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理由を言葉にして
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■ ガスパールの独白
――引いてしまう理由を、言葉にしてしまった夜
私は昔から、
「一歩引く」ことで物事を保ってきました。
前に出れば、
力がある。
声もある。
立場もある。
だからこそ、
出ない。
それが、成熟だと信じていました。
あなたが街の奥へ行きたいと言ったときも、
私は反射的に、心の中で距離を取ったのです。
――危険だ。
――私が前に出るべきだ。
――だが、出れば、あなたの歩幅を壊す。
その逡巡を、
私は言葉にしませんでした。
……いいえ、
できませんでした。
⸻
その夜。
暖炉の前で、あなたがこちらを見上げて言いましたね。
「ガスパール、今日は静かですね」
その一言で、
私は観念しました。
逃げられない、と。
「……静かなのではなく、
考え過ぎているのです」
自分でも驚くほど、
素直な言い方でした。
あなたは、首を傾げる。
「何を、ですか」
私は、椅子に腰を下ろし、
自然とあなたの方を向きました。
いつもなら、
斜めか、少し距離を取る位置です。
「私は……
長く生きすぎました」
言ってから、
少し苦笑します。
「経験は、役に立ちます。
ですが同時に、
“起きうる失敗”を
あまりにも正確に思い出させる」
あなたは、黙って聞いている。
遮らない。
それが、私を饒舌にしました。
「あなたが前に出ようとすると、
私は無意識に、
その先にある“最悪”を並べてしまう」
暖炉の火が、
私の影を大きく揺らす。
「それは……
あなたを信じていないからではない」
ここで、
私は一度、言葉を切りました。
そして、続けた。
「失うことに、慣れてしまったからです」
あなたの表情が、
ほんのわずかに、和らぐ。
同情ではない。
理解だ。
「だから私は、
一歩引く。
あなたの横に立たず、
後ろに下がる」
あなたが、静かに言いました。
「……でも、それって」
私は、続きを待ちました。
「ガスパールが、
一緒に進む勇気を
持ってないみたいに、見えます」
……若さとは、
なんと正確な刃でしょう。
私は、笑いました。
誤魔化しではなく、
感心して。
「ええ。
その通りです」
そう認めた瞬間、
胸が軽くなった。
私は、あなたを見下ろします。
体格差は、どうしようもない。
それでも――
今は、壁ではなかった。
「ですが……」
私は、言葉を選ばずに続けます。
「あなたが前を歩くなら、
私は後ろで支えます」
「そして、
あなたが迷ったら、
その時は、私が前に出る」
少し、間を置いて。
「……それでは、
遅いでしょうか」
あなたは、
小さく、しかし確かに首を振りました。
「いいえ。
それが、
一緒に行くってことだと思います」
その瞬間、
私は理解しました。
――ああ。
――私は、もう一人で考える必要はない。
経験は、
引くための理由ではなく、
共有するための道具でいい。
私は、自然と、
あなたの肩に手を置きました。
大きな手。
だが、力は入れない。
「……これからは、
もっと話します」
そう言うと、
あなたは少し驚いてから、笑いました。
「今でも、
十分話してますよ」
私は、低く笑います。
「それは……
あなたが、
よく聞いてくれるからです」
――引いてしまう理由を、言葉にしてしまった夜
私は昔から、
「一歩引く」ことで物事を保ってきました。
前に出れば、
力がある。
声もある。
立場もある。
だからこそ、
出ない。
それが、成熟だと信じていました。
あなたが街の奥へ行きたいと言ったときも、
私は反射的に、心の中で距離を取ったのです。
――危険だ。
――私が前に出るべきだ。
――だが、出れば、あなたの歩幅を壊す。
その逡巡を、
私は言葉にしませんでした。
……いいえ、
できませんでした。
⸻
その夜。
暖炉の前で、あなたがこちらを見上げて言いましたね。
「ガスパール、今日は静かですね」
その一言で、
私は観念しました。
逃げられない、と。
「……静かなのではなく、
考え過ぎているのです」
自分でも驚くほど、
素直な言い方でした。
あなたは、首を傾げる。
「何を、ですか」
私は、椅子に腰を下ろし、
自然とあなたの方を向きました。
いつもなら、
斜めか、少し距離を取る位置です。
「私は……
長く生きすぎました」
言ってから、
少し苦笑します。
「経験は、役に立ちます。
ですが同時に、
“起きうる失敗”を
あまりにも正確に思い出させる」
あなたは、黙って聞いている。
遮らない。
それが、私を饒舌にしました。
「あなたが前に出ようとすると、
私は無意識に、
その先にある“最悪”を並べてしまう」
暖炉の火が、
私の影を大きく揺らす。
「それは……
あなたを信じていないからではない」
ここで、
私は一度、言葉を切りました。
そして、続けた。
「失うことに、慣れてしまったからです」
あなたの表情が、
ほんのわずかに、和らぐ。
同情ではない。
理解だ。
「だから私は、
一歩引く。
あなたの横に立たず、
後ろに下がる」
あなたが、静かに言いました。
「……でも、それって」
私は、続きを待ちました。
「ガスパールが、
一緒に進む勇気を
持ってないみたいに、見えます」
……若さとは、
なんと正確な刃でしょう。
私は、笑いました。
誤魔化しではなく、
感心して。
「ええ。
その通りです」
そう認めた瞬間、
胸が軽くなった。
私は、あなたを見下ろします。
体格差は、どうしようもない。
それでも――
今は、壁ではなかった。
「ですが……」
私は、言葉を選ばずに続けます。
「あなたが前を歩くなら、
私は後ろで支えます」
「そして、
あなたが迷ったら、
その時は、私が前に出る」
少し、間を置いて。
「……それでは、
遅いでしょうか」
あなたは、
小さく、しかし確かに首を振りました。
「いいえ。
それが、
一緒に行くってことだと思います」
その瞬間、
私は理解しました。
――ああ。
――私は、もう一人で考える必要はない。
経験は、
引くための理由ではなく、
共有するための道具でいい。
私は、自然と、
あなたの肩に手を置きました。
大きな手。
だが、力は入れない。
「……これからは、
もっと話します」
そう言うと、
あなたは少し驚いてから、笑いました。
「今でも、
十分話してますよ」
私は、低く笑います。
「それは……
あなたが、
よく聞いてくれるからです」
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