サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

文字の大きさ
64 / 72
第3部 巴

第53話 感謝の叫び。

しおりを挟む


 キッチンワゴンで運ばれてきたオムライスには、可愛いクマの絵がケチャップで描かれていた。それを見た小浦は、まるでお子様ランチが目の前にきた子供のように喜んだ。
「すごーい、これ誰が描いたの?」

「……聞かない方が良いと思うけれど」

 そんなことを言われてしまうと益々気になった俺たちがしつこく尋ねると、後藤さんは溜め息まじりに答える。
「戸狩くんよ……」

 俺と小浦は、絶望の淵へと叩き落された。
「この世には、知らない方がいいこともあるんだな……」
「そうだね……ごめん青嶋くん、あたし、反省する……」

「だから言ったじゃない、私は止めたわよ? じゃあごゆっくり……」

 後藤さんがその場をそそくさと離れようと振り返ったところを、逃がすものかと言わんばかりの形相で、メイド服のスカートの裾を掴む小浦。
「……姫、なにか忘れてない?」

「わ、忘れてなんか、いないわ……舞、手を放して……?」

 心なしか、メイドさんはプルプルと震えているように見える。

「あたし見てたよ? さっきあのテーブルのお客さんのオムライスにおまじないをかけてるとこ……」

 後ろを向いていたから、これが彼女によるものなのかは定かではなかったが、確かに舌打ちの音が聞こえた。振り返ったメイドさんは満面の笑みだったが、額には3本の筋がクッキリと浮かんでいる。
「お嬢様、そしてご主人様、このオムライスはおまじないなんかなくても十分においしいので、どうぞこのままお召し上がりください」

 これも気のせいかもしれないが、小浦を止めろと、俺への無言の圧力のようなものを視線から感じた。
「ま、まぁ小浦、メイドさんの言う通り今のままで十分おいしそうだし……」

「はぁ? 青嶋くんは見たくないの!?」

 ――そんなの、見たいに決まってる。
「……出来れば動画に収めたい」

「でしょう!? ねぇ姫、お願い……!」

 後藤さんは突然寝返った俺の顔を一瞬睨みつけると、諦めたように肩を落とした。
「……では、オムライスがもっとおいしくなるおまじないを致します……」

 期待に胸を膨らませて俺はジッと見つめ、小浦は即座に準備していたスマホのカメラを向けていた。手でハートマークを作り、オムライスへ向けるメイドさん。
「美味しくなぁれ、萌え萌え、きゅん……」

 ――恥じらいと、あどけなさが絶妙にマッチしたこの魔法は、俺と小浦を完全にフリーズさせた。動画の録画停止ボタンを押すのも忘れて見惚れる小浦は、「も、もう一回!」と、おかわりを申し込む。

 後藤さんは両手で顔を隠し屈みこんで「もうイヤ……」と、羞恥心を露わにした。それがまた、よかった……。


 オムライスを半分こして食べ終わると、もう一品が届く。後藤さんが俺に選んでくれた料理は、パフェだった。高さもあり、かなりのボリュームだ。
 
「あ、アイス、チョコもバニラもどっちも入ってるから、今度は喧嘩しなくて済むね?」

 無邪気に喜ぶ小浦の表情は、とても穏やかで癒される。パフェを完食して満腹になった俺たちが店を出ようとすると、後藤さんがお見送りに来てくれた。
「行ってらっしゃいませ、ご主人様、お嬢様……」

「ごちそうさま、どっちもうまかったよ!」
「ありがとう姫、すっごく楽しかった!」

「そう、良かったわ……あとで私も、焼鳥、買いに行かせて貰うわね」

「その頃には完売してるかもだから、なるべく早く来いよ?」
「青嶋くん、そんな訳ないじゃん。姫、ゆっくりでいいからね?」
 
「分かんねーだろ? もしかしたら突然大富豪が現れて全部買ってくれるかもしれないし」
「そんなのに期待しないで、地道に売るの!」

 俺と小浦の口論を見て微笑んだ後藤さんは、戸狩に呼ばれ「またあとでね」と、言い残し教室の中へと戻っていった。

 店に戻ると、昼過ぎの段階で売れた焼鳥の数は150セット、まだ目標の半分だった。
「順調とは、言えないか……」

「そうだね、もうみんなお昼食べちゃっただろうし……」

 そこへ鼻歌まじりの陽気なおじさんがやってきた。
「やってるかー?」

「社長、ホントに来てくれたんですね! ご機嫌ということは……まさか……」

 ニンマリと満面の笑顔の社長は、ピースサインを向ける。
「久しぶりの大勝ちだ……10セット貰おうか」

「毎度、ありがとうございます!」

 社長は注文した焼鳥を受け取ると、1セットだけビニール袋から取り出して、残りを全て俺に渡してきた。
「これはクラスのみんなで食え。自分の焼いた串を食べるのも勉強だ」

 なんと言うか、大人のカッコ良さみたいなものを感じざるを得なかった。俺も将来、誰かを導けるような、こんな大人になりたいと思った。


 その後、後藤さんが串を買いに来てくれ、メイド喫茶でも宣伝してくれたおかげで、なんと初日で400セットを売ることが出来た。翌日も人気が衰えることはなく、昼過ぎには予定していた600セット全てが完売となった。クラスのみんなと話し合った結果、材料を買い足すことはせず、焼鳥一歩はこれにて閉店の運びとなる。

「みんな、本当にありがとう。達成出来るとは、正直思ってなかった……この後は、みんな自由に文化祭を楽しんでくれ……」

 つい感極まって、涙を流してしまい、クラスメイトからイジられてしまったが、この経験は間違いなく俺にとってかけがえのないものとなった。

 小浦も少しだけ、涙ぐんでいた。
「青嶋店長、お疲れさまでした……」

「小浦がいてくれたから達成出来た。本当に感謝してる……」

「ううん、そんなことない。青嶋くん見てたら、あたしも勇気出さなきゃって思った。……こっちこそありがとうだよ」

 今朝から、小浦の様子がいつもと違うように感じていた。気のせいだろうと思っていたが、やはりどこか元気がない。
「小浦、なんかあったか?」

「全然、いつも通りだよ?」

「ならいいんだけど……」

 午後からはなぜか竜に誘われて、男2人で文化祭を見て回った。一番こういうのを嫌がる奴のくせに、絶対におかしい。何か企んでいるのかと怪しんでいると、時計を見た竜が「そろそろか……」と呟き、体育館まで連れられる。
「オイ竜、一体なんのつもりなんだ!」

「いいから……行ってこい!」

 ――体育館では現在「感謝の叫び」が行われていた。無理やり体育館の中へ押し込まれると、マイクを通した声で司会の生徒がアナウンスをする。

『続いての感謝を伝えたい生徒は、2年3組の小浦舞さんです!』

 ――壇上に現れた小浦は、何故かメイド服を着ていた。
 
 
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...