68 / 72
第3部 巴
第57話 助けて。
「おにぃこれつけて」
美波が「本日の主役」と書かれたタスキと、パーティハットを俺に渡そうとしてくる。
「どうしてもつけなきゃダメか……?」
安ぽっい羞恥心から身を守ろうとする俺の反応に怒った愛里那が、横槍を入れた。
「ちょっと将、それ美波ちゃんの手作りだよ!? アンタの為に頑張って作ってたんだから!」
美波が涙目になっているのを見てしまった俺は、我も忘れて妹の手からそれらを掻っ攫う。
「い、いや~よく見ると超オシャレじゃん、喜んでつけさせてもらうよ……どうだ似合うか? いいなぁこれ、この格好でお出かけしたいくらいだな~」
「おにぃ、わざとらしい……けど許す」
豪華な昼食の後に、みんなでケーキを食べた。誕生日には珍しい気がする茶色のチョコレートケーキを見て、きっと小浦が選んでくれたのだろうと、勝手に想像していた。
ついつい食べ過ぎてしまいソファで横になって休んでいると、美波が俺の顔を上から覗き込む。
「みんなでゲームしよう?」
「美波も知ってるだろ? 俺、ゲーム苦手なんだよ……」
「大丈夫、おにぃでも出来るアナログなやつ」
美波は一度自室へ行き大きな箱を抱えて戻ってくると、リビングのテーブルに、すごろく形式のボードゲームを広げた。小さい頃、よく家族で遊んでいた記憶がある。
「これ、懐かしいな。まだ残ってたのか……」
このゲームの名前は、「選択ゲーム」。人生を模した様々なイベントが書かれたマスを、ルーレットで出た目の分だけ持ち駒を進めていき、ゴール時に獲得していたポイントの最も高い人が勝者となる単純なゲーム。勝敗を分ける要因になるのが、要所に配置された選択マス。ここで最適なルートを選べるかどうかで、その後の運命が大きく変わる。
ゲームが始まると、さっそく俺は最初の選択マスに止まった。そこには「人生の転機! あなたの職場へ気になる異性が入社してくる。だが、その人物は別れた恋人の親友だった。構わずアプローチするならAのルートへ、見て見ぬふりをするならBのルートへ進む」と、書かれていた。なんだこれ……他人事とは思えない。
どうするか悩んでいると、小浦の方から無言の圧力を感じる。顔は怖くて見られなかった。
「とりあえず、今はBかな……」
ゲームは進んで行き、小浦が大物歌手になっていたり、愛里那は2度目の結婚をしていた。美波は、いつまで経っても就職出来ず、中盤になっても未だフリーターだった。そして俺は、2度目の選択ルートに辿り付く。
「やっぱり、同僚のことが気になる……そんな時、別れた恋人からヨリを戻したいと告白される。だって? 青嶋くんモテモテだね~?」
なぜか声に出して読み上げた小浦の目は、笑っていなかった。
「……ここもBだな……まだ様子を見てゆっくり考えないと……」
ゲームは終盤、小浦と俺は同じ選択マスに並んだ。
「大切な人がピンチ! 助けに行くならA、信じて待つならBへ。……ってなにこれ、そんなの助けるに決まってるじゃん。ねぇ青嶋くん?」
「そうだな。じゃあ小浦もAでいいか?」
俺は自分の駒を進めるついでに、小浦の駒も一緒に動かそうとした――その時、テーブルに置いてあった俺のスマホが震え出す。みんながそれに注目すると、電話画面には「後藤さん」と、表示されていた。
「なんだろ……ちょっとごめん」
――手に取って通話ボタンを押す。
「もしもし、後藤さん? どうしたんだ?」
「………………」
電話をかけてきたのは彼女なのに、応答がない。更に何度か声をかけると、電話の向こうから、すすり泣く声だけが聞こえた。
「後藤さん、どうしたんだ? 何があった!?」
「…………青嶋君……」
やっと声を聞けたが、震えている。説明を求めたが、彼女は詳しい事情を何も言わずに、たったひと言だけを告げた。
「…………助けて」
――その声を聞いた時には、既に俺は立ち上がっていた。
「ごめんみんな……俺、ちょっと行ってくる」
慌ててリビングを出ようとする俺を、呼び止める小浦。
「青嶋くん、姫に何があったの!?」
「分からない。でも、助けてって言ってた……」
小浦は、悩んでいる様子だった。僅かの間を置き、再度口を開く。
「そっか……青嶋くん、行ってらっしゃい。姫を頼んだよ?」
そう告げた小浦の表情が、作り笑顔だってことに、俺でも気付いてしまった。
「任せてくれ……」
――家を飛び出していった将の背中を、涙を呑んで見送った舞は、静かに自分の持ち駒をBのルートへと進めた。
市内へ向かう電車の中で妙に視線を感じると思っていたら、俺は美波のパーティグッズを身に着けたまま乗車していることにハッとする。そんなに取り乱していたのかとタスキを外すと、少しだけ冷静になることが出来た。
いつもの通学の際であれば、もう少しゆっくり走ってくれとも思っていた10分の電車の時間が、ひどく長く感じる。俺は貧乏ゆすりなのか、それとも寒さからくるものなのか分からない震えを、出来る限り体を縮こまらせて耐え忍んでいた。
駅に到着すると、電車は降りる人が優先されるという当たり前の一般常識に、初めて感謝をする。そこからは、夢中で走った。自転車を駐輪場へ取りに行く時間すら惜しかったから、真っ直ぐ後藤さんの家へと向かう。改札も、やけに多い車も、信号すらも、今日だけは憎かった。
あなたにおすすめの小説
クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について
マカロニ
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。
かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。
しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。
現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。
その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。
「今日から私、あなたのメイドになります!」
なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!?
謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける!
カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
恋人、はじめました。
桜庭かなめ
恋愛
紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。
明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。
ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。
「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」
「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」
明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。
一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!
※特別編9が完結しました!(2026.3.6)
※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想などお待ちしています。
陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件
暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される
けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」
「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」
「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」
県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。
頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。
その名も『古羊姉妹』
本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。
――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。
そして『その日』は突然やってきた。
ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。
助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。
何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった!
――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。
そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ!
意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。
士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。
こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。
が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。
彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。
※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。
イラスト担当:さんさん
春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる
釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。
他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。
そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。
三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。
新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。
フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件
遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。
一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた!
宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!?
※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。