【完結】その令嬢は、鬼神と呼ばれて微笑んだ

やまぐちこはる

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22話

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 王都へ戻った二人は、翌日から疲れも見せずに揃って学院に登校した。
 ツィータードはともかく、おどおどしていたマリエンザのあまりの変わりぶりに同級生たちは度肝を抜かれたが。

「マリ!ああ、元気そうでよかったわ。ツィータード様と仲直りしたのね」
「リリお久しぶりね!いろいろ調べてくれて本当にありがとう。リリの手紙のおかげで、父上もターディを許す気になったの、貴方のおかげよ、本当に本当にありがとう!」

 ん?とリリが気づく。

「ターディ?ふーん、仲直り以上かぁ」

 それにマリエンザはふふっと笑っただけ。

「幸せそうだから、よしとしましょう。それよりなんか雰囲気がずいぶん変わったわ。本当の自分ってこういうこと?詳しく聞かせて」

 ロリエラも話したそうだ。

「そう、マリに送った手紙は、ロリエラ様やそのおともだちのカーラ様にもすっごく協力していただいたのよ」
「そうだったのね、ロリエラ様ありがとう!週末・・・はしばらく家庭教師とお勉強だから、試験が終わったらお礼にお茶会のご招待をしてもよろしくて?」
「ええ、もちろん!」

 マリエンザのクラスでは、急にハキハキと闊達になった彼女に最初は探るような好奇の目を向ける者もいたが、すぐに慣れて、まるで前からそんなマリエンザだったとでも言うように受け入れていた。


 ツィータードのクラスでは、少し勝手が違っていた。

「えっ、ツィータードさまあ!お待ちしておりましたのよお」

 ツィータードが教室に姿を見せると、遠巻きに挨拶をする者がほとんどの中、ダーマ・エスカが黄色い声を上げて、ツィータードの腕に自分の腕を絡ませようとした。

「ダーマ嬢、離してくれ」

 ササッとその腕を外すと、掴まれないようにきつく腕を組んだ。

「前にも言ったが、私には婚約者がいる。クラスメイトとして相談があればもちろん話を聞くことは吝かではないが、距離は誤らないでもらいたい」

 はっきりと大きな声で、皆に聞こえるように宣言した。
 さすがにこれでわかるよなと。

 ドロレスト家が手配した学生たちが、ダーマのツィータードとの噂は誤りと広めつつあったので、クラス中正しくその言葉の意味を理解したのだが、唯一人、そう思わない者がいた。

 ツィータードが休んでいた間、美しいツィータードに求愛されて侯爵夫人になった自分を夢想し、侯爵家で采配を振るってあれをしようこれをしようと妄想に囚われ続けたダーマは、拒絶の言葉さえも自分に都合よく解釈した。

(ツィータード様、まだあの婚約者とお別れできていらっしゃらないのね。だから皆の前で私と親しい素振りは見せられないのだわ。本当のお気持ちを表せないなんておかわいそうに。伯爵令嬢如きとの婚約など、侯爵様のご令息なんですからビシッと破棄してしまえばよろしいのに)

 授業が始まり、その間もダーマの目はツィータードを追い続けている。

 視線は感じるがけっして見てはいけないと、ツィータードはマリエンザとは別の恐ろしさに身を縮め、息を殺すように授業に集中することにした。
 ドロレスト家では同じクラスの男子生徒に手を打ち、ツィータードが学内で一人きりになることがないよう依頼している。以前はそのようなことはしていなかったが、ダーマ・エスカのやり口に腹を立てたメルマが、徹底的に邪魔をして尻尾を出させてやると手配したものだ。
 朝は間に合わなかったが、ランチタイムのベルが鳴ると、即座にクラスメイトの男子生徒二人がツィータードを挟み込むように声をかけた。

「一緒にランチをしよう!」

 さも友人然と、ダーマの邪魔をしながらツィータードを教室から連れだして、

「一室、空き部屋を学院で用意してもらっているので、そちらで食べよう。案内する」

 連れて行かれたのは、職員室の中を通り抜けた応接室だった。

「え?ここ?本当にいいのか?マリと食べる約束してたんだけど。ってか君らは?」
「うん、まずマリエンザ様はロズが迎えに行ったから大丈夫。あとでここに来るよ」

 クラスメイトのオーリス・マネライドが整理して答えていく。

「僕らはメルマ様からの依頼で、学内でツィータード様がひとりにならないよう、んん、ひとりになっても別にいいんだけど、エスカ嬢から絡まれないように護衛を依頼されたんだ」
「母上が?」
「うん、ツィータード様の噂は誤りという噂もせっせと流してる」

 ははっと笑う。

「ここは職員室を通らないと入れない、本来は来賓用の応接だそうなんだ。でもほら、メルマ様が王命の婚約を守るために必要だからって校長先生にねじこ・・・いや、ご相談されたそうで、騒ぎがおさまるまでは毎日ここで食事をとることになってる」
「母上・・・」

 どんな手を使ったのか。
校長を脅したらしい母の影に、ツィータードは冷たいものが背を伝った気がした。

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