悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき

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とらぬ狸の皮算用

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「今日は何するの?」
「今日は治水工事だね」
「治水工事ってどんなことをするの?」
「う~ん、主に穴堀かな・・・」
 昨日に引き続き、また泥だらけになりそうだ。確かに領主が先頭に立ってすることではないな。
「またお洋服を泥だらけにして帰ったら、きっと怒られますわ」
「そうかも知れませんね。それなら、温泉に入ったときに、洋服も洗いましょう。それなら大丈夫なはずです。浄化水は魔法で出せますし、服は風魔法で乾かせばいいですからね」
「いつの間にあの魔方陣を魔法にしていたのですか・・・」
 呆れた様子のクリスティアナ様だったが、それならば、と納得したようだ。
 そうこうしていると、村に到着した。
 何だか今日は昨日よりもお出迎えの数が多いような気がする。
「おはようございます。今日は何だか人が多いですね」
「おはようございます、シリウス様。みんな昨日の話を聞いて集まってきたのですよ。これで冒険者になった息子も帰ってくるだろうって、みんな口々に言ってますよ」
「そうなのですね。これで村に活気が出てくるといいですね」
「とんでもない! もうすでに活気に満ち溢れていますよ。シリウス様が整備して下さった温泉! 皆で入らせてもらいましたが、あれはいいものでしたよ。村長も村の名所にしようと考えているみたいです」
「それは良かった。湯量にはまだ余裕があるみたいなので、追加で温泉施設を作ってもいいかも知れませんね」
 温泉は好評のようだ。このまま温泉を売りにした保養地にしてもいいかも知れない。それなら領都に帰ってからも、ときどき通って来られるな。
 そんなとらぬ狸の皮算用をしながら、本日の目的地に着いた。
 そこは昨日整備しただけの平原だった。
「まずは井戸からね。んで、どこ掘るの? とりあえず適当に穴を開けてみる?」
「それだとまた温泉を堀ってしまうかも知れないから、ちゃんと地質調査してから井戸を掘るよ」
 相変わらずフェオは大胆だな。眼前に浮かぶプリプリとした尻を見ながらそう思った。
「『ソナー』の魔法を使いますのね?」
「ええ、そうです。クリスティアナ様がやってみますか?」
「挑戦させていただきますわ」
 クリスティアナ様は地面に手をつき、魔法を発動した。そして、しばらくすると首を捻った。
「魔法は発動したのですが、どの情報が水源なのか分かりませんでしたわ」
 しょんぼりと項垂れる。
 それは仕方がないか。土壌がどのような構造になっているかなんて知らないだろうしね。地層、断層云々言ったところで、まだ分からないだろうしね。
 クリスティアナ様に続いて俺が魔法を発動した。
 フムフム、なるほどね。
「あの場所が良さそうですね。まずは井戸を掘る前に水を溜めておくための、溜め池を作っておきましょう」
「さすがですわ。あのたくさんの情報から、必要な情報を正確に読み取るだなんて」
「クリスティアナ様もすぐにできるようになりますよ」
 クリスティアナ様は感心しているが、単に知識と経験の差だけだと思う。俺だけが特別なわけではないよ。
 ガイアコントロールの魔法でサクッと溜め池を作った。
 あまりの手際の良さに、今日もお世話役として付いてきている村長の息子が舌を巻いた。俺達が何日もかけて作ったものを、倍以上の大きさで、こんなに簡単に・・・と呟いていた。
 ガイアコントロールの魔法は多分使えるのだろうが、これだけの規模の穴を掘るにはそれなりの魔力がいる。それができる人はおそらくそんなにはいないだろう。
 クリスティアナ様とフェオもできるだろうが・・・そう考えると、俺の周りには凄いのが揃っているな。多分クロもできそうな気がする。
 村長息子の呟きは置いといて、次は井戸堀だ。
「フェオ、井戸堀の魔法ってないの?」
「そんなピンポイントな魔法、あるわけないじゃない。ガイアコントロールの魔法で頑張るのよ」
「やっぱりそうなるのか。あったらすぐに終わるのになぁ」
 井戸堀はちょっと大変だ。穴を堀ながら、同時に穴が崩れないように補強しなければならない。魔道具で穴堀用のボーリングマシンを作っておけば良かった。
 いや、待てよ。新しい井戸を設置して欲しい町や村はまだあるかも知れない。今後の仕事を楽にするためにも、井戸を掘る専用の魔法を創っておいても、損はないのではなかろうか?
 腕を組んで、ウンウンと一人頷いていると、
「見てよ、クリピー。シリウスがまた何か悪巧みしてるよ」
「ほ、本当ですわね。何を考えているのかは大体分かりますけど・・・」
 二人がヒソヒソと話していたが、丸聞こえだった。だが、その程度のことで止めるような俺ではない。
「井戸を掘る魔法を創ります」
「やっぱり」
「やっぱり」
 別に宣言する必要はないのだが、どうせあとから聞いてきて、教えることになるのだから、初めからどんな魔法なのかを知ってもらっていた方が都合がいいことに最近気がついた。
「井戸を掘るだけの魔法を創るって、そんなこと考えるのはシリウスだけだよ。ほんと、シリウスは変わってるわ」
「どうしたんだ、フェオ。今日はやけに絡んでくるな。朝のこと、怒ってるのか?」
 もちろん、怒っていないのは明白だった。だってあんなに幸せそうな顔してたもんね。ちょっとした冗談だ。
「お、怒ってなんか・・・怒ってるわよ! あとでもう一回やってもらうからね、覚悟してなさいよ!」
「あ、いや、フェオちゃん?」
 あかん、思ってたのと違う反応や! まさかそうくるとは思わなかった。フェオにするということは当然、残りの二人にもすることになるわけで。
 チラリと二人の方を向くと、クリスティアナ様は下を向いて真っ赤に、エクスは期待に満ちた目でこちらを見ていた。
 一応、オーケーではあるようだ。でも、一日に2回もやるって、ちょっと節操なくないか?
 その件に関してはひとまず保留にすることにした。今は目の前のやるべきことに集中しないと、疲れた状態で夜ぐっすり眠れないからね。ベッドに入ったらすぐに眠れる状態に、自分をもっていっておかないと、三人を意識して眠れなくなりそうだ。
 俺は意識を集中した。井戸を掘る魔法、井戸を掘る魔法・・・。
「ボーリング」
 魔法名を唱えると、目標地点にポッカリと穴が空いた。中を覗いて見ると、壁面はしっかりと固められていて、穴の底には水が湧き出しているのが見えた。どうやら上手くいったみたいだ。
 あとは手押しポンプでもあれば簡単に水を引き上げることができるのだが、作ってみようかな? 暇だし。クラフトの魔法があれば十分作れそうな気がする。あれなら人力だけで使えるからね。
「もう井戸ができたのですか? で、できてるー!」
 村長息子が悲鳴を上げた。何だ何だと村人達も集まって来た。
「相変わらずあっという間にできたね」
「あっという間にできましたわ。あとで私達にも教えていただきましょう」
「そうね。でも、まだなんかやるつもりみたいよ? 金属の延べ棒を持ってこさせてるし。新しい魔道具でも作るのかな?」
「新しい魔道具ですか? 井戸と何か関係があるのでしょうか」
 二人して首を捻った。

 思った以上にクラフトの魔法は使い勝手がよく、俺の考えに素直に従ってくれた。お陰で思ったよりも早く完成した。
「よし、できたぞ」
「マスター、何を作ったの?」
「手押しポンプだよ。これを使えば簡単に井戸から水を汲み上げることができるはずだよ」
「マスター、何でそんな物を作れるの?」
「え? それは、ほら、ピーンと頭に閃いてさ」
「やっぱりマスターは天才」
 尊敬に満ちた眼差しを向けられると、ちょっと心苦しい。発明者は俺ではないからね。
 俺がさっき掘った井戸には転落防止用の囲いが作られていた。そこに、滑車式の水汲み装置の代わりに手押しポンプを設置させてもらった。
「ほんとにこれで水が汲めるの?」
「まあまあ見てなさい」
 フェオは半信半疑だったが、俺も作ったのは初めてなので断言はできなかった。
 手押しポンプに呼び水を入れてハンドルを上下に動かすと、すぐに水が溢れ出た。
「凄いですわ! 水が出ましたわ。これは新しい魔道具なのですか?」
「いいえ、魔道具ではありませんよ。だから魔石も必要ありません」
「何ですと! これが魔道具ではない!? 信じられませんな」
「ええ、だから人力だけで使うことができますよ。これなら水汲みも少しは楽になるでしょう?」
「楽になるどころか、大助かりですよ」
 代わる代わる手押しポンプの使い心地を試していた村人達は次第にこちらを拝み出した。恥ずかしいのでやめて欲しい。ついでに他の井戸にも同じ物を設置することになった。壊れたときの修理の仕方は村の職人さんに頼んでおいた。これで大丈夫だろう。
「あとは村の人達に任せておけば、そのうち溜め池にも水が一杯になるね。次は水路とついでに畑を作るのも手伝ってみようかな?」
「水路は昨日も作ったからいいとしてさ、畑も作るの? なんか、お金持ちの人がするイメージじゃないんだけど。どちらかと言うと、人を雇って畑を作るように命令するイメージなんだけど」
「フェオ、きっとシリウス様は自分でやった方が早いと思っているのですよ。それに、また新しい魔法を試してみたいのでしょう。それとも、また新しい魔道具でも作るおつもりなのかも知れませんわ」
 う、鋭いなクリスティアナ様。さすがは俺の嫁。確かにガイアコントロールで畑を作れないかと考えていたところだ。さすがにトラクターのような魔道具を作るのは無理だと思うけどね。そういえば、この世界にはエンジンがまだないな。作れないのかな? 燃料はガソリンの代わりに魔石を使ったりしてさ。
「二人とも、魔法を実戦で使える機会なんてそうそうないんだよ。せっかくのこのチャンスを活かさないわけにはいかないだろう?」
「え~、あたし達もやるの~?」
「もちろんだよ。たくさん魔法を使えば、それだけ魔法を使うのが上手になるからね。フェオはもう十分に使いこなすことができるからいいかも知れないけど、俺達はまだまだだからね」
「そうですわね。魔法を自由に使う機会なんてそんなにありませんものね。せっかくの機会ですし、私もお手伝いしますわ」
 よし、労働力ゲット。最近のクリスティアナ様は魔力がかなり多くなっていて、十分な戦力になるのだ。
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