サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

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第3部 巴

第38話 日常。

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「――くん、青嶋くんってば! 聞いてるの?」

「あぁ、ごめん小浦。ボーっとしてた……」

「何か考え事?」

「今日の晩飯何かなーって……」

「もお! そんなこと考えてないで真面目にやってよ!」

 週明けに学校で会った小浦は、ウソみたいにいつも通りだった。俺と後藤さんがあの日、会ったことを無かったことにしたように、まるで小浦もそうしているのかと勘違いしてしまうほどに……。


 誰もいなくなった夕日の差し込む教室に、小浦と2人きり。なぜ放課後に机を合わせて居残っているのかと言うと、体育祭の時と同じように、小浦は文化祭の実行委員に立候補したのだ。あの時と同じく――俺を道連れに。HRで決まらなかったクラスの出し物について、みんなの意見を鑑みながら頭を捻らせる。部活に所属しているクラスメイト達は「全て実行委員に任せる」と、投げやりだった。まぁスポーツの秋とも、芸術の秋とも言うし、部活動を優先したい気持ちも、分からんでもない。

「出し物、何がいいかな……?」

「小浦はやりたい事とかないのか?」

「あたしはメイド喫茶って書いたけど、きっと準備大変だよね……?」

「小浦って、メイド服とか、着たいの……か?」

「だって、着たことないし……青嶋くんはあーゆうカッコ嫌い?」

「嫌いじゃありません、むしろ嫌いな男はいないかと……」

「でも……準備に時間かかりそうなのは、みんなは嫌がるよね……」

「そうだなぁ……お化け屋敷とかも論外だな」

「青嶋くんは、なんて書いたの?」

「……」

「なんで黙るの?」

 俺が黙秘権を行使していると、小浦はみんなが提出したプリントを漁りだす。

「あ、あった……」

「ちょ、ほとんど冗談だから……!」

 プリントを奪い返そうとしたが、小浦がクルっと体をひねってしまい間に合わなかった。

「……コスプレ喫茶って、みんなにどんな格好させるつもりだったの?」

 いつものジト目から送られた視線は、いつも以上に痛かった。

「すみません……ほんの出来心で……」

「まぁ、いいや……あたしの案とほとんど一緒だし」

「やるとしても、普通の喫茶店とかが限界かもな」

「でも……それじゃ他のクラスがメイド喫茶とかやったら、きっと埋もれちゃうよね……せっかくの文化祭だし、ちゃんと思い出に残るようにはしたいし……」

 俺はこの時、悲しそうな表情を浮かべる小浦の力になりたいと思った。せめてもの罪滅ぼしの気持ちだけではなく、彼女には、ずっと笑顔でいて欲しいんだ。

「……それならさ、俺らの得意分野で勝負するってのはどうだ?」

 
 ――出し物が決まり、帰宅しようと教室を出ると、ちょうど1組から後藤さんと戸狩が出てきた。

「奇遇だな青嶋氏」

「お前らも居残りか?」

「あぁ。体育祭と同じように、今回も文化祭の実行委員にされてしまったのだ」

「俺らもだよ。そっちの出し物は何になったんだ?」

 俺の質問に、後藤さんは顔を歪めた。

「……メイド喫茶よ」

「ええ、いいなぁ! 姫のメイドさん姿、絶対見に行くね?」

「私は、まだ着るとは言っていないわ……」

「でも後藤君、クラスの過半数以上が君のメイド姿を見たいと票が集まってしまっている……」

 戸狩……それ絶対お前も投票しただろ。心の中でそう思ったとともに、感謝もしていた。

「ところで、君たち3組はどうなんだ?」

「あぁ、俺たちは――」
「焼鳥屋さんだよ!」

 小浦が割り込んで答えると、後藤さんの顔が少し解れた気がした。

「いいわね、それならアルバイトの経験も活かせそう」

「でしょー? 青嶋くんが考えてくれたの!」

「あなたも、たまには良い提案をするじゃない?」

 後藤さんと話すのも、あの日ぶりだったけど、いつも通りの挑発するかのような表情だった。

「そうだろ? 我ながら機転が利いたアイデアだと思ったよ」

「でもあなた、焼鳥を焼いたことはあるの?」
 
「ないから、社長にコツとか教わろうかと思ってる」

「それなら、当日は出前を待っていようかしら……」

「なんで届ける前提なんだ。お前が来いよ」

 後藤さんと俺の会話を遮るように、小浦が口を開いた。
 
「ね、ねぇ! せっかくだから、みんなで一緒に帰ろうよ!」

「そ、そうだな……戸狩ん家ってどこらへんだっけか?」

「僕はすぐそこだから、途中までご一緒させてもらうとする」


 学校を出ると、小浦と後藤さんが前、俺と戸狩が後ろを歩くというフォーメーションだった。俺は戸狩に耳打ちをする。

「オイ戸狩、分かってるだろうな? 後藤さんに似合うメイド服を……」

「青嶋氏、僕を誰だと思っているのだ。こう見えても、メイド服の知識は人一倍培ってきたつもりだがね……」

「そうか。なら安心だ……やっぱり彼女に似合うのは伝統的なクラシカルのロングスカートだよな?」

「青嶋氏、君という奴は……」

「やっぱり戸狩も同意見か?」

「君とは仲良くなれると思っていたが、こんなに浅はかな男だとは……幻滅だがね」

「な、なんだと!?」

「確かに、後藤君のイメージは君の言う通りだ。だが、そんなものは簡単に想像できてしまう。それを着てもらって君に感動は生まれるかね?」

「……じゃあお前は、どれがいいって言うんだ!」

「僕は敢えて、ミニスカートを提案する……」

「な、なんだと……」

 完全に盲点だった。戸狩の言う通り、普通のメイド服を着ている後藤さんの姿は、似合い過ぎて簡単に脳内再生が可能だ。けれどミニスカートのメイド姿の後藤さんは、なんと言うかエロ過ぎて、簡単に想像が出来なかった。

「戸狩……負けたよ。お前の言う通りだ……でもそれを彼女が承諾するのか?」

「僕に秘策がある。製作する衣装の布面積を少なくすることで、作業時間と費用を抑えるという名目で押し通すのだ」

「なるほど……戸狩、お前に俺の夢を預けるよ」

「任せておくのだ、青嶋氏……」

 俺と戸狩はこの日、さらに一段階お互いを認め合った。

 

 
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