々では大混乱に陥っていた。接触感染と飛沫感染で広がる以上、最悪国全土に拡大する危険性もある。もし《狂獣病による獣人の狂乱》が他国にも知られてしまったら、大陸中の獣人が差別され、最悪全て抹消される危険性も出てくる。しかも、獣人だけでなく、全ての人種に感染する可能性もある。
まだ、この段階では2つの街と2つの村で騒ぎとなっているものの、それ以上広まっていない。ただし、1つの判断ミスが命取りとなるため、法王は速やかにその周囲一帯を封鎖し、情報を規制した。そして、末期症状に陥った患者全員を秘密裏に抹殺する決断をとる。
この上層部からの指令に対し、街や村々の騎士や冒険者達も《やむを得ない》と判断し、指令が速やかに実行された。この狂獣病騒動は法王の迅速な対応により収束したものの、周辺一帯は血の海と化し、すぐに臭いを消せる状態ではなかった。
しかも、飛沫感染を引き起こす以上、再度感染者が増える危険性もあるため、関わった人々への治療、街や村の浄化に専念する必要性もあり、周辺に無関係の人々を近づけさせるわけにはいかない。そのため、一連の騒動の原因を【凶悪デュラハン】とすることで全国民を納得させ、全ての浄化作業が終了するまで規制を敷いたのだ。
そして、資料を更に読み進めていくと……
《事件当時、狂獣病の治療方法は限定されており、第3段階以降完治は不可能だったものの、ある1人の少女が我々獣人族に明るい未来を齎した。少女の名は【ミーシャ・マードック】、ヒュデル村唯一の生き残りである》
「「ええ!?」」
私もフレヤも、つい大声をだしてしまう。
《彼女だけが、何故か狂獣病に感染していなかったのだ。そして、彼女を救出してくれたオトギ・ミツルマからの情報により、当時ミーシャは何らかの病気に罹患していたという。我々はこの情報を基に研究を進めた結果、《狂獣病》は他の病原性となる細菌やウイルスと共在すると、その機能を著しく低下させ、最終的には死滅することが判明した。しかも、どの段階でも起こり、末期症状の患者さえも完治したのだ》
狂獣病ウイルスは、他の細菌やウイルスに弱いのか。つまり、この病気の治療薬は、【病原性の低い細菌やウイルス】ということになる。
《ミーシャ・マードックは、我々獣人の救世主である。故に、今後そちらの学園で必要とされる彼女の必要経費は、元ガーランド法王国法王が支払うこととなっている。ただし、この情報はミーシャ本人も知らず、また公に公表できないため内密にしてほしい》
ミーシャが獣人の救世主か。
この内容を見たら納得だよ。
でも、本人は一切知らないのか。
「シャーロット、オトギさんの名前が出てきたね。あのね…実は…」
……なるほど。
フレヤは、オトギさんの秘密を偶然知ってしまったのか。
「オトギさんが、ミーシャの両親や村人達を殺した。でも、あの時点では治療法が確立されていない。彼女のことを第一に考えて犯してしまった行為なんだよ」
「それじゃあ、ミーシャが見た光景、あれって僅かに理性を残していた両親が、オトギさんにミーシャを託したということかな?」
「フレヤの答えが正解だと思う。でも、これは世間に公表できないよ。ミーシャには、全容を教えてあげたいけど」
彼女は、デュラハンに固執している。
この件を教えてあげれば、オトギさんを恨むことはないと思う。
「シャーロット、謎はまだ残っているわ。オトギさんって何者なの? ミーシャの見た光景も真実なのだから、彼は頭と身体を分離していたことになる。そんなスキルって存在したかな?」
そこだね。
資料によると、研究者達は事件終息直後に、オトギさんからも事情聴取している。彼からデュラハンの話を聞いたことで、法王は事件の元凶を【デュラハン】と世間に公表した。そして、被害地域一帯を狂獣病の研究拠点とするため、《1体だけ逃走した》という設定にしておいたんだ。この処置ならば、外部からの冒険者も被害地域一帯へ迂闊に来ないからね。
オトギさん自身も、ミーシャのことを第一に考えている。
ミーシャがあの光景を目撃している以上、彼女は【犯人はデュラハンだ】と強く思い込んでいる。幸い、情報がかなり拡散された後に、ミーシャが目覚めた。彼女自身が皆に事情を説明することで、周囲の人達も状況を理解し、彼女の力となってくれた。
全て、オトギさんがそうなるよう仕組んだのだろう。
彼は、奇妙なスキルを持っているだけの善人かもしれない。
「私は、そんな分離スキルを知らない。オトギさんだけが持つ【ユニークスキル】だと思う。そして、彼の言った《誰も死なない》という言葉から推理すると、デュラハンと戦ったという証言自体が虚偽かな?」
「それなら辻褄が合うわね」
オトギさんも、事件を公にしないよう言われているはずだ。でも、ミーシャと再会したことで、咄嗟にあの虚偽の発言をしたのだろう。トイレの中で、罪悪感を漏らすのもわかる。
「とりあえず、オトギさんと話し合わないとね。彼から語られる内容が、この資料と一致するのか確認したい」
まさか、ここまでの事件だったとは。
国家ぐるみで隠蔽するのもわかるよ。
近日中にオトギさんと話し合い、もし彼が信用できない人物であれば、申し訳ないけど構造解析させてもらおう。
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