サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海

文字の大きさ
67 / 72
第3部 巴

第56話 誕生日。

しおりを挟む


 ――12月も中旬になると、最高気温が10度を下回る日々が続いていた。

 年末へむけて、たまだの来客も順調に増えていた為、俺と小浦はこれまで以上にシフトを多く入れていた。流石の後藤さんはテスト勉強に集中したいと、アルバイトは最低限に控えていた。

「青嶋くん、B卓さんの焼きそばってもう出る?」

「あ、やっべ忘れてた。すぐ作るよ!」

 小浦とは、今まで通りに……と言いたいところだが、それは正しくないので訂正する。小浦は、今まで以上に積極的なアプローチをしてくるようになった。もう隠す必要がなくなったから――と、開き直った彼女の行動力は凄まじかった。

「青嶋くん、今週末空いてる?」

 中華鍋を振る俺の横で、小浦は立ったまま頬杖をつきながら尋ねた。
 
「空いてるけど、どうしたんだ?」

「デートしようよ」

「デートって……」

「だってその日、青嶋くん誕生日でしょ? どうしても2人っきりで過ごしたくて……」

 小浦は少しだけ顔が赤くなるも、以前より恥じらいの度合いは薄くなっているように見える。このくらいのセリフならば、彼女は平気で面と向かって、それを日常的に俺へ浴びせてくるようになっていたのだ。

「な、なんで俺の誕生日を知ってるんだ? 言ってなかったよな?」

「あたしには有能なスパイがいるからね」

「心当たりが2人程いるな……」

「それで思い出したんだけどね……? 青嶋くんが3回目に告白してくれたのって、確か去年のその日だったのって偶然かなぁー?」

「も、もう許してくれよ小浦……」

「あたしと付き合ってくれたら、許してあげる……」

 調理する手元が狂うような言葉を何度も受けながらも、俺はなんとか完成させた焼きそばを手渡して返事をする。
「分かった……デートをしよう」

「ホントに? じゃあプランは全部あたしに任せてね?」

 12月19日――それが俺の誕生日だ。今年で17歳……来年には成人となるわけで、まだ全然実感はないけれど、大人になることへの微かな期待感を抱いてはいた。

 
 当日、俺は小浦に呼び出された地元の駅へと向かっていた。てっきり市内で会うとばかり思っていたから、予定の時間より余裕を持って早めに準備していたのを、少し後悔する。

「あ、青嶋くーん!」

 いつもの殺風景な見慣れた駅も、小浦が手を振っているだけで何倍も華やかになるのだから不思議だ。

「今日は、なんでこっちなんだ……?」

 小浦は俺の質問に、待ってましたと言わんばかりの表情で答え合わせを始める。
「今日は、青嶋くんツアーを企画しました!」

「なんだそれ……?」

「青嶋くんのこれまでの人生を振り返るツアーです!」

 小浦が言うには、俺の通っていた幼稚園や小中学校、よく遊んでいた公園や思い出の場所などを巡るのが今日の目的らしい。どこぞのスパイから情報を得て、小浦なりにプランを組んでくれていた。素直に嬉しくて、少し恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しくて……もっと俺のことを知りたいと言ってくれる彼女に、昔の自分を重ねてしまう。

「ここが青嶋くんの通ってた幼稚園? あ、外にプールがあるんだ……いつも何して遊んでたの?」

 外から眺めるだけだったけど、変な気分だ。懐かしさはさほど感じないのに、心の隙間に風が吹いたような……そんな感じ。
「土遊びが好きで、綺麗な泥団子を作るのに夢中になってた。あとは……紙に迷路を書くのも好きだったかな」

「へぇ……見てみたいなぁ、小さい頃の青嶋くん……」

 次に向かったのは小学校。こちらも中へは入れなかったが、外からでも十分に校舎全体が確認できた。グラウンドの周囲の何もない細道を、ぐるっと一周歩いてみる。あの頃はそこそこ大きいと感じていた遊具も、今見るとこんなにも小さかったのかと、自分の成長を実感した。
 
「青嶋くんは小学校の時、好きな子とかいた?」

「いたよ。ずっと好きだった子が……中学が別々になってからは一度も会ってないけど……。小浦は?」

「あたしもいたよ~。バレンタインにチョコあげたりもしてた。けどおんなじで……中学からは話さなくなった」

「大人になるとその気持ちも、いつか忘れちまうのかな……」

「その人にとって大切な思い出なら、きっと忘れないよ……」

 その後も中学校や学校帰りに寄っていた近所のスーパーなど、なんの思い出もない小浦にとっては退屈であろう散歩コースも、彼女は楽しそうに俺の昔話を聞いてくれた。こんなに素敵な女性でも、いくら俺の事を好きだと言ってくれていても、俺にはこの子を抱きしめることは出来ない。罪悪感で痛む心は、既に悲鳴を上げていた。なんでもない道で、立ち止まり涙を流してしまうくらいに。

「ごめん小浦……気持ちに応えられなくて……」
 
「青嶋くん……怒るよ?」

 小浦は、冷たい目をしていた。
 
「え……?」

「……あたしは、勝手に諦めてないだけ。青嶋くんも去年はそうだったんでしょ?」

「それは、そうだけど……」

「もし青嶋くんが今後何かを決断する時に、あたしへの好意じゃなくて、哀れみの感情を優先するようなことがあったら、絶対許さない……あたしは青嶋くんとは、これからもずっと対等でいたいって思うから」

 いつもの愛嬌溢れる小浦舞とは別人のように、彼女は表情を崩さずに淡々と語った。
 
「小浦……」

「だからね、この先青嶋くんに彼女が出来たって、そんなの知らない。あたしはあたしのやりたいようにやる。それで報われなかったしたとしても、それは全部あたしのせいだし、そこに他人からの哀れみや同情なんていらない。それで駄々をこねるほど、もう子供じゃないし。だから……あたしの覚悟、舐めないでよ」

 ――小浦舞は、やっぱりすごい。俺なんかには計り知れない。こうやってまだ彼女との関係が続いていくことが奇跡みたいに思えて、なんだか無性に嬉しくなって、思わず笑ってしまった。
 
「……なんで笑うの?」

「ごめん……俺、小浦を過小評価してた……」

「それは、惚れ直したって意味であってる?」

 クールな表情から一転して、いつの間にかいつもの可愛らしい小浦に戻っていた。

「ポジティブだな……でも、そんな次元の話しじゃねーよ」


 正午を過ぎていたから昼食の予定を尋ねると、小浦はスマホを確認しだす。店を予約でもしているのだろうかと思ったが、案内された場所は、俺の家だった。

「ここがツアーの最終目的地だよ……どうぞ入って?」

「俺ん家だけどな。なに企んでるんだ?」

 家に入りリビングの扉を開けると、クラッカーの音が盛大に鳴り響いた。あまりの爆音に腰を抜かして驚いてしまう。そこには美波と愛里那の姿があり、室内はカラフルに飾りつけられ、テーブルには料理が並んでいた。「サプライズ大成功!」と、はしゃいでいる3人を見て、やられた……と片手で頭を抱える。誕生日のこんな祝われ方は初めてで、小っ恥ずかしくて堪らなかった。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友達の妹が、入浴してる。

つきのはい
恋愛
 「交換してみない?」  冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。  それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。  鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。  冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。  そんなラブコメディです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

クラスメイトの王子様系女子をナンパから助けたら。

桜庭かなめ
恋愛
 高校2年生の白石洋平のクラスには、藤原千弦という女子生徒がいる。千弦は美人でスタイルが良く、凛々しく落ち着いた雰囲気もあるため「王子様」と言われて人気が高い。千弦とは教室で挨拶したり、バイト先で接客したりする程度の関わりだった。  とある日の放課後。バイトから帰る洋平は、駅前で男2人にナンパされている千弦を見つける。普段は落ち着いている千弦が脚を震わせていることに気付き、洋平は千弦をナンパから助けた。そのときに洋平に見せた笑顔は普段みんなに見せる美しいものではなく、とても可愛らしいものだった。  ナンパから助けたことをきっかけに、洋平は千弦との関わりが増えていく。  お礼にと放課後にアイスを食べたり、昼休みに一緒にお昼ご飯を食べたり、お互いの家に遊びに行ったり。クラスメイトの王子様系女子との温かくて甘い青春ラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2025.12.18)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、いいね、感想などお待ちしております。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

処理中です...