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第2部 新学期
番外編 【観覧車phase竜と舞】
しおりを挟む修学旅行の遊園地にて、姫華と将を強引に2人で観覧車に乗せた舞は、少し複雑な心境だった。お化け屋敷も観覧車も、本当は将と一緒になりたかったはず。その舞の表情を一番近くで見ていたのは、竜だった。
「石子くん次のが来たよ! あたしたちも乗ろう?」
「おう……」
ゴンドラに乗ってからも常に彼らの様子を気にしていた舞に、竜はせっかく2人きりの状況ということもあり、思い切って尋ねてみる。
「小浦ってさ、将のこと好きだろ?」
「は、はぁ~? 何言ってるの石子くん、そ、そんなわけないじゃん! やだな~もぉやめてよ~……」
「やっぱそうか……」
「……な、なんで分かっちゃったの?」
「まぁクラスでの態度でなんとなくそうなのかなーっとは思ってたけど、修学旅行で確信したな。特に神社」
「あたしって、そんなに分かりやすい……?」
「分かりやすい部類じゃねーか? 将は全然気付いてないみてえだけど」
「お願い、青嶋くんには言わないで……?」
「心配しなくてもそんな羨ましい告げ口しねーよ」
「ありがとう……」
「自分から告るつもりはないのか?」
「だって、3回も断っちゃってるし……」
「俺はそんなこと、気にする必要ないと思うけどな。良くある話じゃん」
「3回も好きって言ってくれた人は、初めてだもん……」
「でも、ホント恋愛ってタイミングが全てだと思うぞ? しかもアイツ鈍いし」
「ホントだよ……こんなにアピールしてるのに……」
「将と小浦の場合、どうしても過去の記憶が邪魔してるように見えるんだよな。アイツ、小浦にはもう迷惑かけたくないって前言ってたから」
「迷惑だなんて思ったこと、1回もないよ……青嶋くんのばか……」
「てか、アイツが好きでバイト先にまでついていくとか、小浦も相当だよな……?」
竜は腹を抱えて笑った。
「な、なんで笑うのー?」
「わるい、でも学園のアイドル様があの将の為にそこまでやるかと思うとおかしくてな、ハハ……」
「そんなの周りの人が言ってるだけでしょ? あたしは普通の女子だもん!」
「……俺さ、アイツのこと、同じクラスになったばっかの頃はそれほど好きじゃなかったんだ」
「今ではこんなに仲良しなのに?」
「なんか、気に食わなかったんだよな。四六時中、女のことしか考えてねーし、こいつはきっと遊び人なんだろうって思ってた」
「でも、違ったんだ……?」
「アイツはただ、真っ直ぐなだけだったんだよ。自分の欲しいものを手に入れるために、必死だったんだ。アイツが振られて泣いてるのを見て、おもしろがって笑ってたけど、心の中では羨ましがってる自分もいた」
「趣味わるいよー?」
「俺が漫画家になるって決めたのも、アイツのめげない姿を見て感化されたのもあるしな」
「そうなんだ……」
「だからさ、将はいい男だよ」
「うん。知ってる……」
「なら、はやく告っちまえよ」
舞は竜の後押しに答えることはせず、話題を変えた。
「……石子くんは彼女とどうやって知り合ったの? 他校の子なんでしょ?」
「幼馴染ってやつ。高校が別々になって会う頻度が減ったら、好きだったんだなーって気付いてさ。そんで告った」
「緊張した?」
「そりゃしたよ。長く一緒にいた分だけ、言い出しにくくなることもあるんだって思ったよ」
「そっか……」
「でも、今ではあの時伝えて良かったって……心底思う。もし自分の気持ちに嘘ついてあいつに彼氏が出来ちまってたら、俺も将みたいに、きっと泣いてた」
「振られるのが、怖くなかった?」
「足震えた」
「石子くんにも、感情あるんだ」
「どういう意味だよ」
「だっていつもクールだし大人っぽいし」
「ぶってるだけなんだよ。そう見せてるだけで、俺はお前らみたいに等身大で青春っぽいことに夢中になれる方がよっぽど健全だと思うけどな」
「あたしから告白しても、いいのかな……?」
「悪い訳ないだろ。人の感情なんて変わるもんだし、それを伝えるのは本人の自由だよ」
「今更なに言ってんだこいつって思われない……?」
「将がそんなこと言ったら、俺がぶん殴ってやる」
「そんなことしたら、あたしが石子くんを叩いちゃうかも……」
「今のは背中押そうとしただけだろ? 本気にすんなよ!」
「ありがとう石子くん……考えてみる」
この2人は観覧車に乗っていたにも関わらず、ほとんど景色を見ることはなく一周を終えた。
彼ら彼女らの修学旅行は、こうして幕を閉じる。それぞれの想いと、それぞれの記憶が交差するように、観覧車は回り続けた。
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