記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい

犬社護

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40話 再出発

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アリエスは、強奪を働いた公爵様やユリネアたちに対して、悪感情を抱いていなかった。公爵様たちもやもをえない事情があったからこそ、その行為に至っただけで、根っからの悪人じゃないと考えていいのかな。

お互い、これで前に進めるけど、ユリネアを連れ去ろうとしていた男性の問題が残っている。逃げられたせいで、何の情報も掴めていない。

「ガイさんたちも探しているから、一旦冒険者ギルドへ戻ろう。もう、心配いらないって教えてあげないと」

「そうね。私も両親に通信を入れて、きちんと話し合わないといけないわ。一度通信しているから、2人共こっちに向かっているかもしれない」

公爵様たちとの話し合いか、強奪された私も参加必須だよね。私もユリネアも立ち直っているから大事にはならないだろうけど、真実を知ったブライトさん、ロイドさん、セリーナ様たちがどう動くのか気になる。

「ユリネア、この麻袋、どうするのです?」
「証拠品だし、一応持って帰るわ」

ユリネアは、袋を綺麗に折り畳む。

「さあ、行きましょう」

私たちが大通りを歩いていると、ガイさん、ロイドさんが周囲の人たちに声をかけて、何か話しながら少しずつ私たちに近づいてくる。焦っているのか、私たちに全然気づいていない。

「お~い、ロイドさ~ん。ガイさ~ん」

私の声に気付き、ようやく私たちを認識してくれた。

「あの方が、領主でランクSのロイド・ドライトーク子爵様ね」
「そうだよ。固っ苦しいのは苦手だから、家名で呼んでほしくないんだって」
「そうなの? 新聞でしか知らないから、気難しい人だと思ってたわ。流石に初対面だし、失礼のないよう家名で呼ばせてもらうわね」

私の場合、貴族の礼儀を知らないこともあって、初対面の時点からロイドさんと呼んでいたよ。2人共、私たちを視認するやいなや、こっちに猛ダッシュで駆けつけてくる。

「お嬢様! お身体の具合は…馬鹿な…あれ程乱れていた魔力が安定している」
「ユリネア嬢もユイも無事で安心したが、荒れ狂っていた魔力を、どうやって鎮めたんだ?」

ガイさんもロイドさんもかなり心配してくれていたのか、私とユリネアの状態を気にかけてくれている。

「ガイ、ドライトーク様、心配かけて申し訳ありません。私は、ユイやアリエス、ウィステに助けられたんです」

あはは、私とアリエスは同一人物だから、2人も困惑しているよ。

「ユイの行使したスキル[融和]のおかげで、私の中に残っていたアリエスの心の残滓と話し合えたことで、彼女の心と1つになれたんです。だから、今は晴れ晴れとしています」

ユリネアの目、真相を盗み聞きした直後と全然違う。
私が見ても、今の彼女から悩みが払拭されているとわかる。

「心の残滓と会話? そんな事が…」

困惑するガイさんの横で、ロイドさんが私を怪しげな目付きで見てくる。

「ユイ、君の持つ全てのスキルが、料理道の中にあるものだったな?」
「そうです。融和が役立って良かったです」
「言葉の意味はわかるんだが、それはあくまで料理内だろ?」
「もう、何を言っているんですか。ロイドさんやリオンが、料理道の中には、料理以外の分野でも応用可能だと教えてくれたじゃないですか。だから、溶けて混じり合う融和を使えば、心を1つに出来るんじゃないかと思ったんですよ」

「勿論、言ったが……(普通、料理スキルで、心を1つに出来るとは思わないんだが)…その発想はユイにしかできないな」

ロイドさんが、優しく微笑んでくれた。

「えへへ」

やった、褒められた! 

「ドライトーク様、冒険者ギルドに戻って、通信機をお借りしてもよろしいでしょうか? 今の状況を、両親に知らせたいのですが」

「構いませんよ。それと、私を呼ぶ際は、名の方でお願いします」
「ユイから聞きました。堅苦しいのは苦手なのですよね。それなら私と話す際も、敬語なんて入りません。普段通りで、お願いします」

「了解した」

私たちは、冒険者ギルドを目指し歩き出す。

ブライトさんはギルドマスターのため、ギルドから無断で離れられないし、セリーナ様は病気だから、心情安定のため、護衛のエミリア様さんと共に待機、リオンはロイドさんたちと別れて私たちを捜索中、ハティスはお疲れのため、ギルドマスターの部屋のソファーで熟睡中みたい。


○○○


冒険者ギルドからハートニック公爵家へ通信すると、既にユリネアの両親は、この街へ向かっているとのこと。到着するまでの間、ブライトさんは真実を知る皆を客室に集めて、蟠りを無くすための会談が実施されることになったので、ユリネアが真っ先に[見知らぬ仮面男に連れ去られそうになったこと]、[アリエスや私に謝罪し和解していること]を伝え、これからは互いを守り合える関係を築きたい事を宣言すると、王族であるセリーナ様が真っ先に口を開く。

「一番の被害者であるユイが彼女を許しているのなら、部外者である私たちからは何も言えないわ。この中で、リオンとウィステが一番怒っていたけど、2人はどうなの?」

セリーナ様がリオンを見ると、彼は何故かかなり狼狽えている。

「え…いや…仲間として怒るのは当然だろ! ユイが許しているのなら、俺だって何も言えない」

なんで、顔を真っ赤にしながら喋っているのかな?

「ユイがユリネアを許しているのなら、私も怒らないのです」

ウィステも、納得してくれて良かった。

「ブライト様やロイド様は?」

「愚問よ。私たちはユイの味方、彼女が許しているのなら、何も言わないわ」

「同意見です。ただ、ユリネアを第一王子の婚約者として相応しい存在に成長させたいのなら、ハートニック公爵家とは協力関係を築かねばならない。その話し合いに関しては…」

ロイドさんが、ユリネアをじっと見つめる。

「勿論、私が主導となって両親を説得します。ただ、王家とも協力関係を築きたいので、両親の返答が気に掛かります」

協力関係は必須だけど、そのためには公爵家秘匿とされている強奪魔法を明かさないといけない。ユリネアは、その点を気にしているのかな?

「そこは、君の力量次第だろう」

「ロイド様の言う通りね。私もユリネアやユイの力になりたいけど、王女である以上、表立って口にできない。だから、公爵家との関係性をクリアすれば、私が裏で陛下に事のあらましを通信で直接伝え、王家側の状況を貴方たちに逐一教えていくわ」

私たちにとって、その役割はすっごく嬉しいです!

「宜しいのですか?」
「いいに決まっているでしょ。元はと言えば、陛下の下した決断が悪いのだから」

その点に関しては不敬になる場合もあるから、私たちからは何も言えないよ。ユリネアも、苦笑いを浮かべているもの。

「強奪の件で互いに分かり合えたのはいいけど、ユリネアを連れ去ろうとしていた仮面男の件だけが解決していないわね」

「セリーナ、手掛かりはあるのです!」

セリーナ様の質問に、ウィステだけが目を明るくして声を張り上げる。

「奴はユリネアを眠らせず、薬で弛緩させただけ。殺すことが目的ではないのです! 多分、精神を脆弱させるのが目的なのです!」

「何のために?」

セリーナ様、真面目な目でウィステに突っ込んでいる。

「う…それは…わからないのです」

ウィステ、そこは答えようよ。
話の流れからして、大凡わかると思うよ。

「セリーナ様も、意地悪しないの。状況だけを考えれば、ウィステの意見が正しいわ。仮面男…というより、そいつを雇った者はユリネア嬢の精神を脆弱化させ、ハートニック公爵家に恥をかかせることで、権力を低下させたいのよ」

「ブライト様、まさか別荘で起きた件も?」

ユリネアの考えている通り、何処までが関与しているのかが不鮮明だけど、護符の件に関しては、仮面男の仲間たちの仕業だよ。

「ええ、【目の前の瓦礫に埋もれている自分の娘すら探し出せない脆弱な家と、周囲に知らしめること】、これが目的でしょうね。犯人側の誤算は、《強奪による精神回復》《アリエスの存在》よ。目的を果たせていない以上、奴らは必ずユリネア嬢を襲うわ。早急に、ハートニック公爵との話し合いが必要よ」

ユリネアと私の身に起きた件で、ハートニック公爵がどんな判断を下すのか、穏便に事を運びたいけど、そんなに上手くいってくれるかな? お互いが協力しないと、ユリネアが不幸になってしまう。話を聞いた限り、彼女は両親に愛されていると思うけど、それでも不安だ。
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