完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ

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14.5 イヤル

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 イヤルは、ロイエと再婚して間もなく、領地から王都にきていた。里芋の産業が軌道に乗っているとはいえ、いつどうなるかわからないのも事実。更なる領地の発展のために働きづめだったこともあり、新しく妻に迎えたロイエと過ごす時間などなかった。

 ロイエは、有能で大切なビジネスパートナーではあった。その彼女が領地を治めるのなら安心だと、久しぶりに訪れた商会の執務室に入る。

「イヤル様……」

 久しぶりに会う部下たちの顔が、驚愕に満ちている。すれ違う社員たちも、彼が通り過ぎるたびに二度見、三度見されており、彼らの視線が居心地がわるかった。
 やはり、ロイエをビジネスの場から離したことに、皆が一抹の不安を抱えているのかもしれない。そう思ったのも束の間、彼らはイヤルを慌ててソファに座らせた。

「おいおい、一体どうしたというんだ?」
「イヤル様、ご自覚がありませんか? 少し休んでください。どうぞ、お茶を。そして、鏡をご覧になられてください」

 差し出された温かいお茶が、体の芯まで染み渡る。こんなにも落ち着くのは、久しぶりのような気がした。人心地ついたあと部下が差し出した手鏡を覗くと、頬肉がげっそり落ち、両目の下には大きなくまができている年かさの男がそこにいた。更に、もともと白かった顔が、まるで血の気の通っていない病人のようで、ぎらついた瞳は直視するのが難しい。

「なんだと? これがオレなのか?」

 今まで、元気いっぱいに働いていた。確かに、働きすぎだと 部下たちや元妻に心配はされていたものの、自分のことは自分がよく知っている。だが、鏡という客観的に見た自分は、思い描いていた精悍なビジネスマンとは程遠かった。

「差し出がましいとは思いますが……。昨年、奥様、いえ、エンフィ様がふたり目の夫を迎え入れてからというもの、もともと働きすぎだったあなたは、取りつかれたかのように仕事に集中されました。数か月前、オフィスに入り浸りで仕事の邪魔ばかりするあの女と再婚したとお聞きしたときは、天と地がさかさまになったかのように驚いたものです」
「仕事の邪魔をする女?」

 数名の部下たちに囲まれる中、ソファの背に体を埋もれさせてお茶を飲んでいると、部下の一人が頭を下げながら話し出した。しかし、イヤルには彼の言う人物に対して心当たりがない。どういうことかと聞くと、部下たちは顔を見合わせる。

「ロイエという女ですよ。あの女、書類にコーヒーを零すわ、重要な会議にイヤル様を参加させようとしないわ、商談に乗り込んで先方を怒らせるわ、厄介ごとばかりだったではありませんか? それなのに、筆頭秘書としてお側におかれたので、愛人だとは思っておりましたが、あの女が領地の経営が出来ないのは、イヤル様がよくご存じでは?」

「おい、言いすぎだ。イヤル様、こいつの言ったことはお忘れください。しかしながら、ロイエ嬢は少々仕事をする場にはふさわしくなかったのは事実です。それに、男たちに色仕掛けをしていたため、社員が困っていました」

 若い部下たちが、互いを窘めながらもロイエへの不満をこれでもかとイヤルに伝える。ひとしきりクレームを言い終えたあと、一番落ち着いた年齢の恰幅の良い部下が頭をさげる。

「イヤル様、イヤル様がどなたとご結婚されようとも、我々に関係のないことでございます。しかしながら、社長であるあなたの健康に害をなされるようなマネは、社員全体の進展に関わります。エンフィ様が去られた今、領地はあの女に滅茶苦茶にされており、その後始末をしていたからここまで体調をくずされたのではないでしょうか?」

 彼の言ったことは憶測でしかない。しかしながら、その言葉通りイヤルは彼女が勝手に行った税率アップや、領地に入り込んだならず者による被害のフォローのため、睡眠時間すらほとんどとれていなかった。しかし、彼女にたいする彼らの言質は納得できない。これまで、彼女がいたことで成功した数々の事業のことを思い出し、彼らを叱責した。

「ロイエは有能な秘書だ。オレを支えてくれて、様々な事業展開に貢献してきてくれただろう? それに、彼女とはいかがわしい関係ではなかった。エンフィが、。ロイエとは、その後からの関係で……」

 この部屋の中で、支離滅裂なことを言うのはイヤルのみ。部下たちのほうが彼の言葉を聞き、どうしたものかと目配せしていると、ノックもなしにドアが開いたのである。

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