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ただいま、を言うため_あなた視点
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■ 街の奥へ
――小さな身体で、知らない場所に立つ
一人で出かける、と決めたとき。
胸の奥にあったのは、反抗心ではなかった。
確かめたかったのだ。
自分が、この世界で、どこまで立てるのかを。
外套を深く羽織り、フードを被る。
それでも、私は目立つ。
街の中心部から離れるにつれ、
オークたちの体格はさらに大きく、声も低くなる。
肩がぶつかりそうになるたび、
私は足を止め、道を譲る。
彼らの胸元は、私の視界を覆う壁のようで、
視線を上げなければ顔も見えない。
――小さい。
――細い。
――異質。
それを、否定も肯定もせず、
ただ事実として受け止めながら歩いた。
⸻
■ 困窮
――善意は、すぐには形を取らない
街の奥。
露店の並びは粗く、商品も無骨だ。
私は、乾燥果実を一つ手に取った。
「……これを」
声が、思ったより通らない。
店主のオークは、眉をひそめる。
「金貨じゃないか、こちらは小さな露店なんだ…、
おつりに渡せる貨幣が足りない」
言葉は短く、事務的。
私は袋を覗き、初めて気づく。
いつも何気なく渡されていたものが、この街では大金だと、
――貨幣の価値を、読み違えていた。
一瞬、頭が白くなる。
周囲のオークたちが、こちらを見る。
好奇ではあるが、敵意ではない。
ただ、珍しいものを見る目。
「……失礼しました」
そう言って、果実を戻そうとしたとき。
「待って」
別の声がした。
振り返ると、年嵩のオーク女性。
私より二回り以上大きく、
腕には、籠を抱えている。
「それくらい、私が払う」
私は慌てて首を振る。
「いえ……」
「いいから、遠慮しないで」
その声は、強いが、荒くない。
「小さいのが、一人で市場の奥まで来るのは、
大変だったでしょう、勇気がいる」
私は、言葉に詰まった。
――見下ろされている。
だが、侮られてはいない。
果実が、私の手に戻される。
「……ありがとうございます」
そう言うと、彼女は鼻を鳴らした。
「お礼はいいのよ、
帰る場所があるなら、早めに帰りなさいね」
その一言に、
胸が、きゅっとした。
⸻
■ 交流
――異質だからこそ、交わる言葉
歩きながら、果実を一口かじる。
甘さが、思ったより強い。
「……美味しい」
思わず漏れた声に、
近くの露店の若いオークが笑った。
「だろ。
それ、子どもに人気だ」
「……子ども?」
私が聞き返すと、
彼は一瞬、言葉に詰まり、
それから肩をすくめた。
「いや、悪い。
そういう意味じゃない」
私は、首を振る。
「気にしてません。
そう見えるのは、慣れてます」
その言葉に、
彼は少しだけ、真剣な顔をした。
「……なら、なおさら、
一人で来るな。
心配する人がいるだろう」
私は、答えなかった。
代わりに、胸の奥に浮かんだ顔を、
そっと飲み込んだ。
⸻
■ 帰路
――大きな背中を、思い出す
街を出るころ、
足は少し、疲れていた。
オークの街は、
歩幅が違う。
時間の流れも、違う。
それでも――
私は、ここに立っていた。
恐怖だけではなかった。
孤独だけでもなかった。
帰り道、夕暮れの中で、
自然と歩調が早くなる。
――あの人なら、
――今頃、暖炉の前にいる。
大きな体で、
静かに座って、
帰りを待っている。
そう思った瞬間、
胸の奥が、はっきりと温かくなった。
⸻
■ 屋敷の前
――選んで、戻る場所
門が見えたとき、
私は、少しだけ立ち止まった。
今日一日を、
誰にも引きずられず、
誰にも守られず、
自分で歩いた。
それでも――
戻る場所がある。
扉を開けると、
低い声がする。
「……おかえりなさい」
見上げると、
やはりそこに、
ガスパールは立っていた。
大きくて、
変わらなくて、
それでいて――
私がいない数時間で、
少しだけ疲れた顔。
「……ただいま、です」
そう言った瞬間、
私は理解した。
一人で行ったことは、
離れるためじゃない。
戻るためだったのだと。
――小さな身体で、知らない場所に立つ
一人で出かける、と決めたとき。
胸の奥にあったのは、反抗心ではなかった。
確かめたかったのだ。
自分が、この世界で、どこまで立てるのかを。
外套を深く羽織り、フードを被る。
それでも、私は目立つ。
街の中心部から離れるにつれ、
オークたちの体格はさらに大きく、声も低くなる。
肩がぶつかりそうになるたび、
私は足を止め、道を譲る。
彼らの胸元は、私の視界を覆う壁のようで、
視線を上げなければ顔も見えない。
――小さい。
――細い。
――異質。
それを、否定も肯定もせず、
ただ事実として受け止めながら歩いた。
⸻
■ 困窮
――善意は、すぐには形を取らない
街の奥。
露店の並びは粗く、商品も無骨だ。
私は、乾燥果実を一つ手に取った。
「……これを」
声が、思ったより通らない。
店主のオークは、眉をひそめる。
「金貨じゃないか、こちらは小さな露店なんだ…、
おつりに渡せる貨幣が足りない」
言葉は短く、事務的。
私は袋を覗き、初めて気づく。
いつも何気なく渡されていたものが、この街では大金だと、
――貨幣の価値を、読み違えていた。
一瞬、頭が白くなる。
周囲のオークたちが、こちらを見る。
好奇ではあるが、敵意ではない。
ただ、珍しいものを見る目。
「……失礼しました」
そう言って、果実を戻そうとしたとき。
「待って」
別の声がした。
振り返ると、年嵩のオーク女性。
私より二回り以上大きく、
腕には、籠を抱えている。
「それくらい、私が払う」
私は慌てて首を振る。
「いえ……」
「いいから、遠慮しないで」
その声は、強いが、荒くない。
「小さいのが、一人で市場の奥まで来るのは、
大変だったでしょう、勇気がいる」
私は、言葉に詰まった。
――見下ろされている。
だが、侮られてはいない。
果実が、私の手に戻される。
「……ありがとうございます」
そう言うと、彼女は鼻を鳴らした。
「お礼はいいのよ、
帰る場所があるなら、早めに帰りなさいね」
その一言に、
胸が、きゅっとした。
⸻
■ 交流
――異質だからこそ、交わる言葉
歩きながら、果実を一口かじる。
甘さが、思ったより強い。
「……美味しい」
思わず漏れた声に、
近くの露店の若いオークが笑った。
「だろ。
それ、子どもに人気だ」
「……子ども?」
私が聞き返すと、
彼は一瞬、言葉に詰まり、
それから肩をすくめた。
「いや、悪い。
そういう意味じゃない」
私は、首を振る。
「気にしてません。
そう見えるのは、慣れてます」
その言葉に、
彼は少しだけ、真剣な顔をした。
「……なら、なおさら、
一人で来るな。
心配する人がいるだろう」
私は、答えなかった。
代わりに、胸の奥に浮かんだ顔を、
そっと飲み込んだ。
⸻
■ 帰路
――大きな背中を、思い出す
街を出るころ、
足は少し、疲れていた。
オークの街は、
歩幅が違う。
時間の流れも、違う。
それでも――
私は、ここに立っていた。
恐怖だけではなかった。
孤独だけでもなかった。
帰り道、夕暮れの中で、
自然と歩調が早くなる。
――あの人なら、
――今頃、暖炉の前にいる。
大きな体で、
静かに座って、
帰りを待っている。
そう思った瞬間、
胸の奥が、はっきりと温かくなった。
⸻
■ 屋敷の前
――選んで、戻る場所
門が見えたとき、
私は、少しだけ立ち止まった。
今日一日を、
誰にも引きずられず、
誰にも守られず、
自分で歩いた。
それでも――
戻る場所がある。
扉を開けると、
低い声がする。
「……おかえりなさい」
見上げると、
やはりそこに、
ガスパールは立っていた。
大きくて、
変わらなくて、
それでいて――
私がいない数時間で、
少しだけ疲れた顔。
「……ただいま、です」
そう言った瞬間、
私は理解した。
一人で行ったことは、
離れるためじゃない。
戻るためだったのだと。
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