記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護

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38話 料理道の真骨頂

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ウィステと2人で、ユリネアの行方を捜索していく。

「どうして、ユリネアのいる方向がわかるのですか? 私も匂いや魔力残滓で感覚的にわかるのですが、それでも正しいのか不安なのに、ユイには迷いがないです」

「それはね、私とユリネアの中に、アリエスの心があるからだよ」
「心?」

ウィステが首を傾げるのも無理ないか。

「強奪された影響で、アリエスの心がバラバラになって、その残滓が私とユリネアの中にいる。そのせいか、彼女がユリネアの居場所を教えてくれるんだ」

ウィステは、微妙な表情をしているけど納得してくれたのかな?

「それって、良いことなのか、悪いことなのか微妙なのです」
「あはは、そうだね」

私の中にいるアリエスの指示通りに歩を進め、大通りから外れた狭い道に入ると、大きな麻袋を担いでいる仮面の男と遭遇する。アリエスが『ユリネアは麻袋の中!』と教えてくれた。私たちとは反対方向に歩いているけど、ここには3人だけだから、声をかけたら絶対に気づいてくれる。

「見つけた~~~! そこのお面の人、ユリネアを返して!」

男性は振り向くことなく、私たちを無視して歩き続ける。

「無視するな~~~。その麻袋を置かないと、痛い目を見るのです~~~」

ウィステが叫ぶと、男性はこっちをチラッと見ただけで、再び歩き出す。私たちなんて、眼中にないって感じだ。ウィステもそれを理解したのか、そのまま突っ込んでいく。

「お前、ムカつく! 本気で、ぶちのめす!」

一瞬で距離を詰めるウィステ、もう少しで届く瞬間、背中がゾクッとして、私のスキル[危機察知]が大きく反応する。

「ウィステ、止まって!」
「え? な…!? く!」

ウィステが止まった瞬間、彼女の顔面数センチ手前に、鋭いナイフの切先が向けられていて、本能的に恐れたのか慌てて後退する。あのナイフ、いつの間に取り出したの? 

「命拾いしたな」
「こいつ!」

この男性、強いよ。ウィステを一瞬で怯ませたもん。

「ユリネアを……私の親友を返して!」
「……」
「私はスキル、ウィステは匂いやスキルで、その袋の中にいるのがわかるの」
「ユリネアを返すのです!」
「断る」

ウィステが殴りかかろうとした瞬間、男性は袋を上空に放り投げる。ナイフがいつの間にか消えていて、男性はそのまま彼女の高速で繰り出すパンチや蹴りを全部受け止め、1歩も動かない状態で、掌底を彼女の顔面に軽く当てると、ウィステは私のいる方へ飛んできた。男性は、落下してくる麻袋を受け止め、再び歩き出す。

「あいつ、強いです!」

このままだと、ユリネアが連れ去られてしまう。
もう、手段を選んでいる場合じゃない。

「ウィステ、私があの人を怯ませて麻袋を床に落とさせるから、成功したら担いで離れて」

男性はピタッと歩みを止めて振り向き、私を見る。能面のような仮面をしているから表情を読み取れないけど、興味を持ってくれたのか、そこから動かない。

「何を言っているのです!」
「大丈夫、勝機はある。私のスキルは人に向けちゃいけないけど、ユリネアを助けるために人にぶつける」

私の身体は強奪の影響で、これ以上のスキルと魔法を覚えられない。だから、鈴さんは統括型スキル【料理道[極み]】を与えてくれた。内蔵されているスキル全てが、料理に関わるものばかり。この《料理》という言葉が、曲者なんだよ。人は動物や魔物を食材としているけど、魔物は人や動物を食材としているし、中には鉱物を食べる者だっている。

多分、この世に存在するあらゆる物が食材に該当するんだ。
だから…料理道スキルは、[あらゆるもの]に適用できる。
ロイドさんやリオンも、それに近い事を言ってくれたもの!
今、それを試す!

「わかったのです。ユイを信じるのです!」
「ユリネアを返してもらうよ。スキル[沸騰]!」

一瞬だけ、静寂が訪れる。

「なんだ? おわ、目が~」

男性が麻袋を落とし、両手で仮面を押さえて苦しみ出す。
上手くいった!
顔全体があの仮面で密閉されているわけじゃないけど、大部分を囲っているから、その部分に含まれる水分を一気に沸騰させた。あの空間内に入る水分全てが沸騰するから、内部は高熱だ。

「ウィステ!」
「了解なのです!」

私は男性の前へと駆け出して、懐に飛び込もうとすると、男性がふらつき苦しむ中、私を視認して左拳を振るってくる。

「そんなの効かないんだから!」

料理スキル[解体]は、生物を部位ごとに解体する。
その上位スキル[分解]は、有機物や無機物などを分解してくれる。

この[分解]で襲いかかるエネルギー全てを分解させれば、どれだけ当たっても痛くも痒くもないし、拳だって有機物に該当するから、簡単に壊せる。私のスキルレベルはMAXだもの。ただ、ここは骨折程度に留めておこう。

「折れた? 馬鹿な!?」

男性は驚いたのか、咄嗟に右手でナイフを何処からか取り出して、私の胸に突き刺そうとするも、ナイフはスキルの作用でバラバラに分解される。

「ありえん!」

私は体勢を低くして、男性の両足のアキレス腱に触れる。

「解体!」
「ぐ!」

アキレス腱を切断すると、男性が体勢を崩す。まだ、終わらないよ。絶対に、逃さないんだから。そのまま、膝の関節部に触れる。

「ここも!」
「うお!」

男性が地面に崩れ落ちる。
関節を壊せば、流石に動けないと思う。

「もう、動けないでしょ? ユリネアを返してもらうよ!」
「お前…一体何者?」

ウィステを見ると、麻袋からユリネアを出してくれている。怪我はないようだけど、薬を嗅がされたのか、身体に力が入っていない。

「ユリネアの親友だよ! 彼女は、絶対に渡さないんだから! 貴方は、留置場で反省して!」
「ち!」

私が男性の右腕を掴もうとした瞬間、彼は何処かに消えてしまった。

「え、消えた!?」
「今のは転移!? あいつ、そんな稀少魔法を使えるのですか!」

転移…瞬間移動のことだ! 
ここは魔法の世界だから、そういったことも可能なんだ。

「ごめん、逃げられちゃった」
「最優先は、ユリネアの確保なのです。目標達成なのです。やっぱり、ユイは強い。強過ぎるから、バトルロイヤル戦に参加しなかったのですね!」

なんか、誤解されている。

「スキルが優秀なだけで、私自身の強さはウィステより弱いよ」
「スキルも、その人の持つ強さなのです。自信を持つのです」

自信…か。
今回の対人戦で、私も人と戦う覚悟を持てたね。
あとは……襲撃者たちを殺せる覚悟を持てるかだ。

「この袋から、変な匂いがするのです。このせいで、ユリネアは身体を動かせないようです」

私は倒れているユリネアの元へ駆けつけると、彼女はだらんとしているけど、目には光があって、必死に頷こうと首を動かそうとしている。

「そうだ。これ飲んでみて」
「何ですか、これは?」
「私の自作ポーション。まだ、ハティスにしか試していないけど、効き目バツグンなんだから!」

呼吸もしっかりしているから、自分で飲める力はあるかな。

「ポーション? この青白くて透明な液体が? 私の知るポーションは、緑色で苦味があって苦手なのです」

緑? 私の作るポーションに、そんな色ないけど。
とにかく、飲ませてみよう。

「ユリネア、ゆっくり入れるから少しずつ飲んでね」

ポーションを少しずつ飲ませていくと、ユリネアの身体が仄かに光り出す。そんな状態を見ていると、私の中にいるアリエスの心も、ほっと安心しているのがわかる。私の場合、元はアリエスでもあるから、彼女の残滓はスキル[融和]で、すぐに私と1つになってくれたけど、ユリネアの場合は心も身体も違うから、このまま放置すると、何が起こるかわからない。彼女にはアリエスと話し合ってもらい、互いの蟠りを無くしてもらい、1つになってもらおう。
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