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10歳〜アストレカ大陸編【旅芸人と負の遺産】

フレヤの戸惑い

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○○○ フレヤ視点

私とシャーロットがミーシャのいる部屋に到着すると、部屋内には彼女1人しかいなかった。私としては、あまりルームメイトに聞かれたくない話でもあるので好都合だわ。

「フレヤ、シャーロット、どうしたの?」

さっき別れたばかりだもの、疑問に思って当然よね。
私のワガママでもあるから、ミーシャには私から伝えよう。

「訓練場では他の生徒もいたから言えなかったけど、デュラハン捜索に何かお手伝いできないかと思って、今からオトギさん達のいる職員室に向かうの。ミーシャはどうする?」

「私も行く! オトギさんに沢山迷惑をかけた。その償いをしたい!」

え、即答!?
ミーシャも私と同じで、オトギさんのことを気にかけているの?

「フレヤ、ミーシャ、ごめんね。私は急用で、とある貴族の屋敷に行くことになっているの。先生達との話し合いに関しては、フレヤとミーシャに任せます」

ええ~聞いてないわ!
ついさっき、一緒に行ってくれるって言ったじゃない!
突然の話で、私はシャーロットをガン見した。
ミーシャがいる手前、口に出せないから【テレパス】で言わないと。

『シャーロット、どういうこと!? 一緒に来てくれないの?』

『私が行ったら、私が主導となって先生達と話すことになる。それじゃあ意味ないでしょ? オトギさんと話し合いたいのなら、フレヤが主導でないとね』

う、ごもっともです。

訓練場でのバケツダイブ事件の際、聖女であるシャーロットが前面に出てオトギさんやキョウラク先生と話し合い謝罪していたわ。私は、それについていっただけ。それだと、私の印象度は低いわ。

『それに、急用が出来たというのは本当よ。再度クディッチス家に行って、デュラハンのことを直接言っておきたいの。ネルマが何かやらかす前にね』

あ、彼女なら何かやらかしそう。

『わかったわ。私とミーシャで頑張る』

「それじゃあ、私は行くね。フレヤとミーシャも頑張ってね」

シャーロットが言い出したことなのに、当の本人があっさりと私を見放してクディッチス家に向かってしまった。

「フレヤ、私達も行こう」
「ええ……そうね」

私がオトギさんに話す。
なんで、胸の動悸が収まらないの?
この正体が何であるかのか薄々わかってはいるけど、どう対処したらいいの?

ああ、ぼんやりと考えているうちに彼のいる本校舎職員室へ到着してしまった。

「ミ、ミーシャ、私…ちょっとお手洗いに行ってくるわ!」
「わかった。職員室に入らずに、ここで待ってる」

うう、ドキドキが止まらないから、つい嘘をついてしまった。
とりあえず、お手洗いに行こう。


……はあ~どうしよう。職員室に入るだけで、ここまで緊張するなんて。これでオトギさんに直視されたら、私は平常心を保てるかな?


『はあ~まずった。まさか、ここまで大事になるとは』

え、この声の主はオトギさん?
場所は男性用トイレ?
いけない! 聴覚拡大スキルをONにしたままだわ!?
この廊下だと鉢合わせするから、私も女性用トイレに入ろう。
何を呟いているのかな?

『全ての発端は、ミーシャとの再会だ。あの子があそこまで強くなり、デュラハンに執着しているとは誤算だった』

え、どういうこと? 
オトギさんとミーシャは初見じゃないの? 

『ミーシャは、国が拡散させたデマ情報を信じ切っている。まあ、俺が彼女の両親や村人達の一部を殺しているから似たようなものだが、真実を話しておいた方が良さそうだな。幸い、シャーロットやフレヤもいるから、彼女達があの子を助けてくれるだろう』

嘘!
ミーシャの両親は、オトギさんに殺されていたの!?
でも、彼の言い方が気になるわ。
《国が拡散させたデマ情報》って何のことかしら?

『はあ~どうすっかな~。最終目的地に到着した途端、問題発生かよ~。今後のためにも、《あの子》には俺への印象を低下させたくない。はあ~、俺の目標達成は当分お預けだな。先に、ミーシャの両親との約束を果たすか。このまま放置すると、彼女は一生復讐に囚われたままとなっちまう』

《あの子》って誰を指しているの? 
両親との約束?

『このままグダグダ考えていても仕方ねえ。冒険者や騎士の人達には迷惑をかけてしまうが、絶対に人死には起こらない。とりあえず、このまま《流れ》に身を任せるか』

あ、声が聞こえなくなった。
聞いてはいけないことを聞いたような気がする。

オトギさんが、ミーシャの両親と村人の一部を殺したの?
ミーシャの両親との約束って何?
《あの子》って誰を指しているの?
誰も死なないって、どうして言い切れるの?

……わからない。

今の話、私の心の中に留めておこう。
ミーシャのいる場所へ戻ると、オトギさんが彼女と話し合っている。

「あ……オトギさん」

あんな話を聞いたせいもあって、胸の動悸は収まっているものの、彼と話しにくいわ。

「フレヤ、ミーシャから聞いたよ。君達の申し出は嬉しいけど、さすがに討伐部隊には入れられないな」

「あ…あの……それでも何かしたくて…」
どうしよう、言葉が出てこない。

「う~ん、きつい言い方になるけど、子供にはまだ早い。たとえ、君達が強くても、強者との実戦経験がない以上、今は迂闊な行動を控えてほしい。強いて挙げるなら、今後生徒達を王都外に行かないよう、学内に注意を向けてもらいたい」

確かに厳しい言い方だけど、オトギさんは私達のことを思って答えてくれている。私のことも聖女代理とかではなく、1人の10歳の子供として見てくれているわ。



この言葉が喉に詰まる。男子トイレから聞こえてきたあの呟き、この人は何かを隠している。ミーシャを見ると、彼女も悔しそうにしているけど、オトギさんの言葉を受け入れようとしている。

「わかりました。討伐部隊の人達に迷惑をかけないよう、学園内で待機しています。ただ、私は《聖女代理》です。緊急事態が発生したら、そちらに向かいます!」

「ああ、それでいいよ」

彼は魅惑的な笑顔で、私の頭を撫でてくれている。たったこれだけの短いやりとりで、自分が子供扱いされていることを、私は心から自覚した。


○○○


私達は職員室に入らず寮へと戻ってきた。ミーシャと別れた後、私は自室へ戻ったのだけど、緊張の糸が切れたのか、そのままベッドに仰向けとなって寝転がる。

「はあ~、自分が10歳であることを痛感したわ。普通、同年代か歳上の女性に対して、頭を撫でたりしないわよね」

身体と心の年齢差を初めて憎く感じるわ。こればかりは、どうしようもないもの。

「あ~あ、シャーロットにどう言おうか? オトギさん自身も決して悪い人ではないけど、何かを隠している。《ミーシャのこと》、《デュラハンのこと》。彼女の【構造解析】スキルに頼れば全て解決するけど、彼のプライバシーを無断で覗き見するのも悪いし、どうしようか?」

私…何をやっているんだろう?
誰だって、隠しごとの1つや2つはあるわ。
今回、偶々それを聞いてしまっただけ。
オトギさんも、何か事情があってミーシャに打ち明けていないのかな?

私が2人の事情に参入したら、余計拗れてしまう。
流れに身を任せる……か。

「とりあえず、私からは何もしないでおこうかな」
「え、何もしないの?」
「ええ、だって……みゃあああ~~~~、シャーロット~~~!!!!!」
突然声が聞こえたから反射的に答えたけど、いつの間にか私のすぐ横にいた。

「あはは、驚かせてごめんね。用事も済んだから、転移魔法で戻ってきたの」
え、転移魔法!?

「転移魔法でクディッチス家に行ったの?」
「そうだよ。早いうちに言っておいた方がいいからね。勿論、周囲にはバレてないよ」

あはは……そういえば私の独り言をどこまで聞いていたのかな?

「オトギさんとは上手くいかなかったの?」
その様子だと、彼の秘密のことを聞かれたわけじゃないのね。

「《子供にはまだ早い》だって。最後に、頭を撫でられたわ」
シャーロットも苦笑いか。

「私達は10歳だから、子供扱いされても仕方ないよ。見た目は子供、頭脳は大人ていう状態だね」

そのフレーズ、何処かで聞いたような?

「はあ~私だって予想していたけど、直で子供扱いされると傷つく。冒険者ギルドから正式に聖女出動要請が来ない限り協力できそうにないわ」

これが……初恋なのかな?
《初恋は実らない》って言うけど、真実になりそうだわ。

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