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第3部 巴
第52話 メイド喫茶。
俺たち2年3組が文化祭で掲げた目標は、用意していた焼鳥の完売だ。5本セット300円で販売するその総数は3,000本――セット数にして600個だ。2日間でこれを捌き切るとなると、1日当たり300セットを販売するのがノルマとなる。
結構思い切った数だとは思うが、小浦に目標は高い方が良いと言われ、俺はまんまと乗せられてしまった。例年の来場者数から考えても、全体のニ割のお客さんが購入してくれれば完売となる計算だった。
「青嶋くん、あ、間違えた。店長、追加で10本お願いします!」
「わざわざ言い直さなくてもいいって、はいよ!」
可愛いエプロン姿の小浦が接客をしてくれていたおかげで、午前中からある程度の来客があった。行列が出来るほどではなかったが、順調に減っていく本数や食べた人の笑顔を見られたり、「美味しい」という感想が聞こえてくると、体がむず痒くなるほど嬉しかった。
「小浦、適度に休憩してくれていいからな? さっきからずっと働きっぱなしだろ?」
「あたしはいいから、青嶋くんが先に休みなよ? 一応この為に焼鳥の焼き方は勉強しておいたんだよ?」
結局、何度かこのやりとりを続け、昼になっても小浦は一度も休憩してはくれなかった。その様子を見かねた竜が「もうお前ら2人とも休め!」と、無理やりテントから追い出してくれなかったら、俺たちはずっと動き続けていただろう。
「追い出されちゃったね……」
「まぁ意地張り合ってても、仕方ないか……」
少し気まずい雰囲気で微笑み合っていると、小浦は思い出したように口を開く。
「あ、じゃあ姫のお店でお昼食べようよ!」
――俺は忙しさのあまり、すっかりそのことを忘れていた。
後藤さんのメイド姿が遂に見られる。想像を膨らませていると無意識の内に顔がニヤついていたのか、小浦がもの言いたげな目で見つめていた。
「青嶋くん、今すごくスケベな顔してる」
「ス、スケベって……そんなに顔に出てた?」
「ほっぺつねりたくなるくらいデレデレしてた。やっぱりあたしも着たかったなぁ……メイド服」
「ま、まぁ来年もあることだし……」
物寂し気な小浦は、「そうだね……」と返すと、俺たちは後藤さんのいる1組の教室へと向かう。メイド喫茶は、長蛇の列だった。噂が噂を呼び、後藤さんのメイド姿を一目見ようと学年問わず男子生徒が押し寄せていたのだ。
仕方なく最後尾へ並ぶと、燕尾服姿の戸狩が現れる。
「来たか青嶋氏……僕は、今日ここで死んでも後悔はないとすら思うよ……」
「す、すごい行列だけど、これ全員後藤さん目当てなのか?」
「ああ……彼女の接客を希望するお客が続出しているが、生憎当店に指名制度はないのだよ」
「残念だな……後藤さんにご主人様って言って貰えないのか……」
小浦がすぐ隣にいるにも関わらず心の声を漏らしてしまった俺の頬をつねりながら、彼女は苦言を呈す。
「じゃああたしが代わりに言ってあげるよ、ご主人様……力加減はどうですかー?」
「はひ、すひまへんでひた……」
小浦は興が乗ったのか、もう片方の頬も掴み、両手でグニャグニャと俺の顔をもてあそんだ。呆れた戸狩は、俺たちにだけ聞こえる声でボソッと裏情報を伝えてくる。
「仲の良い君たちだから特別だ……後藤君には内緒で君たちのテーブルに付くよう手配しておくよ」
「まひかとかり!?」
「ありがとう戸狩くん! ……でも青嶋くん、次スケベな顔したら目にケチャップかけるからね?」
戸狩に笑顔で礼を言った後、すぐこちらに薄目を向けて忠告された内容に俺が頷くと、小浦はやっと手を離してくれた。解放されたヒリヒリとする頬の痛みを忘れるくらい、楽しみの方が勝っていた。
きびきびと働く戸狩の頑張りのおかげか、この店の回転はとても早く、意外にも30分も待たずに入店することが出来た。2人掛けのテーブルへと案内された俺たちの前へ、お待ちかねの人物が挨拶に来た。
「お帰りなさいませ……ご主人様、お嬢様……」
たどたどしく、そして不安げな表情で決まり文句を言ってみせた後藤さんは、恥ずかしそうに顔を反らした。
「姫、すっごく可愛い! 似合いすぎてお人形さんみたい! ね、青嶋くん!?」
「お、おう、そうだな……」
なんとか表情は崩さないように、後藤さんの全身を上から下まで舐めるように見つめた。白のひらひらとしたカチューシャ、黒地でミニスカートのワンピースに白のエプロンという、よく見る一般的なメイド服。だったが……それを彼女が身に纏うと、他のメイドさんには本当に悪いけれど、モノが違う。まるで別格……別の世界の住人みたいだ。もしかしてこのクラスだけ、異次元や異世界に飛ばされたのではないか、と思うほどだった。
「あんまり見ないでくれるかしら……これでも恥ずかしいのだから……」
「でも、あれよりはマシになっただろ?」
「青嶋くん、あれって何?」
「それがさぁ――」
俺があのエッチなメイド服の事を小浦に話そうとすると、後藤さんは俺の口を両手で塞いだ。
「な、なんでもないわよ舞……!」
後藤さんは、その後すぐに俺へ耳打ちをする。
「あなた馬鹿なの!? そんなことを話したら舞は必ず写真を見せて欲しいと言ってくるでしょう?」
「小浦には見せればいいのに……アレもアレで似合ってたぞ?」
「……うるさいわよ、ばか」
小浦は俺たちの内緒話を不思議そうな顔で見つめていたが、一段落したところを見計らってメニューを手に取り話題を変えた。
「メイドさんのオススメはなんですか?」
「そ、そうね、オムライスとかじゃないかしら……」
いつも通りの対応が不満だったのか、小浦はおちょくったような顔で言う。
「あれれー、姫? あたしは今お嬢様だよー?」
「し、失礼しましたお嬢様……当店の一押しは『くまちゃんオムライス』でございます……」
「なら、あたしはそれにしよっかな、青嶋くんは?」
「じゃあ、俺もそれで……」
俺の選択は小浦のご機嫌を損ねてしまったらしく、彼女は再度不満を漏らした。
「えー? せっかくだから違うの頼みなよ、オムライスも半分あげるから」
「……そ、それなら俺の分はメイドさんのお任せで頼むよ」
困り顔を浮かべた後藤さんだったが、なんとか無理な注文を承諾してくれた。
「かしこまりました……ご主人様……それでは、少々お待ちください……」
料理が来るまでの間、小浦は後藤さんの珍しいメイド姿を写真に収めようと、盗撮犯のようにコソコソとスマホを向けていた。
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