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魔族襲来③
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「クリスティアナ様、訓練所の隠し部屋に安置してある聖剣を見に行きませんか?」
「シリウス様は本当に聖剣が好きですわね。分かりましたわ。内緒で連れて行って差し上げますわ」
あえて魔族に聞こえるような声で話した。
魔族は妖精と一緒にいる俺達を警戒している。だとすれば、俺達の会話にも聞き耳を立てているはずだ。もし罠だと思っても、自分が優位だと疑わない魔族は容易に乗ってくるだろう。
振り返らず、歩調も変えず、俺達は訓練所に向かった。野鳥の会がハッキリと魔族がついて来ていることを示していた。
「どうやら、引っ掛かったようです」
二人にだけ聞こえるような声で囁いた。その言葉にクリスティアナ様の顔に緊張の色が見えた。一緒に行く、とは言ったものの、やはり恐ろしいのだろう。俺はクリスティアナ様の柔らかい手をそっと握った。そして、大丈夫、とばかりに軽く頷くと、少し安心したのか彼女も頷き返した。
まあ、クリスティアナ様は気付いていないかも知れないが、すでに俺とフェオは臨戦体制であり、何かあれば直ぐに迎撃できるような状態だ。フェオに至っては、まだ?まだなの?とソワソワしている。いつからそんなに戦闘民族になってしまったんだ、フェオ。ストレスが溜まっているのかな?後で発散させてあげよう。
城の廊下を渡り、中庭を通ると訓練棟とそれに関連する施設が見えてきた。普段通りに見えるが、見る人が見れば異常な光景に見えることだろう。何せ、そこにいる人達が全て騎士や高位の魔導師なのだ。制服姿ではなく、よく見る普段使いの服を着ているという違いはあるものの、誰もが隙のない動きをしていた。
これは魔族に警戒されるんじゃないかと心配したが、特に気にする様子もなく、同じ歩調でついて来ている。
恐らく魔族は人間に対して何の興味も示さないのだろう。だから細やかな変化に気が付かない。それが自分の首を絞めているということにも気付かずに。
物々しい気配の中、目標地点の訓練所にたどり着いた。あとはすぐに逃げ出せないように奥深くまで誘い込むだけだ。
俺たちは人目を避けるように聖剣の隠し場所に行く様子を醸し出しながら奥へと進んでゆく。それを知ってか知らずかは分からないが、魔族も付かず離れずついてきた。この辺りでいいかな?クリスティアナ様とフェオに合図を送り、一斉に振り返った。
「引っ掛かったな、魔族め!あんたの悪行もこれまでよ!」
フェオがビシッと指差し、啖呵を切った。俺はこの魔族が悪行を行ったのかは知らないが、魔族とはそういうものなのだろう。やけに自信有り気に指差すフェオを見ているとそんな気がしてきた。
「な、何をいきなり仰るのですか!」
さすがの魔族も妖精を相手には分が悪いと思ったのか、一歩下がり距離を取った。俺達との距離が空いた所に魔法が左右から飛んできた。
「貴様が偽者であることは確認済みだ!正体を現せ!」
周囲に待機していた魔導師達から声が上がり、さらに追撃の魔法がふり注いだ。その間に俺はクリスティアナ様を安全な場所にいち早く避難させた。
「ティアナ、ここから絶対に動くなよ」
そう言ってクリスティアナ様の周辺に極めて強固なバリアを展開した。その語気の強さに素直にコクコクと首を縦に振った。取り敢えずはこれでヨシ。
攻撃魔法が放たれた方を振り返ると、そこには先ほどとはうってかわって、人間の形をしていない黒いマントを羽織った霞のような物が存在していた。
これが魔族か。妖精のような可愛い形の存在ではないらしい。
「クソッ、なんで俺の正体がバレたんだ!?」
驚愕する魔族。周囲への配慮が足らないからだよ、と言ってやりたかったが、
「フェオちゃんアイの前に、隠し事はできないのよ!」
と、またしてもビシッと魔族を指差しながら、満足気な表情でフェオが言った。
魔族の表情は伺い知れなかったが、動揺しているような印象を受けた。しかし、動揺しながらも、まだ余裕はあるようだ。何せ、先ほどの魔法はほとんど効いてないようであり、あの霞のような存在に物理攻撃が効くとは思えない。その証拠に、騎士達は魔族との距離を取り、様子を伺っていた。
「まさか妖精が人間に従っているとはな。そんなに人間が大事なら、今回はこのまま大人しく引き下がってもよいが?」
言葉ではそう言っているが、要は見逃してくれ、ということだろう。それとも時間を稼いで、逃げ出す隙を伺っているのかな?
「ねえ、コイツ、何か悪いことしたの?」
フェオが唐突に魔導師達に聞いた。さっきフェオが言った悪行には、特に根拠はなかったらしい。どうやら、ただ言ってみたかっただけのようだ。
「この者は、遥か昔にこの国に現れ、己の強さを示すためだけに国土を焼いた魔族と、瓜二つでございます。同一の魔族で間違いはないでしょう」
魔導師達の中でも、ひときわ立派な髭と、精巧な刺繍の施され、艶やかな色を放つローブを纏った一番偉いと思われる人物が言った。しかし、恐怖のためか、声が上擦っていた。
やはり魔族とはそういった存在らしい。ここで逃がしたら、別の国で悪さをすることだろう。やるなら今しかない。
魔法が効かなかったことで魔導師達は動揺し、足がすくんでいるようだ。どうやら俺達がやるしかないようだ。
一歩前に出た俺を見て、フェオも続いて前に出た。
「あたしのダーリンはあんたを許さないってさ」
「その通り」
魔族と繋がっている魔法の鎖をさらに強固にすべく魔力を込めた。不可視だった鎖が、込められた魔力によって七色の輝きを放ちながらその姿を現した。その鎖はガッチリと魔族を捕獲していた。
周囲からはざわめきの声が聞こえ、魔族は驚愕の声を上げた。
「なんだこれは!いつの間にこんなものを!?」
「始めからよ、は・じ・め・か・ら。気がつかなかったの?」
勝ち誇ったように、馬鹿にしたようにフェオが言っているが、魔法を使っているのは俺だ。何故フェオが魔族を煽るのか、それが分からない。
「どうなっている!?なぜ魔術が発動しない!」
「フッフッフ、それはこの場所に聖域結界が張ってあるからよ!」
自信満々に胸を張って言うフェオ。だが、残念ながら間違いだ。聖域結界は魔法を遮断するだけで、封じ込める効果はない。もし魔法封じの効果があるのだったら、魔導師達も魔法が使えないはずである。
「な、なんですと!?」
「せ、聖域結界!そんなものがここに!?」
黙っていた秘密が次々と露見していく。これ以上はいけない。フェオの口も塞ぐべきか。
魔族の魔法を封じ込めているのは、もちろん、俺の魔法だ。その名もオダマリ。・・・また二人に変な魔法名と言われそうだが、出来てしまったものはしょうがない。恨むなら発想の貧困なこの頭を恨むんだな。この俺のように。
魔族の表情は見て取れないが、動揺していることは分かった。
「おや?フェオがやらないのかい?」
てっきり、やる気満々のフェオが格好よく退治するのかと思っていたのだが、動く気配がない。
「う~ん、魔族の魔力を枯らすのは結構大変なんだよね~。シリウスがエクスでズバッとやった方が早いと思うんだよね。あと、楽だし」
最後の部分が本音だろう。しょうがない、やるか。俺のエクスカリバーも血に飢えている(ストレスが溜まっている)みたいだからな。魔族に血があるのかは知らないが。
周囲が、エクスとは?ズバット?とザワついているが、気にせず左手の腕輪に手を掛けながらさらに前に出た。
行くぞ、エクスカリバー。魔族を消滅させる。イエス、マスター、と返事が返ってきた。
腕輪の形態から、剣の柄の形態になったエクスカリバーを手に取った。
そして、エクスカリバーは例の美しい白い刀身を作り出す、と思っていたのだが、実際に出来上がったのは、黄金の文字はそのままに、刀身は明らかに何かしらの物質ではなく、黄金に光輝く魔力の塊のような、ナニカ、だった。白い刀身どこいった。
「な、なんだそれは!?」
魔族が本日最高を叩き出す驚愕の声を上げた。何なんでしょうね?こっちが聞きたい。え?俺色に染まったからこうなった?ああ、だから聖剣探知機に引っ掛からなかったのね。
一人で納得していると、周囲からは美しいだの、神々しいだの、これが聖剣か、などと会話が飛び交っていた。
取り敢えず、これ以上騒ぎになる前に終わらせようと聖剣を構えた。そして、一撃で魔族を消滅させる為にさらに魔力を込めた。その瞬間、聖剣から眩い光が放たれ、俺を包んだ。一瞬の光が収まると、俺は黄金の鎧を身に纏っていた。ワーオ、自分には念のためバリアを張っているので大抵の攻撃は平気だろうと思っていたが、さらに防御力がアップされるとは思ってもみなかった。どうしてこうなった・・・え?カッコイイデス?左様ですか。
「ま、待ってくれ、頼む!」
迸る溢れんばかりの魔力を纏った俺を見て、魔族が見栄も威厳もかなぐり捨てて命乞いをしてきた。しかしながらもう遅い。このような大変目立つ姿になったからには、やらないことにはいかないのだ。
「問答無用!先人の仇、取らせてもらうぞ!」
そう言って唐竹割に魔族を真っ二つに切り裂いた。切った感触は全くなく、素振りと同じ感触だった。だが、切り裂かれた魔族は切れた先からバラバラになり、周囲へと霧散して行った。
その直後、ワッと大歓声が湧き上がった。拍手と共に安堵の声と俺を称える声が至るところから上がっていた。
「シリウス様、お怪我は有りませんか!?魔力切れで気分が悪くなどなっておりませんか!?」
すぐにクリスティアナ様が飛びついてきた。俺のことを信頼しているとはいえ、やはり心配だったのだろう。
「大丈夫、問題ありません」
安心させるように、力強く頷いた。
「さっすがシリウスだよね。まさか黄金の鎧まで出すとは思わなかったよ」
フェオも興奮気味だ。両手をバタバタとさせて話かけてきた。
だが、周囲に溢れ出た俺と魔族の魔力を目敏く見つけたエクスカリバーが、せっせと吸収している。・・・お腹が空いているのかな?毎日、俺の魔力を吸っていたと思うんだけど。
え?進化しそう?進化してもいいかって?BBBBBBBB!
必死のビーボタン連打もむなしく、エクスカリバーは進化を始めた。魔力の刀身と黄金の柄がグニャリと歪む。俺の身に纏っていた黄金の鎧も吸収し、眩い光の塊になった。
その光になんだなんだと周りがざわめく。最終的に人が一人入れるほどの光の繭になったそれは、すぐに羽化を始めた。
繭が割れ、中から黄金の髪に黄金の瞳、謎の金の文字の刺繍の入った真っ白の服を身に纏った、精霊か、はたまた古のエルフか、といった美貌を兼ね備えた少女が現れた。
年齢は俺と同じくらいといったところだろうか。カラーリングか完全に聖剣エクスカリバーと同じであり、他の人にもすぐに何者なのかの判断がついた。
「もしかしなくてもエクスだよね?」
「イエス、マスターにこの身を捧げる為に進化しました。この体はマスターのものです」
「は?」
「ええっ!」
「シリウスのスケコマシ!」
エクスは進化したばかりのせいなのか、無表情で爆弾発言をした。一人は困惑の表情、一人は驚きの表情、一人は怒りの表情で言った。
何でだよ、冤罪だ、冤罪!俺はそんなこと頼んでないぞ!Bボタンは押したからね?キャンセルボタンじゃないの!?
あまりの状況変化についていけずに石化していると、左腕にエクスが両手を絡ませて抱きついてきた。
「ちょっとエクス!新入りの癖に、何やってるの!そこはあたしの場所よっ!」
すかさずフェオが飛んできて抗議の声を上げた。
尚、エクスの胸は聖剣状態の時と同じように、大変、フラットだった。
「痛っ!」
「マスター、今何か不謹慎なこと考えた」
半眼をしたエクスに思いきり手をつねられた。おや?表情が変わったぞ?表情豊かになる日もそれほど先ではないのかな?それにしても、どうしてこう、うちの女性陣は鋭いかね?
「王女殿下、お怪我は有りませんか?シリウス様も妖精様も聖剣様・・・も、ご無事ですか?」
騎士団長がエクスの扱いをどうすべきかと困惑した表情で尋ねてきた。
クリスティアナ様はグルリと俺達を見回し、全員の無事を確認すると、
「何ともありませんわ。それよりも、負傷者と被害の確認を」
「ハ!負傷者も被害もありません。魔族が襲来してきたのにこの被害、奇跡としか言いようがございません」
周囲の騎士や魔導師達も肩を叩き合い、お互いの健闘を称えあっていた。
これにて一件落着だな。
「シリウス様は本当に聖剣が好きですわね。分かりましたわ。内緒で連れて行って差し上げますわ」
あえて魔族に聞こえるような声で話した。
魔族は妖精と一緒にいる俺達を警戒している。だとすれば、俺達の会話にも聞き耳を立てているはずだ。もし罠だと思っても、自分が優位だと疑わない魔族は容易に乗ってくるだろう。
振り返らず、歩調も変えず、俺達は訓練所に向かった。野鳥の会がハッキリと魔族がついて来ていることを示していた。
「どうやら、引っ掛かったようです」
二人にだけ聞こえるような声で囁いた。その言葉にクリスティアナ様の顔に緊張の色が見えた。一緒に行く、とは言ったものの、やはり恐ろしいのだろう。俺はクリスティアナ様の柔らかい手をそっと握った。そして、大丈夫、とばかりに軽く頷くと、少し安心したのか彼女も頷き返した。
まあ、クリスティアナ様は気付いていないかも知れないが、すでに俺とフェオは臨戦体制であり、何かあれば直ぐに迎撃できるような状態だ。フェオに至っては、まだ?まだなの?とソワソワしている。いつからそんなに戦闘民族になってしまったんだ、フェオ。ストレスが溜まっているのかな?後で発散させてあげよう。
城の廊下を渡り、中庭を通ると訓練棟とそれに関連する施設が見えてきた。普段通りに見えるが、見る人が見れば異常な光景に見えることだろう。何せ、そこにいる人達が全て騎士や高位の魔導師なのだ。制服姿ではなく、よく見る普段使いの服を着ているという違いはあるものの、誰もが隙のない動きをしていた。
これは魔族に警戒されるんじゃないかと心配したが、特に気にする様子もなく、同じ歩調でついて来ている。
恐らく魔族は人間に対して何の興味も示さないのだろう。だから細やかな変化に気が付かない。それが自分の首を絞めているということにも気付かずに。
物々しい気配の中、目標地点の訓練所にたどり着いた。あとはすぐに逃げ出せないように奥深くまで誘い込むだけだ。
俺たちは人目を避けるように聖剣の隠し場所に行く様子を醸し出しながら奥へと進んでゆく。それを知ってか知らずかは分からないが、魔族も付かず離れずついてきた。この辺りでいいかな?クリスティアナ様とフェオに合図を送り、一斉に振り返った。
「引っ掛かったな、魔族め!あんたの悪行もこれまでよ!」
フェオがビシッと指差し、啖呵を切った。俺はこの魔族が悪行を行ったのかは知らないが、魔族とはそういうものなのだろう。やけに自信有り気に指差すフェオを見ているとそんな気がしてきた。
「な、何をいきなり仰るのですか!」
さすがの魔族も妖精を相手には分が悪いと思ったのか、一歩下がり距離を取った。俺達との距離が空いた所に魔法が左右から飛んできた。
「貴様が偽者であることは確認済みだ!正体を現せ!」
周囲に待機していた魔導師達から声が上がり、さらに追撃の魔法がふり注いだ。その間に俺はクリスティアナ様を安全な場所にいち早く避難させた。
「ティアナ、ここから絶対に動くなよ」
そう言ってクリスティアナ様の周辺に極めて強固なバリアを展開した。その語気の強さに素直にコクコクと首を縦に振った。取り敢えずはこれでヨシ。
攻撃魔法が放たれた方を振り返ると、そこには先ほどとはうってかわって、人間の形をしていない黒いマントを羽織った霞のような物が存在していた。
これが魔族か。妖精のような可愛い形の存在ではないらしい。
「クソッ、なんで俺の正体がバレたんだ!?」
驚愕する魔族。周囲への配慮が足らないからだよ、と言ってやりたかったが、
「フェオちゃんアイの前に、隠し事はできないのよ!」
と、またしてもビシッと魔族を指差しながら、満足気な表情でフェオが言った。
魔族の表情は伺い知れなかったが、動揺しているような印象を受けた。しかし、動揺しながらも、まだ余裕はあるようだ。何せ、先ほどの魔法はほとんど効いてないようであり、あの霞のような存在に物理攻撃が効くとは思えない。その証拠に、騎士達は魔族との距離を取り、様子を伺っていた。
「まさか妖精が人間に従っているとはな。そんなに人間が大事なら、今回はこのまま大人しく引き下がってもよいが?」
言葉ではそう言っているが、要は見逃してくれ、ということだろう。それとも時間を稼いで、逃げ出す隙を伺っているのかな?
「ねえ、コイツ、何か悪いことしたの?」
フェオが唐突に魔導師達に聞いた。さっきフェオが言った悪行には、特に根拠はなかったらしい。どうやら、ただ言ってみたかっただけのようだ。
「この者は、遥か昔にこの国に現れ、己の強さを示すためだけに国土を焼いた魔族と、瓜二つでございます。同一の魔族で間違いはないでしょう」
魔導師達の中でも、ひときわ立派な髭と、精巧な刺繍の施され、艶やかな色を放つローブを纏った一番偉いと思われる人物が言った。しかし、恐怖のためか、声が上擦っていた。
やはり魔族とはそういった存在らしい。ここで逃がしたら、別の国で悪さをすることだろう。やるなら今しかない。
魔法が効かなかったことで魔導師達は動揺し、足がすくんでいるようだ。どうやら俺達がやるしかないようだ。
一歩前に出た俺を見て、フェオも続いて前に出た。
「あたしのダーリンはあんたを許さないってさ」
「その通り」
魔族と繋がっている魔法の鎖をさらに強固にすべく魔力を込めた。不可視だった鎖が、込められた魔力によって七色の輝きを放ちながらその姿を現した。その鎖はガッチリと魔族を捕獲していた。
周囲からはざわめきの声が聞こえ、魔族は驚愕の声を上げた。
「なんだこれは!いつの間にこんなものを!?」
「始めからよ、は・じ・め・か・ら。気がつかなかったの?」
勝ち誇ったように、馬鹿にしたようにフェオが言っているが、魔法を使っているのは俺だ。何故フェオが魔族を煽るのか、それが分からない。
「どうなっている!?なぜ魔術が発動しない!」
「フッフッフ、それはこの場所に聖域結界が張ってあるからよ!」
自信満々に胸を張って言うフェオ。だが、残念ながら間違いだ。聖域結界は魔法を遮断するだけで、封じ込める効果はない。もし魔法封じの効果があるのだったら、魔導師達も魔法が使えないはずである。
「な、なんですと!?」
「せ、聖域結界!そんなものがここに!?」
黙っていた秘密が次々と露見していく。これ以上はいけない。フェオの口も塞ぐべきか。
魔族の魔法を封じ込めているのは、もちろん、俺の魔法だ。その名もオダマリ。・・・また二人に変な魔法名と言われそうだが、出来てしまったものはしょうがない。恨むなら発想の貧困なこの頭を恨むんだな。この俺のように。
魔族の表情は見て取れないが、動揺していることは分かった。
「おや?フェオがやらないのかい?」
てっきり、やる気満々のフェオが格好よく退治するのかと思っていたのだが、動く気配がない。
「う~ん、魔族の魔力を枯らすのは結構大変なんだよね~。シリウスがエクスでズバッとやった方が早いと思うんだよね。あと、楽だし」
最後の部分が本音だろう。しょうがない、やるか。俺のエクスカリバーも血に飢えている(ストレスが溜まっている)みたいだからな。魔族に血があるのかは知らないが。
周囲が、エクスとは?ズバット?とザワついているが、気にせず左手の腕輪に手を掛けながらさらに前に出た。
行くぞ、エクスカリバー。魔族を消滅させる。イエス、マスター、と返事が返ってきた。
腕輪の形態から、剣の柄の形態になったエクスカリバーを手に取った。
そして、エクスカリバーは例の美しい白い刀身を作り出す、と思っていたのだが、実際に出来上がったのは、黄金の文字はそのままに、刀身は明らかに何かしらの物質ではなく、黄金に光輝く魔力の塊のような、ナニカ、だった。白い刀身どこいった。
「な、なんだそれは!?」
魔族が本日最高を叩き出す驚愕の声を上げた。何なんでしょうね?こっちが聞きたい。え?俺色に染まったからこうなった?ああ、だから聖剣探知機に引っ掛からなかったのね。
一人で納得していると、周囲からは美しいだの、神々しいだの、これが聖剣か、などと会話が飛び交っていた。
取り敢えず、これ以上騒ぎになる前に終わらせようと聖剣を構えた。そして、一撃で魔族を消滅させる為にさらに魔力を込めた。その瞬間、聖剣から眩い光が放たれ、俺を包んだ。一瞬の光が収まると、俺は黄金の鎧を身に纏っていた。ワーオ、自分には念のためバリアを張っているので大抵の攻撃は平気だろうと思っていたが、さらに防御力がアップされるとは思ってもみなかった。どうしてこうなった・・・え?カッコイイデス?左様ですか。
「ま、待ってくれ、頼む!」
迸る溢れんばかりの魔力を纏った俺を見て、魔族が見栄も威厳もかなぐり捨てて命乞いをしてきた。しかしながらもう遅い。このような大変目立つ姿になったからには、やらないことにはいかないのだ。
「問答無用!先人の仇、取らせてもらうぞ!」
そう言って唐竹割に魔族を真っ二つに切り裂いた。切った感触は全くなく、素振りと同じ感触だった。だが、切り裂かれた魔族は切れた先からバラバラになり、周囲へと霧散して行った。
その直後、ワッと大歓声が湧き上がった。拍手と共に安堵の声と俺を称える声が至るところから上がっていた。
「シリウス様、お怪我は有りませんか!?魔力切れで気分が悪くなどなっておりませんか!?」
すぐにクリスティアナ様が飛びついてきた。俺のことを信頼しているとはいえ、やはり心配だったのだろう。
「大丈夫、問題ありません」
安心させるように、力強く頷いた。
「さっすがシリウスだよね。まさか黄金の鎧まで出すとは思わなかったよ」
フェオも興奮気味だ。両手をバタバタとさせて話かけてきた。
だが、周囲に溢れ出た俺と魔族の魔力を目敏く見つけたエクスカリバーが、せっせと吸収している。・・・お腹が空いているのかな?毎日、俺の魔力を吸っていたと思うんだけど。
え?進化しそう?進化してもいいかって?BBBBBBBB!
必死のビーボタン連打もむなしく、エクスカリバーは進化を始めた。魔力の刀身と黄金の柄がグニャリと歪む。俺の身に纏っていた黄金の鎧も吸収し、眩い光の塊になった。
その光になんだなんだと周りがざわめく。最終的に人が一人入れるほどの光の繭になったそれは、すぐに羽化を始めた。
繭が割れ、中から黄金の髪に黄金の瞳、謎の金の文字の刺繍の入った真っ白の服を身に纏った、精霊か、はたまた古のエルフか、といった美貌を兼ね備えた少女が現れた。
年齢は俺と同じくらいといったところだろうか。カラーリングか完全に聖剣エクスカリバーと同じであり、他の人にもすぐに何者なのかの判断がついた。
「もしかしなくてもエクスだよね?」
「イエス、マスターにこの身を捧げる為に進化しました。この体はマスターのものです」
「は?」
「ええっ!」
「シリウスのスケコマシ!」
エクスは進化したばかりのせいなのか、無表情で爆弾発言をした。一人は困惑の表情、一人は驚きの表情、一人は怒りの表情で言った。
何でだよ、冤罪だ、冤罪!俺はそんなこと頼んでないぞ!Bボタンは押したからね?キャンセルボタンじゃないの!?
あまりの状況変化についていけずに石化していると、左腕にエクスが両手を絡ませて抱きついてきた。
「ちょっとエクス!新入りの癖に、何やってるの!そこはあたしの場所よっ!」
すかさずフェオが飛んできて抗議の声を上げた。
尚、エクスの胸は聖剣状態の時と同じように、大変、フラットだった。
「痛っ!」
「マスター、今何か不謹慎なこと考えた」
半眼をしたエクスに思いきり手をつねられた。おや?表情が変わったぞ?表情豊かになる日もそれほど先ではないのかな?それにしても、どうしてこう、うちの女性陣は鋭いかね?
「王女殿下、お怪我は有りませんか?シリウス様も妖精様も聖剣様・・・も、ご無事ですか?」
騎士団長がエクスの扱いをどうすべきかと困惑した表情で尋ねてきた。
クリスティアナ様はグルリと俺達を見回し、全員の無事を確認すると、
「何ともありませんわ。それよりも、負傷者と被害の確認を」
「ハ!負傷者も被害もありません。魔族が襲来してきたのにこの被害、奇跡としか言いようがございません」
周囲の騎士や魔導師達も肩を叩き合い、お互いの健闘を称えあっていた。
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