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29話
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校長室ではダーマ・エスカの担任教師、ドレロへの聴取・・・いや追及が始まっていた。
「問題はありました。ダーマ・エスカ男爵令嬢に」
「具体的には?」
「もともと気性や言動に問題があり、クラスの中でも思い込みで暴言を吐くきらいがありまして」
校長のエスタルド・スメロニ侯爵がじとりと値踏みをするような視線をまとわりつかせると
「そんな生徒をここまで手を付けずにのさばらせていた?」
「いえ、クラス委員ふたりに面倒見るように指示しました」
「は?まさかそんな問題ある者を生徒に任せたから、手を打ったと言うつもりかね」
ドレロの額には脂汗がじわりと滲む。
「結局自分では何もしなかったということだな。それで任せていた委員たちはこんな生徒の相手をさせられて大丈夫だったのか?」
見てわかるほど、ドレロはだらだらと汗を流して俯いた。
「ドレロ君、大丈夫だったのかと訊いているんだが」
「は、はい。あの・・実は、女子委員は早々に逃げ出しまして」
「まあ当然だな。教師の手に負えない者の相手をさせられたのだから気の毒に。委員は二人いるだろう?もう一人は?」
蛇に睨まれた蛙のようにドレロは固まった。
「あの・・・ツィータード・ドロレストがクラス委員で」
スメロニ校長の目が一層鋭くドレロを睨む。
「それまでふたり、エスカとドロレスト侯爵令息との接点はあったのかね?」
「い、いえ、私が委員として面倒みるようにと」
「女子委員が断ったあとも一人で面倒みさせていたのか?」
体が小さく縮んだかのようなドレロは、小さな声で「はい」と答えた。
「よしんば委員の仕事として依頼していたとして」
その言葉にドレロは少し期待をした。
「進捗はこまめに確認したのか?何について相談し、生徒だけで解決できそうか、難しそうか。難しいなら担任がいつ介入するなどの相談を都度都度行っていたのか?」
ドレロの体はこれ以上小さくできないだろうほどに縮こまり、聞き取れないほどの小さな声で「いいえ」と答えた。
「ばっかもんっ!おまえが原因のようなものではないか!何をやっとるんだ!ドロレスト侯爵令息は王命の婚約をしておるんだぞ、それなのにこんな問題児の面倒をみさせたあげく、醜聞に巻き込んだだと?」
怒鳴り声が廊下まで響いている。
「もっ、申し訳ございません」
「申し訳ないだ?それで済むならいいがな。万一これがきっかけで婚約がどうかなるようなことがあったら」
ノック音がして、急ぎ校内で調べたことがまとめられた報告が届いた。
話を中断して目を通すスメロニ校長の額には青筋が浮かび、資料を持つ手がわなわなと震え始める。
バシッ!
ドレロの頭にその報告書を打ちつけたスメロニ校長は、怒りで震えを含んだ低い声で言った。
「生徒のあいだではだいぶ前から噂があったそうだな。最初はエスカの娘と恋仲、しかしのちにエスカの娘に付きまとわれて困っているようだと。この噂はおまえの耳には入らなかったのか?クラス担任だろう?」
項垂れたドレロの側に寄ると、耳を掴んでぎゅっと捻りあげる。
「あっ、いつ・・・」
言いかけて、なんとか我慢したドレロだが、許される気配はない。耳が痺れて痛みがわからなくなってきた頃、ようやく手を放したスメロニ校長は言った。
「追って沙汰を下す」
「え?クビではないのですか」
ホッとしたような顔を見せたドレロに、苛ついた声で
「バカか?おまえのような無能を教師としていたとは!私も咎を避けられんかもしれぬな」
深くため息をつくと、
「今お前を辞めさせたら責任を取るものがいなくなるだろうよ。逃げられたらすべての責任は私が負わねばならなくなる。確かに私にも管理者としての責任はあるが、もっとも重き責任を負うのはドレロ、おまえだ」
ひっ!と息を呑んで怯えたドレロに、漸く溜飲を下げたスメロニ校長は
「この問題が王家の耳に入ればおまえはただではすまん。逃げられないよう地下牢にて謹慎を言い渡し、正式な沙汰は関係各位と協議の上くだす」
カタカタ震えるドレロは、ダーマ・エスカが入れられた隣りの牢に放り込まれた。
「そんな、なんで私がこんなことに」
隣からは異臭が漂い、鼻が臭いに慣れたダーマの絶叫がくり返されていた。
ドレロをこのような目に遭わせた元凶だ。スメロニの言葉を聞く限り、職を失うだけでは済まないかもしれない。そう思うと怒りが込み上げてくる。
「うるさいっ黙れ!おまえのせいだ、なにもかもお前のせいだろうがぁぁっ!」
黙らせてやりたくて扉を叩くと、隣からも怒鳴り声が響く。
「わたくしに黙れとは何様のつもりよーっ!わたくしは侯爵夫人になる身、こんなことは許されないっ!わたくしが断罪してやるからここから出せーーっ!」
それを聞いたドレロは、さーっと怒りの熱が冷めていくのを感じた。
─侯爵夫人になるだと?誰が?エスカおまえがか?本気で思っているのか?あの仲睦まじい二人を見てもなお?狂ってる?─
黙り込んだドレロは、隣から妄想激しく侯爵夫人になりきったダーマの絶叫を二度と聞かずに済むように、牢の端に体を丸めて座り込むと力を込めて耳を塞いで、一刻も早くこの場所から解放されることを心から願った。
「問題はありました。ダーマ・エスカ男爵令嬢に」
「具体的には?」
「もともと気性や言動に問題があり、クラスの中でも思い込みで暴言を吐くきらいがありまして」
校長のエスタルド・スメロニ侯爵がじとりと値踏みをするような視線をまとわりつかせると
「そんな生徒をここまで手を付けずにのさばらせていた?」
「いえ、クラス委員ふたりに面倒見るように指示しました」
「は?まさかそんな問題ある者を生徒に任せたから、手を打ったと言うつもりかね」
ドレロの額には脂汗がじわりと滲む。
「結局自分では何もしなかったということだな。それで任せていた委員たちはこんな生徒の相手をさせられて大丈夫だったのか?」
見てわかるほど、ドレロはだらだらと汗を流して俯いた。
「ドレロ君、大丈夫だったのかと訊いているんだが」
「は、はい。あの・・実は、女子委員は早々に逃げ出しまして」
「まあ当然だな。教師の手に負えない者の相手をさせられたのだから気の毒に。委員は二人いるだろう?もう一人は?」
蛇に睨まれた蛙のようにドレロは固まった。
「あの・・・ツィータード・ドロレストがクラス委員で」
スメロニ校長の目が一層鋭くドレロを睨む。
「それまでふたり、エスカとドロレスト侯爵令息との接点はあったのかね?」
「い、いえ、私が委員として面倒みるようにと」
「女子委員が断ったあとも一人で面倒みさせていたのか?」
体が小さく縮んだかのようなドレロは、小さな声で「はい」と答えた。
「よしんば委員の仕事として依頼していたとして」
その言葉にドレロは少し期待をした。
「進捗はこまめに確認したのか?何について相談し、生徒だけで解決できそうか、難しそうか。難しいなら担任がいつ介入するなどの相談を都度都度行っていたのか?」
ドレロの体はこれ以上小さくできないだろうほどに縮こまり、聞き取れないほどの小さな声で「いいえ」と答えた。
「ばっかもんっ!おまえが原因のようなものではないか!何をやっとるんだ!ドロレスト侯爵令息は王命の婚約をしておるんだぞ、それなのにこんな問題児の面倒をみさせたあげく、醜聞に巻き込んだだと?」
怒鳴り声が廊下まで響いている。
「もっ、申し訳ございません」
「申し訳ないだ?それで済むならいいがな。万一これがきっかけで婚約がどうかなるようなことがあったら」
ノック音がして、急ぎ校内で調べたことがまとめられた報告が届いた。
話を中断して目を通すスメロニ校長の額には青筋が浮かび、資料を持つ手がわなわなと震え始める。
バシッ!
ドレロの頭にその報告書を打ちつけたスメロニ校長は、怒りで震えを含んだ低い声で言った。
「生徒のあいだではだいぶ前から噂があったそうだな。最初はエスカの娘と恋仲、しかしのちにエスカの娘に付きまとわれて困っているようだと。この噂はおまえの耳には入らなかったのか?クラス担任だろう?」
項垂れたドレロの側に寄ると、耳を掴んでぎゅっと捻りあげる。
「あっ、いつ・・・」
言いかけて、なんとか我慢したドレロだが、許される気配はない。耳が痺れて痛みがわからなくなってきた頃、ようやく手を放したスメロニ校長は言った。
「追って沙汰を下す」
「え?クビではないのですか」
ホッとしたような顔を見せたドレロに、苛ついた声で
「バカか?おまえのような無能を教師としていたとは!私も咎を避けられんかもしれぬな」
深くため息をつくと、
「今お前を辞めさせたら責任を取るものがいなくなるだろうよ。逃げられたらすべての責任は私が負わねばならなくなる。確かに私にも管理者としての責任はあるが、もっとも重き責任を負うのはドレロ、おまえだ」
ひっ!と息を呑んで怯えたドレロに、漸く溜飲を下げたスメロニ校長は
「この問題が王家の耳に入ればおまえはただではすまん。逃げられないよう地下牢にて謹慎を言い渡し、正式な沙汰は関係各位と協議の上くだす」
カタカタ震えるドレロは、ダーマ・エスカが入れられた隣りの牢に放り込まれた。
「そんな、なんで私がこんなことに」
隣からは異臭が漂い、鼻が臭いに慣れたダーマの絶叫がくり返されていた。
ドレロをこのような目に遭わせた元凶だ。スメロニの言葉を聞く限り、職を失うだけでは済まないかもしれない。そう思うと怒りが込み上げてくる。
「うるさいっ黙れ!おまえのせいだ、なにもかもお前のせいだろうがぁぁっ!」
黙らせてやりたくて扉を叩くと、隣からも怒鳴り声が響く。
「わたくしに黙れとは何様のつもりよーっ!わたくしは侯爵夫人になる身、こんなことは許されないっ!わたくしが断罪してやるからここから出せーーっ!」
それを聞いたドレロは、さーっと怒りの熱が冷めていくのを感じた。
─侯爵夫人になるだと?誰が?エスカおまえがか?本気で思っているのか?あの仲睦まじい二人を見てもなお?狂ってる?─
黙り込んだドレロは、隣から妄想激しく侯爵夫人になりきったダーマの絶叫を二度と聞かずに済むように、牢の端に体を丸めて座り込むと力を込めて耳を塞いで、一刻も早くこの場所から解放されることを心から願った。
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