紳士オークの保護的な溺愛

こむぎこ7g

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触れずに、守るということ

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■ 夜

――触れずに、守るということ

夜の屋敷は、昼よりも音が少ない。
外灯の明かりが窓に滲み、廊下に淡い影を落とす。

私は書斎で帳簿を閉じ、ふと手を止めた。
向こうの部屋から、微かな物音がする。
――あなただ。

不安げな気配。
眠れずにいるのだろう。

私はすぐには立ち上がらなかった。
駆け寄るのは簡単だ。
だが、相手の時間を尊重することも、守り方の一つだ。

それでも、やがて廊下に出る。
控えめに、扉の前で声をかける。

「……起きていますか」

間があった。
その沈黙に、胸がわずかに締めつけられる。

「はい」

かすれた声。

私は扉の外に立ったまま、言う。

「眠れないようでしたら、
 温かい飲み物を用意できますが……どうでしょう」

再び、間。
そして、扉が少しだけ開く。

あなたは、灯りの向こうに立っていた。
夜の静けさの中で、その存在感は、昼よりも脆く見える。

私は、一歩も中に入らない。

それが、今夜の私の選択だった。

「……すみません」

あなたが言う。

「迷惑、ですよね」

その言葉に、私は即座に首を横に振る。

「いいえ。
 迷惑という概念は、ここにはありません」

それは、計算ではなく、本心だった。

あなたは視線を落とし、ぽつりと続ける。

「……自分、何もできなくて。
 ここに来てから、ずっと助けてもらってばかりで……」

その言葉は、夜気よりも冷たく、
胸の奥に刺さる。

――ああ。

私はようやく理解する。
あなたが抱えているのは、不安だけではない。
「居ていいのか」という疑念だ。

私は、静かに息を整える。

「……できないことは、恥ではありません」

一語一語、噛みしめるように。

「あなたは今、立っています。
 話しています。
 それで、十分です」

あなたが、驚いたようにこちらを見る。

「ここにいる理由を、
 成果や価値で証明する必要はありません」

それは、かつて伴侶に言われた言葉でもあった。

あなたの肩が、ほんの少し下がる。
張り詰めていた糸が、緩む音がする。

私は、最後まで部屋に入らない。
触れない。
だが、逃げもしない。

「眠れそうですか」

そう尋ねると、あなたは小さく頷いた。

「……少し、楽になりました」

その言葉で、十分だった。

私は扉の前で軽く頭を下げる。

「おやすみなさい。
 ……ここは、安全です」

扉が閉まる。

廊下に一人残された私は、
胸に手を当てた。

触れていない。
抱きしめてもいない。

それでも――
確かに、心は近づいた。

亡き伴侶の面影が、静かに浮かぶ。

「……大丈夫だ」

誰に向けた言葉かは、分からない。

だが私は、知っている。

この夜を越えた先に、
少しだけ、未来があることを。
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