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31話
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「嘘!だってダーマはツィータード様に特別に招待された上、侯爵家のお屋敷中をエスコートされて案内されたんですのよ!学院ではいつもともに過ごして、我が家にも遊びにいらして私、ダーマにツィータード様を紹介されましたもの。ふたりは想い合っているのに、親が決めた婚約者や侯爵家の屋敷の使用人が邪魔をするって。でもツィータード様はお優しくて使用人を庇われるから、ダーマが侯爵夫人になったら主の言うことを聞かない者は代わりに辞めさせてやるって。そんな話をする間柄ですわよ?」
それまで黙っていたメルマが手をあげて発言を求めた。
「こちらにお目通しくださいませんこと?マリエンザ嬢が、ふたりの噂に傷ついて領地にお帰りになったとわかった際に、我が家で行った調査の報告書です」
まずスメロニ校長が、そしてエスカ男爵と順番に読み、どんどんと青ざめていく。
「ツィータードの態度にも落ち度がございました。それは認めますが、それならこのダーマ・エスカ嬢は?そのご両親であるエスカ男爵ご夫妻は?
それに。
事の発端は、クラスの生徒たちとトラブルを起こして歩くエスカ嬢の面倒を委員をしておりましたツィータードたちにみさせたことですわよね?それまではツィータードとエスカ嬢との接点はございませんでしたもの。今になって風紀を乱したと仰いますが、学院側に責任はないとでもおっしゃるのでしょうか?
私の知る限りツィータードが婚姻を結ぶのはマリエンザ嬢ただひとりです。ダーマ・エスカ男爵令嬢と想い合っている?ご冗談はおやめください。ツィータードと想い合っているのはマリエンザ嬢ですわ。
そもそも男爵家の分際で、国随一の軍事力を持つ辺境伯家のマリエンザ嬢を押し退けて、我が家へ嫁ごうですって?しかも王命を覆して?考えるだけでもおこがましいですわ」
口調は淡々としているが、言葉は辛辣で怒りのほどがうかがえる。
メルマから渡された書面には、ダーマが日々いかにツィータードにまとわりついていたかか書かれており、それについて、ダーマとツィータードが付き合っているらしいという噂が立ったが、そのあとのダーマのあからさまなマウンティングに反発した者による別の噂。ツィータードは皆の前ではっきり拒絶しているにも関わらず、付きまとわれて困っているようだというものも書き添えられていた。
資料が皆の目を一巡すると、フェリに変化が起きた。音がしそうなほど、ガタガタと震え始めたのだ。
どうやら今になって自分の誤りに気づいたらしいが、手遅れと言えよう。
「あの、あ、わたし、わたくし、そんな」
さっきまでの居丈高な様も影を潜めて項垂れる妻を見て、ジャン・エスカ男爵は冷たく見下ろし
「おまえは口を開くな、一言もだ」
そう言って皆に頭を下げた。
「本来でございましたら、娘がそのような妄言を吐いた時点で私共が諌めねばなりませんでした。親がそれを助長するなどとんでもないことです。私の管理が行き届かず、皆様に大変なご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします。い・・慰謝料もなるべく・・・お支払いに応じます」
言ってはみたが、侯爵家の婚約者、しかも国王陛下が気にかけるほどの名家のご令嬢に刃物を向けたなど、家の財産すべてでも足りないかもしれないと思うと、急激に胸が締め付けられてしゃがみこんだ。
「あなた!」
フェリが腕を伸ばして支えようとしたが、それを払いのける。
「触るな。おまえについては謹慎させる。慰謝料はきっと我が家だけでは負いきれないだろうから、おまえの実家にも負担させる」
「そんな!実家は関係ありま」
エスカ男爵に睨まれると、下を向く。
そんな姿を見ていたイルメリア夫人が口を開いた。
「よろしいかしら?」
皆、一斉に顔を向ける。
「まずエスカ男爵様、奥様ばかりを責めていらっしゃいますけど、貴方がもっと妻子に目を配っていらっしゃれば、今頃こんなことにはなりませんでしたわよね?」
妻に強く文句を言っていた男爵が俯いた。
「奥様は言うに及ばす。先程メルマ様が私が申し上げたかったことはすべておっしゃってくださったので、あなたにはもう何も言う必要はございませんわね。まあ強いて言うなら我が家と張りあおうなど身の程を知らないにもほどがありますわ」
スメロニを見て。
「そして先生方。ここまで放置された罪はお認めになりますわよね。ドロレスト侯爵家がなされたように、私共も別に調査を致しましたの。かわいそうにマリエンザは噂に深く傷ついて数日食事も喉を通らなかっったんですのよ。領地で静養して本来の姿を取り戻しましたが」
「イルメリア様、申し訳ございませんでした」
メルマとハーバルが腰を折って謝るが。
「いいえ、ツィータード様はムリエルガ流で立派に謝罪してくださいましたから。我が家とドロレスト侯爵家の間には何の遺恨もございません。だから頭を下げないでくださいませね」
そういうとにっこりと、奇妙なほどに晴れやかに笑い、
「慰謝料などいりませんわ、それより私どもにはムリエルガ流の謝罪がございますの。広く領民までもそれを行えば謝罪したとみなして潔く水に流す。それが武人を輩出する我がムリエルガ辺境伯家のやり方です。ですから皆様にもそれを求めますわ。もちろん、水に流すのですから王家に話を持ち込むこともございませんわよ」
スメロニ校長をチラリと見ると、ハッとした顔で校長が勢いよく頭を下げた。
「やります、謝罪!させてくださいおねがいします!」
それまで黙っていたメルマが手をあげて発言を求めた。
「こちらにお目通しくださいませんこと?マリエンザ嬢が、ふたりの噂に傷ついて領地にお帰りになったとわかった際に、我が家で行った調査の報告書です」
まずスメロニ校長が、そしてエスカ男爵と順番に読み、どんどんと青ざめていく。
「ツィータードの態度にも落ち度がございました。それは認めますが、それならこのダーマ・エスカ嬢は?そのご両親であるエスカ男爵ご夫妻は?
それに。
事の発端は、クラスの生徒たちとトラブルを起こして歩くエスカ嬢の面倒を委員をしておりましたツィータードたちにみさせたことですわよね?それまではツィータードとエスカ嬢との接点はございませんでしたもの。今になって風紀を乱したと仰いますが、学院側に責任はないとでもおっしゃるのでしょうか?
私の知る限りツィータードが婚姻を結ぶのはマリエンザ嬢ただひとりです。ダーマ・エスカ男爵令嬢と想い合っている?ご冗談はおやめください。ツィータードと想い合っているのはマリエンザ嬢ですわ。
そもそも男爵家の分際で、国随一の軍事力を持つ辺境伯家のマリエンザ嬢を押し退けて、我が家へ嫁ごうですって?しかも王命を覆して?考えるだけでもおこがましいですわ」
口調は淡々としているが、言葉は辛辣で怒りのほどがうかがえる。
メルマから渡された書面には、ダーマが日々いかにツィータードにまとわりついていたかか書かれており、それについて、ダーマとツィータードが付き合っているらしいという噂が立ったが、そのあとのダーマのあからさまなマウンティングに反発した者による別の噂。ツィータードは皆の前ではっきり拒絶しているにも関わらず、付きまとわれて困っているようだというものも書き添えられていた。
資料が皆の目を一巡すると、フェリに変化が起きた。音がしそうなほど、ガタガタと震え始めたのだ。
どうやら今になって自分の誤りに気づいたらしいが、手遅れと言えよう。
「あの、あ、わたし、わたくし、そんな」
さっきまでの居丈高な様も影を潜めて項垂れる妻を見て、ジャン・エスカ男爵は冷たく見下ろし
「おまえは口を開くな、一言もだ」
そう言って皆に頭を下げた。
「本来でございましたら、娘がそのような妄言を吐いた時点で私共が諌めねばなりませんでした。親がそれを助長するなどとんでもないことです。私の管理が行き届かず、皆様に大変なご迷惑をおかけしたことを深くお詫びいたします。い・・慰謝料もなるべく・・・お支払いに応じます」
言ってはみたが、侯爵家の婚約者、しかも国王陛下が気にかけるほどの名家のご令嬢に刃物を向けたなど、家の財産すべてでも足りないかもしれないと思うと、急激に胸が締め付けられてしゃがみこんだ。
「あなた!」
フェリが腕を伸ばして支えようとしたが、それを払いのける。
「触るな。おまえについては謹慎させる。慰謝料はきっと我が家だけでは負いきれないだろうから、おまえの実家にも負担させる」
「そんな!実家は関係ありま」
エスカ男爵に睨まれると、下を向く。
そんな姿を見ていたイルメリア夫人が口を開いた。
「よろしいかしら?」
皆、一斉に顔を向ける。
「まずエスカ男爵様、奥様ばかりを責めていらっしゃいますけど、貴方がもっと妻子に目を配っていらっしゃれば、今頃こんなことにはなりませんでしたわよね?」
妻に強く文句を言っていた男爵が俯いた。
「奥様は言うに及ばす。先程メルマ様が私が申し上げたかったことはすべておっしゃってくださったので、あなたにはもう何も言う必要はございませんわね。まあ強いて言うなら我が家と張りあおうなど身の程を知らないにもほどがありますわ」
スメロニを見て。
「そして先生方。ここまで放置された罪はお認めになりますわよね。ドロレスト侯爵家がなされたように、私共も別に調査を致しましたの。かわいそうにマリエンザは噂に深く傷ついて数日食事も喉を通らなかっったんですのよ。領地で静養して本来の姿を取り戻しましたが」
「イルメリア様、申し訳ございませんでした」
メルマとハーバルが腰を折って謝るが。
「いいえ、ツィータード様はムリエルガ流で立派に謝罪してくださいましたから。我が家とドロレスト侯爵家の間には何の遺恨もございません。だから頭を下げないでくださいませね」
そういうとにっこりと、奇妙なほどに晴れやかに笑い、
「慰謝料などいりませんわ、それより私どもにはムリエルガ流の謝罪がございますの。広く領民までもそれを行えば謝罪したとみなして潔く水に流す。それが武人を輩出する我がムリエルガ辺境伯家のやり方です。ですから皆様にもそれを求めますわ。もちろん、水に流すのですから王家に話を持ち込むこともございませんわよ」
スメロニ校長をチラリと見ると、ハッとした顔で校長が勢いよく頭を下げた。
「やります、謝罪!させてくださいおねがいします!」
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