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6話
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マリエンザが領地に向かった日。
いつもの時間にエントランスに来るはずのムリエルガ家の馬車が来ず、代わりにしばらく領地に行くので自家の馬車で通学するようイルメリア夫人から手紙が届いた。
慌てて馬車の用意をすると、なんとか遅刻を免れることはできたが。
「領地に帰るってなんだよ!もっと早くに連絡して来いよっ!」
珍しく怒鳴りながら自家の馬車に乗り込んで出ていったツィータード、それを見かけたドロレスト侯爵夫人メルマが執事ロランを呼びつけ事情を訊いた。
「マリエンザ様が急遽領地に戻られたとかで、本日ムリエルガ家のお迎えの馬車が来られない旨のお知らせがぎりぎりでございましたため、御心を荒ぶられたようでございます」
「マリエンザ嬢が領地へ?まあ、それはずいぶんと急ね。辺境伯領で何かあったのかしら?」
「私は特に何も聞いておりませんが」
ふうん、と漏らす。
「大事でなければよいけど。あ、先代様のお加減は大丈夫かしらね?ちょっと調べてみてくれる?」
「はい」
ロランは迷っていた。
昨日の招かざる客のことを話すべきか。
あの注意でわかってくれていればことを荒立てずに済むのだが・・・。
まさかあれが原因ということはないだろうし、もう少しだけ様子を見よう。
自分に都合よくツィータードを信じて、報告を遅らせたことをあとで激しく後悔するのだが。
学院に馬車が着くと、ツィータードは金髪を振り乱して飛び降りるように教室へ走った。
(まだ始業のベルは鳴っていない、間に合った!)
ホッとすると、マリエンザへ怒りが湧いてくる。
(戻ってきたら一言くらい文句を言ってやる)
額に浮かんだ汗を拭っているとダーマが近付いてくる。
「おはようございます、ツィータード様。あら、汗が。御髪も乱れていらっしゃいますわ」
ハンカチを差し出して額にあてようとしたが、さすがにそれはさっと交わす。
「おはようダーマ嬢」
ハンカチを持ったダーマの手が空振ったのを見たクラスメイトたちは、すっと目を逸らし、見ないふりを決め込んだ。
「昨日はお屋敷にお招き頂きありがとうございました。侯爵家の素晴らしいお屋敷と庭園をエスコートしていただき、身に余る光栄でしたわ」
「ああ、気に入ったならなによりだ。また遊びに来るといい」
ツィータードは意味もなく社交辞令でそう返しただけ。
しかしそれを聞いたクラスメイトたちは・・・
(マリエンザ様がいらっしゃるのにダーマ嬢を家に招待してエスコートした?また遊びに来い?)
ダーマは皆の前で、わざとクラス中に聞こえるように話をしたのだ。
ほんの少しだけ大げさに。本当は招待されたわけでも、意味のあるエスコートでもなかったが、事実として話したらまわりにどう聞こえるかを考えて。
ツィータードがわざわざ細かい相違を否定しなかったこともあり、これ以降、学内はツィータードとダーマの噂で持ちきりになる。
ダーマはうっそりと微笑んだ。
ツィータードと自分が真実になったら、親に押し付けられた婚約は解消すればいい。侯爵のほうが伯爵より上位なのだから、ツィータードが望めばそうできる!
ダーマは二人の婚約が王命だということも、またマリエンザの家がただの伯爵家ではないことも知らなかった。
いつもの時間にエントランスに来るはずのムリエルガ家の馬車が来ず、代わりにしばらく領地に行くので自家の馬車で通学するようイルメリア夫人から手紙が届いた。
慌てて馬車の用意をすると、なんとか遅刻を免れることはできたが。
「領地に帰るってなんだよ!もっと早くに連絡して来いよっ!」
珍しく怒鳴りながら自家の馬車に乗り込んで出ていったツィータード、それを見かけたドロレスト侯爵夫人メルマが執事ロランを呼びつけ事情を訊いた。
「マリエンザ様が急遽領地に戻られたとかで、本日ムリエルガ家のお迎えの馬車が来られない旨のお知らせがぎりぎりでございましたため、御心を荒ぶられたようでございます」
「マリエンザ嬢が領地へ?まあ、それはずいぶんと急ね。辺境伯領で何かあったのかしら?」
「私は特に何も聞いておりませんが」
ふうん、と漏らす。
「大事でなければよいけど。あ、先代様のお加減は大丈夫かしらね?ちょっと調べてみてくれる?」
「はい」
ロランは迷っていた。
昨日の招かざる客のことを話すべきか。
あの注意でわかってくれていればことを荒立てずに済むのだが・・・。
まさかあれが原因ということはないだろうし、もう少しだけ様子を見よう。
自分に都合よくツィータードを信じて、報告を遅らせたことをあとで激しく後悔するのだが。
学院に馬車が着くと、ツィータードは金髪を振り乱して飛び降りるように教室へ走った。
(まだ始業のベルは鳴っていない、間に合った!)
ホッとすると、マリエンザへ怒りが湧いてくる。
(戻ってきたら一言くらい文句を言ってやる)
額に浮かんだ汗を拭っているとダーマが近付いてくる。
「おはようございます、ツィータード様。あら、汗が。御髪も乱れていらっしゃいますわ」
ハンカチを差し出して額にあてようとしたが、さすがにそれはさっと交わす。
「おはようダーマ嬢」
ハンカチを持ったダーマの手が空振ったのを見たクラスメイトたちは、すっと目を逸らし、見ないふりを決め込んだ。
「昨日はお屋敷にお招き頂きありがとうございました。侯爵家の素晴らしいお屋敷と庭園をエスコートしていただき、身に余る光栄でしたわ」
「ああ、気に入ったならなによりだ。また遊びに来るといい」
ツィータードは意味もなく社交辞令でそう返しただけ。
しかしそれを聞いたクラスメイトたちは・・・
(マリエンザ様がいらっしゃるのにダーマ嬢を家に招待してエスコートした?また遊びに来い?)
ダーマは皆の前で、わざとクラス中に聞こえるように話をしたのだ。
ほんの少しだけ大げさに。本当は招待されたわけでも、意味のあるエスコートでもなかったが、事実として話したらまわりにどう聞こえるかを考えて。
ツィータードがわざわざ細かい相違を否定しなかったこともあり、これ以降、学内はツィータードとダーマの噂で持ちきりになる。
ダーマはうっそりと微笑んだ。
ツィータードと自分が真実になったら、親に押し付けられた婚約は解消すればいい。侯爵のほうが伯爵より上位なのだから、ツィータードが望めばそうできる!
ダーマは二人の婚約が王命だということも、またマリエンザの家がただの伯爵家ではないことも知らなかった。
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