紳士オークの保護的な溺愛

こむぎこ7g

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とても良い買い物

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■ 工房街

――あなたが選び、私が学ぶ

工房街に足を踏み入れた途端、
あなたの足取りが、はっきりと変わりました。

先ほどまでの慎重さが消え、
視線はまっすぐ、
音と匂いを頼りに進んでいく。

「……こっちです」

振り返りもせずに言うその声は、
迷いがありません。

私は、約束どおり半歩後ろを歩きます。
護衛ではなく、同行者として。

鍛冶場、木工房、金具屋。
どこも屈強なオークばかりで、
あなたの肩は、相変わらず彼らの胸元ほど。

けれど――
もう、あなたは縮こまらない。

「すみません」

声は小さいが、はっきりしている。

「これ、少し高さを変えられますか」

木工房の親方が、眉を上げる。

「……ほう?」

あなたは、両手で空中に四角を描く。

「このくらいで、
 安定していて、
 上に立っても揺れないものが欲しくて」

私は、その瞬間、
踏み台だと理解しました。

……なるほど。

親方は、あなたを見下ろし、
次に私を見る。

私が何も言わずにいると、
彼は、にやりと笑った。

「小さいのに、
 使う場面が、よく見えてる」

あなたは、少し照れながらも、続けます。

「高い棚の奥、
 どうしても届かなくて」

そこで、ちらりと私を見る。

「毎回、
 持ち上げてもらうのも……
 その、嬉しいんですけど」

私は、思わず咳払いをしました。

……嬉しい、ですか。

「自分で、
 できることも増やしたくて」

その言葉に、
私は何も挟めませんでした。

親方が言います。

「じゃあ、
 軽くて、丈夫なのを作ろう」

話は、あなた主導で進みます。
材質、幅、滑り止め。

私は、ただ聞く。

口を出す必要が、どこにもない。



次に入ったのは、金物屋でした。

あなたは、小さな銅製のジョウロを手に取ります。
持ち手も注ぎ口も、繊細で、軽い。

「……これ」

私が首を傾げると、
あなたは言いました。

「庭の花、
 ガスパールが使うジョウロ、
 重そうなので」

私は、言葉を失いました。

「私が使うと、
 半分くらい、水を溢してしまうんです」

少し困ったように笑う。

「でも、
 水やりはしたくて」

店主が言います。

「それなら、
 その大きさがいい。
 力がなくても、狙いが定まる」

あなたは、満足そうに頷きました。

私は、その横顔を見て――
胸の奥が、静かに満ちていくのを感じます。

踏み台。
小さなジョウロ。

どちらも、
あなたが、この家で生きるための道具だ。

冒険のためでも、
虚栄のためでもない。

ただ、
二人の日常を、少しだけ楽にするもの。



店を出たあと、
あなたが言いました。

「……勝手に決めてしまって、
 大丈夫でしたか」

私は、即座に答えました。

「ええ。
 とても、良い買い物です」

それは、社交辞令ではありません。

「あなたが、
 この家を、
 どう使いたいのかが、
 よく分かりました」

あなたは、少し驚いたように目を瞬かせ、
それから、柔らかく笑いました。

「……よかった」

私は、自然と、
あなたの頭に手を伸ばしそうになり――
思いとどまります。

代わりに、
背中に、そっと手を添えました。

大きな掌。
だが、押さえつけない。

「……頼もしいですね」

そう言うと、
あなたは、少しだけ胸を張ります。

その仕草が、
あまりにも若々しくて。

私は、思います。

――ああ。
――私は今、
――この人の“選ぶ力”を、
――誇らしく見ている。

工房街の喧騒の中、
小さな踏み台と、
小さなジョウロを抱えたあなた。

その隣に立つ自分が、
これほど自然に思える日が来るとは。
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