完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ

文字の大きさ
8 / 32

7

しおりを挟む
 ふたり目の夫を迎えてから、イヤルは仕事のために家をあけた。式のあと、家にいたのはたった1週間という短さだ。その間、迎え入れたルドメテと過ごしたほうがいいと彼が言ったから、イヤルとふたりの時間はほとんどとれなかった。

 幸い、イヤルとルドメテが旧知の仲だったことから、予めここでのことを聞いていたようだ。イヤルが不在であっても、領地でルドメテやエンフィはもちろん、周囲の人々も多少の戸惑いがある程度で、彼が領地で働くようになって以降困ることはなかった。

「ルド、お帰りなさい。いつもありがとう。領地の人たちは元気にしていた?」
「フィ、ただいま。雪解け水のおかげで、例年通りの春を迎えることができて良かったってみんな喜んでいる。シグナス地区にいた妊婦さんも、無事に赤ちゃんが産まれたって。君が管理していた水路の点検などを視察するためのルートを考えてくれていたし、君が言った通りに、故障個所はきっちり修復がなされていたから問題なかった」
「まぁ、いつもならなにかしらトラブルがあるのに。いつもこの調子ならうれしいわ。それに、子供が産まれるだなんておめでたいことだわ。彼女、ご主人を亡くされていたし、悪阻がひどくて心配だったの」
「もうひとりのご主人と一緒に、頑張られたそうだよ。そうそう、もう少し暖かくなったら、一緒に行こうか。エンフィが、文字を教えてくれて仕事に就けるようになったし、ご主人が亡くなってつらい時に手伝ってくれたおかげだって感謝していたんだ。赤ちゃんを見てほしいそうだよ」
「ええ、是非」

 エンフィは、イヤルの子を待ち望んでいたが、あいにく月の物が来てしまった。赤ちゃんが欲しいとは思うものの、それ以来イヤルとは会っていないし、ルドメテと完全な結びつきはまだなのだからできようはずがない。

「それにしても、イヤルはかなり忙しいみたいだね。冬は危険だから仕方がないにしても、いつもこんな感じだったのかな?」
「そうね。これまでも冬の間はあまり帰ってこなかったけれど、ここまで長く不在にするのは初めてだわ。海外に行くことも多いし、時化で海を渡れなかったのかも」

 不定期に届く、イヤルからの頼りには元気にしているとしか書かれていない。あとは業務報告のような素っ気ないものばかり。それでも、彼が書いた文字をなぞり、無事を祈り続けていた。

「奥様ー、奥様ー」
「まあ、マイヤが大声を出すだなんて珍しいわね。どうしたの?」
「それが、ご主人様が、イヤル様が来週帰って来られるっていう手紙が来たんですよ!」
「ええ? 本当?」
「はは、フィ良かったね。ずっと会いたがっていたもんね」
「あ、ルド。あなたの気持ちも考えずにはしゃいじゃって。ごめんなさい」
「何を言っているんだ。イヤルが帰ってくるのは僕だって嬉しいよ。そうと決まれば、ずっと仕事三昧だっただろうイヤルを迎える準備をしなくちゃね」

 ルドメテを迎えた初めての春。何もかもがうまくいっている。イヤルが帰ってきたら、もっともっと光輝くような未来が広がっているのだと、この時のエンフィたちは思っていた。

 あわただしくイヤルを迎えるための準備をして過ごしながら、一日、一時間、一分が待ち遠しく早く来週にならないかとじれったく感じていたのに、あっという間にその日が来た。

 久しぶりに領主であるイヤルが帰ってくると聞き、広くない庭には、各地を任せている村長や町長なども集まり彼の到着を待っていた。

 予定時刻よりも早く、彼を乗せた車やってくる。魔力を言動としたそれは、ほとんど音がしない。だが、この家が所有しているものよりもはるかに大きく、そしてスピードも速かった。

「どこの車なのかしら?」
「運転席にいるのはイヤルっぽいな」
「まあ、では買い替えたのかしら。すごく高いのに……」

 家で所有していた車も、平民では手が出ない。何かと必要だからと、子爵家である実家から譲り受けたもので、小さくとも維持費もばかにならなかったのに、目の前でどんどん近づくそれは、高位貴族くらいしか手が届かないものに見えた。

 戸惑いと焦燥が沸いたものの、それよりも自分でもイヤルが運転している姿を目視できたことで嬉しさが圧倒的に心を占めた。

 静かに、まるで最徐行でやってきたかのように止まった車からイヤルが下りてくる。冬の太陽にさらされた肌が、少し焼けていた。

「イヤル、おかえりなさい!」

 彼の姿が久しぶりで、まぶしく輝いているかのように見えた。駆けていき抱き着こうと一歩踏み出す。しかし、いつもなら両手を広げてエンフィを待つ彼は、彼女を一瞥しただけで後部座席のほうに向かう。

「え?」

 どうしたことかと、動きかかった体がぴくりと止まった。

 一同が見守る中、後部座席から、イヤルに宝石を扱うかのように大切に手を取られて立ち上がったのは、初めて見る女性だったのである。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。

しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。 そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。 王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。 断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。 閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で…… ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...