10 / 27
未来は同じ方向
しおりを挟む
■ 深夜
――選択肢が、静かに消える
その夜は、長くはなかった。
だが、短くもなかった。
暖炉の火が落ち着き、
屋敷全体が、眠りに向かう準備を始める頃。
私は立ち上がり、言った。
「……遅くなりました。
お休みになりますか」
あなたは外套を肩にかけたまま、少し迷ってから答える。
「……はい。でも……」
言葉が、そこで途切れる。
私は急かさない。
沈黙は、今や敵ではない。
「……このまま、ここにいても、いいですか」
それは、
「一緒にいたい」とも、
「一人は不安だ」とも、
違う言い方だった。
だが私には、十分すぎるほど、意味が伝わった。
「ええ」
私は、即座に答えた。
条件も、時間制限も、つけない。
あなたは、安堵したように息を吐き、
椅子に深く腰を下ろす。
その姿を見た瞬間、
私は理解した。
――もう、「離れる」という選択肢は、
――この人の中から消えている。
そして同時に、
私の中からも。
⸻
■ 周囲の気づき
――守る者と、守られる者ではなく
翌日、街に出る。
市場の空気が、どこか違った。
視線が、露骨ではない。
だが、確信を含んでいる。
果物屋の老オークが、私に言った。
「……最近、柔らかくなりましたな」
私は一瞬、言葉を失い、
それから、小さく微笑む。
「そうでしょうか」
「ええ。
昔は、もう少し……こう、角がありました」
それは、責めではない。
祝福に近い。
あなたは、そのやりとりを黙って聞いている。
そして、自然に――
私の半歩後ろではなく、隣に立った。
それだけで、十分だった。
誰も、何も言わない。
だが、皆が分かっている。
これは、庇護ではない。
同居人でもない。
――選び合っているのだと。
⸻
■ 夜
――未来を、口にする
屋敷に戻り、灯りを落とす。
二人で、暖炉の前に座る。
私は、しばらく黙っていた。
だが、今日は――
逃げないと決めていた。
あなたの名を呼ぶ。
それは、
仕事相手でも、保護対象でもない呼び方。
あなたが、こちらを見る。
「私は……
長く、同じ生活を続けてきました」
過去形だ。
意識的に。
「変化を、好まない性分です。
慎重で、臆病で……
おそらく、あなたが思う以上に」
自嘲は、しない。
事実として述べる。
「それでも――」
私は、あなたの目を見る。
逃げない。
逸らさない。
「もし、あなたが望むなら。
この屋敷を、
この日常を、
……未来を」
一拍、置く。
「一緒に考えていきたい」
それは、誓いではない。
束縛でもない。
だが、
最も重たい言葉だった。
あなたは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷く。
「……急がなくて、いいんですよね」
私は、微笑む。
「ええ。
私たちは、急がないのが得意ですから」
あなたは初めて、柔らかく微笑んだ。
その瞬間、
私は確信した。
――頑張る必要は、もうない。
――大切に、続ければいい。
暖炉の火が、静かに揺れる。
影が、二つ重なる。
手は、まだ繋がない。
だが、未来は――
もう、同じ方向を向いている。
――選択肢が、静かに消える
その夜は、長くはなかった。
だが、短くもなかった。
暖炉の火が落ち着き、
屋敷全体が、眠りに向かう準備を始める頃。
私は立ち上がり、言った。
「……遅くなりました。
お休みになりますか」
あなたは外套を肩にかけたまま、少し迷ってから答える。
「……はい。でも……」
言葉が、そこで途切れる。
私は急かさない。
沈黙は、今や敵ではない。
「……このまま、ここにいても、いいですか」
それは、
「一緒にいたい」とも、
「一人は不安だ」とも、
違う言い方だった。
だが私には、十分すぎるほど、意味が伝わった。
「ええ」
私は、即座に答えた。
条件も、時間制限も、つけない。
あなたは、安堵したように息を吐き、
椅子に深く腰を下ろす。
その姿を見た瞬間、
私は理解した。
――もう、「離れる」という選択肢は、
――この人の中から消えている。
そして同時に、
私の中からも。
⸻
■ 周囲の気づき
――守る者と、守られる者ではなく
翌日、街に出る。
市場の空気が、どこか違った。
視線が、露骨ではない。
だが、確信を含んでいる。
果物屋の老オークが、私に言った。
「……最近、柔らかくなりましたな」
私は一瞬、言葉を失い、
それから、小さく微笑む。
「そうでしょうか」
「ええ。
昔は、もう少し……こう、角がありました」
それは、責めではない。
祝福に近い。
あなたは、そのやりとりを黙って聞いている。
そして、自然に――
私の半歩後ろではなく、隣に立った。
それだけで、十分だった。
誰も、何も言わない。
だが、皆が分かっている。
これは、庇護ではない。
同居人でもない。
――選び合っているのだと。
⸻
■ 夜
――未来を、口にする
屋敷に戻り、灯りを落とす。
二人で、暖炉の前に座る。
私は、しばらく黙っていた。
だが、今日は――
逃げないと決めていた。
あなたの名を呼ぶ。
それは、
仕事相手でも、保護対象でもない呼び方。
あなたが、こちらを見る。
「私は……
長く、同じ生活を続けてきました」
過去形だ。
意識的に。
「変化を、好まない性分です。
慎重で、臆病で……
おそらく、あなたが思う以上に」
自嘲は、しない。
事実として述べる。
「それでも――」
私は、あなたの目を見る。
逃げない。
逸らさない。
「もし、あなたが望むなら。
この屋敷を、
この日常を、
……未来を」
一拍、置く。
「一緒に考えていきたい」
それは、誓いではない。
束縛でもない。
だが、
最も重たい言葉だった。
あなたは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと頷く。
「……急がなくて、いいんですよね」
私は、微笑む。
「ええ。
私たちは、急がないのが得意ですから」
あなたは初めて、柔らかく微笑んだ。
その瞬間、
私は確信した。
――頑張る必要は、もうない。
――大切に、続ければいい。
暖炉の火が、静かに揺れる。
影が、二つ重なる。
手は、まだ繋がない。
だが、未来は――
もう、同じ方向を向いている。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する
SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
過労死転生した公務員、魔力がないだけで辺境に追放されたので、忠犬騎士と知識チートでざまぁしながら領地経営はじめます
水凪しおん
BL
過労死した元公務員の俺が転生したのは、魔法と剣が存在する異世界の、どうしようもない貧乏貴族の三男だった。
家族からは能無しと蔑まれ、与えられたのは「ゴミ捨て場」と揶揄される荒れ果てた辺境の領地。これは、事実上の追放だ。
絶望的な状況の中、俺に付き従ったのは、無口で無骨だが、その瞳に確かな忠誠を宿す一人の護衛騎士だけだった。
「大丈夫だ。俺がいる」
彼の言葉を胸に、俺は決意する。公務員として培った知識と経験、そして持ち前のしぶとさで、この最悪な領地を最高の楽園に変えてみせると。
これは、不遇な貴族と忠実な騎士が織りなす、絶望の淵から始まる領地改革ファンタジー。そして、固い絆で結ばれた二人が、やがて王国を揺るがす運命に立ち向かう物語。
無能と罵った家族に、見て見ぬふりをした者たちに、最高の「ざまぁ」をお見舞いしてやろうじゃないか!
【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー
AI比較企画作品
推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!
木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。
この話は小説家になろうにも投稿しています。
いい加減観念して結婚してください
彩根梨愛
BL
平凡なオメガが成り行きで決まった婚約解消予定のアルファに結婚を迫られる話
元々ショートショートでしたが、続編を書きましたので短編になりました。
2025/05/05時点でBL18位ありがとうございます。
作者自身驚いていますが、お楽しみ頂き光栄です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる