【完結】その令嬢は、鬼神と呼ばれて微笑んだ

やまぐちこはる

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外伝 ダーマ

ダーマ3

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 フェリの実家は、エスカ男爵家よりさらに小さな領地を持たないタメイ男爵家という。

「不祥事を起こして戻されるとは、不名誉極まりない!」

 フェリの父は既に亡くなり、弟のモローダは住まう地の領主であるアラニ伯爵家へ仕えて家族の生計を担っている。経済的余裕があるわけではないので、不肖の姉とその娘など転がりこまれても迷惑でしかないのだ。
 困り果てたモローダは、その主に相談をした。
話を聞いて顔を顰めた伯爵は、そのような醜聞にまみれた者たちとは縁を切るよう勧め、容姿が美しいのなら遠い砂漠の国の貴族との縁組に困っている者がいるから話を聞いてみてはと持ちかけた。

 聞くと、相手からはその家の娘と言われているわけではなく、広く花嫁候補を探しているらしい。
経営する商会絡みで持ち込まれた縁組らしく、ただその家は一人娘で婿取りをするため、外には出せぬと断ると、誰か紹介しろと言ったそうだ。

「かの国に行っても、必ず正妻に選ばれると約束されたわけではないが、正妻は無理でも側妃にすることができると言っている」
「それならこちらに戻されることもないだろう?」
「しかし、持参金が我が家では出せません」

 思っていたより高位の貴族らしく、持参金額を聞いてモローダは尻込みをした。

「そこは大丈夫だ。我が家の娘の代わりに行ってもらうのだから」

 娘に持たせるべき持参金を渡すというのだ。
モローダにうまみはないが、ダーマの面倒を見ずに済むならそれだけでもありがたい。

「それなら喜んで。姪にはうまく話します」
「その母親は」
「私の姉ですか?」
「おまえの姉を手元に置くならそれでもよいが、そうではないのならお付きの侍女か何かに仕立てて、一緒に送り出してしまうとよいぞ」

 アラニ伯爵が背中を押した。

「そうですね、姉も娘といたほうが幸せでしょう」

 モローダは男爵家に戻ると、謹慎中の二人を呼んだ。



「座れ、話がある。よい話だぞ」
「いままで閉じ込めておいて、良くいうわね。部屋は狭くて汚いわ、食事は粗末でまずいわ。どういう神経してるのかしら」

 ダーマは罵ることを忘れない。

 ─ただで食わせてもらっているくせに、なんていう態度だ─

 砂漠の国では女性の地位や価値が極端に低いと聞いたが、そこに送り込むことを気の毒だとは少しも思えない。むしろ帰ってこれないほど遠くにやれて、清々するとすら思っていた。
 怪しまれないよう、モローダはなるべくいい話のように装って話す。

「ダーマに隣国の貴族への嫁入り話が来ている。商会をされている貴族からの紹介で、本当はその家の娘に来た話だが、一人っ子の婿取りだから出せずに困っているそうだ。相手の希望の年齢はもちろんだが、美しい令嬢という条件だそうでな。相手はハラ国でも指折りの豪商でもあるそうなんだが、どうする?」

 ─ハラ国は国境を接する砂漠の国。よく勉強していたら、今モローダが知る程度のことを理解していて断ったかもしれないが─

 謹慎生活に飽き飽きしていたダーマは貴族で豪商と聞いて、すぐ了承した。

 それからはあっと言う間。
 嫁入りなのにろくな荷物の用意もなく、数日の準備であっと言う間に馬車に乗せられ送り出された。

「何しろすごい豪商だ。流行りの服もあちらとでは違うそうで、向こうの流行り物をおまえの好みで買ってくださるそうだから、荷物が少なくても大丈夫らしいぞ」

 その言葉に、ダーマはツンと顎をあげ、

「私のように美しい娘ならそれくらいされて当然ですわね」

 そう捨て台詞を残して旅立って行った。

「二度と帰ってくるなよ、お荷物どもめ」

 モローダに悪態をつかれているとも知らずに。



 ハラ国までは馬車で二週間。
フェリとダーマは二人で車窓を眺めながら向かった。会話はない。
フェリはダーマに対して底知れぬ怒りを抱えていた。ダーマがツィータードと恋人だなんて言わなければ、今も自分はジャン・エスカ男爵夫人だったのだ。
 自分が娘を煽ったことは都合よく忘れて、今の境遇はすべてダーマのせいだと憤っているのである。喋る気にはなれなかった。

 ダーマは豪商貴族の妻として持て囃される自分を夢見ている。どんな綺羅びやかなドレスを作らせようとか、いろんなことを夢中で考えていたらあっと言う間にハラ国についていた。

 ハラ国には馬車が入れない。嫁入り先で手配したものに乗り換えるしかなく、しかしさすが豪商だけあってそれは乗り心地の良い上等な物で、ダーマもフェリも満足させた。

「なかなかに素晴らしい馬車だわ」

 フェリの声に二人揃って頷くと、どこまでも砂漠しか見えない退屈な車窓を眺めながら、また三日馬車に揺られた。

 腰もお尻も痛くてたまらなくなった頃、漸く相手貴族の家へと到着した。
馬車を降りると、見上げるほどの豪邸が聳え立っていた。

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