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いってらっしゃい
しおりを挟む■夫婦として初めての、小さな衝突
――守る者と、選びたい者
きっかけは、些細なことだった。
市場へ出かける朝。
あなたは外套の留め具を直しながら、何気なく言った。
「今日は一人で街の奥まで行ってみようかと」
その瞬間、ガスパールの手が止まった。
彼は、あなたを見下ろす形になる。
身長差は、頭ひとつ分以上。
肩幅は、あなたの倍近い。
「……危険です」
低く、抑えた声。
「奥は人の流れも複雑で、
異世界の存在だと気づかれれば――」
あなたは、言葉を遮らない。
けれど、一歩だけ、前に出た。
「でも、いつまでも
あなたの影の中にいるわけにはいかない」
その距離。
胸元に顔が来るほどの近さ。
ガスパールは、息を詰めた。
「……私は、
あなたを失う可能性を、
軽く扱えない」
それは命令ではない。
だが、重い。
あなたは、少しだけ視線を伏せてから、言った。
「守られるだけだと、
自分が“ここにいる”実感が、薄くなるんです」
沈黙。
ガスパールは、無意識に拳を握りしめていた。
その手は、あなたの背中を覆い隠せるほど大きい。
――力で黙らせることは、簡単だ。
――だが、それは望んでいない。
「……分かりました」
しばらくして、彼はそう言った。
だが、その声には、納得しきれていない影があった。
その日の昼、二人は別々に過ごした。
初めての、距離。
⸻
それを越える夜
――大きな体で、間違いを認める
夜。
あなたが屋敷に戻ると、暖炉の前にガスパールが座っていた。
普段より、少し小さく見えた。
体格は変わらないのに。
あなたが近づくと、彼は立ち上がる。
やはり大きい。
視線は、自然と上になる。
「……無事で、何よりです」
それだけ。
あなたは、外套を脱ぎながら言う。
「心配、してましたよね」
ガスパールは、目を伏せた。
「……ええ。
そして、恐れていました」
一歩、彼が近づく。
距離が詰まり、あなたの額が胸当てに触れそうになる。
「私は、
あなたが自分の足で立つことを
喜ぶべきでした」
大きな手が、あなたの背に触れる。
抱くほどではない。
だが、確かに支える位置。
「それでも……
失う想像をすると、
理性が、遅れる」
あなたは、彼の外套をぎゅっと掴んだ。
指は、布に埋もれる。
「それでも、
一緒に考えてほしい」
ガスパールは、深く息を吸い、吐く。
「……はい」
その返事は、
上からではなく、
同じ高さに降りてきた声だった。
彼は、あなたを抱き寄せる。
今度は、しっかりと。
あなたの体は、彼の胸にすっぽり収まる。
鼓動が、耳元で聞こえる。
「……怖かったのは、私です」
その告白は、
この夜を越える鍵だった。
⸻
さらに深まる「帰る場所」の意味
――大きな背と、小さな確信
それから、少しずつ変わった。
出かける前に、話す。
帰ったら、報告する。
約束ではない。
共有だ。
ある夕暮れ、あなたは疲れてソファに座り込んだ。
ガスパールが、黙って隣に腰を下ろすと、
あなたの頭は自然と彼の脇腹あたりに収まる。
「……やっぱり、大きいですね」
あなたが言うと、
ガスパールは小さく笑った。
「ええ。
ですから……」
大きな外套が、あなたを包む。
「帰ってきたときは、
ここにいればよい」
その言葉は、
場所の指定ではない。
状態の話だった。
あなたは目を閉じる。
体は小さく、世界では異質で、
けれど――
この胸の中では、
何も間違っていない。
「……帰ってきました」
そう言うと、
ガスパールの腕に、少しだけ力がこもった。
「おかえりなさい」
その声は、低く、穏やかで、
何度でも戻れる響きだった。
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