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マリエンザ・ムリエルガは、燃えるように赤い髪と、夜の闇のように黒い瞳を持つ美しい辺境伯令嬢だ。
貴族学院の最高学年に在籍し、おとなしいが成績も優秀。
婚約者は誕生時より侯爵令息と国より決められており、本人がどれほど望んでも、貴族令嬢として生まれた者のそれは運命。
「マリ?」
立ち尽くしたマリエンザが小さな声で呼ばれて気づくと、隣りに幼馴染のリリ・マドラ伯爵令嬢が寄り添っていた。
「どうなさったの、そんなところで?」
「しっ」
白い細い指先を形のよい口元に当てて合図をし、リリも真似をして自分の人差し指を唇に当てた。
マリエンザが口元を押さえた指の向きを変えると、その指先が指し示したのは、遠目からでもその美しさがわかる日に透けるような金髪を輝かせた婚約者ツィータード・ドロレスト侯爵令息。
そしてその陰にサラサラと風になびく黒髪と、はためいた制服のスカートの広がりが見える。
マリエンザの目は大きく見開かれ、焦点を合わせるためか、眼球が微妙に動いている。
「ねえ、あまり見すぎると気づかれてよ」
何が起きているかを察したリリが注意してくれて我に返った。
手を握りしめたマリエンザは、空気が足りないようにはくはくと口を開いて息を吸うと。
「リリ、あれは何かしら?ツィータード様と・・・」
マリエンザの血の気をなくした手を握って、リリがその場を離れるよう促す。
足が固まってしまったようにぎこちなく歩くのを見て、リリがそっと手を引いてくれた。
教室に戻ると、リリが隣り同士に座って、また手を握ってくれる。目を合わせ、決意したように話し始めた。
「今まで誰からも聞いたことなかったのね。私が教えたほうがよかったのかしら・・・。さっきの方ね、ツィータード様と噂があるらしいの」
「う・・わさ・・って?」
「ええ。どうも最近ツィータード様と親しくし」
えっ?
掠れた声が漏れた。
喉がカラカラで張り付いたようで。
「それって・・・」
リリの言葉をすべて聞き終える前に、マリエンザの美しい黒い瞳からほろりと一粒の涙がこぼれ落ちた。
「まあマリ、泣いてる場合じゃなくてよ。ただの噂かも知れない、本当のことかもしれない。本当なら早めに手を打って引き離さなくては」
リリは優しそうな外見に似合わずはっきりした性格だ。
お互いのタウンハウスがすぐ近くにあり、学院入学のために辺境伯領から出てきて王都が不慣れなマリエンザの世話を焼いてくれた。あるときは姉のようで、またあるときは大切な親友でもある。
「引き離す?」
「そう。マリはツィータード様とはどうやっても別れられないのだから、あちらを引き離すしかないわ」
「そ、そうね。でもどうしたら・・・」
「それはこれから考えましょう。大丈夫、みなさんマリの味方よ」
─みなさん?─
いつの間にか、マリエンザのまわりには親しくしている令嬢たちが取り巻き、心配げに見つめていた。
うんうんと、リリの言葉に頷いているのは、先日婚約を解消したばかりのロリエラ・マートル伯爵令嬢だ。
ロリエラは相手の不貞で婚約を解消した。我が身に置き換えているのか、こんなの許せない!と誰よりも憤っている。
「そう、私たちはみんなマリエンザ様の味方でございますわ!」
貴族学院の最高学年に在籍し、おとなしいが成績も優秀。
婚約者は誕生時より侯爵令息と国より決められており、本人がどれほど望んでも、貴族令嬢として生まれた者のそれは運命。
「マリ?」
立ち尽くしたマリエンザが小さな声で呼ばれて気づくと、隣りに幼馴染のリリ・マドラ伯爵令嬢が寄り添っていた。
「どうなさったの、そんなところで?」
「しっ」
白い細い指先を形のよい口元に当てて合図をし、リリも真似をして自分の人差し指を唇に当てた。
マリエンザが口元を押さえた指の向きを変えると、その指先が指し示したのは、遠目からでもその美しさがわかる日に透けるような金髪を輝かせた婚約者ツィータード・ドロレスト侯爵令息。
そしてその陰にサラサラと風になびく黒髪と、はためいた制服のスカートの広がりが見える。
マリエンザの目は大きく見開かれ、焦点を合わせるためか、眼球が微妙に動いている。
「ねえ、あまり見すぎると気づかれてよ」
何が起きているかを察したリリが注意してくれて我に返った。
手を握りしめたマリエンザは、空気が足りないようにはくはくと口を開いて息を吸うと。
「リリ、あれは何かしら?ツィータード様と・・・」
マリエンザの血の気をなくした手を握って、リリがその場を離れるよう促す。
足が固まってしまったようにぎこちなく歩くのを見て、リリがそっと手を引いてくれた。
教室に戻ると、リリが隣り同士に座って、また手を握ってくれる。目を合わせ、決意したように話し始めた。
「今まで誰からも聞いたことなかったのね。私が教えたほうがよかったのかしら・・・。さっきの方ね、ツィータード様と噂があるらしいの」
「う・・わさ・・って?」
「ええ。どうも最近ツィータード様と親しくし」
えっ?
掠れた声が漏れた。
喉がカラカラで張り付いたようで。
「それって・・・」
リリの言葉をすべて聞き終える前に、マリエンザの美しい黒い瞳からほろりと一粒の涙がこぼれ落ちた。
「まあマリ、泣いてる場合じゃなくてよ。ただの噂かも知れない、本当のことかもしれない。本当なら早めに手を打って引き離さなくては」
リリは優しそうな外見に似合わずはっきりした性格だ。
お互いのタウンハウスがすぐ近くにあり、学院入学のために辺境伯領から出てきて王都が不慣れなマリエンザの世話を焼いてくれた。あるときは姉のようで、またあるときは大切な親友でもある。
「引き離す?」
「そう。マリはツィータード様とはどうやっても別れられないのだから、あちらを引き離すしかないわ」
「そ、そうね。でもどうしたら・・・」
「それはこれから考えましょう。大丈夫、みなさんマリの味方よ」
─みなさん?─
いつの間にか、マリエンザのまわりには親しくしている令嬢たちが取り巻き、心配げに見つめていた。
うんうんと、リリの言葉に頷いているのは、先日婚約を解消したばかりのロリエラ・マートル伯爵令嬢だ。
ロリエラは相手の不貞で婚約を解消した。我が身に置き換えているのか、こんなの許せない!と誰よりも憤っている。
「そう、私たちはみんなマリエンザ様の味方でございますわ!」
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