転生夫婦~乙女ゲーム編~

弥生 桜香

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第二章

44 《メイヤ》

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 森の中を駆けるメイヤは広い場所にたどり着くと足を止める。

「……いるのなら出て来いよ。」

 鋭い眼差しが何もない空間を睨む。
 しかし、空間は揺らぎ三人の魔族が姿を見せる。

「見破った事お見事。」
「でも、一人だなんて無謀じゃないかしら、坊や。」
「慢心は良くありませんぞ。」
「……。」

 テンプレのような敵役の三人にメイヤはため息を零しそうになる。

「申し訳ございませんが、お引き取り願えないでしょうか。」

 綺麗な辞儀をするメイヤに確実に切れやすそうな男が鼻で笑う。

「ああ?何でここまで来て帰らなきゃいけねぇんだよ。」
「そうよ、そちらのお持て成しを楽しみにしに来たのよ。」
「……畏まりました、不肖ながらわたくしめがお相手いたしましょう。」
「ぎゃははは、お前なんかで務まる訳ねぇだろう。」
「……。」
「あら、いらないようだったら、わたしが頂こうかしら、こういう子もたまにはいいじゃない。」
「おばさんの趣味は分かんねぇな。」
「……誰が、おばさんですって?」

 男の言葉に女が切れる。
 メイヤは茶番劇に首を振る。

「何だよ、てめぇ。」
「いえいえ、何でもありませんよ、そろそろごみを焼却しようと思っておりましたので、それでは。」

 メイヤはパチンと指を鳴らし、すると、三人が立っていた場所に火柱が上がる。

「……。」

 断末魔が響く中、メイヤは剣を抜く。

「そう簡単には一掃できませんか。」
「いやいや、お見事です、あちらのお二人は間に合いませんでしたよ。」
「俺としては貴方にも退場していただきたかったんですけどね。」
「それは難しいお願いですね。」

 老紳士は笑顔のまま仕込み杖から剣を取り出す。

「こちらからでも?」
「お好きにしてください。」
「それでは…。」

 老紳士は地面を蹴り一気にメイヤに襲い掛かる。
 一撃、一撃は重く、メイヤはわずかに顔を顰める。
 しかし、それは捌けないものではなかった。
 メイヤは知っている。
 これよりも早い斬撃を。
 メイヤは知っている。
 これよりも重い打撃を。
 メイヤは知っている。
 これよりももっと絶望的な状況を。
 しかし、メイヤは油断はしていなかった。
 油断をすれば失われる命を知っているから。
 油断をしていなくても何度も零れ落ちる命を見てきたから。
 だから、メイヤは油断をしない。
 常に勝てる敵なんてものはいない。
 たとえどんなに弱い敵だったとしても、自分を負かす時はあるのだ。

「防戦一方……ではありませんね。」
「……。」
「罠ですか。」
「……。」

 相手も歴戦の戦士のようで、メイヤの用意する小細工に目ざとく気づく。

「素晴らしい。」
「……。」
「もし、敵ではなかったら、スカウトしたいほどです。」
「……。」
「いや、今からでも遅くはありません、こちらの陣営に入りませんか?」
「断る。」
「お早いお返事で。」
「……。」
「あのメイドの娘が気がかりですか?」
「……。」
「こちらにつくのでしたら、あの娘子も迎え入れても構いませんよ。」
「断る。」
「……こちらも即答ですか。」
「……。」

 話しかけてくる老紳士に俺の目は、体は彼の動きに慣れてくる。
 どうやらこれ以上の隠し玉は相手にはないようで、徐々に向こうの顔色が悪くなる。

「何故そのような力を持っているのに上に立とうとしないのですか?」
「それに何の意味がある。」

 老紳士の言葉に俺はうんざりする。
 どうして、自分の周りは執拗に自分に不相応の地位を求めてくるのだろうか。
 正直言えば彼女と一緒に暮らせるこじんまりとした家が一つあれば俺たちは十分なのだ。
 それなのに何故人は俺達を放っておいてくれないのだろうか。

「地位があれば多くの物を手に入れれますよ。」
「俺の欲しいものはすでにこの手の中にある。」
「金や女性も手に入れれますが。」
「そんなもの欲しいとは思わない。」

 老紳士の言葉に俺はバッサリと切り捨てる。

「貴方には欲と言うものはないのでしょうか?」

 心の底からそうっ言っているのだろうか、この老紳士は。
 俺は少し呆れながらも、俺の大切なものはこの世でたった一つだった。

「欲はあるさ。」
「ならば。」
「だがな、それは俺の努力で継続していける。今更誰かに用意してもらうものでも何でもないんだよ。」
「……。」
「まあ、いい、一つだけ情報をくれれば逃してやってもいい。」
「……お断りします。」

 老紳士は一度俺から距離を置く。

「何故だ、命は惜しいだろう。」
「確かに命は惜しい、ですが、このままおめおめと帰ったところで、自分を含め家族の命はありませんから。」
「……。」
「それならば、ここで散って家族の命は助かる方がどんなけいいか。」
「……。」

 彼の目を見れば嘘を吐いているようには見えなかった。
 つまりは本当の事なのだろう。
 何ともこの世界は命が軽い。
 殺す事も、殺されることも、どうしてこんなにも軽いのだろうか。
 この世界を管理している者は何を思ってこの世界を生み出したのだろうか。
 俺は余計な感情を捨て、剣を構える。

「お前の願い通り、殺してやるよ。」
「では、こちらも最後のあがきをいたしましょう。」

 俺は地面を蹴り、男の心臓を貫く。
 男は確かに足掻いていた、いつの間にか持っていたナイフを俺の腕に切り付けていた、しかも、毒を塗ったナイフだった。

「……。」

 こと切れた老紳士を見つめ、俺は歪む視界に顔を顰める。
 最後の最後にしくった。
 大したことは出来ないだろうと少し油断をしてしまっていた。
 まさか、最後にこんな事になるとは、呼吸がやばくなる。
 このまま死んでしまうのだろうか。
 呆気ない最後に自嘲する。
 でも、不思議と怖くなかった。
 地面に倒れ込み、目を瞑る。
 思い出すのは泣きそうな今のイザベラの姿をした彼女だった。
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