【完結】その令嬢は、鬼神と呼ばれて微笑んだ

やまぐちこはる

文字の大きさ
29 / 41

29話

しおりを挟む
 校長室ではダーマ・エスカの担任教師、ドレロへの聴取・・・いや追及が始まっていた。

「問題はありました。ダーマ・エスカ男爵令嬢に」
「具体的には?」
「もともと気性や言動に問題があり、クラスの中でも思い込みで暴言を吐くきらいがありまして」

 校長のエスタルド・スメロニ侯爵がじとりと値踏みをするような視線をまとわりつかせると

「そんな生徒をここまで手を付けずにのさばらせていた?」
「いえ、クラス委員ふたりに面倒見るように指示しました」
「は?まさかそんな問題ある者を生徒に任せたから、手を打ったと言うつもりかね」

 ドレロの額には脂汗がじわりと滲む。

「結局自分では何もしなかったということだな。それで任せていた委員たちはこんな生徒の相手をさせられて大丈夫だったのか?」

 見てわかるほど、ドレロはだらだらと汗を流して俯いた。

「ドレロ君、大丈夫だったのかと訊いているんだが」
「は、はい。あの・・実は、女子委員は早々に逃げ出しまして」
「まあ当然だな。教師の手に負えない者の相手をさせられたのだから気の毒に。委員は二人いるだろう?もう一人は?」

 蛇に睨まれた蛙のようにドレロは固まった。

「あの・・・ツィータード・ドロレストがクラス委員で」

 スメロニ校長の目が一層鋭くドレロを睨む。

「それまでふたり、エスカとドロレスト侯爵令息との接点はあったのかね?」
「い、いえ、私が委員として面倒みるようにと」
「女子委員が断ったあとも一人で面倒みさせていたのか?」

 体が小さく縮んだかのようなドレロは、小さな声で「はい」と答えた。

「よしんば委員の仕事として依頼していたとして」

 その言葉にドレロは少し期待をした。

「進捗はこまめに確認したのか?何について相談し、生徒だけで解決できそうか、難しそうか。難しいなら担任がいつ介入するなどの相談を都度都度行っていたのか?」

 ドレロの体はこれ以上小さくできないだろうほどに縮こまり、聞き取れないほどの小さな声で「いいえ」と答えた。

「ばっかもんっ!おまえが原因のようなものではないか!何をやっとるんだ!ドロレスト侯爵令息は王命の婚約をしておるんだぞ、それなのにこんな問題児の面倒をみさせたあげく、醜聞に巻き込んだだと?」

 怒鳴り声が廊下まで響いている。

「もっ、申し訳ございません」
「申し訳ないだ?それで済むならいいがな。万一これがきっかけで婚約がどうかなるようなことがあったら」

 ノック音がして、急ぎ校内で調べたことがまとめられた報告が届いた。
 話を中断して目を通すスメロニ校長の額には青筋が浮かび、資料を持つ手がわなわなと震え始める。

 バシッ!

 ドレロの頭にその報告書を打ちつけたスメロニ校長は、怒りで震えを含んだ低い声で言った。

「生徒のあいだではだいぶ前から噂があったそうだな。最初はエスカの娘と恋仲、しかしのちにエスカの娘に付きまとわれて困っているようだと。この噂はおまえの耳には入らなかったのか?クラス担任だろう?」

 項垂れたドレロの側に寄ると、耳を掴んでぎゅっと捻りあげる。 

「あっ、いつ・・・」

 言いかけて、なんとか我慢したドレロだが、許される気配はない。耳が痺れて痛みがわからなくなってきた頃、ようやく手を放したスメロニ校長は言った。

「追って沙汰を下す」
「え?クビではないのですか」

 ホッとしたような顔を見せたドレロに、苛ついた声で

「バカか?おまえのような無能を教師としていたとは!私も咎を避けられんかもしれぬな」

 深くため息をつくと、

「今お前を辞めさせたら責任を取るものがいなくなるだろうよ。逃げられたらすべての責任は私が負わねばならなくなる。確かに私にも管理者としての責任はあるが、もっとも重き責任を負うのはドレロ、おまえだ」

 ひっ!と息を呑んで怯えたドレロに、漸く溜飲を下げたスメロニ校長は

「この問題が王家の耳に入ればおまえはただではすまん。逃げられないよう地下牢にて謹慎を言い渡し、正式な沙汰は関係各位と協議の上くだす」



 カタカタ震えるドレロは、ダーマ・エスカが入れられた隣りの牢に放り込まれた。

「そんな、なんで私がこんなことに」

 隣からは異臭が漂い、鼻が臭いに慣れたダーマの絶叫がくり返されていた。
 ドレロをこのような目に遭わせた元凶だ。スメロニの言葉を聞く限り、職を失うだけでは済まないかもしれない。そう思うと怒りが込み上げてくる。

「うるさいっ黙れ!おまえのせいだ、なにもかもお前のせいだろうがぁぁっ!」

 黙らせてやりたくて扉を叩くと、隣からも怒鳴り声が響く。

「わたくしに黙れとは何様のつもりよーっ!わたくしは侯爵夫人になる身、こんなことは許されないっ!わたくしが断罪してやるからここから出せーーっ!」

 それを聞いたドレロは、さーっと怒りの熱が冷めていくのを感じた。

 ─侯爵夫人になるだと?誰が?エスカおまえがか?本気で思っているのか?あの仲睦まじい二人を見てもなお?狂ってる?─

 黙り込んだドレロは、隣から妄想激しく侯爵夫人になりきったダーマの絶叫を二度と聞かずに済むように、牢の端に体を丸めて座り込むと力を込めて耳を塞いで、一刻も早くこの場所から解放されることを心から願った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】クズ男と決別した私の未来は輝いている。

カシスサワー
恋愛
五年間、幸は彼を信じ、支え続けてきた。 「会社が成功したら、祖父に紹介するつもりだ。それまで俺を支えて待っていてほしい。必ず幸と結婚するから」 そう、圭吾は約束した。 けれど――すべてが順調に進んでいるはずの今、幸が目にしたのは、圭吾の婚約の報せ。 問い詰めた幸に、圭吾は冷たく言い放つ。 「結婚相手は、それなりの家柄じゃないと祖父が納得しない。だから幸とは結婚できない。でも……愛人としてなら、そばに置いてやってもいい」 その瞬間、幸の中で、なにかがプチッと切れた。

十八歳で必ず死ぬ令嬢ですが、今日もまた目を覚ましました【完結】

藤原遊
恋愛
十八歳で、私はいつも死ぬ。 そしてなぜか、また目を覚ましてしまう。 記憶を抱えたまま、幼い頃に――。 どれほど愛されても、どれほど誰かを愛しても、 結末は変わらない。 何度生きても、十八歳のその日が、私の最後になる。 それでも私は今日も微笑む。 過去を知るのは、私だけ。 もう一度、大切な人たちと過ごすために。 もう一度、恋をするために。 「どうせ死ぬのなら、あなたにまた、恋をしたいの」 十一度目の人生。 これは、記憶を繰り返す令嬢が紡ぐ、優しくて、少しだけ残酷な物語。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

悪役令嬢は高らかに笑う。

アズやっこ
恋愛
エドワード第一王子の婚約者に選ばれたのは公爵令嬢の私、シャーロット。 エドワード王子を慕う公爵令嬢からは靴を隠されたり色々地味な嫌がらせをされ、エドワード王子からは男爵令嬢に、なぜ嫌がらせをした!と言われる。 たまたま決まっただけで望んで婚約者になったわけでもないのに。 男爵令嬢に教えてもらった。 この世界は乙女ゲームの世界みたい。 なら、私が乙女ゲームの世界を作ってあげるわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。(話し方など)

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...